暴走する魔法
戦いの場へと急ぎ走る、しぐれ。その後ろにかがみんが続く。
「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
魔力の残滓を追ってたどり着いた『このはな公園』。一歩足を踏み入れた瞬間、耳を劈く大音声がしぐれの身体を強ばらせる。
「これは……っ、まりあちゃん?」
まさか、という思いで、しぐれは目を見張る。
いつもの猛々しい咆哮とは違う、より凄絶に激しさを増した、獣の慟哭じみた雄叫び。酷く心を不安にさせる響きだ。
同時に伝わってくるのは、肌をひりつかせるほど苛烈に発せられる莫大な魔力の波動。
一体何が起きているというのか。
「やっぱりこうなったか。しぐれ、ひとまず手はず通りに行こうか」
「えっ。う、うん……っ」
周囲を取り巻く異常事態に気をとられながらも、しぐれはかがみんの声に反応して頷きを返した。
「えいっ」
所持していた小さな手鏡を空高く放り投げる。高く空へと伸び上がった放物線、その頂点に達した時、かがみんが魔法をかけた。
「〝開け、異界の門、鏡の扉〟!」
瞬きの間に周囲の景色が全く別のものへ置き換わる。
混沌とした空と赤黒い大地がどこまでも続く広大な空間。現世とは切り離された異質な場所、鏡の世界。
かがみんの魔法によって公園にいた全員が、鏡面の内側に張られた結界へと取り込まれた。
「今回はさすがに野放しにしておけない。前の校舎のように、周りの建物ごと壊されそうになっても面倒だ。これなら周辺へ被害は出ないだろう」
かがみんは、「これでよし」と自らの仕事ぶりを褒め、直後に「やれやれ」と肩を落とす。
「魔法の存在が明るみに出るのは避けなければいけないというのに、派手な騒ぎを巻き起こすのは控えてもらいたいね」
「十文字さんを連れてきたかがみんが言うことなの? 目立ちたくないなら、今すぐ二人を止めて!」
突っ込むのもそこそこに、しぐれはすごい剣幕で訴えかける。彼女が真っ直ぐ指差す先では、途切れることのない破砕音が轟き渡っていた。
「ヴゥオオオ――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」
「……ぐっ、この!」
爆炎の如き勢いを宿し、赤熱したまりあの拳が鈴の障壁を打ち砕く。ただ振るわれるだけの力任せの一撃が、何重にも重なる障壁を粉々に吹き飛ばした。
破壊された端から鈴が新たな障壁を作り、また粉砕されるを繰り返す。
目まぐるしく立ち位置を入れ替え、絡み合うように激突する二人。互いの魔力を燃焼し、白熱の一途を辿るまりあと鈴の一騎打ちは、初手から最高潮に達していた。
「あんなものを止めろだなんて、それこそ無茶だ。近づくのも危険だよ」
かがみんの言う通り、生み出される衝突の余波は周囲の大気を鳴動させ、動く者の足を怯ませる。
耳を聾する打撃音。目を覆いたくなるほど差し迫る暴力。
吹き荒れる嵐の中心で破壊の化身と成り果てたまりあの様は、遠目に見ていても背筋をぞっと震わせる。
「まりあちゃん……。一体、何をしたの……」
しぐれは、為す術なく呟く。今のまりあは、まるで別人のようだ。
はち切れんばかりに膨れ上がった筋肉は、灼熱の炎を纏って爆発的な炎上を繰り返し、怒髪天を衝く勢いで白く色の抜けた長髪が伸び上がる。
とっておきの魔法を常に放出し続けるなど、明らかに普通の状態ではない。
しぐれは、いつかの鈴に見た光景を思い出す。
視界が真っ白に焼け切れるほど、膨大な魔力を宿した攻撃。一目見て分かるほどに圧倒的かつ絶対的な力。はっきり言って、あまりに異常だと思っていた。
だがしかし、今のまりあはあの時の鈴と同じだ。魔力の箍が力任せに外されている。
思わずにはいられない。果たしてそれは、まりあが使っても良い類いの力なのだろうか。
「……」
しぐれは戦慄を隠せず、握った拳を振るわせた。




