決別の一撃
「美羽め……っ、なんて無茶苦茶なことをしてくれたんだ」
攻撃の余波に晒されながら、かがみんは憎々しげに悪態をつく。青く輝く双眸を巡らし、被害のほどを確認する。
どうやら校舎は無事らしい。
極大に膨れ上がったエネルギー、そのすべてをしぐれに直接叩き付けたことで、破壊の規模が最小限に食い止められたのだ。
それは同時に、美羽の持つ全魔力がしぐれの身体に炸裂したことを意味する。
「凄まじい魔力の波動だ……。化け物じみた頑強さをもってしても、これなら」
不意に、期待の言葉が途切れる。
白光が徐々に霧散し、眼前に現れた光景に、かがみんの希望は見事に裏切られた。
「……」
美羽の全力を真正面から喰らいながらも、しぐれは仁王立ちのまま健在。不動のあり方をその身に顕現させ、背後にいるまりあを守り抜いていた。
強靭な下腿は屋上のコンクリートを深々と穿ってなお、屈することはなく。美羽が放った破壊の光撃は、衝突点である胸部に薄い焦げ跡を残すのみ。
隆々とした胸筋は、見せ掛けで終わらない圧巻の防御力を発揮していた。
「はあ……っ、はあ……っ、……くそぉっ!」
まるで歯が立たない。堅牢な鎧の如き筋肉を前にして、美羽は疲労困憊のあまり片膝をついた。
魔力が枯渇したことによる活動限界。喉から喘鳴を零しながら、苦しげに喘ぐ。
それでも、美羽は意地だけでプライドを支えた。眼光をぎらつかせ、目の前に立つしぐれをきつく睨みつける。
「ぐ……っ、ふざけた目ぇ、してんじゃないわよ!」
しぐれに見下ろされている状況が許せなかった。美羽は身体をよろめかせながら立ち上がり、ステッキで殴り掛かる。
だがそれは、魔力の籠らないただの打撃。あっさりと筋肉の壁に弾き返され、たたらを踏んだ美羽は後ろ向きに倒れそうになった。
「きゃっ―――」
無様にも尻餅をつく寸前、鉄骨のように屈強な剛腕がしっかりと美羽を支えた。
雷速じみた俊敏さで後ろに回り込んだしぐれは、美羽の身体を軽々と抱きかかえ、細い両腕をがっちりと固定し、羽交い絞めにする。
「ちょっ、何のつもりよ!」
宙ぶらりんで足をばたつかせる美羽だったが、剛力による拘束をまるで引き剥がせない。
もはや、訳も分からず喚くことしかできなくなった美羽。その眼前より、洒落にならない威圧感が答えを持ってやって来る。
「しぐれ。そいつ、そのまま押さえてて」
中身を飲み干され、投げ捨てられたスクイズボトルが、屋上の床に落ちて乾いた音を立てた。
まりあはぐいっと豪快に口元を拭い、怒りに燃える眼を美羽へと差し向ける。
プロテインが体内を巡り、煮え滾っていた情動が魔力を得て発火、炎上。
魔法少女へと変身を果たし、その全長が二倍以上に膨れ上がる。
「……なに? なによ、これ……っ。何するつもりよ、ねえ! ……まさか、嘘でしょっ!?」
一歩、また一歩と、大気を鳴動させる巨身の歩み。
吊り上った双眸は瞋恚に燃え、岩のような拳が握り締められる。
「やめろ、おいっ! 放せ、放せよこのおおおおおおおっ! 放しなさいよ、しぐれ! このままじゃあんただってっ」
恐怖のあまり口汚く罵声を散らすも、前後を挟む巨漢たちはすでに語る言葉を持たない。
ただ一度だけ、両者の間に交わされるアイコンタクト。
「いい?」
「やって」
それが執行の合図となる。
巨影が霞むほどの速度をもって、肉薄。まりあの拳は、美羽の腹部目掛けて下からアーチを描く。
「いいいぃぃやああああああああああああああああああああいっ!!!!」
「やめ―――っ、やめてええええええええええええええええええ……っ!」
咆哮が轟き、悲鳴が迸る。
強剛たる拳と胸筋に板挟みにされた華奢な身体の内側で、暴力の嵐が凄絶に駆け巡った。
「かっ……」
目玉が飛び出すほどに見開かれた双眸が血走り、ぐるんと白目を向く。腹の底から絞り出された断末魔を残し、美羽は力なく倒れ伏した。




