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44話 盗賊が強姦魔


 素肌に触れるざらりとした固い感触に不快感を覚えて、私は沈んでいた意識を浮上させた。

 体は怠く、頭が痛い。私、生理痛で宿に帰ってから寝たんだっけ?


 眠る前の記憶が混濁していて判然としない。しかし寝ているにしてはどうにも居心地が悪く、私はもぞもぞと身じろぎした。しかし動こうにも何かに押さえつけられているようで、腕も脚も思うように動かせない。腕に至ってはベットに横たわるどころか上に吊られているようで、しかも手首がやたらと痛い。何かに締め付けられているようだ。


(え、私今どんな体勢してる……?)


 自分がどのように芸術的な寝相になっているのかと、妙に思いながらも呑気に目を開けた私。


 そして視界に飛び込んできた馬鹿みたいに派手な赤と、猛禽類と思わせる鋭い目と凶悪そうな顔に悲鳴を上げた。


「ぎゃあああああああああああああああああッ!?」

「色気の無ェ悲鳴だなぁ、おい」


 余計なお世話な台詞を言う男の息が直に顔にかかり、どれだけそいつが近くに居るのか知れる。


 当然距離をとるなり男を押しのけようとした私だったのだけど、しかし体が動かせない。頭も後ろの壁に押さえつけられているのかうまく動かせず、それでもなんとか顔と眼球を上下に動かして現状を把握しようと試みる。すると腕は二本とも男に片手でまとめ上げられて、脚はこれまた男の足に絡めとられていて動かせないことが分かった。


 どうやら私は目の前の人相の悪い男によって、体全体を拘束されているらしい。




 これってどういう状況!?




 漫画とかならちょっとイヤンでドキドキするシチュエーションかもだけど、実際に己の身にふりかかると恐怖以外のなにものでもないわ! しかも壁ドン(?)してんのは見知らぬ男とか、これって紛うこと無き痴漢現場!! いやむしろ強姦寸前!? マジか! 人生初の色気あるイベントだけどまったく嬉しくねぇ!!


「だ、だだ、だだだだだだ誰!? ちょ、放せお前!」

「おいおい、つれねぇなー。おじさんのこと忘れたか?」


 おじさんと言うには若く見える男は、そう言いながら片手で私の顎を掴んで無理やり上向かせた。

 やべぇ、腕を押さえてる手といい、こいつ握力パない。まったく動かないとか、大型の魔物をも殴り飛ばす私の腕力は何処へ。



「ん~、まあ成長すれば多少崩れるのは仕方がないが、思ってたより地味な顔だな」

「あ゛?」


 身動き出来ない状況も忘れて、私は男を睨みつける。

 おう、ケンカ売ってんのか。よし今すぐ放せその喧嘩言い値で買ってやる。


 この状況に加えていきなりの地味発言に大いに憤慨した私は、押さえつけてくる手に全力で抵抗した。するとわずかに拘束する手と脚が動いたけど、男が力を入れなおすとすぐ元に戻ってしまう。


「おお、やっぱツエーな。でもちょいと大人しくしとけ」

「ッ!」


 ますます嬉しそうな男は、何を思ったか私の喉元に噛みついた。

 ぎりっと歯が皮膚に食い込む触感と、男の熱い息が生々しい。急所を噛まれた恐怖とそれとは別に肌の泡立つ感覚がした。その気持ち悪さに、抵抗していた体から一気に力が抜けてしまう。


「そうそう、そのまま大人しくしてろ。話も出来やしねぇ」

「き、気持ち悪……ッ! 地味な顔って言うなら他行け、他! 繁華街があるでしょ! 女目当てならそっち行け!」

「そうかそうか、気持ち悪いかー」


 反抗的な態度にも怒るどころか更に楽しげな男が、何を考えているのか理解できない。

 ルチルの時といい、恋愛的な出会いらしい出会いが全くないのに性的に急所ばかり狙われるとか泣いていいだろうか。


 せめてもの抵抗にと、私は自分を奮い立たせて、何とか顎を掴む手だけ顔を横に動かして振り払った。が、すると先ほどは足元しか目に入らなかった視線が何やら肌色を捕える。


「おう!?」


 なんてこった!!

 幸い全部脱がされてはいないものの、服の前面のボタンが全部はずされている!! しかも服と下着がずらされて、肩がむき出しになっているじゃないか!! 胸は辛うじてポロリしていないからセーフだけど、私のささやかな谷間が顔をのぞかせているのでギリギリだ。


 マジで強姦寸前だった件。マジか、おいマジか。


 何で前世といい現在といい、本命の恋が見つからないのにセクハラ上司や強姦魔みたいな変態だけを引き寄せるんだ。私は真面目に泣いていい。


「はーなーせぇぇッ! この変態ィィーー!!」

「なんだよ、ちょっとばかし体の成長はどうか確認しただけだろ? 初心だな。その様子だとまだ処女か?」

「死ね」

「おお、懐かしいなその台詞。前も言い捨てて逃げてくれたよなぁ」


 男の台詞に、先ほどからやたらとこの男が過去に私と会ったかのような発言を繰り返す事に気が付く。私は焦る心を落ち着かせ、改めて目の前の強姦魔の全体図を把握しようと観察した。



 無駄にデカくて逞しい巨躯。かなりの身長を有しているようで、近すぎてハッキリとわからないけど目測で二メートル弱ありそう。服の上から見ただけでも鍛えられていると分かる筋肉は鋼のようで、ガチムチとはこういう人間に相応しい表現に思える。つーかむき出しになってる上腕二頭筋とかヤばい。絡められてる足もガッチガチに固いんだけどこれ本当に人間の皮膚なん?


 まずその体の大きさに威圧されるうえに、パーツは整っているのに凶悪な表情で台無しな悪人面。

 ぎらぎらした輝きを宿す緋色の瞳が印象的で、髪の毛は馬鹿みたいな原色赤の、ドレッドヘアー。



 ドレッドヘアー。


 赤髪ドレッド。



「…………。あ、」

「お。思い出したか?」


 つい最近ルチルとの再会した時のように、記憶が遡って十二年前に舞い戻る。


 そして目の前の男の正体に気が付いた私は、目をかっぴらいて腹の底から叫ぶ。先ほどとは比べ物にならない悲鳴が、建物に囲まれた薄暗い路地に響き渡った。


「にぎゃああああああああああ!!!!!?」


 こいつ十二年前に会った盗賊だぁぁぁ! 私のトラウマベスト三にランクインする奴じゃねぇか!!!!


「お、いい悲鳴だな。でも色気が無ェと男できないぜ~? 今のは笑えるが、それじゃそそられねぇよ」

「余計なお世話だこの野郎! それより、何? 今更私のこと捕まえてどうしようってーの! 十二年も恨んでたとか言うならずいぶんとケツの穴の小さい男だな!」


 噛みついては見るものの、私もう涙目だろうから迫力無い。

 十二年前だって四日も森の中でしつこく追いかけまわされて、しかも殺す気かって勢いで強力な攻撃魔法でいとけない六歳の幼女を攻撃してきた奴だ。


 捕まえようとしてんのか殺そうとしてんのか分からないし、怖いし休む暇ないし、攻撃しようとするとその隙に捕まえようとしてくるし、するとやっぱり逃げるしかないし、お腹すいてもトイレ行きたくても気を抜けないし、魔物はいるし背後からは魔物よりももっと怖いのが迫ってるし、怖いし寝れないし奴ら不眠で追いかけて来るし、しかも超楽しそうだし笑顔だし元気だし体力底なしだし罠仕掛けても余計に喜んで追いかけて来るし、怖いし。


 何が言いたいかって怖いってことだよ。



 それにしても十二年も経ってるのによく私だと気づけたな。子供が成長する十二年って、かなり大きいのに。二次性徴だってあるし。私の顔がこのあたりじゃ見かけないアジア系ってのもあるだろうけど、それにしたって!

 王都で偶然出くわすことといい、気づかれることといい、私運が無さ過ぎてどうすればいいんだ。

 旅立った初っ端から魔人なんかに遭遇するレベルだし、私これでダンジョンとか潜ったらソッコー死ぬんじゃなかろうか。ラック値って大事。




 私がぐるぐると脳内で目まぐるしく過去と現在を捏ねくりまわして混乱していると、男は愉快そうに笑って答える。


「ああ、目的か? 十二年前も言ったが、お前強いし色々できるし面白れェから欲しくてな」

「他を当たれ他を」

「他って、居るかよ。俺の攻撃に耐えられる女ってだけで貴重だってのに」


 そういえばコイツ出会いがしらに腹を思いっきり殴ってくれたな。耐えたって、すっごく痛かったんだけど。今も痛いし、痛み止めがきれてきたのか生理痛まで加わって最悪なんだけど。

 脂汗が滲んでだんだんと顔色が悪くなっているのが自分でも感覚的に分かる。ますます逃げ出す余地が無くなって来て、それでもなんとか隙を見つけようと会話を続けた。


「それなら、なんで、こんなところで服脱がせてるの」


 攫うなら攫うで目覚めたら見知らぬ一室とかにしてくれよ。こんながっつりホールドされてなかったら目覚めた時点で今頃逃げてたっつーの。壁でもなんでも破壊して。鎖とかで拘束されててもそれくらい引き千切れたわ。少なくともこの男に直接拘束されてる今よりは逃げられる可能性有った。


 しかしそんな悠長な文句を考える私をあざ笑うかのように、男は何でもないかのように言った。


「いや、女だしいっそ食っちまうかと思って。あれだ、俺無しではいられない体的な感じになれば従順になるだろ」

「ぎャぁぁああああああああ!! 変態ぃぃぃぃ!!」


 それなんてエロゲ的思考!?

 あんまりにもあんまりな返答に、私は腹の底から絶叫した。思わず前世の母を思い出し助けを求めた後、次いでこの世界での保護者だったサクセリオが浮かぶが、「急所握りつぶして目玉抉りましょう」と記憶の中の彼はいい笑顔でのたまうだけだった。うっせーそれが出来たらとっくにやってんよッ!! 記憶の中でくらいもっと適切なアドバイスをしろよ!


「宿に連れ込むのもいいんだけどよ、担いでたらお前の体柔らかいし良い臭いするし我慢出来なくてなー。はっはっはっ。俺もいい年して盛った若いのみてェにこらえ性が無いな。最近年増ばっか相手にしてたから若い娘は久しぶりだしよー。それにこういう場所でってのも燃えるだろ?」


 やめろそれ以上要らん情報をよこすな。

 やめろ太ももをまさぐるな尻を掴むな。


「そういや、名前はエルだったか? 俺はアグレスだ。我慢できなけりゃあ呼んでもいいぞ。よがりながらな」

「我慢とかよがるって何!? あと何で名前知ってんの!?」

「まあ、そう急くなよ。今からじっくり教えてやるから。……生娘は久しぶりだな」

「教えなくていいですけど!?」


 やばいやばいやばい。マジでこのまま18禁展開とかなったらどうすんの。


 やめろカス! 胸を揉むな服を剥くな! この体はいずれ出会う未来の旦那様にとっといてんだよ! 清くいさせろよ!!


 私の願いも虚しく、ごつごつした掌がスカートをたくし上げて太ももを這い、素肌の除く胸に男が顔をうずめると鎖骨のあたりにちくりとした痛みが走る。最悪だ吸われた。人生初のキスマークが強姦でとか最悪だ。もうホントなんなの今日は厄日か。


 生理痛、殴られた痛み、加えてじわじわと玄人の手つきで煽られてその感覚に立っていることも辛くなってきた。しかし男が腕を頭上でまとめあげて押さえつけているので、膝をつくことも出来ない。更にぐいっと逞しい筋肉で形成された太い脚が私の足の間に挿しこまれて、逃げることなど現段階ではまるで不可能に思えた。

 先ほどから跳躍(スキップ)で逃げようと魔力を練り上げようともしているのだけど、何かに妨害されているかのように上手くいかない。

 感覚を尖らせて探ってみると、この赤髪ドレッドから何か魔法を妨害する類の力が発されているようだ。十二年前逃亡に使用できそうな魔法を全部見られているから、相手もそれに対抗策を用意したとでもいうのか。大雑把そうな見た目に反してずいぶんと用意周到じゃないか死ね。



 なんで今日生理が来たんだろうとか、なんで女の子の格好して外出たんだろうとか、寄り道しないでもっと早く宿に帰っていればよかったとか。

 とめどない後悔が頭の中で渦巻き、もうあとは過ぎるのを待つしかないのかと目を瞑って諦めかけた、その時。




「何をしている!」




 どうやら運命の神様とやらは小粋な事をするようで。


 薄暗い路地の中、その青年は飴色の髪と白い服を(ひるがえ)して颯爽と現れたのだ。諦めかけていた私には後光を背負っているように思えましたとも。


 山吹色の瞳に悪へ対する怒りと正義感を宿して登場したのは、王子様然とした爽やかイケメンだった。













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