嵐の前の
「ん……」
吐息のような声を小さく漏らして、しぐれは薄く瞼を開く。身じろぎする動きに合わせて、額の濡れタオルが滑り落ちた。
「おや、目覚めたのかい、しぐれ」
「……」
しぐれは、ぼんやりと据わった瞳でかがみんを見やり、ゆっくりと上半身を起こす。
視線を左右に振り、場所と時間帯を認識し、自分の身に何が起きたのかを振り返る。
「……ううっ」
おおよそ状況を飲み込めたところで、しぐれは膝を抱えて丸くなった。
敗けてしまった。守ることができなかった。
情けない自分を嫌というほど思い知り、しばし自責の念に囚われる。
ふと思い出し、バッと顔を振り上げた。まりあとの待ち合わせの時刻はとっくに過ぎてしまっている。
「まりあちゃんはっ?」
しぐれは、かがみんに詰め寄った。
徐々に記憶がはっきりしてくる。混濁する意識の中、確かにその声を聞いたような気がした。心配そうにしぐれの名前を呼ぶ、まりあの声を。
「まりあなら君の仇を取りに行ったよ」
「仇って……? まさかっ」
あらん限り瞳を見開いたしぐれは、取り乱した勢いのままベッドから転がり落ちた。
まだ動きの鈍い身体に鞭を打ち、すぐさま立ち上がる。
「まりあちゃんはどこ? どこにいるの? 教えて!」
焦るしぐれを前に、かがみんは先程見せたしたり顔を再び張り付けて、
「君になら分かるだろう、しぐれ?」
「え……、そうか、魔力を辿れば!」
その言葉の意味を悟り、しぐれは視界を閉ざして雑多な感覚を埋没させた。
残されていた魔力の残滓を感じ取り、すぐさま保健室を飛び出していく。
「ああ、せっかくだ。見学に行こうか」
かがみんは悠々と床に飛び降りると、遠くで近づき合う二つの強大な魔力を感じ取りながら、しぐれの後に続いた。
☆ ☆ ☆




