表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/70

玩具

 

 

「来たか。まあこうなるだろうと思っていたよ」

「……」



 十文字鈴は、最初に出会った『このはな公園』で、悠然とまりあのことを待ち構えていた。

 小さく盛り上がった芝生の上で彫像のように動ずることなく立ち、やって来たまりあを見下す形で迎え入れる。 


 しぐれの襲撃を退けてから、まりあがどう動くかの予測はついた。むしろ、こうなることを望んでいた節もある。

 最初はかがみんの私怨に巻き込まれてのことだったが、今は望んでまりあと戦ってみたかった。


 鈴は決して、まりあとしぐれのことが嫌いではない。むしろ好きになった。

 弱いくせに諦めが悪いところが特にお気に入りだ。魔女のように簡単に消えて無くならない。打ち倒すたび何度でも遊びに来てくれる。


 ストレス発散には持って来いの相手だ。



「早く変身するといい。そしてを勝負しよう。今度こそどっちが強いかはっきりする」



 鈴は嗜虐心を笑みの形に変えて、口角を吊り上げる。


 奮起したしぐれは悪くなかった。さて、まりあはどうだろうか。

 一度負かした相手だ。生意気にもリベンジマッチに燃えているようだが、今度こそ完膚なきまでに叩き潰してやろう。


 その時、まりあはどれほど悔しがるだろうか。


 鈴の中で膨れ上がる残虐な好奇心は、満たされることだけを望んで、際限なく魔力を昂ぶらせる。

 かがみんからの魔力供給は前もって済ませておいた。疲労も少なく、連戦に支障はない。


 変身する。制服を脱ぎ捨て、黒衣の装束を身に纏い、紅玉の宝杖を片手に、呵呵とまりあに開戦の笑みを投げかける。


 そこへ、



「待って、先輩! あたしにやらせて!」



 邪魔者が割って入った。


 金色の巻き毛を揺らして鈴の前に現れた美羽は、喜色満面な得意顔を浮かべて、勝手に宣言する。



「来たわね、安部まりあ。鈴先輩より先にあたしが相手よ。屋上での屈辱、ここできっちり返してやるんだから!」

「……」



 何だ、こいつ……。


 心底不快に思う鈴の眼差しに気付くこともなく、美羽は場違いに明るく勝手に盛り上がる。



「いいぞ、美羽~。かっこいい~」

「あれだけ特訓に付き合わせたんだ、負けるなよ!」



 金魚の糞のようにくっついてきた眼鏡とショートヘアの二人が、子分よろしく後方で歓声を上げている。


 鈴は、実に不愉快だった。


 三人ともかがみんが紹介してくれた魔法少女だが、ひと目見ただけで興味が失せた。あまりに弱すぎる。

 戦うまでもないと無視したところ、弟子にして欲しいと頭を下げて媚び諂い、気味の悪い笑みを張り付けて付き纏うようになった。


 正直冗談ではなかったが、かがみんから「よければ面倒見てやって欲しい」と頼まれている手前、邪険にできない。



「はあ……」



 鈴は露骨に表情を曇らせて一歩下がり、美羽に先を譲った。


 興が削がれた。今にも弾けそうだった衝動は鳴りを潜め、心の奥で燻っている。


 見限った相手に、これほど落胆させられるとは思いもしなかった。お礼に後で稽古をつけてやってもいい。雑魚をいたぶるのもまた一興だ。



「やってごらん、美羽」

「任せて!」



 嬉々と瞳を輝かせた美羽は、盛大な勘違いに気付くこともなく変身して、ステッキ片手に駆け出していく。


 嬉しそうな背中を見送り、鈴は「まあいいさ」とひとつ鼻を鳴らした。

 戦わせてみよう。どのみち、あんなのに苦戦するようでは、まりあは鈴の玩具にもならない。


 つまらなそうに見下ろす視界の中、まりあと美羽が接敵する。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読了、ありがとうございました。
感想・評価いただけると嬉しいです! 最新話下部にあります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ