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筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!  作者: ユエ
2話 しぐれの友愛
30/70

友達として

2/27 15時ごろに投稿した部分について。大幅に改稿し、数行付け加えて再投稿しています。

 

 

  

 

 

 

 ―――キーンコーン。


 昼休み前、授業終了の予鈴が鳴ったと同時にまりあは席を立ち、一番後ろの窓際の席へ向かった。



「しぐれちゃん、お昼一緒しよう?」



 弁当入れの袋を掲げて、にこやかに誘う。


 突然のことに面喰い、しぐれは目をぱちくりと瞬かせた。 



「え、まりあちゃん? あっ、えっと。でも……」

「いいから、いいから。よし、行こう」

「え、わ、あ、あのっ?」



 まりあは、おろおろと動揺しっぱなしのしぐれの手を引き、容赦なく教室から連れ出した。


 廊下へ出ていく二人を見送ったクラス中の女子たちは皆、どういうことかと眉をしかめてひそひそと互いに耳打ちし、そして一様に美羽のご機嫌を盗み見る。



「……ちっ」



 密かな注目を受ける中、二人の背中を睨んでいた美羽は、忌々しそうに舌打ちをした。







 追手がないことを確認しつつ階段を上がり、まりあは屋上へとしぐれを連れてきた。

 改めて正面から向き合うと、困惑している彼女の顔の前で両手を合わせる。



「いきなりでごめんね。びっくりさせちゃったかな。様子見しようかとも思ったんだけど、思わず」

「う、ううん。確かに驚いたけれど。でも大丈夫だよ? 今日は何ともなかったし」

「うん、どうなんだろうね……」



 慌てて両手を振り、不思議そうに笑みを作ったしぐれに対し、まりあは言葉端を濁す。


 しぐれもそれで何となく分かった。

 きっと、クラスを取り巻く不穏な空気に気が付いたのだろう。事情を知っていれば、その中心にいるのが美羽であることも容易に察せる。


 現に彼女は授業中、しぐれの方をちらちらと見やり、仲間内でこそこそと密談を交わしていたらしい。


 そこでまりあは、動くなら休憩時間が長い昼休みだろうと当たりをつけて、機先を制してしぐれを連れ出してくれたのだ。



「嬉しいな、心配してくれてたんだ?」



 しぐれが礼を述べると、まりあは照れたように「えへへ」とはにかみ、堂々と胸を張る。



「友達として当然だよ!」

「友達……」



 しぐれは反芻するように、その言葉を舌の上で転がした。


 どうしてか、胸の奥の方が小さくさざ波を打ち、まりあの好意を昨日ほど素直に受け取れない。


 まりあは、昨日会ったばかりのしぐれを友達だといって、今もこうして気にかけてくれている。

 その優しさを嬉しいと思う反面、どこか心苦しいと感じてしまう。

 

 聖母のような彼女の微笑みに見合うだけの魅力が自分にあるとは、到底思えなかった。

 

 

「……」

「どうかしたの?」



 どう答えればいいのだろう。俯き加減で懊悩するしぐれに対し、まりあは実にあっけらかんと明るさで訊ねてきた。


 しぐれの目元を隠していた前髪がそっと風に攫われて、顕わになった目線がまりあのそれと絡み合う。



「えっ、えっと。少し悩んでいるというか、考えているというか……」

「その悩み事って、もしかして昨日のことかな。私が余計なこと言ったから?」

「えっと。そういうわけでもないというか、なんというか……」



 しぐれの脳裏に思い浮かぶのは、夕暮れの帰り道で遭遇した見たことのない小さな獣のこと。


 親友との離別を決めたしぐれの心を掻き乱しに現れた、謎の魔法使い。


 彼の言う通りにすることが、本当にしぐれの救いになるのだろうか。まりあには何と説明すればいい?


 胸中に渦巻く迷いは、何ひとつ消えることなくしぐれを焦らせる。


 しかし、



「……はっきり違うとは言えないんだけど。でも、まりあちゃんのせいじゃない。まりあちゃんはわたしを助けてくれた。嬉しかった、本当にっ」



 それだけは絶対だ。これだけは誤解して欲しくない。


 本当は違うのに、想っていることはそうじゃないのに、相手に伝わらない。そんな恐怖に晒され続けてきた心は、臆病にも震えが止まらない。


 眦に涙さえ滲ませて、縋るようにまりあを見つめること数秒。


 万感の想いを込めた訴えかけに、



「うん、そっか」



 まりあは屈託なく微笑んでくれた。


 ―――伝わった。


 たったそれだけのことに安堵して、しぐれはほっと胸を撫で下ろした。

  

 

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