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天地(アメツチ)の空  作者: 狭倉朏
宇宙港にて
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第3話 衝突、宇宙港の赤色

 扉の向こうに生身の人間はひとりしか確認できなかった。

 そのひとりは先ほど見た顔だった。青山と名乗った警察官がそこで仁王立ちしていた。

 メガネは邪魔になると判断したのか外されていた。

 青山が指示を出して宇宙港の職員は退避させられたのだろう。

 警察本部所属の広域捜査官の権限はそれだけのものがある。

 非常時に指示に従うべき人間として、建物の管理者よりも上位に位置するのが広域捜査官たちだ。

 動かない青山とは裏腹に、慌ただしく動いていたのは各種ロボットだった。

 宇宙港の様々な設備の役割を持つロボットたちが向かうのは火災現場だった。

 それは黄空が食堂から見た壁面ではない。

 壁面から落下した燃える人影だった。

 燃える人影は驚くべきことにそこに立っていた。

 消火用のロボットたちが機械的に火元に向かう中、青山だけが人影に向き合っていた。

 炎の中に立つ赤い男と対峙していた。

 燃えているから赤く見えるのだろうと、黄空は最初にそう思った。

 しかしよく見ると、その男が、赤いパワードスーツを身に着けているのが分かった。

 頭の上から足の先まで全覆型のパワードスーツ。その中で頭部だけがオープンフェイスのヘルメットのように開いていた。

 炎の中で、男は笑っていた。笑いながら平然とそこにいた。

 あの時、飲食スペースから見あげたものだ。黄空たちが目撃したあの落下した何者かだ。生きていたのだ。あの高度から炎の中に落ちたのにもかかわらず。

 黄空はそう直感した。

「アメツチデバイス」

 傍らのいろはが小さくつぶやき、かけだした。

「いろはさん!?」

 黄空はそれを追いかける。いろはは黄空を振り返りもしない。声も聞こえていないかもしれない。

 扉の操作パネルにいろはが先ほどと同じデバイスをかざす。

 恐ろしいことに扉は開く。

 宇宙港のセキュリティの厳しさからしてそれはとてもつないことだった。

 扉の開閉音に青山が二人を振り返る。

 その顔に当惑した表情が浮かぶ。

 青山の目が黄空を認識する。食堂にいた人間だと知覚する。

「逃げなさい!」

 青山の力強い明確な指示に、黄空が反応するよりも前に、炎が激しくはぜた。

 火元に近づこうとしていた消火用ロボットが吹き飛ばされた。

 いろはがそれに怯んでたちどまり、黄空はいろはに追いついた。

「その子を連れて逃げなさい」

 青山が赤い男に視線を戻し、険しい声で黄空に言った。

 青山の強い声に、黄空はいろはの体を抱き留めるように掴んだ。

「こっち、逃げよう、危険だ」

「でも、あれが多分、私のです」

 黄空にはどういう意味か分からなかった。

 青山は赤い男に集中していて聞いていなかった。

 赤い男だけがその意味を汲んだ。

「デバイスの関係者だな」

 そう言うと赤い男は青山から目線を外し、黄空たちの方に手をかざした。

 青山が反射的に黄空といろはを突き飛ばした。

 黄空がいろはを抱えたまま、二人は地面に転がった。

 直前まで黄空といろはがいた場所に光弾が炸裂する。

 黄空はそれに目を奪われる。

 光弾を受けた地面に、溶けたような穴が開いた。

 青山はそれを振り返らず、赤い男との距離をつめていた。

「駄目です!」

 いろはが叫ぶ。

 青山は赤い男に向かって、いつの間にか抜いていた警棒を振りかぶった。

 赤い男の顔面で、警棒が電流を放つ。

 リリークリーフ警察御用達対人制圧用電撃警棒。

 黄空の目にそれは届いたように見えた。

 しかし、赤い男は揺るがなかった。

「弱点だと思ったか?」

 顔面に警棒が突きつけられていることに怯むこともなく、赤い男は一歩を踏み込んだ。

 青山は警棒を押し込んだが、横から赤い男が右手をそれに当てた。

 警棒が熱に当てられぐにゃりと曲がってしまう。

 青山は警棒から手を離し、後ろに跳躍して距離を取った。

 赤い男が青山に向けて手のひらをかざす。

 光弾が放たれる。

 黄空の腕の中、いろはが小さい悲鳴を漏らす。

 避けようと体重移動した青山の体が揺らぐ。

 それを逃さず、赤い男は青山の腹を蹴りつけた。

 固いパワードスーツが人の体に当たる。鈍い嫌な音が響く。青山の体が崩れ落ちた。

 黄空に強く抱き留められたまま、いろはが小さく悲鳴を上げた。

 赤い男は再度こちらに目を向けた。

「デバイスの関係者だな」

 黄空への言葉ではない。いろはへの言葉。いろはの体が動揺に跳ねた。

「逃げよう」

 黄空はいろはの体を引っ張った。

「だけど、あれ、あれが、私の……」

 いろはは支離滅裂に呟いた。

 黄空は聞き入れない。先に進もうとする。

 とどまろうとするいろはとで膠着する。さながら言葉を介さない押し問答。

 動けない2人、近づいてこようとしている赤い男。

 しかし赤い男の歩みが唐突に止まった。

 何かに怯んだのか。

 そう思った。違った。

 青山が赤い男の足を掴んでいた。

「ご立派だぜ、捜査官」

 意識を半ば喪失しながらなおもしがみつく青山の手を赤い男は蹴りほどき、再びゆっくりとこちらに向かってきていた。

「くっ……」

 黄空は無理矢理いろはの体を自分の背後に回しながら、赤い男を精いっぱい睨みつけた。

「俺はお前の後ろのなにやら事情を知っていそうな女の子に用があるんだ。怪我したくなかったらどいてな、ビジネスウーマン」

 赤い男は余裕の笑みを浮かべたまま、黄空に向かってそう言った。

「そんなこと聞いてどけるわけないだろう」

 黄空の返答を赤い男は鼻で笑った。

 じりじりと後退する黄空。ゆっくりと近づく赤い男。震えるいろは。

 その息詰まる状況は、赤い男の背後から破られた。

 静かに音も立てず、四台のロボットが赤い男に順繰りにぶつかっていく。

 ロボットの衝撃を受け、赤い男は前に倒れた。

 四台のロボットは黄空たちの前で止まり、トロッコ型に変形した。

 黄空はいろはの手を強く引き、それに乗り込んだ。

 ロボットの変形した非常用少人数輸送用トロッコはぐんと加速した。

 走行先の床に立て坑が開き、黄空といろはを載せたトロッコはそこに飛び込んだ。


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