第11話 青山の目覚め、剣ヶ峰
5月13日13時25分。
青山春来は目を覚ました。
電子音を刻む機械。全身に繋がれた何らかの管。体を緩く固定する寝台。清潔な空気。
病院にいる。そう理解できた。
天井から音声送受信機が降りてきた。
『おはようございます、青山捜査官。こちらはリリークリーフ警察病院です』
合成音声がこちらに話し掛ける。
『お加減はいかがですか?』
「全身の倦怠感こそあるが、問題はないレベルだ」
青山は返答し、体を起こす。
それに合わせて寝台が変形する。固定器具が外される。
青山は寝台横に置かれたコップから水を飲みながら、各種センサが自分の体を走査するのを眺めた。
「剣ヶ峰捜査官に繋いでもらえるか?」
『少々お待ちください』
待機状態の文字が空中スクリーンに表示された。
その間、青山はメガネを探す。
赤い男に対峙するにあたって収納していたメガネは医療用ベッドの隣に置かれていた。
拾い上げ、装着する。
『担当医の許可が下りました。剣ヶ峰捜査官にお繋ぎします』
待機状態の文字が切り替わり、同僚の姿がスクリーンに写し出された。
『青サン! 無事なお目覚め何よりです!』
剣ヶ峰はぱあっと明るい笑顔をほころばせた。
「心配かけたな、剣。状況は?」
『宇宙港銀河線の火災は鎮火。怪我人は青サンだけ。下手人と思われる赤いパワードスーツの男、暫定名称レッドは逃走中です』
剣ヶ峰が手元のデバイスを操作する。青山の見ているスクリーン周りに、一般報道から捜査本部の内部資料までさまざまな情報が表示された。
資料を精査する青山に剣ヶ峰は一方的に話し続ける。
『レッドの侵入方法は未だ不明。そのせいで宇宙港は厳戒態勢で縮小運営中。特に銀河線施設の損傷のためリリークリーフ銀河線はかなり渡星が制限されています。エアマリーナは大混乱必至ですね』
エアマリーナはエメラルド恒星系の第2惑星であり、宇宙港銀河線を保有している。
銀河線はエメラルド恒星系には2つしかない。そのためリリークリーフの銀河線が打撃を受けた今、恒星間ワープの必要がある人間はエアマリーナに流れていることだろう。
『そこらの処理は銀河庁のお手並み拝見な感じです。ああ、銀河庁と言えば入星管理官が捜査本部に加わってます』
銀河庁は全天コンピュータのバックアップを受け、健全安全な恒星間の提携をつかさどる部署だ。
国家によってその名称に多少の差異こそあれ全天連合加入星には必ずある省庁だ。
特に銀河庁の入星管理局は星や銀河間の人々の渡航を監視制限する部署である。
不法渡航者と推定される人物の捜査となれば出張ってくるのも不思議はない。
『合同捜査にせよと長官直々の要請がありました。特に何も言ってなかったですけど青サンのこと心配していると思いますよ』
「うん、落ち着いたら連絡を入れておく」
長官の厳めしい顔を思い浮かべながら青山は頷いた。




