新たなる魔法少女
すっかり蚊帳の外にいたしぐれは、目の前で起こった小動物虐待に呆気に取られて、くちをぽかんと開けていた。
ややあって、さすがにやり過ぎだと思ったのか、まりあへ控えめに抗議する。
「い、いいの? あんなことしたら怪我とかして……」
「いいんだよ。私はあれくらいの目に遭わされたもんっ」
ふんっ、とそっぽを向くまりあの傍ら、せめて様子だけでもと思い、動くしぐれ。
それに待ったをかけるように、かがみんの声が辺りに響いた。
「まったく。相変わらずひどい奴だな、君は」
遥か下方、校庭から屋上のフェンスを一足で飛び越えて、飛来する三つの影。
それらを先導するかのように、かがみんは音もなくまりあとしぐれの眼前に舞い戻った。
「僕はしぐれの願いを叶えたいだけだよ。そう、彼女たちのようにね」
人並み外れた跳躍力で空を駆けた影たちは、まるでかがみんの守護者のように、まりあたちの正面に並び立つ。
「ったく。何やってんのよ、白饅頭」
「ねえ~、急に空から落ちて来るんだもん~。びっくりしたよ~」
「はっ、助けを求めて念波を送るだなんて。情けない奴め。切り刻んでやろうか?」
「勘弁してくれ」
真ん中の金髪が巻き毛を払いながら鬱陶しげに言えば、右から顔を出した眼鏡が間延びした声で同意し、左に立つショートヘアが豪華に装飾された巨大な裁ち鋏を掲げ持ち、ジャキンと音立てた。
三者三様、贅沢にフリルをあしらった派手な色合いの衣装に身を包み、髪形や雰囲気が華々しい。ただ、誰も彼もどこか見覚えがあった。
「もしかして、美羽ちゃん?」
「……ちっ」
しぐれは唖然としながらも、真ん中の巻き毛を指差し、その正体を看破する。
返ってきたのは、苛立ち交じりの舌打ち。
「その姿って―――、きゃあっ」
何か言うより先に、しぐれは美羽に突き飛ばされて尻餅をついてしまった。
「気安くあたしを呼んでんじゃないわよ、このグズ」
「しぐれ!」
すぐさましぐれのところへ駆け寄るまりあ。
驚きのあまり硬直している彼女を助け起こすと、次には美羽を鋭く睨みつける。
理不尽な仕打ちに対する、激しい抗議の眼差し。しかし、美羽はそんなものには目もくれず、かがみんへ不満をぶつけた。
「ちょっと冗談でしょ、かがみん。新しく魔法少女になれそうな奴がいるっていうから来てみれば……。こいつらが魔法少女になるってわけ?」
「そうだよ。正しく言うと、魔法を授けるのはしぐれだけさ」
「はっ、笑えるわ」
それこそ冗談じゃない、と小馬鹿にする美羽。その顔は一ミリも笑っておらず、持ち前の残忍さを眼差しに込めて、不要にしぐれを怯えさせる。
再びしぐれの前に出たまりあは、改めて三人の魔法少女の顔を見回した。
なるほど、言われて見れば三人とも面影がある。しぐれをいじめていた残虐三人組、美羽、小咲、姫香だ。
同時に気が付く。九つのはずのかがみんの尻尾が三本減っている。
まだ生え変わっていないところを見ると、どうやら三人を魔法少女にしたのはごく最近のことらしい。
「こんなにたくさん魔法少女を増やしてどうするの? 魔女って、人間でいうところの女の人なんでしょう? すべて打倒してしまったら、魔法生物そのものが生まれなくなるって、あなた言っていたじゃない、かがみん!」
「遠い未来ではそういうことになるのかもね。けれど構うことはない。僕は今を生きているんだから」
胸に疼く不信感のままに訊ねれば、かがみんは退廃思想に毒された若者みたいな発言を返してくる。
呆れて言葉も出なかった。




