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筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!  作者: ユエ
1話 まりあの恋慕
7/70

憧れの、お姉ちゃん

 

 

 杏奈と灯夜は恋人として正式にお付き合いをしている。


 その衝撃的な事実が明かされたのは、夏休みの初日。まりあがプールで溺れたその日だ。


 もともと灯夜に会いに行くという杏奈の付き添いで、まりあは市民プールへ遊びに行った。



「二人ともほんと仲良いんだから。付き合っちゃえばいいのに」



 アルバイトの休憩時間、仲睦まじく昼食を取る二人に嫉妬して口を突いて出た軽口が、そのまま事実となってしまった。


 足のつかない深いプールへ飛び込むという愚行に走ったのも、二人と一緒にいるのが気まずかったせいもある。


 別に、男女交際を始めたからといって、二人の態度が急に変わったわけではない。


 おかしな距離感を抱いてしまったのは、まりあの方だ。


 ただなんとなく、本当にぼんやりと、夢見ていた。


 いつも優しく、素朴な人柄で、けれどいざという時は誰よりもかっこいい、大好きな幼馴染のお兄ちゃん。


 彼と口づけを交わすのは、きっとまりあだけなのだと。


 ありもしない幻想に酔い痴れていた過去の己を、全力でぶん殴りたい気分だ。



「ふぐうううう~~……っ」



 声が漏れないように枕に顔を埋めながら、想いの限り嘆き喚く。


 くぐもった自身の声が鼓膜を震わせ、虚しく、どこまでも空虚に、霧散していく。


 杏奈のことが羨ましくて堪らない。

 まりあの欲しいものすべて、彼女が持っている。


 灯夜のこと然り。体形のこと然り。



「……」



 酷く不貞腐れた面持ちのまま、まりあはファッション雑誌を広げ、ページをめくる。


 杏奈が掲載されているページには、右上に小さく折り目を付けていた。


 何度も見た。

 その度に思う。

 なんて綺麗なんだろう、と。


 ほっそりとした手足、美しいくびれ、大きな胸もさることながら、こちらを見つめる輝かしい瞳に惹きこまれる。


 たっぷりと杏奈の魅力の虜に陥り、やがて感嘆が入り混じった吐息を漏らす。


 行き着く思考の果てはいつも同じだ。



「こんな風にはなれないな……」



 まりあは、壁際の姿見を見やり、衣装ダンスから青地のオーバーオールを引っ張り出した。


 上衣とスカートを脱ぎ捨て、下着のショーツ一枚になる。


 オーバーオールに袖を通し、鏡の前に立った。


 雑誌の中で杏奈も披露していた裸オーバーオールである。


 初めて見た時はなんて恥ずかしい格好なのだろうと、我が姉ながら羞恥を弁えてもらいたいと、激しく身悶えたものだが……。


 扇情的な姉の姿は、何をするにもずっと頭の片隅に残ったままで。

 気づけば、同じタイプのオーバーオールを購入していた。


 姿見の前で雑誌の姉を真似てポージング。


 膝立ちになり、後ろ髪を掻き上げ、軽く顎を上げる。


 背筋をくの字に反り返らせ、口元に妖艶な笑みを張り付ける。


 鏡の全面に映し出されるは、胸もなければくびれもない、布地にすっぽりと収まる寸胴ボディ。


 なんだこれは。ふざけているのか。



「く……っ」



 目の前の現実に耐え切れず、まりあは膝を屈する。


 胸の大きさが圧倒的に足りない。


 杏奈とまりあの間には、比較するにも値しない、途方もない隔たりが存在していた。


 六つ差という年齢の開きを考慮してなお届かない、遥かなる高み。


 目指す頂はあまりに遠かった。



「死にたい……」



 ついぞ漏らしてしまった禁止用語。


 抗うことのできない真実を突き付けられ、呟くように零れ落ちたのは、どこまでも虚しい願望だった。



「私も、あんな風になれたらいいのに……」



 それに応える声があった。

 

 

「なれるよ」

 

 

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