表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/70

一方的な憂さ晴らし

 

 

「あらあ、しぐれが見当たらないのね? ああ、あの弱虫、今は保健室のベッドの上だっけ? あはっ、ざまあっ」

「……」

「何よ、だんまり? 二人一緒じゃなくちゃどうにもなんないの? それとも鈴先輩が怖い? そうだよねえ、あんた、手も足も出ずに負けちゃったんだもんねえ?」

「……」

「どおしたの? 変身しないの? あの気持ち悪い筋肉ダルマにさあ? きゃははっ」

「……」

「……おい、無視かよ。なんとか言い返してみなさい、よっ!」



 無言のまま歩みを止めないまりあにしびれを切らし、美羽はステッキを振り上げて飛び掛かった。


 ステッキの先端に収縮する淡い紫の光。溜め込んだ魔力を付与された強撃が、容赦なくまりあに襲い掛かる―――が、その攻撃がまりあへ届くことはなかった。



「―――……えっ?」



 視界が揺れた。青葉の匂いが鼻孔に満ち、一瞬遅れて衝撃が背中の神経を痛烈に叩く。

 回避を選択する余地すら与えられず、気づけば美羽は芝生の上に叩きつけられていた。



「な、なに、が……っ?」



 苦悶に歪んだ美羽の顔に浮かぶのは、ことに対する疑問と戦慄。


 答えを求めて視線を上げるも、そこにまりあの姿はなく。芝生を踏みしめる音だけが、後ろから聞こえてきた。


 無視された。そうと悟った瞬間、目の奥でチカチカと怒りの火が瞬いた。



「……っ! こん、のおおおおっ! 舐めがやってええええっ!」



 美羽は倒れた身体を全力で跳ね起こし、吠え声とともにまりあの背中目掛けて突撃する。


 完全に死角を捉えた攻撃、そのはずだった。



「ごっ、ほ……! うえぇ……っ」



 鈍い衝撃が背中へと駆け抜けた。振り下ろしたはずのステッキは空を切り、まりあの拳が自身の腹部に突き刺さっている。


 口から盛大に体液を撒き散らしながら、美羽はどうしてこうなったのかを考えた。


 油断はしていない、鬱憤を晴らすつもりで全力で殴りに行った。にもかかわらず、あっさりと攻撃を躱され、瞬殺された。

 変身していない、素のまりあに対して、だ。


 つい先月屋上の一件で、そんなことはありえないと証明されたのではなかったのか?


 抱いた疑問に何ひとつ解を得られぬまま、美羽は膝から崩れ落ちた。

 




☆   ☆   ☆





 決着を見届ける前に鈴は動き出していた。うずくまったまま気絶した美羽と入れ替わりで、まりあの眼前に降り立つ。


 敵を見据える瞳には、先程までの余裕はなくなっていた。



「何をしたの?」



 短く問いかける。この状況がイレギュラーなのは、美羽にとってばかりではない。


 まりあは強くなっていた。


 屋上で美羽と戦った時よりも、公園で鈴と戦った時よりも。昨日よりも、今朝よりも。

 圧倒的に力強く、あり得ないレベルで激変していた。



「これは勝負なんかじゃない」



 呟くような宣言が、まりあの口から零れ落ちる。


 鈴は怪訝に眉を潜めた。



「……何だって?」

「これは、あなたと私が望んだような、真っ向勝負なんかじゃないよ」



 まりあが伏せていた面を上げ、鈴を真正面から見つめ返した。

 その瞳には恐れも怒りもなく。凪のように静かでありながら、奥底に秘められた迫力に圧倒される。


 つい先刻にも見た、覚悟を決めた者の顔。


 油断なく構えを作りながら、鈴は再度問う。



「それじゃあ、君は何をしに来たの?」

「一方的な憂さ晴らし」



 答えると同時にまりあは炎を吹き上げ、魔法少女へと変身した。

 

 


☆   ☆   ☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読了、ありがとうございました。
感想・評価いただけると嬉しいです! 最新話下部にあります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ