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とりあえず潰れなさい!

 

 

 まりあは纏う炎を掻き消して、自らの意志で変身を解く。顔色は優れず、多大な疲れが見えるものの、しぐれを見つめる瞳には普段の優しさが込められている。


 暴走など初めからしていなかった。あくまでも己を御し切れる範囲を見極めながら戦っていた。



「約束したもんね。無茶はしないって」



 にっこりと笑顔を向けられて、しぐれは思わず怒鳴っていた。



「~~~っ、十分無茶だよ! 心配した!」

「ご、ごめん……」

「でも、無事で良かった……っ」



 カッとなって叫び散らした直後、砕けた涙腺から熱い涙を零し、しぐれはまりあの胸に飛び込んだ。



「ごめんね、しぐれ」



 しぐれをしっかりと受け止めながら、まりあは約束を反故にしたことを謝る。



「どうして……? 君の勝ちなのに」



 そんな二人を前に、鈴は心底分からないと疑問を落とした。


 いっそ、期待し縋るような眼差しで、まりあに問いかける。何故とどめを刺さないのか、と。



「言ったでしょう? これは勝負じゃない、憂さ晴らしだって」

「だったらなおさら」

「あなたが再起不能になるまで殴りつけろって? 嫌だよ、そんなの」



 まりあは盛大にため息を吐き出す。



「勝負は正々堂々と自分の力で戦わなくちゃ意味がない。なのに、私はドーピングでパワーアップして、あなたは魔術師としてのプライドを投げ捨てた。こんな戦いに意味なんてあるの?」



 鈴の目を見てはっきりと告げる。



「こんな戦い美しくない。だからこれは勝負じゃないの」

「……それは、君の勝手な価値観だ」

「そうね。でも、これであなたも無理やり戦わなければいけない気持ち、少しは分かったでしょう? 覚えておいた方がいい。あなたのやり方は無意味に相手を追い詰めている。行き着く先に望むものなんてありはしないわ」

「……」

「利用されても構わないなんて言ってないで、ちゃんと自分で考えて戦いを挑みなさい。そうしたら私だってこんな真似しなくて済むから」



 鈴が意気消沈と沈黙したのを見届けて、まりあはようやくといった心地で、肩の荷を下ろした。


 次いで、どこへともなく凛とした一声を飛ばす。



「かがみん、逃げるな。こっちへ来なさい」

「……」



 しばしの間。


 かがみんはすごすごと項垂れながらまりあの足元へ馳せ参じた。



「えっと。……ふ、ふふん、やるねえ、まりあ。僕は、」

「黙って。私に魔力をよこしなさい」

「……はい」

「……十文字さんにも。動ける程度に」

「いや、あまり君たちに分け与えてしまうと僕が動けなくなって、」

「いいからさっさとやる!」

「はいぃっ!」



 かがみんの持つ魔力を搾り取り、すっかり体力を回復させたまりあは、気怠くなってしまう前に後始末に取り掛かる。けじめ案件である。



「さて、かがみん。今回の件について、私から言うことは何もないわ」

「え?」

「とりあえず潰れなさい!」



 一瞬で変身したまりあの剛拳が、かがみんを物理的に大地へ沈めた。その一発で、水に流すことにした。



「私もね、いろいろと考えるところがあったわ。いくら勝ちたいからって反則技に手を出しても、やっぱりなんにも気持ち良くなんてないの。地道なトレーニングが実を結んでこそ、勝利の快感を得られる。それがよく分かった。もっと強くなるために、理想に近づくために、やっぱり日々の努力は必要不可欠!」



 それが確認できただけで良しとした。


 どうせ、どれだけ痛めつけたところで平然としているのだ。

 これ以上、かがみんのくだらない陰謀に付き合って、苛立ちを募らせているだなんて時間がもったいない。



「帰ってトレーニング方法を見直しましょう、しぐれ」

「それはいいけど、まりあちゃん。疲れているでしょう?」

「大丈夫。休息はちゃんと取るから。過度な運動は筋肉を傷めてしまうの。よく食べて、よく休んで、それからトレーニングよ。誰にも邪魔されずに美しい筋肉を身に着けるの! くううっ、今から楽しみで仕方ないわ! 行きましょう!」

「あ、ちょっと。まだ走ったら危ないよ~っ」



 まるで何事もなかったかのように、あるいはこれまでの鬱憤を晴らすかのように。

 元気良く声を上げて駆けていく二人の足音は遠ざかっていき、やがて完全に消えた。

 



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