表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!  作者: ユエ
1話 まりあの恋慕
11/70

選ばれし少女

 

 

 かがみんは、八股に分かれた尻尾の先を動かし、空で自在に泳がせた。



「君には直接見せた方が手っ取り早いか」



 何もないはずの空間に描かれた軌跡に沿って、銀色の粒子が瞬き、煌々と銀の光を放つ。


 小さな種粒がパアッと広がり、彩り豊かな光の花を咲かせた。



「わあっ、きれい……」

「〝咲き誇る光の花〟。これも魔法の一種。さっき君が見た〝鏡に映した自身の姿〟も、魔法を使って僕が変身していたものなんだ」



 まりあは何となく合点がいった。



「それじゃあ、私がお姉ちゃんみたいになるには、その変身の魔法を使えるようになればいいの?」

「平たく言うのならそういうことだね。君の願う気持ちが本物なら、それが叶う形で魔法が発現するはずだ」

「そっか、なるほどねえ……。魔法を使って、お姉ちゃんみたいに……。ふうむ?」

「疑わしいかい?」

「そんなことはないけれど」



 目の前で不思議な力は見せてもらった。

 かがみんが魔法生物だというのならそうなのだろう。


 ただ、魔法がどういうものか、まりあはいまいち実体を掴めないでいた。


 杏奈のような豊満な体を欲するのなら、「望むままに変身すればいい」とかがみんは言うが、では具体的にどうすればいいのか。



「叫ぶの? 呪文を唱えるの? 錬成陣を描いて片足を差し出すとかは嫌なんだけど」

「そう難しく考える必要はないよ。君は既に一度魔法の力を体験している。その時の感覚を思い返せば、すぐに使えるようになるよ」

「魔法を、私が?」 



 いつ、どこで? と続ければ、かがみんは得意そうに顎先を上げる。



「何を言っているんだい? 君は魔法の力によって命を救われているじゃないか」

「命を救うって……?」



 身近で起きた出来事で心当たりのあるものは、一つしか思い浮かばない。


 夏休み初日の市民プールだ。



「その通り。あの時溺れた君を助けたのは僕さ」



 聞くなり、まりあはむっと唇を尖らせた。



「嘘だよ。あれはお兄ちゃんが助けてくれたのよ?」



 あの出来事は、まりあにとって特別な思い出だ。


 九死に一生を得たからではなく、憧れの灯夜に命を救われるという、奇跡のような偶然の巡り合せが心を躍らせる。


 灯夜との間に感じた運命を、よく分からない言い分で穢されたくはない。



「そんな顔しないでおくれ。怒らせたかったわけじゃない。ただ、知っておいて欲しかったんだ。あの時誰かが助けに来なかったとしても、君があのまま溺れ死ぬことはことはなかった。僕がついていたからね」

「……どうして私を助けようとしてくれたの?」

「決まっているじゃないか。君が助けを求めたからだよ」

「そういうんじゃなくて」



 まりあが聞きたいのはそんな建前ではなく、かがみんの本意であり、抱えている事情だ。



「理由もないのに人助けするのはありえないって? まりあ、君は年に似合わずシビアなことを言うね」

「そういうんじゃないんだけど」

「まあ、君の気持ちは分からないでもないよ。だから話そう」



 まりあの興味を誘いつつ、かがみんは語り出す。



「僕ら魔法生物はね、魔法を使って人の願いを叶えることこそが生きる目的なんだ。そういう風に宿命づけられている。だからいつも誰かの傍にいて、然るべき時に、然るべき力をもって手助けできるようにしているんだ」



 眉をハの字に下げて、まりあのご機嫌を伺いつつ、先の発言を一部訂正する。



「あの時、確かに僕は出遅れた。君の助けを求める声を聴いたけれど、君を助けたのは僕ではなく、君の想い人さ。なかなかやるね、あのイケメン」

「ふふん、お兄ちゃんだからね。さすが」

「悔しい思いをした僕は、あれからずっと君の傍にいて、どうにか君の助けになれないかと機会を伺っていたんだ」

「なんか、ストーカーみたくなっているんですけど……」



 まりあは、本当に大丈夫なのかと呆れる一方、



「それならもっと早く出てきてくれても良かったのに」



 と不満を零す。



「退屈してたの知っているでしょう? こんな面白そうなことがあるんだったら、すぐにでも出てきてよ。もっと早く魔法使ってみたかったのに」

「いや、最近の君は実に良くなかった。退屈というのはね、ある意味満たされているんだ。渇望のないところに願いは生まれない。願いのない者に魔法は発現しない」

「そうなの?」

「魔法は不条理を覆す奇跡の力だ。誰も彼もが身につけられるわけじゃない。どういうことか分かるかい、まりあ。君は選ばれたんだ」

「選ばれた……」



 その言葉を、口の中で反芻する。


 不思議な響きだった。

 喜ばしいはずなのに、何故か尻込みしてしまうような……。


 まりあはほんの一瞬だけ、妄想に浸る。

 特別な使命を背負う漫画の主人公になれた気がした。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読了、ありがとうございました。
感想・評価いただけると嬉しいです! 最新話下部にあります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ