作戦資料
周到防御は、およそ三倍までの敵を有力に阻止し得る。
季節が秋に差し掛かった頃、それもフランシア家とかいうところの正規騎人部隊が攻めてくるという情報を市場経由で得た。陸軍は、人の軍隊だ。作戦を実施するにあたっては必ず規模が必要となる。それはつまり、様々な準備を要する大規模作戦の隠匿は殆ど不可能であるということを意味する。
街の景気は悪くなった。もうすぐ滅ぼされるという噂が流れ、ここに住んでいない者の殆どは逃げ出したからだ。ただでさえ、ここは薄気味悪い場所だというのに、現実的かつ差し迫った脅威があるとなれば、そりゃあ嫌だろう。
幸いにして我々は周到防御を準備できる。
METT-TCをもう一度考え直す。
そして、各中長用に以下の資料を拵えた。せめてタイプライターが欲しい!
一 般 状 況
1 地上部隊
(1) 敵
ア 「ドーベック諸地域占領」を企図していると判断されるフランシア任務部隊は、1コCB+基幹による攻撃を準備中である。
イ F-TFは、9月下旬には攻撃が可能である見込みである。
ウ 敵の編成(別表)
(2) 我
ア 「侵攻する敵部隊を阻止しドーベックを維持」すべき任務を有する1CT(3コCo基幹)は、2コCoが即応可能、1コCoが動員・再訓練中である。
イ 1CTは、9月下旬頃に戦闘準備を完成する見込みである。
ウ 我の編成(別表)
2 航空部隊
(1) 敵
ア 1日あたり3回の活動が可能であると見積もられる。
イ 1回の攻撃により、平原に展開する我の1コ小隊を撃破可能であると見積もられる。
(2) 我
ア 無し。
3 編成・装備
(1) 敵
ア 1CB+は、5コ大隊2500騎基幹。
イ 速度は平均15キロ毎時、突撃発揮時60キロ毎時と見積もられる。
ウ 魔法その他については不明。
(2) 我
ア 1CTは、3コCo600名基幹。
イ 速度は平均3キロ毎時、自転車使用時12キロ毎時、鉄道移動時50キロ毎時である。
ウ 陣地、障害、発煙、臼砲その他の本部管理中隊付属の能力による支援を得ることができる。
4 地形・気象
(略)
5 その他
(1) 作戦地域には住民の大部分が残存しているが、我に協力的である。
(2) 敵の戦法・戦術は詳細が不明である。(特に夜間)
(3) 部隊間通信は、伝令の他、主として旗りゅう、ラッパ、発煙をもって行う。
1 C T 作 戦 計 画
1 構想
方針
1CTは、1CoをR3に先遣し、その掩護下に2Co及びHQCoは周到防御を実施し、侵攻する敵を阻止・撃破する。
爾後、3Co及び1Coを推進、戦果を拡張し、西方地域の安全を回復する。
2 指導要領
作戦期区分
第一期 戦闘前哨・周到防御の準備(~接敵まで)
第二期 敵の解明・陣地の秘匿(~半日)
第三期 戦闘前哨の離脱・敵の阻止(~1日)
第四期 攻勢転移(1日~)
第一期 戦闘前哨・周到防御の準備
(ア)1Coを戦闘前哨として、R3沿いに推進し、侵攻する敵を早期に発見・遅滞できるが如く準備する。
(イ)CT主力は、HQCoをBP4、Co2をBP5にて防御戦闘を準備する。
(ウ)3Coは、態勢が完了した小隊ごと、BP1にて防御戦闘を準備する一方、ドーベック市街から鉄道により機動できるかのごとく準備する。
第二期 敵の解明・陣地の秘匿
(ア)1Coは、敵を12時間程度遅滞させ、敵の詳細を解明する。
(イ)CT主力は、戦闘前哨の離脱を掩護すべく、障害の発動を準備する。
第三期 戦闘前哨の離脱・敵の阻止
(ア)1Coは、離脱後速やかに再補給を実施し、CT主力を掩護すべく防御戦闘を展開する。
(イ)CT主力は、戦闘前哨の離脱を援護する一方、火力及び障害を連携させ、BP4にて敵を撃破すべく務める。
(ウ)3Coは、R1、R2への警戒部隊を除き鉄道機動を実施する。
第四期 攻勢転移
(ア)CTは、防御戦闘により勢力を減じた敵を撃破すべく、R3の回復を目標に攻勢して、敵を撃破する。
防御組織の運用
(ア)防御適地には予め陣地及び障害を準備し……
(中略)
4 敵の可能行動
(1) 機動力・突破力・規模に優れ、航空支援を受けた1コCB+基幹の敵は、F-TFの平野進出のために、次の要領によりドーベック諸地域を攻撃することができる。
E―1 BP5を突破した後、BP4を突破し、鉱業地域を占領。爾後、メウタウ河南岸沿いを東進し、BP2を攻撃する。
E―2 BP5、BP3を突破し、メウタウ河北岸沿いを東進。BP1を攻撃する。
E―3 BP5を突破した後、BP3、BP4を突破し、戦力を合一してメウタウ河両岸を東進し、BP1、BP2を攻撃する。
E―1
(ア)BP5突破後、メウタウ河を渡河してBP4を攻撃、鉱業地域を占領し、南岸沿いに前進してBP2へ向かうもの。
(イ)戦力の集中・突破力の発揮、我の防御組織の破壊・側面防護に優れる。
E―2
(ア)BP5突破後、BP3を経由してメウタウ河北岸を真っ直ぐ突破するもの。
(イ)戦力の集中・突破力の発揮に優れる。
E―3
(ア)BP5突破後、戦力の一部を渡河させて両岸から攻撃するもの。
(イ)我の防御組織の破壊に優れる。
(2) 敵の可能行動の採用公算の順位
総合的に判断すると、敵はE―1、E―2、E―3の順に採用公算が大きい。
(3) 兆候
現在までに決定的な兆候はみられないものの、E―2を採用する場合、E―1及びE―3と異なり、渡河行動が行われない。
(4) 戦術的妥当性
E―1は、戦力を一塊として、突破力の発揮を重視して運用する一方、我の防御組織を西から順に破壊することによる主動の獲得に優れ、その戦術的価値は高い。
E―2は、戦力を一塊として、速度の発揮を重視して運用する一方、我の防御組織の破壊が不十分となるおそれがあるが、迅速にドーベック市街を攻撃できる公算が大きく、戦略的価値が高い。
E―3は、戦力が分散される一方、攻撃に成功した場合、我の防御組織を破壊し、かつ、戦術的・戦略的価値が高い。一方、両岸間での連携の問題や、戦力が分散されることによる各個撃破のおそれがある。
(5) 我が任務達成に重大な影響を及ぼす敵の可能行動
ア E―1を採用し、突破力を集中してBP5、BP4を突破、我の残存部隊がBP2に展開する前にドーベック市街を強襲した場合、我の任務達成に重大な影響を及ぼす。
イ E―2を採用し、BP5突破後BP4からの攻撃を甘受して速度を発揮し、我がBP3での遅滞に失敗してBP1を攻撃された場合、我の任務達成に重大な影響を及ぼす。
ウ E―3を採用し、敵が整然と我の防御組織を破壊し、我が組織的戦闘を継続できない状態に陥った場合、我の任務達成に重大な影響を及ぼす。
(6) 我が乗じ得る敵の弱点
ア いずれの可能行動においても、我の周到防御、特にBP5を必ず突破する必要がある。
イ BP4を無視してドーベックを直接攻撃しようとした場合(E―2)我は南岸から、敵を一方的に攻撃することができる。
ウ 我は、鉄道によりBP1、2、4の間を迅速に機動することができる。
(以下略)
「CTとHQCoの指揮は俺が取るから、各中長は明日までにそれぞれCoの分析して俺に持ってきてくれ、指導・承認するから」
幸いにして、いつか教育でやったような敵が、教育でやったような方法で攻めてくるみたいだった。
よく『諜報』とか『情報』とかが重要だ重要だと言われるが、それは、作戦を整備するにあたっての基礎となる『一般状況』を詰めるのが困難になるからである。今回は市場や取引先からの情報を総合して判断したが、それでも航空戦力については分からなかったため、サイコロを振って見積もった。
更に、今回攻めてくる相手は『懲罰』とやらを掲げているらしい。どう考えても解剖図が漏れたのが原因だ。
つまるところ我々は、情報領域ではボコボコにされている。現在進行形で。
それに、敵は単純な数だけでも我を超越する、しかし、我々は陣地を使える。敵は陣地を必ず突破しなければならない。
勝ち目はここにある。いや、ここにしか無い。
コメント、レビュー、フォロー、シェアなどでの応援、誠にありがとうございます。
今後とも頑張って参りますので、どうぞよろしくお願い致します。




