ep.6
「プルチーノ、イーノ、仕事だ。」
「イヤっス。嫌な予感しかしないっスよ。」
「プル、ふざけるな。……主、どういった御用件で。」
「姫が、儀式をしてしまった可能性がある。というか、確実に儀式をしてしまっただろう。姫の御身が心配だ、護衛をして来い。」
「ほらぁ、嫌な予感当たったっス!姫様の周り、既に護衛ばかりじゃないっスか。」
「事情を知っている我らがお守りしなくてどうする。いいか、きっちり護衛して来い。」
「「御意。」」
暗い部屋から、2人の男が音もなく部屋から立ち去った。残ったのは主と呼ばれた男一人。何を考えているのか、手許のワイングラスをゆっくりと回し遠くを見つめていた。
***
「あの、ルミナスさま。」
「なあに?わたくしのかわいいかわいいミーナ。」
「何で水上魔車に乗っているのでしょうか。というか、此処運転席ですけど!?」
ゼリーヴァ王国の王都は、水の都と呼ばれるほど大河や小さな川で構成されている都市である。王国全体がそうであるのだが、地面には所狭しと建物が立ち並び、間の道は人がすれ違うのがやっとというほどである。他はどこもそこも水が流れているのが、ゼリーヴァ王国の特徴だ。もちろん移動も水上なのだが、一般的な乗り物は水上魔車だ。
水上魔車とは、他の国で言うところの車やバスといった乗り物に似ているらしい。人が乗るボートの側面4箇所に車輪が付いていて、先頭に運転席と補充席がある。通常の水上魔車なら運転席のみであるのだが、大型の水上魔車や貴族用の大きな水上魔車は動力である魔力を1人でまかなうことが難しい為、魔力を補充する補充席がある。
その、補充席に私が、運転席にルミナスさまが座っているという訳だ。
「勢いのままに座って補充していますが、なぜ次期当主のルミナスさまが運転しているのですか?」
「だって、後ろに居てもつまらないじゃない。魔車よ、魔車!こんな機会逃せないわ!」
ルミナスさまと私は、学生時代は魔車競技部という部活に所属していた。つまり、水上魔車の競技部であるのだが、昔の血が騒いだと彼女は言いたいのだろう。
しかし、と私は思う。今こそ王都の外壁にある外に出る水門の一つである南方門から出て快調に進んでいるが、出発の当初は酷いものであった。ルミナスさまの学生時代のことを覚えている商人が多いのだろう、ロッソィーノの姫が魔車を出したぞ!、嘘だろ?!逃げろ、商品を守るんだ、といった蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。親友がやらかした過去の様々な伝説は、隣の補充席に座り見てきただけに面白いくらいに顔が引きつった。
「やっぱり定期的に魔車に乗らなきゃダメね、感覚を忘れてしまっているわ。」
「そうですか?以前とお変わりないように感じますが。」
「そう?ミーナは完全に感覚を忘れているわね。ちょっと乱れていてよ。」
はて、と首を傾げた。私こそ以前と変わらない感覚でいたつもりなのだけど。そうしている間にも水上魔車は前へと進む。行き先は、彼女の故郷であり治めることになる地、ロッソィーノ領。
さあ行くわよ、という彼女に、はいっと元気よく返事をした。
本日はここまで。
次回は明日。