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劣等種の建国録〜銃剣と歯車は、剣と魔法を打倒し得るか?〜  作者: 日本怪文書開発機構


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接触

 ボルトを回して閉鎖を解除し、開放したまま左上方へ掲げて薬室を確認する。

 天井に吊るされた電灯の淡い光が、銃身越しに覗いた。


「薬室よし」


 薬室を開放したまま、銃口部に左手をやり、使い古した白手袋を背景として左手を床尾へと下ろしつつ、時に直接触って各部を確認していく。


「消炎器よし、照星よし、剣留めよし、被筒部よし……


 うん、異常無い。

 小銃なんて普段の職務で使わないから、最後の訓練以来ずっと武器庫で眠っていたソレを、つい先程分解して手入れをし、そして組み上げた所だ。

 撃発機構周りから、鼻を突くような手入れ油特有の匂いがする。俺は嫌いじゃない。


「元へ、(つつ)


 なんだか落ち着かなくて、本来なら指揮者から掛かる号令を自分で掛ける。

 薬室を閉鎖し、機関部最後端に付けられた安全子を弄る。


「安全装置、解除ヨシ」


 安全装置を解除し、安全な方向へ銃口を向け、安全金の中に指を入れる。


 正しい頬付、正しい見出し、正しい引きつけ、引き絞り。


 カン! という、撃針がバネ仕掛けを以て勢いよく前進する音が響く。肩から銃を外し、安全装置を掛ける。


「撃発よし、安全装置よし」


 07式騎兵銃(カービン)

 脈々と受け継がれてきた小銃と、機関銃という新技術の血脈が結実した、後に手動小銃ボルトアクションライフルの完成形と呼ばれることになるソレは、従来よりも短く、軽く、それでいて銃身内部に施されたクロームメッキが精度と寿命とを担保し、着脱式弾倉(マガジン)が速射性を担保していた。

 何故騎兵銃(カービン)が配備されているのか? 警察任務では、07式小銃程長距離に於いて命中精度を発揮する機会は無いと判断されたからだ。

 騎兵銃だから小銃よりも銃身部は短い。とは言え、ハーフリングが持つと身長よりやや短い程――着剣して、身長ほどの――長さはあった。


「ほいじゃまぁ、行ってくるわ」


 手入れに使った雑毛布とウエスを片付けながら、フレデリックはカルメンに声を掛ける。

 それは、ちょっと買い出しに行ってくるとか、ちょっと書類取ってくるとか、そんな感じであった。

 いつもと違うのは、彼が『ドーベック市警察局(DPD)大隊(Bn)』の一部として国家市民軍から出頭命令を受けている点だ。つまり、今の彼は軍の制服(迷彩戦闘服)を着た軍人なのだ。


「待ってくれ」


「どうした」


「私、私……」


 彼女(カルメン)の家族は、港湾空襲で全員が死亡していた。

 敵は、港湾施設のみを攻撃したのでは無く、ついでとばかりに周辺市街地も空爆していたのだ。


 ようやく手に入れた暮らし。


 さぞ、無念だろう。


 そもそも彼女は、理不尽を嫌って、警察官として奉職していたのだ。

 もう、理不尽な目には遭わない。遭わせない。現にこの街――もとい、国では、少なくとも国権の行使による理不尽は適正手続き(・・・・・)に取って代わられ、それを以て『野生の理不尽』を防圧していた。

 警察官としても一人前(巡査部長)になった。それなのに。

 彼女は、無力さに打ちひしがれはしなかった。国家が報復措置を取り、今や戦争状態に突入していると知っていたから。まだ、我々は理不尽に負けていないと知っていたから。警察と軍隊の任務の差異を理解していたから。


 彼女は聡明だ。今、どのように振る舞うべきであるか、無数の選択肢の中、葬式のときのように、今回の最適解(いつものように)分かっていて(送り出す)、それでも、孤独へのおそれがこうさせている。


「なぁ。俺は書類(法律)仕事から開放されてセイセイしてるぐらいなんだ、だから――


 お前は留守を頼む。大体そういうことを言いたかったのだが、俺は馬鹿だから、余計なことを口走ってしまった。

 後から彼女の思考をトレースすると、『仕事から開放されてセイセイしている』→『つまり、仕事はしたく無い』→『コイツは死んでも良いと思っている』→『一人ぼっち!』という処理が、まぁ大体一秒以内に行われたのだろう。とうとう泣き出してしまった。涙が頬を伝って顎から滴り、机上の書類を濡らす。それを隠すように、机に突っ伏してしまう。


 彼女の真ん前にある俺のデスクは、珍しく模範的に整理され、ホコリ一つ無い、着任当時同然の状態にしておいた。


 物騒なモノ(銃、背嚢)をそんなデスクの上に置き、手袋を脱いで一番上に乗せ、カルメンの頭をそっと撫でてやる。狐耳の後ろをくすぐると、反射でフフ、と笑ってくれた。

 名伏しがたい程にグチャグチャになった顔を拭いてやる。

 この、かわいい泣き虫め。


「俺、まだやりたいことがタンマリ残ってんだ。警察で待っててくれ」


 彼女は、しっかり理解していた。

 飽くまでドーベック市警察局(DPD)大隊(Bn)は予備部隊であって、通常は市内の警備にあたるのだろうと。

 警察が、理不尽に立ち向()かう主役を担う()。そんな国にするのだと。

 それでも、理解と感情とは別なのだ。


「一人にはしないから、な?」


 唇を噛んでコク、と頷く彼女の肩を優しく叩き、そしてもう一度、背嚢と銃とを引っ掴む。


「じゃあ、また」


「ああ」


 最後の最後、いつものように軽く笑い合って、冗談のように、それでいて貪るような接触を交わしたとき、濃い鉄と塩の味がした。



****



 ――本作戦に於いて、我は内線作戦、敵は外線作戦となります。今なら、敵戦力が合一する前にそれを阻止することができます」


 商会本館改め首相官邸となった建物で、今だけは序列中最下位の者として、旅団長が地図を指し示していた。

 内線作戦とは、要は「包囲される側」の作戦であり、外線作戦とは、「包囲する側」の作戦である。こう言うと聞こえが悪いが、実は内線作戦の方が利点が多い。

 左手で(内線)を作って、右手で包む(外線)ようにしたとき、それぞれの人差し指と薬指とはどれぐらい離れているか? を考えれば直感的に理解出来るが、要は内線作戦をする側は容易に他部隊と連絡が取れて分断されにくく、更に他正面への転進も容易。逆に外線作戦をする側は、敵に妨害されながら連絡をする他無く、更に他正面に転進しようとすると相当難儀する。

 と、簡単に説明出来るが、普通包囲された時点で不利なのは論を持たない。

 そもそも敵が包囲しようとしているのか、或いは平野北部で戦力を合一して突破してこようとしているのか、それすら不明なのである。ならば、『内線の利』を活かして合流も包囲もさせてやらねぇ。というのが、旅団(1BCT)の作戦構想であった。


「旅団の構想は理解した。では――北部に展開するI-TF(内務卿隷下部隊)に対して先んじて攻撃しない理由は?」

「はい、まず、我々の火力の骨幹は砲兵であり、砲兵を平野外機動させる能力は現状我々にありません。更に、I-TFは強力な航空直掩を有しているものと判断され、我は陣地防御以外でI-TFと交戦した場合、莫大な被害が出るものと考えられるからです」


「了解。では、我の被害についての見積もりは?」

「現在推計中ですが――「概算で良い」――概ね2000名(半数)程度が死傷(部隊復帰不能)と見積もっています」

「その場合の(旅団の連)編成(隊戦闘団への改変)案も今のうちに作っておけよ。まだ戦闘は始まってないが、もう戦争は始まってるんだ。それに、戦闘が終わっても戦争は終わらない」


 この『楽観的』見積もりに市街地への空襲、ともすれば市街戦が合わされば、市民は旅団何個分死ぬんだろう。そんなことに思いが至る。

 例えば、今やこの街の日常となった郵便局員(フランシア家)達。今回騎兵として従軍する彼らは、戦機を自ら獲得していくことが期待されている。

 つまり、敵に突っ込む。


 待ち受けの利(陣地防御)を行う1BCT主力の、唯一の機動戦力として。彼らは猛々しく戦ってくれるだろう。アルミ(ジュラルミン)の装甲と最新鋭の騎兵銃を以て、敵に打撃を与え、逆襲の主力となる。


 彼らは、おそらくこの戦いで殆どが戦死するだろう。


 リアムは、冷静沈着に『誰がどれぐらい死にそうか』という計算をこなしていた。

 それは彼の中の六角(国防准将)がそうさせるのか、首相としての地位がそうさせるのかは知らなかったが、無感動に『ああ、これ(戦争)が終わったら国葬の手配をしなければ』という思考を次にもたげさせていた。当座必要な死体袋や棺の手配は、軍の領分だ。


「騎兵部隊による逆襲の的確な発揮、及び11iRCTとの連絡線(GLOC)維持――に――FEBAの秘匿と対空処置……それぐらいかな、私から言うのは。分かってるとは思うが」

「はい」


 無謀な作戦であることに、勿論六角(・・)は気付いていた。

 だが、リアム(首相)は、目前の責任者(旅団長)を信頼した。旅団長の、第十一連隊戦闘団に対する信頼を、信じたのだ。

 今、カタリナ氏はここに居ない。つまり、賭けを行うに際して賽を投げる者は、私しか居ないのだ。


「よし、じゃあ、帰れ。やることタンマリあるだろ」

「分かってます。では」


 チャッ、チャッ、チャッと擬音すべき基本教練を以て、彼女は退出した。

 次の懸案は、通貨発行量である。 

 港湾が破壊され、輸出・入が殆ど行えなくなった結果、物価は市内生産品がダブって下がったり、或いは輸入に依存していたものは破壊的に値上がりしたりと、好景気なのか不景気なのか、めちゃくちゃなことになっていた。

 生活必需品や軍需品は、全く正常に流通していたから、正直総力戦体制下ではそこまで問題にはならないように思えた。しかし、このままではヤバいことになるという直感だけが、私にはあった。価格統制? どうやってやるんだ? 専門外だ。わからない。


 これを、何とか出来る者――


「カタリナさん」


 思わず呻く。一応、彼女はどのように金融政策を行うべきかというのを、『彼女なり』に残していた。

 それは私には難解過ぎた。もし彼女が帰ってきたら、彼女に金融機関を作らせなければ。そんな思考が巡る。

 その中に、ひらめきがあった。電話を取り上げ、交換手に法務省に繋げてもらう。


「私だ。ロベルト・ディ・ブイの懲役内容について……

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