魔法、少女……?
「何それ、変な名前……。今つけたでしょう?」
「僕ら魔法生物はみんながみんな、生まれつき固有の名を持って生きるわけじゃないんだ。必要に応じて適当に名乗っているだけ」
「ふうん?」
「だから好きに呼べばいい。綿あめでも白饅頭でも、何でも構わないよ」
冗談か、それとも自虐か。
何となく理解したつもりで、まりあは小首を傾げつつ、よく分からないことについてはひとまず後に回した。
かがみんがひと心地ついた頃合いを見計らって、床に降ろしていた腰を上げ、ぐっと身を乗り出す。
「で? で? あなた、さっきなんて言ったけ。私のお願いを叶えてくれるー、とかなんとか」
「そうだよ」
至極明快な肯定。
まりあは、見開いた瞳にお星さまを輝かせた。
「うわあー、本当に? 本当に、私お兄ちゃんを悩殺できるくらいナイスバディになれる?」
「なれるよ」
「やったー!」
両手を天に、嬉々としたはしゃぎ声を上げ、一通り喜びを爆発させる。
素早くかがみんを掴み上げ、間近に迫って、目を爛々と輝かせる。
「どうやって? どうやればいい? 何をすればいいのか教えて!」
「まずは落ち着こうか。君は大らかな上に喰いつきがいいね。まあ、嫌いじゃないよ」
柔らかい肉球で額を小突かれ、まりあはようやく振り回していたかがみんを床に降ろしてやった。
かがみんは「やれやれだ」と肩をすくめて、乱れた体毛を簡単に毛づくろい。
ブルブルと頭を振って意識を切り替え、声色を改めて本題を切り出す。
「さて。待ちきれない様子だし、さっさと君の疑問に答えるとしようか、まりあ」
そう前置きするかがみんの前で、まりあは居住まいを正して拝聴の姿勢。
ただし、顔は盛大ににやけている。
「どうやって君の願望を叶えるのか。答えは魔法の力を使うのさ」
「魔法?」
まりあは、途端に眉根を潜めた。
「魔法って、あれでしょう? アニメとかで女の子が空飛んだり、ビーム打って町ひとつ壊滅させるやつ」
「その二つはだいぶジャンルが異なるけれど、まあそういう認識で良いんじゃないかな」
かがみんは、こほんと咳払い。
話を戻す。
「僕の持っている魔法の力を君に授けよう。君も、そのアニメの中の女の子と同じように魔法少女になるんだよ」
「魔法、少女……? どうやって? あれって全部作り物でしょう?」
「逆さ。太古の昔から当たり前のように存在している力を、君たち人間は作り物として認識しているだけ」
「……よく分かんないけど。そうなんだ」
「君は大らかというより大雑把なんだね。まあ、悪いことじゃないよ」
まりあの無関心は軽く受け流して、かがみんは改めてまりあの心に問いかける。
「まりあ、僕と契約して魔法少女になってみないかい?」
蒼色の瞳が、まりあの思考を絡め取るように一瞬だけ煌めく。
「もちろん強制しているわけじゃあない。けれど、まりあ。話くらい聞いてみても―――」
「なります! ください魔法の力。ぜひ! 今すぐに、さあっ!」
「……ひとまず落ち着いてもらってもいいかな」
再び振り回され始めたかがみんは、早くも慣れた様子でまりあを窘めた。
無事に床に降ろしてもらい、少々不思議そうな面持ちでこちらを見上げる。
「随分と前のめりだけど、少しは困惑したりしないのかい?」
「んー? だって細かいこと聞いたってよく分かんないだろうし。お願い叶えてくれるのならそれでいいかなって」
「素敵な考え方だね。だけど、最後まで聞いてもらってもいいかな」
「まだ何かあるの?」
「何もかもが説明不足だよ」
言って、かがみんは説明を始めた。




