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筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!  作者: ユエ
2話 しぐれの友愛
39/70

憤怒の咆哮

  

「この輝きは、魔法の!?」



 咄嗟に尻尾を使って光撃を防いだかがみんは、誰よりも早くそれを目撃した。光の爆心地に生まれ出でたのは、偉丈夫をも怯ませる雄々しき魔法少女の姿。



「あれは……」



 その光景は、以前にも一度目の当たりにしたことがあった。


 頑強な筋肉の鎧に身を包む、魔法少女の皮を被ったイレギュラー。

 

 見る者を圧倒する威風堂々たる出で立ち。幾重にも巻かれた稲妻模様の飾り布が風になびく。盛り上がった筋肉が、白光色の布地を引き裂かんばかりに躍動する。


 驚愕すべきは、その筋肉達磨がまりあではないという一点に尽きる。


 しぐれだ。弱気に三つ編みを揺らしていた面影など吹き飛ばし、かつての親友(美羽)と正面切って相対する。



「そんな馬鹿なっ! まだ授けられもしていない魔法の力を自ら発現するだなんて!」



 思わず驚愕を叫ぶも、原因は容易に察しが付いた。まりあのプロテインを、しぐれも口にしていたのだ。

 魔力の器である"魔女の卵"。それを用いて作られた特性のプロテイン。ひと口飲めば、濃厚な魔力がその身に宿る。願う心を発火剤にして、魔法の力を発現させた。


 その理屈は理解できる。だからと言って、目の前の現実を許容できなかった。


 激しく狼狽するかがみんをそのままに、魔法少女へと変身を果たしたしぐれは、ゆっくりとまりあの元へ歩み寄る。



「しぐれ?」

「うげっ、何あれ。気持ちわるぅ」



 近づいてくるのは、筋骨隆々の肉体に、引き伸ばされた魔法服。恐ろしくちぐはぐで馬鹿げたその姿に、美羽は激しい嫌悪感に見舞われた。

 あれがかつての友人だなんて、あらゆる意味で受け入れ難い。



「あんた、そんな姿になってまであたしに勝ちたいの? バッカじゃないの、どんだけよ? あたしだったら自殺もんの―――、」



 嘲笑が、不自然に途切れる。


 驀進(ばくしん)した剛拳が両者の間合いを貫き、美羽の顔面に吸い込まれるようにして収まった。続く衝撃が、高く伸びた鼻っ柱を打ち砕く。



「が……っ」



 再び派手に殴り飛ばされた美羽は、ひしゃげたフェンスを突き破って、そのまま空中へ放り出された。

 魔力を使って無理やり制動をかけ、浮遊する。



「う、づうぅ……ごぼ……っ!」



 鼻頭を中心に打ち据えられた顔全体が、腫れ上がったように灼熱を帯びる。鼻孔と口内から吐き出された鮮血は色濃く、もはや赤黒かった。



「いた、い……っ。鼻、折れて……っ。いたいいたいいたいたい~~~っ! こんの、弱虫が……っ、あたしの顔を、よくも……っ! よくもおおおおおお!」



 美羽は、腹の底から憤怒の絶叫を張り上げた。

 聖剣の如く振り抜かれたステッキの先端で、収束した魔力が渦を巻き、昂ぶり、煌々たる紫紺の光が迸る。



「なんて魔力の集中だ。美羽のやつ、しぐれごと屋上を吹き飛ばす気か!」

「ええ~っ、大変!」



 ぎょっとして取り乱し、自分たちだけ裁ち鋏の影に隠れる小咲と姫香。



「プロテインを!」



 拘束が解かれたまりあは、いち素早く身を起こし、スクイズボトルに飛びついた。



「何でもいい、とにかく変身してあいつを……って、しぐれ?」



 焦熱に駆られるまりあの横を抜けて、しぐれは泰然と一歩前に出た。



「守ってみせる、友達だから」



 その瞳に、もはや美羽への恐れはない。譲れない想いだけが宿っていた。


 もうこれ以上、まりあに手出しさせない。傷つけさせない。鮮血の滴る拳を握り直し、美羽の真正面に立って、すべてを受け止める構えを取った。



「う、ぐううっ、この変態がっ!」



 真っ向から捩じ伏せる、と言外に告げるしぐれに対し、ついぞ美羽の怒りが頂点を突き抜ける。



「しぐれええええええっ!」



 我を忘れた美羽は、収斂させた魔力による砲撃を捨て、しぐれに向かって突撃を敢行する。弾丸の如く空をかっ飛び、爆発物と化したステッキをしぐれ目掛けて叩き付けた。


 溜め込んだ膨大な魔力が疾駆の勢いに乗せられ、弾け飛ぶ。煌々たる光の暴威が、瞬間辺りを真っ白に焼き尽くした。


 轟音と衝撃が大気を震わせる―――。

 

 

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