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筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!  作者: ユエ
2話 しぐれの友愛
36/70

魔を喰らう少女

 

 

「しぐれを放して」



 低い声とともに発せられる敵意。



「何よ、学ばない奴ねえ? ほんとバァカ。あんたが先に痛い目に―――っ?」



 ゆっくりと上げられたまりあの顔を見て、美羽は思わず息を飲んだ。

 瞋恚を宿した鋭い眼光に射抜かれて、反撃の言葉に詰まる。



「放して」



 続く、まりあの静かな怒声。イレギュラーは、そればかりでは収まらなかった。


 まりあに掴まれたままの拳が力負けして、徐々に形を崩していく。皮膚が引き攣り、肉が潰れ、骨が軋んで悲鳴を上げる。


 美羽は、迫り上がってくる痛苦の、あまりの鮮烈さに負けて奥歯を噛みしめた。



「な、なによ、この力っ? ぐうぅ……っ、くそっ、失敗作のくせに! ふざけん―――っ」



 動揺を喚き散らしながら、武器であるステッキを魔法で出現させて振りかざす美羽。

 次の瞬間、その顔面に怒りの鉄拳が叩き込まれた。


 美羽はもんどりうって吹っ飛び、屋上を囲むフェンスを大きくひしゃげさせて、すっぽりとその中に埋まった。



「は? うっ……、づぅ~~っ」



 一体何が起きたというのか。美羽は、状況を把握できずに呆けた。

 鼻からどろりとした血が滴り落ちると、痛みを思い出したかのように身体をくの字に曲げ、悶絶した。  



「うそだろ……」

「ええ~っ? ちょ、美羽~?」

「馬鹿な……っ、これは間違いなく、魔法の……」



 目の前で起こった出来事に戦慄する小咲と姫香。


 かがみんもまた、同様の反応を見せる。


 魔法少女に変身した美羽を、生身のまりあが吹っ飛ばすことなどありえない。あってはならない。ダンプカーを片手で持ち上げるに等しい所業だ。


 筋力トレーニングで得られる真っ当な力ではない。間違いなく、まりあの保有する魔法の力が発動している。

 だが、どうして……。



「まりあっ、君は卵を孵せなかったんだろう? 魔獣からの魔力供給なしにどうやってそれだけ潤沢な魔力を?」



 魔法少女は魔獣からの供給がなくては、変身することさえままならないはずだ。大前提を目の前で覆され、かがみんはあらん限りの困惑を叫ぶ。


 対し、応えるまりあの声は、どこまでも淡々としていた。



「あなたの言った通りになったわ、かがみん。あの日以来、私は魔女やその使い魔に狙われ、事あるごとに襲われ続けた。その全てを返り討ちにし、〝魔女の卵〟をかき集めたのよ」

「何だって?」



 どういうことかと思考を巡らせたかがみんは、何かを感じ取ったようにはっとして、明後日の方を振り向いた。


 その視線が捕らえたのは、争いの混乱に巻き込まれて、屋上の床に打ち捨てられていたスクイズボトル。

 しぐれの足元に転がったそれを、見通すように注視する。



「あの容器の中身から濃度の高い魔力を感じる……。まさかっ!」

「卵は、多くのタンパク質が含まれる食品。身体作りには欠かせないものなの」

「まりあ! 君は〝魔女の卵〟を食べたっていうのか!」



 真相に至ったかがみんは、驚愕のあまり目を見開く。それほどに、まりあの行動は常軌を逸していた。


〝魔女の卵〟は、魔女が生れた時から胎内に保有する、次世代の命を宿した物。かがみんたち魔獣を栄養源に、中身を魔力で満たしてやることで新たなる魔法生物が誕生する。いわば、魔力の器だ。


 あろうことか、まりあは卵を直接喰らうことにより、器に蓄積された魔力をその身に取り込み、魔法の力を発揮していたのだ。


 冗談じゃない! とかがみんは叫び、まりあの所業を痛烈に非難する。



「まりあ! 君は僕ら魔法生物を食い物と見なすっていうのか!?」

「生きていくために命をいただくことは、生物にとって自然なことよ」

「なんてふざけたことを……っ!」

「いつか自分でそう言っていたじゃないの」



 まりあに呆れを返され、かがみんは悔しげに歯噛みする。


 魔獣にとっての脅威は、すなわち捕食者である魔女だ。魔女に対抗するために魔法少女を生み出したというのに、これでは本末転倒もいいところ。

 たとえ魔獣が束の間の安寧を手に入れようと、卵そのものを潰されては種の存続は危ぶまれる。


 まりあは今や、魔女と同レベルの危険因子に成り果てた。



「訂正するよ、まりあ……。君は僕らにとっての脅威だ。今ここで排除する!」

「かがみん。あなた、さっきは未来なんて関係ないみたいなこと言ってなかったっけ?」



 真っ当な返しに取り合わず、かがみんは眦を決し、まりあと対峙する。

 以前のようなお遊び感覚ではない、排除すべき敵として、まりあの前に立った。

 

  

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