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56話 新たな扉を蹴破った日(セリッサ視点)

 レーディマレス聖皇国。

 それが聖職者であるセリッサが所属する国の名前である。


 国と個人的な感情のため、セリッサはある青年に近づこうと彼の所属するパーティーに半ば無理やり所属した。

 だが、思いがけず当の青年を置き去りにダンジョンへ行くことになってしまう。これは残って彼に接触する好機だとダンジョンへ行くことを渋ったセリッサだったが、それはパーティー内でまとめ役をするアルディラ・カルアーレに阻止される。

 抵抗むなしく襟首を掴まれて、ズルズル宿から出されたところでさしものセリッサも諦めた。




 パーティーに所属し四日目にもなるが、せっかく近くに居るのにろくに接触できずセリッサはいい加減じれている。


 青年、エルフリードは請け負っている仕事がどうやら大事なものであるらしく、ここ数日部屋にこもったままろくに寝ないで仕事をしているようだ。無理に部屋に押しかけては逆に印象を悪くすると我慢していたセリッサだったのだが、食事などの短い時間での接触も自分を警戒しているらしいアルディラにさりげなく阻まれ思うようにいかない。

 その中での迷宮へ赴く依頼であったため「好機!」と勇んだセリッサだったのだが、目的の人物とは引き離されてしまうありさまである。実に不本意極まりない。


 意外と律儀なセリッサはダンジョンへ入ったからにはと役割をこなすが、自分の活躍を彼の青年に見てもらえないことが残念でならない。きっと見てさえいれば、今頃自分の星の精霊術の美しさに魅せられていただろうにとセリッサは考える。








 しかし妄想する一方で、ダンジョンを進む道中。彼女はエルフリードの仲間たちの強さに舌を巻いていた。



 飛びぬけているのはラングエルドの英雄、カルナック・フレンディオ。セリッサもまさかこんなところで英雄の誉れ高き有名人に遭遇するとは思っていなかった。

 観察してみれば、ポプラという青年の知り合いのようだ。アルディラに対しては自分に接するのと同じく、少し遠慮というか距離を感じる。


 カルナックは強力な雷の精霊術を狭い迷宮内で、味方に被害を出すことなく使いこなした。

 威力もさることながら、その精密さは魔法の練度の高さを示している。洞察力にも優れており、セリッサが敵の周りに結界を作った時もすぐに抜け穴を見抜いて、そこから魔法を叩きこんでいた。剣の腕も冴えわたり、強力な前衛を務め後方に魔物を寄せ付けない。


 次いでアルディラ・カルアーレも前衛では負けてはいない。細腕に似合わぬ大きな斧を軽々と使いこなし、冷静に状況を見極め場合によって適切な指示を飛ばし、連携の要の役割を果たしている。使う魔法は意外にも精霊術の下位に位置する妖精術だが、武器のスキルと組み合わせることで強力な攻撃を繰り出していた。


 そしてポプラという冒険者は、攻撃こそ二人に劣るものの補助能力として闇の精霊術を上手く使いこなしている。

 今回は新種の魔物の捕獲を目的としているため、その力を遺憾なく発揮しているようだ。派手さには欠けるが、実に安定感があり術の行使は見ていて危なげがない。惜しむべきは魔法を使う際|現代魔法言語≪カレントスペル≫を使用しているところだろうか。これで|古代魔法言語≪エンシェントスペル≫を習得すれば、より強力な魔法の使い手になれるだろう。



 総じて見るに、セリッサは自分の活躍を浮き彫りにしてアピールするには周りの面子が濃すぎると感じた。しかし個人の実力を分析しつつも、セリッサとて負けてはいない。

 星光の精霊リシクの加護を得ているセリッサは、白霊術に加えて精霊術でも多くの魔法を修めている。中でも防御や|反射≪リフレクト≫を得意とするため、自ら攻撃するのは不得意だが相手の力を利用するのはお手の物。こうして頼もしい前衛や中衛がいればなおの事彼女の技は生かされる。


(ま、しかたがありませんわ。今はちょちょっと頑張って、あとでエルフリード様に褒めてもらいましょう)


 セリッサはせいぜい後で「セリッサすごかった!」という報告をエルフリードにしてもらおうと、彼の仲間の補助のため腕をふるうのだった。










 そしてダンジョンからの帰り道。思いがけずセリッサの正体を見破られることとなる。その流れで自らの目的を話すことになってしまったが、結果的には良い方向へと転がった。


 頭の固い女だと思っていたアルディラは、真剣に話せば話の通じる相手だった。その点で言うとのらくらした態度をとり続けた自分の態度は反省点である。見極めが甘かったと言わざるを得ない。

 しかし自身を含めて女とは下らぬ嫉妬や偏見でこりかたまると、固定概念に囚われ感情に振り回される生き物だと思っていた。そんなセリッサにとって、アルディラの反応は新鮮だった。見たところエルフリードに好意を寄せていると思ったのだが、それだけで視界が曇るほど愚かな女ではないようだ。

 その反面真剣さなど演技でいくらでも演出できるというのに甘いとも思ったが、それもすぐに考えを改める。アルディラがこちらの意をくんだのは、彼女の中で培われた経験から判断したことだと気づいたからだ。


 セリッサはしばし極端な態度をとることで相手を謀ったり試したりするが、方向性は違うがそれはアルディラも同じこと。彼女の場合は会話や表情の端々から真意のかけらを拾い集め、知識と経験によって形にする。それは至極洗礼された処世術だ。

 短い会話の中、彼女は感情に左右されつつも瞳の奥ではセリッサの表情を冷静に見つめていた。それがセリッサの本心と合致した言葉だと確信しからこそ、エルフリードに事情を話せばよいと承知したのだろう。





 魔纏刺繍の職人は貴重である。


 彼を守る立場だろうA級冒険者のアルディラとしては、聖職者の衣服を纏っているからといって、身元の知れない女を簡単に信用できなかっただろうことはセリッサにも理解できる。そこを己の経験を信じたとはいえ、職人が別の国へ行く可能性を許したところに寛容さも感じられた。


(まあ、彼女の所有物というわけではないのですが)


 ともあれ、セリッサの中でアルディラの評価は上がっていた。


 どうやらあの魔刺繍職人の青年は、よい仲間に恵まれているようだ。どうせなら仲間ごとレーディマレス聖皇国に取り込みたいくらいである。




 セリッサは網にエルフリード一行をまとめ上げ、大漁旗を掲げた自分を夢想して口元を緩めた。

 それを見てしまったポプラが一歩引いたのは余談である。











 ダンジョンから帰還し、その翌日。セリッサは素直にエルフリードへ自身が目的とすることを伝えた。


「えーと、要するにフェルメシアでなくて、レーディマレスの魔道具ギルドに所属してほしいっていうのがセリッサのお願い?」

「はい。少しでも好意的に来ていただきたくて、はしたない真似をしたことに関してはお詫びいたしますわ。そこを恥じて、押してお願い申し上げたいのです。我が国では一年後に大事な祭儀が迫っているのですが、その儀式用のタペストリーが職人不足のためこのままだと完成いたしません。魔道具ギルドに所属していただければそれに越したことは無いのですが、もし無理でしたらタペストリー制作のお手伝いだけでもしていただきたいのですわ。もちろん報酬は弾みます」


 駄目押しでこじ付けに近い理由も付け加えたのはご愛嬌だと内心舌を出すセリッサ。彼女の言うタペストリーの話は嘘ではないが、現状でもぎりぎり間に合わないことはない。大事な儀式用の品物が祭儀に間に合わないなど、聖皇国の名折れ甚だしい。


 しかしそんなことをしらないエルフリードは思案顔で問い返す。


「それはフェルメシアの魔道具ギルドに所属すると駄目なの?」

「駄目、ということはございませんが、面倒事が増えてしまいます。現在どこでも魔刺繍職人は不足しておりますから、何かしら仕事は依頼されるでしょう。その中で職人を借りたいとなれば、レーディマレスはフェルメシアの魔道具ギルドに職人を派遣する依頼をせねばなりません。そうなれば手数料がかかりますし、職人の貴方様としてもギルドに上前はねられるわけですから、直接依頼を受けるより報酬が減ってしまいますわ」

「け、けっこうあけすけに言うね」

「ごまかしても仕方がありませんから。どうやらエルフリード様は素敵な女性に囲まれているせいか、色仕掛けでは動きそうにありませんもの。ならば金をちらつかせるまでです」

「そこまで言われるといっそ清々しいよ……」

「ふふっ、先日アルディラさんにも同じことを言われましたわ」

「……あんまりアルディラさん疲れさせないでね。あの人真面目なんだから」


 そう呆れながらも、エルフリードはセリッサの話を聞いても不快感は表わさなかった。それどころか愉快そうに笑っている。


(殿方なのに、なんだかこの方可愛いですわね……。先日の嗜虐的な表情もよいですがこちらもなかなか……)


 その笑顔に少し心臓がはねたのは気のせいだろうか。

 彼に対しては周りに公言しているように好感をもってはいるが、まさか本気で好きになってしまったのかと少々とまどう。セリッサにとっては異性とは己の掌で踊らせるものであるはずだったのだから。……しかし、逆も存外悪くないと思う自分も居る。


(これが恋かしら)


 以前色仕掛けをしたときは手痛い言葉をもらってしまったが、もし本気の愛情で攻めた場合。この青年は、いったいどんな反応を返してくれるのか見てみたい気もする。



 ともあれ、エルフリードは素直に話す相手には寛容さを見せてくれるようだ。


 ひとまず話を預からせてほしい、というのがエルフリードの回答だったが、セリッサとしてみれば可能性が零から動いただけ僥倖である。初手で相手の本質を見誤っての行動には自分もまだまだ人を見る目が無いと反省したが、結果が良ければいいのですわ! と拳を握るセリッサは案外大雑把だった。


 そうして嬉しく思いながらも、少し物足りなさを感じるのはなぜだろうとセリッサは内心疑問符を飛ばす。そして再び数日前に軽蔑した視線を向けられたときのことを思い出し、ピンときた。


「あの、エルフリード様?」

「ん? どうしたの?」


 柔らかい表情も、嫌いではない。しかしセリッサが求めるものは少し違う。


「わたくし、どうしても元の性格のせいでご不快に感じさせてしまう事があると思いますの。そんな時は、遠慮なさらず叱ってくださいませね! この間みたいに!」

「え、あ、うん? わ、わかった」


 言葉の意図をくみ取り損ねたのか、エルフリードは締まらない返事をする。しかしセリッサにとってそれでも満足だった。





__________もっと厳しいエルフリード様も、見てみたいですわー!






 あの叱られた時の、軽蔑した視線を投げかけられた時のゾクゾクした感覚をもう一度!!







 それが、彼女が新しい扉をけ破った瞬間だった。











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