本当の願い事
心のどこかで分かっていた。
灯夜はすでに杏奈のものであり、どれほど受け入れ難くとも覆せない現実なのだと。
たとえ杏奈のような美しさを手に入れたところで、灯夜が心変わりするはずがない。
彼はそんな打算的な恋をする人間ではない。断じて違う。
容姿だけではない、杏奈のすべてを愛している。
そこにまりあが付け入る隙間など、初めから存在しなかった。
「バカだな、私……」
冷たい世界の底に一人取り残され、まりあは膝を抱えて頭を垂れる。
奇跡の力を手にしたところで何もできない、非力で無力な愚か者だ。
一体何に憧れていたのか。
何をもって灯夜のことを好きだと思っていたのか。
願いを否定され、まりあは何も分からなくなってしまった。
使い魔たちがまりあの中へ流れ込んでくる。
欲望が巨大な津波と化して押し寄せ、深く、どこまでも深く、まりあを引きずり込んでいく。
意識が混濁し、沈んでいく。
もう伸ばしたその手を掴んでくれる者はなく、
まりあの助けを聞き届けてくれる者もいない。
何もかもが真っ黒に塗り潰されていく中、眩い光の向こうから真っ直ぐに伸ばされる彼の手を幻視した。
最後に心に思い浮かんだのは、漠然とした想いが確信に変わったあの時のこと。
まりあを助けようとする必死な眼差しと、肌に触れた時に感じた生きる者の温かさ。
そして―――、
何より、水波に捕らわれていたまりあを軽々と引っ張り上げた頼もしい二の腕と、ぎゅっと抱きしめられた時に接した逞しい胸板。わき腹に押し当てられる隆起した腹筋凹凸具合。
皮膚の皮一枚下で脈動する、命を支える力強さを肌で感じた。
「……」
勘違いしていた。
灯夜に抱いたこの気持ちは甘酸っぱい恋慕などではない、紛れもない憧れだ。
あの日、あの時、灯夜の胸に抱かれて、まりあは思ったのだ。
こんな風になりたい、と。
暗闇の中、ぐっ、と握りしめた拳に炎のような熱い意志が宿る。




