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39話 王都での過ごし方

 魔人討伐の報告で訪れた先で出会った王女様が昔の知り合いというミラクル。

 普通にビビるけど、再会自体は嬉しいなって。



 まさかの十二年越しの再会を果たした私は、浮かれたあまりに王女様相手に大変失礼な態度をとってしまった。途中ではっと我に返って青褪めた私は慌てて謝り倒したんだけど、そしたら物凄く不機嫌そうな顔で怒られた。

そんなわけで非公式の場ではあのまま話してよいと言われ、私は王女様の昔なじみの友人という恐れ多くも名誉なポジションに落ち着く事となる。


 よく考えなくても凄すぎて、でもルチルがルーちゃんだと思うとやっぱり嬉しくて複雑な心境な私。アルディラさんたちにどう話そう……。


 そういえば魔纏刺繍でいらんものまで再現していたせいで、咄嗟にルチルにまで自分が男だと通してしまった。

 嘘をつきたくないけれど、まさか幻とはいえあんなモノまで再現して男装しているのが「男装して婚活☆」なんて理由だとはとても言えない。

 冷静に考えてもどこまでも阿呆臭い理由とそれにかけた技術を駆使した情熱は、あまりにもとてつもなく壮大に死ぬほど恥ずかし過ぎて、私はルチルに真実を告げることが出来なかった。そんな度胸なんて無い……!


 だって過去純粋に私を慕ってくれたルーちゃんに、あんな格好よく成長するまでにはきっと苦労もしただろうルーちゃんに、言えるはずがない。言えたら私は自分に勇者の称号を贈る。でも言えなかった私はやっぱり凡庸で小心者な庶民なんだしかたがない。しかたがないったらしかたがない。ドン引きされるだけならまだいいけど、気持ち悪いとか言われたらちょっと立ち直れそうにない。折角再会を喜んでくれた相手に軽蔑の目で見られたくないよ……!


 でも一度女の子の姿で会っているんだし、ずっと騙すのは気が引ける。これはアルディラさん達に対しても言える事だけど。

 もうこれはルチルが自分を謀った罪とかで処罰をしないと信じて、タイミングを見計らって後で言うしかないか……。



 憧れていたシチュエーションにたどり着けないばかりか、何やってるんだろう私。何で男装とか言いはじめちゃったんだ。今思えば、神父様やキーロの視線の意味も分かるってもんだ。カトレアお師匠様だって私が旅立つ理由を聞いた時、あのいつもの笑顔のまま沈黙してから五分くらい経ってから「がんばってね」と一言言ってくれたんだ。おい、自分。あの沈黙の意味を考えてみろよ……!


 何か、無性にルーカスのみんなに会いたくなってきた。

 私、ホームシック早い。









 また訪ねてきても良いというルチルは、城の預かりになるエキナセナにもいつでも会えるように手配してくれた。この気遣いは正直嬉しい。きっとエキナセナも慣れない場所で不安だろうし、今から何を差し入れようかと考えておこう。



 それとルチルは魔刺繍職人である私にも依頼をした。

 次に会う時までに仕上げてほしいと、その場で着ていた服を脱いで渡された時は驚いたけど……。……誤解が無いように言っておくが、彼女は豪快なだけで痴女ではない。脱いだのはアンダードレスの上に来ていたドレスとコートを足したような、華やかだけれどかっちりとした仕様の服だった。

 聞けばルチルが仕事用に作らせた衣装らしく、なんとなく軍服とかスーツに近い物を感じる。触った瞬間に価値がわかる極上素材の触り心地で、これに刺繍するのかと恐れおののいた。けど有無を言わせず押し付けられたので、もうこれは死ぬ気で仕上げるしかない。

 材料だと言って小箱に詰められて宝石まで渡されたので、これは魔刺繍職人のスキルで材料から作れという事か。ぜ、全力でかからせていただきます閣下! じゃなかった殿下!



 帰る際に部屋の外で控えていたメイドさん二人と最初に部屋に居たおじいさんを呼び寄せたルチルは、彼らに私が十二年前に出会った子供だと紹介した。どうやらこの三人はあの時盗賊に捕まっていたルチルの従者らしい。

 老人とは思えない力で私の背中をバンバン叩いたゴルディさんは「あの時は本当に助かったぞ! 今度酒でもおごらせてくれ」と豪快に笑い、エレナさんは「こんな偶然があるなんて」と驚いていた。マリエさんは「ホンットーにあの時はありがとうございましたぁ!」と言って抱き着いてきて、ルチルに剥がされていた。いや、あなたもさっき思い切り抱き着いてくれてましたけど……。…………まあいいか。










 宿へ戻った私は、先に帰っていたアルディラさん達に魔刺繍職人として依頼を受けたこと、エキナセナにはいつでも面会に行ける事を話した。流石に王女様と知り合いだったと言ったら驚かれたけど。


 まあとりあえず、色々あったけど一応これでひと段落ついたのかな?


 緊張が解けた安心感でその日の夜はぐっすり眠った私達。




 翌日、疲れを取り払った私たちは宿の食堂に集まって、それぞれの予定を話していた。


「さて、こうして一応王都には着いたけれど、まず先に言わせてほしいの。エルくんとポプラくん、よければこれからも私とパーティーを組んでくれないかしら?」

「え! いいんスか!?」

「俺は嬉しいですけど、アルディラさんはご迷惑じゃありませんか?」

「まさか。お願いしたいから言っているのよ」


 アルディラさんの提案に真っ先に承諾したのはポプラで、私も嬉しくてつい何度も頷いてしまった。やっぱり折角打ち解けられたんだし、ここで別れるのは寂しかったから嬉しい。旅に出て分かったけど私もまだまだ世間知らずだし、もう少しアルディラさんにくっついて色々知りたいというのもある。迷惑はかけてしまうけど、その分私も役立てるように頑張ろう。


 しかし浮かれる私たちの横で不安そうにしているコーラルに気付いて、少し反省した。そうだった、コーラルの仕事先も一緒に探さないと。私もだけど、村から出たことが無いコーラルに一人でこの都会で仕事を探せと言うのは酷だ。


「あの、アルディラさん。コーラルのことなんですけど……」

「ああ、そうそう。ねえコーラル、あなた国の魔法学校かギルドの冒険者学校に入る気はない?」

「え、……え!? が、学校!? あたしがですか!?」


 アルディラさんの言葉に驚いたのは私も同じで、けど私の場合は「魔法学校キタ!」というミーハーなものだった。ごめん、はしゃいじゃってごめん。でも魔法学校ってロマンあるじゃない! あるんだ、この国!


「コーラルは精霊でしょう? 今は影響が無くても、もしかしたらそのうち魔力の暴走を起こすことがあるかもしれない。それに備えて学んでおくことは絶対に必要だわ」

「まあ、そうッスね。幸い両方学費は心配しなくていいとこスから、入学さえすればなんとかなるっしょ」


 ちゃんとコーラルのことを深く考えていたアルディラさんに感動しつつ、王都にも王都の施設にも詳しくない私とコーラルはそろって疑問符を飛ばしていた。と、年上の威厳が……!

 そんな私たちに優しいアルディラさんは丁寧に教えてくれた。




 まず国営である魔法ギルドの運営する魔法学校。


 こちらは貴賤関係なく完全な実力主義で、入学試験さえ突破すれば誰でも入学できる。逆に落第すればいくら金を積んでもその門戸が開かれることは無い。しかし入学さえ出来てしまえば、金が無い者でも手厚い補償を受けることが出来るんだとか。

 これは現国王が執り行った政策の一端であるらしく、優秀な魔法使いや魔法騎士を輩出するようになった学校は兵士の養成施設として人材育成で国に貢献している。しかし卒業したら必ずフェルメシアに所属しなければということは無く、独立したり国に帰って自国で就職するのも自由となんとも太っ腹。そのため留学生も多く、フェルメシアに他国との交流をもたらす外交地点としても成り立っているらしい。

 フェルメシアの軍の雇用条件に惹かれてそのまま居つく者も多いと言うから、きっとそんなに損することも無いのだろう。



 次に民営の冒険者ギルドが運営する冒険者学校は、魔法に関して習うことは基礎だけである。

 その代り冒険者に必要な授業のカリキュラムが組まれていて、卒業すれば保証人がいなくても未成年でもEランクの冒険者に成れるらしい。昇格資格も貰える。

 こちらは奨学金を使用する場合、冒険者になった時の成果から天引きされる形だ。利子は無く、支払いも一括と分割が選べるのでかなり良心的だと思う。




「あたしなんかが学校へ行って上手くできる、かな。それに入学試験なんて、受かるかどうか……!」

「なら、俺が魔法教えようか?」


 私が言えば、コーラルは驚いたように私を見た。しかし先に口を開いたのはコーラルではなくアルディラさんで、「そういえば」と口火を切る。


「エルくんって白霊術も黒霊術も色んな種類が使えるわよね?」

「白霊術以外は攻撃にも使えそうにないしょっぺーのばかりッスけどね~」

「ポプラくんちょっと黙ってくれる? 外傷回復、体力回復、整備系、料理に使っていた属性術……。かなりの種類よね? パーティーを組む上で戦略にも関わるし、参考までに全部でどれくらいの種類が使えるのか聞いてもいいかしら」

「あ、はい。えーと……」


 素直に答えていくと、アルディラさんとポプラの視線が段々と呆れたようなものになっていく。


「……素直に凄いと思うけれど、なんというか……」

「お前それ何て言うか知ってるか? 器用貧乏だよ。まあ飛憐術まで使えるのは凄いけどよ……。なんで風の精霊と契約する方を選ばねーんだよ。飛ぶ者を憐れむ術って意味で飛憐術だぞ? 魔力効率の悪さじゃ最上級じゃん」

「そうなの!?」


 ポプラの言葉で初めて知った新事実……! どうりで体が痛いわけだよ!


「まあでも、それだけ使い分けられるのは本当に凄い事よ。魔纏刺繍を使う関係で器用になったのかしら? ともかくそれなら先生役にはぴったりね。コーラルは精霊だから、魔法を使うとなると私達で言う白霊術、黒霊術、蒼黎術が当てはまるはずだし。魔力の制御を教えてもらえば、入学には問題ないと思うわ。座学だったら私も少しは教えられるしね」

「あ、あ、……! み、みなさん! 本当に、本当にありがとうございます! このご恩は、絶対に返します!」

「いいんじゃね~の? 前も言ったけど幸運だったって、素直に受け止めれば。ポプラにーちゃんも頼ってくれてもいいんだぜ!」

「は、はい!」


 嬉しそうに頷いたコーラルにみんなで満足そうに笑う。素直ないい子は癒し!




 さて、そうなるとコーラルの進路も決まったわけだし、私は自分の事も考えないと。A級のアルディラさんがパーティーを組んでくれるから旅するには問題無くなったし、あと王都ですることは全部でいくつあるだろうか。


「アルディラさん、少し聞いてもいいですか?」

「ええ、どうしたの?」

「俺は旅の目的が人探しなんですけど、王都って凄く広いじゃないですか。聞き込みするにはあまり現実的じゃないし、どこかそういう専門機関っでありませんか?」

「そういえば言ってたわね。人探しねぇ……。専門となるとちょっと思い浮かばないけど、やっぱり情報が集まるのは各種ギルドじゃないかしら。エルくんは魔道具ギルドに登録しに行くんでしょう? なら、その時に他のギルドにも顔を出して聞いてみるといいわ。もちろん私から冒険者ギルドの方にも聞いておくわよ?」

「ありがとうございます! そっかギルドか……」

「お前もしかして魔道具ギルド登録忘れて無かったか? あの姫さんにも行けって言われたんだろ」

「ま、まっさかー! 忘れてるわけないだろ!」


 やっべぇ忘れてた。


 そうか。じゃあ王都ですることはまず魔道具ギルドに登録して、ギルドにサクセリオについての聞き込みをして、ルチルの依頼をこなしつつコーラルに勉強を教えてエキナセナの様子も見に行って、アルディラさんとのパーティー契約に関して詳しく聞いて、と。だいたいそんなところかな。他にも王都内を見て回りたいし、意外と忙しそうだ。

 パーティーを組むからにはアルディラさんとポプラの予定も確認しなきゃだし、どこから予定をこなしていこうか。


 私がメモに予定を書きだしながら唸っていると、アルディラさんが苦笑しならがお茶請けに出ていたクッキーの器を寄せてくれた。


「そう急がなくてもいいんだし、あまり考え込まない方がいいわ。エルくんって結構几帳面よね」

「そうですか? 几帳面っていうならアルディラさんですよー。いつも色々考えてて、それを整理できてて凄いですよね。憧れます」

「え、そ、そうかしら。ありがとう」


 私もこんな大人の女性になりたいな……。前世ではアルディラさんより年上で今はもう中身アラフォーのはずなんだけど、大人の魅力をまったく身に着けられていないというのはどういうことなんだ。三つ子の魂百までとでもいうのか。絶望した。








 ともあれ無事に王都で落ち着いた私たちは、こうしてもうしばらくの付き合いになることとなった。


 未だ見ぬ未来の旦那様は気配すら感じないけど、これはこれで楽しいので王都をめいっぱい満喫しようと思う。







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