四節【1】 東王都、その有り様
また大分空けてしまいました
筆が・・・筆が乗ってくれない・・・
「誰か騎士団を!騎士団を呼んできてください!」
「ぎゃあぎゃあと騒ぐな喧しい。耳元で喚かれるのは結構辛いんだ」
「なら解放して頂けませんかね!?」
食堂の裏手、生ゴミや積まれた家財のある小路でジタバタと暴れる少女。その拳が己の体を抱えている男に何度も当たり、時に鳩尾や鼻先などへ直撃するものの。それに一切動じることなく、薄い反応を示すだけだった。
「そうか」
短く呟いたユウは、抱えた少女を無造作に放り出す。不意に宙へ投げられた少女は、受け身を取る暇もなく石畳に叩き落され、腰元を思い切り強打した。
「いっだぁぁぁ!?痛、痛ぁ・・・な、なん、なんてこと、ことを」
「解放しろと言ったのはお前だろう」
「だからって、こんな風に放られるって思う訳ないでしょうが。何を考えてるんですか!」
配慮の欠けている対応について責められ、いまいち理解できないと頭を掻くユウ。
「まあそうか。放すなら一言告げてからの方が良かったか」
「ユウ。そういう事ではないと思うよ」
ズレた結論に対して言葉を挟まれ、更に理解できないと顔をしかめる。その反応に呆れそれ以上口にしないツクモに、なんなんだと腑に落ちない様子をみせた。
「・・・もういい。盗られた物は返してもらったからな」
「・・・あ!」
気だるそうなユウの掌に、少女が握っていた財布が乗っていた。玩具でも扱うように軽く手首を回して重みを確かめる。
「それ私の戦利品!か、返して下さい」
「盗っておいて自分の物とは、図々しい奴。もっとも、盗っ人に潔さを求めるのはどうなんだというのもあるんだが」
つらつらと言葉を吐くユウ。そんな眼前で恨めしそうな、何かを言おうとするたびに口ごもる少女の視線が、ジリジリと肌を突き刺してくる。
「なんだ。何か言いたいのなら言えば良いだろう」
「別に、何でもないですよー」
「・・・ハァ。おい、小娘」
「なんですか」
不機嫌な幼児を相手にするような声色で、少女に声をかける。そのまま財布から十数枚の金貨を取り出し服のポケットなどにしまうと、重量感を示す袋を少女の前にさし出した。
「俺はこれの中身全部が欲しい訳じゃないと言っただろう。流石に全てやるわけにはいかないが、それでも渡しておこうかと思ってな」
「・・・ほんと、何が目的ですか?」
「深い思惑はない。ただ、ここで全てを取り返して、それで逆恨みされても困る。それなら、ある程度譲渡して後腐れなく終わらせた方が良いと思ったんでな」
「じゃあ、私がその中身のほとんどを下さい、と言ったらくれるんですか」
目の前の男の発言に対し、どうせ口だけだろうと考えていた少女は、訝しげに男の顔を覗きながら聞く。
「いいぞ」
「そうそう。やっぱりいいぞって言いま・・・え、ホントに?」
あっさりと、揉め事の中に入ってまで取り返した品を平然と渡そうとする。相手の意外過ぎる返しに戸惑いながら、少女は手を伸ばそうとしては引っ込めてを繰り返している。
「ほら、欲しいなら取れ」
「あー、いえ。やっぱりいいです。それを貰った後が怖いので遠慮しておきます」
最終的に、少女は目の前の大金から手を引いた。ユウは眼前の行動に疑問符を浮かべる。
「分からん奴だ。金が欲しいと動いていながら、目の前の金貨を手に取らないとはな」
「別にいいでしょう?正直疲れましたし。これ以上問答をやるのも、借りを作るのもごめんです」
「・・・まあ、お前がそれでいいというならいいんだが」
納得しきっていないという表情で、財布を懐にしまう。そんなユウに背を向けて、小路を出ようと足を進めた。
「それでは。縁があればまたいつか」
それだけの言葉を最後に、少女はそそくさとその場を立ち去っていった。
「なんか、色々賑やかというか面白い子だったね」
「俺は納得のいかない事ばかりだったんだが・・・」
穏やかに口にするツクモの横で、ユウは何とも言えないという顔を晒していた。
次回は、というかこの国でのお話は今月中に終わらせたいです(切実)