爆炎より出ずる者
怒涛の勢いで押し寄せる使い魔たちは、一向に途切れる気配がない。美女たちは次から次へまりあへと突撃し、我先にと他者を掻き分け、折り重なって山と成る。
やがて、斑模様を有した肌色の蠢く山脈が出来上がった。
囮役を十全にこなしてくれたまりあに心からの感謝を残し、かがみんはそそくさとその場から離れようとする。
ふと、異変に気が付いた。
「……何だ?」
まったく新しい魔力の波動を感じ取ったのだ。
すぐ近く……、いや、目の前だ。
歪な山の中央辺りから、激しい魔力の渦が生まれるのを感知する。
「まりあ?」
即座に思い至るも、しかし困惑を隠せない。強い疑念を抱く。
膨れ上がる気配の濃密さが異常だった。
同調するように、山を組み上げていた使い魔たちに異変が起こる。
下からの圧力を受けて膨れ上がり、荒れ狂う爆風に晒されたかのように一気に掻き上げられ、吹き飛ばされた。
「これは……っ」
かがみんは、驚愕とともに双眸をかっ開いた。
使い魔が天高くより舞い落ちるその中心地に、二メートルを超える屈強なガタイを持つ偉丈夫が仁王立ちしていた。
いや、男ではない。
揺らめく炎を飾り布に、身に纏うのは紅蓮の装束。
内から盛り上がる筋肉ではちきれんばかりに引き伸ばされてはいるが、確かに魔法少女の魔法服だった。
「……………………………いや、まさか」
唖然とする。
どれほど否定の言葉を並べようと、結論は一つしか出ない。今この場において魔法少女たり得る可能性を有するのは、まりあただ一人だけ。
大男と見紛う筋骨隆々の形姿こそが、まりあが魔法少女としての力を開花させた姿なのだ。
「いやいや、ありえないっ。なんだ、それはっ!」
まがいなりにもかがみんは魔獣としての使命を全うし、願いを持つ少女に魔力を授けて、魔法少女を生み出してきた。
数多の経験からして、まりあは完全な失敗作。
見捨てても何ひとつ未練のないできそこない。
そのはずだった。
「魔法少女、なのか……?」
目の前の現実を許容できない。
変身どころの話ではない、変態だ。地を這う毛虫が空をかっ飛ぶジェット機へと成り変わるレベルの変化が、まりあの身体にもたらされたとしか考えられない。
厳めしい顔つきと頑強な肉体に、あどけない少女の面影など欠片も残されていないではないか。
「いいいぃぃやああああああああぁぁぁい―――――――――――――――っ!!!!」
戸惑うかがみんを置き去りに、丸太の如き剛腕を天高く突き上げ、まりあは咆哮した。
最悪だ。
魔法少女は、夢見る少女たちの憧れ。獣のように雄叫びを上げるなど、あってはならない。
結論は出された。
「あれは魔法少女なんかじゃない! 断じて違う! 筋肉でできた化け物だ! そんなもの、認めて堪るかっ」
かがみんは、体裁も忘れて激しく取り乱す。




