ep.5
「素敵ですわ、ファルミーナ様!」
「美しい栗色の髪ですもの、何でも似合うわ!」
「……、えっと。」
ルミナスさまにお借りしている私の自室扱いの部屋。彼女は宣言通り、私に侍女を2人もつけてくださった。あとで、彼女のばあやこと侍女長の方から伺ったことだが、彼女は私にもっと侍女をつけるつもりだったらしく。侍女長の方がうまく取り計らってくださって、2人に落ち着いたそうだ。平民としては2人でも多いのに更に侍女の方がいたら、申し訳なさで息が詰まってしまうかもしれない。流石は、侍女長をやっている方なだけある。
そして私専属の侍女としてついてくれている2人は出産経験のある方々らしく。私に妊婦としての心得や、体調不良の対処など様々な面でサポートしてくださってとても助かっている。……私には、既にそういったことを教えてくれる人は居ないから。
ただ、人をお人形扱いするのは如何なものかと思う。
「あら、ファルミーナ様。伺っていらっしゃらないのですか?」
「今日はジエラストロンディ伯爵家の次男様がいらっしゃるのですよ」
「知らなかった……。」
着飾るのは当然ですわ、と笑う侍女の方々。ジエラストロンディ伯爵家の次男というとリュエ様だっただろうか。なんだか嫌な感じがするな、と思った。リュエ様といえば、同じ部隊に所属していたがついぞ挨拶できずに、私は部隊を去っていた。こんな形で再会するとは、なんか出来過ぎているような気がする。
「どうも、セニョリータ。今日も美しいね、ルミナス嬢。」
「相変わらず口が軽いわね、リュエ。私のミーナには近寄らないでちょうだいな。」
「それは出来ない話、かなぁ。今日はファルミーナ嬢に用があるからね。」
「その上で言っているわ。」
手厳しいなぁ、と笑うリュエ様。といっても声でしかわからないのだけど。
貴族と市井に生きる平民とでは、明確に差がある。こういった場合、いくら私が着飾ることを許されていても、平民である以上は頭を垂れて声をかけられるのを待つしかない。実際、私の負担を気にして下さったルミナスさまが予定を調整してリュエ様と私の仲立ちをしてくださっているという訳である。
これがマジカを持っていたら話は変わるのであるが、私はマジカを返上したので身の程はわきまえなければならない。
「ファルミーナ嬢、ご機嫌麗しゅう。」
「ごきげんよう、ジエラストロンディ様。」
「いいよいいよ、学園の同級生で同じ部隊員だったんだ。今まで通りで構わないさ。」
「いえ、……。」
「でね、今日はアランドゥーエ魔術師団長から勅命を預かっているんだ。」
ルミナスさま仕込みの子女の礼をとりリュエ様を見上げれば、表情こそ笑っているが笑っていない目と目があった。ひくっ、頬が引きつる。この表情は見かけたことがある。無茶ぶりされた時とかに、確かこんな表情をしていて……。
そんな表情をしたまま、私に近づくと巻かれてある重厚な羊皮紙を渡された。一旦顔をあげてリュエ様を伺えば、開くようにと促された。羊皮紙を開けば、この間アランドゥーエ魔術師団長とアカーチャ医療班長とお話ししたであろう内容がつらつらとかかれていた。しかしながら不可解なのは、私が妊娠したということは何一つ書かれていないということだ。
「ねぇねぇ、ファルミーナ嬢が辞めた理由がオトコって本当?」
「……なぜそのような結論に?」
「アカーチャさんが元気なかったからね、それくらいしか理由が思い浮かばないよ。」
「事実無根だと明言しておきます。」
「……、へぇ。」
きちんと顔を合わせてはっきりと伝えれば、ジエラストロンディ様は意味ありげに頷いた。その後、ルミナスさまとジエラストロンディ様は仕事の話があるということなのでその場を辞した。
***
「ベル、ファルミーナ嬢もハズレっぽいよ。」
「っ、そうか……。」
「でも、妊娠してるっぽい。姉貴の妊娠してた頃の服にそっくりだった。」
「は?妊娠?」
本日はここまで。
次回は明日。