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医者にかかるのも楽じゃない

作者: 小睦 博

 くっそ暑い8月の中旬、入院して手術を受けた。病名はS状結腸憩室炎。大腸壁と膀胱の間に膿が溜まっていて、これが腹の中にぶちまけられると腹膜炎になってしまうのだけど、筆者の身体はなかなか小賢しい奴だったらしい。肥大化した大腸壁が周囲の器官と癒着することで膿を漏らさないよう袋を作っていたのである。ただ、肥大化しすぎたことにより腸が閉塞してしまったそうな。


 手術は問題なく終わったようで、おへその辺りから下に向けて15センチくらい腹を切り裂かれていた。まあ、それはどうでもよく、この投稿ではそもそも入院して手術を受けることになるまでの経過をご説明したい。


 最初にはっきりとした症状が現れたのは7月23日の早朝。下腹部、膀胱の辺りを襲う痛みにさいなまれ、救急車を呼んで近くにある病院SMCへ運んでもらった。外来で診察を受けるには原則として医師からの紹介状を要求される、かなり大きな病院である。CTやMRIといった検査装置も充実しているのだけれど、この日急患で運ばれた筆者に行われたのは採血、採尿、腹部レントゲンのみ。尿路結石の疑いありと診断され、鎮痛剤を処方された。

 ちなみに、この日の診療費は8,660円。


 痛みは一旦治まったものの2週間ほどで再発したので、8月7日に近隣の泌尿器科クリニックを受診する。ここで行われた検査は採血、採尿、腹部レントゲンに超音波検査。5ミリほどの大きさの尿路結石があると診断され、ウロカルンなる錠剤を処方された。結石が自然に排出されやすくなる薬らしい。また、痛みの再発と併せてお通じがなくなったので、8月9日に近くにある内科クリニックも受診。採血と腹部レントゲンの結果、腸閉塞はしていないと酸化マグネシウム剤を処方される。


 そして、8月の13日。再び内科クリニックを受診したところで腸が閉塞してますと診断され、大病院SSBに移送された。SSBは医師からの紹介状と事前予約がなければ診察すらしてくれない病院なのだけれど、そこはクリニックの先生がねじ込んでくれたようだ。SSBで採血、腹部レントゲン、造影剤を用いたCT検査を受けて診断された結果が冒頭の内容である。その場で入院が決まり、翌日に手術となった。なお、尿路結石は影も形もなかったそうな。


 完全にミスリードしておきながら八千円も請求してくれたSMCには文句のひとつも言ってやりたいものの、それはひとまず置いておく。今回のことで筆者が最も不便だと感じたのは、検査装置の整った大病院で詳細な検査を受ける前に小さなクリニックを受診しなければならない紹介状というシステムである。いつから病院は一見さんお断りになったのだろうと検索してみたところ、政府広報のページがヒットした。どうやら国の政策の一環であったらしい。


 そのページには医療機関の機能分化とか地域の診療所との連携などと書かれていたものの、これは患者にとって何ひとつメリットのない制度ではあるまいか?


 最初に地域の診療所を受診させることで大病院は待ち時間が長いという不満が解消されることに期待しているようだけれど、筆者の立場からすれば待たされるくらいはなんでもない。CTなどの検査装置を有していない診療所におもむいて的外れな治療を一週間も受けさせられるくらいなら、長い待ち時間のほうが百倍マシである。


 大病院に勤務する医師の負担軽減というのは理解できなくもないものの、結局のところ勤務医の人手不足に起因する問題のように思えた。供給が追いつかないので需要を減らすというのもひとつの手法かもしれないけれど、医療サービスに関してはまた別の解決法を考えてくれと言いたい。勤務医を増やすというのはそれほど難しいことなのだろうか。医師は決して不人気職業ではなかったはずだ。


 また、筆者のたどり着いた政府広報のページでは、まず近くのかかりつけ医に相談せいとしながらも緊急性の高い場合はこの限りでないとし、軽度の症状で夜間休日に診察を受けることを「コンビニ外来受診」と称して、まるでそれが悪いことのように記載していた。筆者は素人判断こそ慎むべきだと思うのだけど、緊急性の有無を患者自身が正確に判断できるとこの国の政府は考えているらしい。


 救急車を呼ぶ前に電話で相談しましょうと相談窓口を設けているらしく、使わなかったけれど筆者の居住している県にもあったようだ。台数の限られている救急車は本当に必要な人のために空けておきたいという考えは理解できるものの、電話相談窓口という手法には疑わしさを感じる。筆者の感じた自覚症状は腹痛と便秘で、レントゲンでも判明しない病根に電話相談員が思い至るとは信じがたい。それよりも救急車で病院に搬送してもらったほうが確実と多くの人は考えるのではあるまいか。

 なにしろ、救急車で運び込まれる分には紹介状がなくても大病院で診察してもらえるのだから…


 救急車がタクシー代わりに使われているという問題があることは筆者もテレビで見たことがあった。おそらくは、その事への対策なのだろう。一部に倫理観の低い患者がいることも事実で、実際に緊急病棟で同室になったジジイはしょうもない奴だった。だけど、救急車で運んでもらわなければ紹介状を書いてもらうまで無駄足を運ばされるのだ。紹介制度が安易な救急車の利用を助長している一面があるのではと今回のことで感じた。


 政府は診療所から紹介のあった患者だけが大病院で診察を受けるという流れを作りたいようだけれど、筆者はその逆。最初にきちんと検査してから、高度な治療の必要がない患者を小さな診療所に振り分けるような流れにしてくれないものかと思わずにはいられない。そうでなければ、働き盛りで普段通院なんてしない人ほど、紹介状を得るために仕事を休まなければいけなくなってしまう。クリニックの先生をやぶ医者呼ばわりするつもりはないものの、CT検査装置のない診療所を受診していた時間がまったくの無駄だったことは事実だ。


 社会保障費が膨れ上がるなか、人口の多い世代にあわせて病院や医師を増やしてはいずれ過剰になるから今の数でやり過ごしたいのかもしれないけど、どうか入り口で絞るような制度ではなく、異常を感じたらすぐに検査してもらえるような制度を考えていただきたいものである。


 そして、ここまで目を通していただいた皆様には、どうか筆者のように入院などされぬようご自愛いただきたい。入院生活というものはとにかく最低な環境なのだ。特筆すべきは病院食。その味を一言で言い表すなら「罰ゲーム」が相応しい。

 入院するなら覚悟しておいたほうがいいだろう。

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