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筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!  作者: ユエ
1話 まりあの恋慕
13/70

鏡の世界に住まう魔女

 

 

「もう来たのか。まずいな……」



 あらゆる感覚が掻き乱されていく中、足元から聞こえた焦り声は、今のまりあにとってある意味救いだった。


 かがみんも一緒にここに居る。


 まりあは噛り付く勢いでかがみんに迫り、問い詰める。 



「何? 何が起こったの? ここはどこ? 一体どうなっているの? 説明して!」

「すまない、まりあ。状況が一変した。迷っている時間はない、今すぐ魔法少女になって戦ってくれ。でないと、せっかく助かったその命を散らす結果になる」

「命を散らすって……。何よ、それ!」



 返ってきたのはまりあの求めた答えではなかったが、切羽詰まったかがみんの様子は事態の窮状を告げていた。


 突発的に放り込まれた窮地に置いて、困惑が極まる中にあっても敏感に、ただ研ぎ澄まされていく感覚がある。

 不安と恐怖だ。



「戦うって、一体何と?」



 怯えながらの問いかけ。


 その答えは、襲撃をもって示される。



「ぎゃっ」



 痛みを堪える呻き声が響くと同時に、小さな白い体が視界の外へ吹っ飛んだ。



「え? か、かがみん?」



 あまりの出来事に、まりあはまったく反応できない。


 意識の外から襲来した何者かがかがみんに襲い掛かったのだと理解するまで、数秒を要した。


 そして、正体不明の鉄槌は自らの身にも振り下ろされる。



「あ……」



 襲撃者を視界に捉えた時にはすでに、まりあは絶体絶命だった。


 人間ではない、人の形を真似る影がそのまま起き上がったかのような、判然としない黒一色の人形。


 振り上げられた右腕がぼこぼこと形を変じ、巨大なこん棒と成り変わる。


 呆然と固まってしまったまりあの眼前より、真っ黒な塊が襲い来る。



「まりあ、伏せて!」



 衝撃は後ろからだった。しかも随分と軽い。


 間一髪のところでかがみんがまりあに体当たりをし、まりあの頭を伏せさせたのだ。


 ワンテンポ遅れて唸るような風切り音が頭上を過ぎ去る。


 次の攻撃が来るより先に、かがみんが魔法の力を解き放った。



「〝消え去れ、影なるものよ〟!」

「ギイイっ!」



 白銀の体毛が波打ち、銀色の粒子が鱗粉のように広がって瞬く。


 至近距離からの浄化の光を全身に浴び、影は跡形もなく消し飛んだ。


 後には、異様な静けさが戻ってくる。



「なんなの、今の……」



 まりあは震える膝を屈して、その場にへたり込んだ。


 今しがた繰り広げられたのは、一体何だ?


 まりあは、目の前の現実に対して、まるで理解が追い付かない。


 脳内でざわつくものすべてを黙らせたい衝動に駆られ、泣き出してしまいそうになる。


 そこへ、かがみんから檄が飛んだ。



「しっかりして! 影を追い払う魔法はそう何回も使えない。立つんだ、まりあ。走って!」

「……っ! う、うん!」



 鼓膜を叩いた激声のおかげで、まりあはかろうじて気持ちを繋ぎ留めた。


 何度も頷きを返しながら、かがみんを追って走り出す。


 ここがどこなのか。

 何に巻き込まれてしまったのか。


 何も分からない今、ただ先を行く小さな背中を見失わないことだけを頭に置いた。



「で、でもどこへ行ったら?」

「どこでもいい、とにかくここから離れて身を隠すんだ! 今度囲まれたらどうにもならないよ!」

「さっきみたいのがまた来るってこと? 何なのあれ!」

「あれは魔力で生み出された魔女の使い魔。操り人形みたいなものだね」

「魔女? それに使い魔って?」



 いきなり何を言い出すんだ、とまりあは素っ頓狂な声を出した。


 まりあを魔法少女にして願いを叶えてくれるという話ではなかったのか。 



「それに、ここはどこ? 私のお部屋じゃない! いつの間にこんなところに来ちゃったの?」

「ここは鏡の世界。君の部屋にあった姿見の中に引きずり込まれたんだ、魔女の力でね」

「鏡の中って……、ここが?」

「正しくは、鏡の中に作られた魔女の領域。僕らはその内側に捕らわれた」

「でも、さっきかがみんはそこから出てきたんじゃ?」

「そう。さっきまでは魔女なんて影も形もなかった。きっと僕を追ってきたんだ」

「えっ?」



 地面から生えた結晶石の陰に滑り込み、追手がないことを確認。


 まりあは、呼吸を整える間も惜しんでかがみんに詰め寄り、先の話の続きを促した。



「追ってきたって、かがみんは魔女に狙われているの?」

「そうだよ」

「そうだよって……。そんな……」



 後ろめたさの欠片もない、まるで他人事のように平然と頷くかがみんに、まりあの方が言葉を無くした。

 

 

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