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35話 それぞれの目的と王都への招待

 とある聖堂にて。


 ステンドグラスの光で床に二人分の影を作る者達が、神聖な静寂の中会話をしていた。

 一方は鈴が鳴るような可憐な声、もう一方は若いが気弱そうな男の声。


「マルキオ、この刺繍作品はどなたがお作りになったのです?」

「あ、はい。気に入っていただけましたか? えへへ、お似合いだと思ったので、お土産にしたら喜んでくれるかなーと思ったんですよ!」

「だ・れ・が、作ったのかと聞いているのですわ」

「す、すみません。これは旅で出会った若い職人に作ってもらいました」

「その方は今どちらに?」

「シュピネラで別れましたけど、フェルメシアの王都へ行くって言ってましたよ」


 その情報を手に入れると、女性はうっそりと笑ってみせた。



「是非とも我が国に欲しいですわねぇ、そのお方」













 また、別の場所で。


 重厚な焦げ茶色の執務机に向かっていた金髪の女性が、部下の報告に書類から顔を上げる。その美しい弓なりの眉を眉間に寄せて、たった今上がってきた報告に怪訝な表情でもって応えた。


「魔人だと? 国内でか」

「ハッ、シュピネラの冒険者ギルド支部に連絡が入ったとの知らせが」

「資料は」

「こちらにまとめてございます」

「ふむ、こちらへよこせ」


 女性は部下から書類を受け取った侍女が恭しく差し出したそれに、ものの数秒で目を通すとますます眉根を寄せて(まなじり)を釣り上げた。


「封印か……。何処のどいつかは知らぬが、中途半端なことをしてくれたものだ。して、討伐した冒険者は?」

「ギルドに報告を入れた後に、シュピネラへ向かったようです。そう離れた位置ではないので、おそらく今頃到着しているかと」

「竜騎長を呼べ」

「は、り、竜騎長殿ですか?」

「二度言わねば理解出来ぬか」


 細められたエメラルドグリーンの眼光に竦みあがった部下は、「ただちに」と言い残して足早に退出していった。

 それを見送ると、控えていた侍女が可笑しそうに笑う。


「まあまあ、お可哀そうに。彼、ぷるぷると震えてまるで子猫みたいでしたわ」

「マリエ、控えなさい」

「は~い」


 もう一人の侍女にたしなめられた彼女は、しかし反省の色が見えない間延びした声で返事した。部屋の主はそれに気分を害した風も無く、未だに報告書と睨めっこをしている。


「ルチル様、お疲れでしょう。お茶を用意いたしましょうか?」

「ああ、もらおう。ダミアの花とレモネ草で頼むぞ」

「ふふっ、承知いたしました。ルチル様お気に入りの組み合わせですね」

「煩い。はようしやれ」


 女性は年に似つかわしくない重いため息を吐くと、窓の外に目を向けた。



「魔将か……」








++++++++++++







 マドレア村を出発した私たちは、朝に出て夕方にはシュピネラに到着した。

 つい先日ぶりに訪れた街が急に様変わりするわけもなく、商業地区は夕飯の買い出しに来ている街の人間でにぎわっていた。


 私たちはまず宿屋の部屋をとり、冒険者ギルドへ行くのは明日にすることに決める。旅慣れないコーラルも疲れているだろうし、アルディラさんが先に報告しているからそう予定をつめこむこともない。アルディラさん、後でお湯を作ってハーブ入りの足湯とかやってあげたら喜ぶかな? 一番年長だからを気を張っているけど、流石に疲れているみたいだし。


 そして宿で早めの夕食を済ませると、私たちは女性陣の部屋に集まって今後のことを話し合っていた。


「さて、シュピネラまで来たけれど。少しこれからの事を話しましょうか」

「これからの事ですか?」

「ええ。まずコーラルはどうする? シュピネラで暮らすか、それとも私たちと一緒に王都まで行くか」

「あ、あたしですか!?」


 真っ先に話の話題にあがったコーラルは、集まった視線に顔を赤く染めてたじろぐ。


「あ、あの、宿代とか、エルさんに作ってもらったお洋服のお礼とか、あたしまだ何にもお礼出来てないから……。迷惑かもしれないけど、出来たらこのまま王都までついていきたいです。それで、お仕事探してお金を溜めて、それで、お礼がしたいです!」

「へぇ、律儀だなコーラルって。そんなのラッキー……幸運だったって甘えちまえば楽なのに」


 ポプラの言葉には私もアルディラさんも同意見だ。服は私が好きであげたものだし、宿代といっても二日分くらいどうってことはない。第一村長からの報酬だってあるんだし、手柄をあげたのはコーラルだって同じなんだからそれを使う権利は十分にある。

 そもそも私たちはグリンディ村でコーラルに宿を借りたうえに命を助けてもらってるんだし、その恩返しとしたら安いくらいだ。


 この話はコーラル、そして一緒に戦ってくれたエキナセナにも言ってあるのに、二人とも結構頑固者。いや、真面目なのはいいことなんだけど……。エキナセナはエキナセナで道中で鹿を狩って差し出してくるという現物払いな手段をとるし。まあそれは美味しくいただいたけど。エキナセナの処理が的確で調理が楽だった。


 そしてコーラルだが、ポプラの発言に対してなおも遠慮する。


「だって、お母ちゃんとお父ちゃんに言われてたから……。人に何かしてもらったら、どんな形でもいいから返しなさいって」

「いいご両親だったのね。でも、どんな形でもって言ったのよね? 私たちは見返りが欲しくてやったわけじゃないし、貴女はまだ子供だわ。こういう時は甘えて、いつか他の誰かに返してくれれば十分よ」

「他の、誰か?」

「いつかコーラルが困っている人に出会ったら、手を貸してあげてってことだよ」


 私がアルディラさんの言葉を引き継ぐと、コーラルは目を丸くしてから一生懸命頷いた。一緒に聞いていたエキナセナが、ぼそっと呟く。


「わたしの父さんも同じことを言っていた。そうして助け合って、群れが出来るんだって」

「そうね、結局生き物はみんな誰かに手助けされて生きているんだもの。だから人を頼ることは悪い事じゃないわ。ね? コーラル」

「は、はい!」


 アルディラさんがいい感じにまとめてくれたので、頃合いを見計らって話題を元に戻してみよう。


「シュピネラは余所者の就職は厳しいってアルディラさんも言っていたから、コーラルが行きたいなら王都まで一緒に行こうか」

「いいんですか?」

「俺はそうしたいな。アルディラさん、どうですか?」

「私もかまわないわ。でもちょっと心配もあるの……。ねえポプラくん、あなたはこれからの予定は決まっている?」


 心配、という言葉が出てくると不安そうな顔になったコーラルだけど、それとは真逆に今まで話したくてウズウズしていたのか、ポプラはばね仕掛けの人形のように飛び上がって挙手をした。


「はい! はいはいはーい! オレ、今フリー! 自由です! 予定とかまっっっったく決まってないんで超暇です! ですからこのままアルディラ姐さんのパーティーに入れてほしいっス! オレも王都までお供、いや王都までと言わずにずっとお供していきたいッス!! お役に立ちますし若いし将来有望だし青田買い大歓迎!! 頼るもよし可愛がるもよし寂しい夜に添い寝するもよし! どっスか!?」

「……馬鹿犬。チッ、わたしはこんな奴に負けたのか」


 周囲が興奮しきりのポプラにドン引きする中、ぼそっとしたエキナセナの毒吐きが耳に入ってきた。ああ、うん。気持ちはなんとなく分かる……。

 ポプラって実力はあるんだろうけど、若さゆえなのかどうも軽いんだよな。まあそれも個性と思えばいいんだけど。


 アルディラさんはがしっとポプラに両手を掴まれ押し売りされると、引きつった笑顔で頷いた。


「そ、そう。ならよかったわ。私だけだと万が一の時三人とも守れないかもしれないから、もう一人戦闘要員が欲しかったのよ」

「じゃあオレついてっていいんスね!? いィヤっふゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!」


 今度は部屋の天井に頭突きする勢いで飛び上がったポプラ。……あーあ、本当に頭ぶつけてーら。なんて無駄な身体能力の活用法だ。

 きっとその跳躍力はバスケットボール界ならエースになれただろうに実に惜しい人材だ。この世界にバスケがあるか知らんけど。


 まあ煩いので、しばらくそこで悶えててもらおう。




「じゃあ一応の方針は決まりましたね。最初の予定の通りに目的地は王都、メンバーは俺とアルディラさん、ポプラとコーラル」

「そうなるわ。魔人の報告は明日済ませるとして、後は……」

「あの、エキナセナはやっぱりファームララスに帰されちゃうんですか?」


 そう、私たちはいい。もともとただの旅人だし、アルディラさんも報告の義務さえ終えればあとは何をしようと自由になる。

 けれどエキナセナは旅人を襲ったこと以上に、獣人であることから「強制送還」という形で行動が制限されてしまうのだ。


「なんとも言えないわね……。まずは旅人を襲った罪を償ってからだけど……」

「それは、覚悟できてる。悪いことをしたのは事実だもの」


 そうは言うけれど、エキナセナのぎゅっと握られた拳がその内心を伺わせた。多分罪を償うことに対しての気持ちは本当。でも彼女が一番懸念しているのは、ファームララスへの帰還に関してだろう。

 エキナセナはなりふり構わず半年間家族を探してきた。それを見つけられないままでは、きっと国へ帰っても意味が無い。


「罪自体はそう重くないはずよ。食料を奪ったことに関しては、事情を加味して恩赦もあると思うわ。気になるのが怪我をしたポプラの依頼主だけれど、ポプラの印象としてはどんな人だったかしら」


 今まで悶えていたポプラは涙目で体をおこすと、多少冷静になったらしい頭で応えた。


「あ~……。頭固そうなオッサンって、顔真っ赤にして鼻ブヒブヒ鳴らしながら怒ってたッス」

「ブヒブヒ?」

「エキナセナ、覚えてるの?」


 ぴくっと眉をあげて反応したエキナセナは、毛を逆立てて犬歯をむき出しにした。


「そいつなら謝る理由が無い! そいつはわたしを獣人だとわかって捕まえようとした!」

「! それは本当?」

「だって、そいつ、きっとわたしを売ろうとしていた奴隷商だもの!」

「げ、マジ? 金払いいいわけだ……」

「じゃあ逃げられた腹いせに、殺してでも連れて来いって言ったわけ? たしかポプラそんなこと言ってたよね」

「剥製にしてやるーブヒブヒィって言ってたぜー。うーわうっわ、マジ最悪。オレ獣人殺害の片棒担がされるとこだったじゃん」


 ぶるると震え上がるふりをしたポプラは、悪そうな顔でにんまりと笑った。


「でも後ろ暗い所があるってことは、それをネタに揺すればたんまり金が巻き上げられ……」

「ダ・メ・よ。獣人を扱う奴隷商を見逃せないわ。せっかくわざわざギルドを通して依頼なんて、足をつけやすくしてくれてるんだから捕まえない手は無いわよ」

「や、やだなー。冗談っすよ姐さん。でもその件、オレに預けてくれません? そのあたりの調査は明日オレからギルドに頼んでおくんで」

「本当に?」

「信用無いなぁ、オレ悲しいッス」


 泣き真似をするポプラだけど、私もアルディラさんも彼が悪い人間でないことは短い付き合いながら分かっているつもりだ。

 ほら、今も。


「ま、そしたらお前には食料泥棒ってセコイ罪歴だけが残るわけだ。ケケッ、かっこ悪ー」

「なん!? お、お前は!」

「おーおー。腹すかせたチビ犬が吠えてらぁ~」


 軽口をたたきながらも、この様子ならポプラは上手く雇い主の件を片付けてくれるだろう。エキナセナの前科が「食料泥棒」だけになるように。

 でも、もう少し言い方ないのか。本当にアルディラさん以外への態度が違うんだからこの子は。エキナセナだってポプラの本心に気付いてるだろうに、からかわれてるから素直にお礼が言えなくなってるじゃん。


「ポプラっていい奴なのにもったいないよね……」

「ああ? んだよなんか文句でもあんのか」

「褒めてるんだよ」

「そうは聞こえねェな! ホントにテメェの小馬鹿にしたような感じが気に食わねー」

「え、エルさんはいい人ですよ?」

「騙されるなコーラル! 無駄に口が回る奴なんて信用できねぇんだ。特に女に向かってすらすら褒め言葉言うやつとか危険だぞ!?」

「ちょ、偏見、偏見! それにお前には言われたくないよ!? ぺらぺらぺらぺら口から先に生まれたみたいによく喋るだろ! さっきだってアルディラさん引いてたじゃん!」

「はぁぁ!? 引かれてねーし。アルディラ姐さんはオレの熱意に感動してたんだよ! だいたいなぁ、俺がアルディラさんにお綺麗ですねって真正面から言うために日頃から隙を伺ってるのにテメェはよぉ!」

「なにその逆恨み!?」

「け、喧嘩はよくないですよぅ!」

「いやいや、喧嘩じゃないよコーラル」

「オレが喧嘩するにもあたいしねぇってか!?」

「違うってば面倒くさいな!」



 私たちの騒がしい喧騒の中で、アルディラさんとエキナセナは我関せずといった様子で話をしていた。ああ、この面倒くさい子どうにかして私もそっちに行きたい……!




「エキナセナは罪を償ったらどうしたい?」

「…………やっぱり家族を探したいから、国には帰りたくない」

「そう、よね。私はシュピネラの冒険者ギルドに顔が利くから、どうにかならないか相談してみるわ」

「え、あ、…………あ、ありがとう…………。アルディラ」

「あら、初めて名前を呼んでくれたわね」


 軽やかに笑うアルディラさんと、照れたようにそっぽを向くエキナセナ。


 同じ部屋なのに温度差がある中で、その空気が破られたのはそれから数十分後だった。

 聞こえたノックの後、宿屋の主人の困惑した声が来訪者を告げたのだ。




「アルディラ様、ギルドマスター様がお見えです」
















 尋ねてきたシュピネラの冒険者支部の支部長(ギルドマスター)だという男性は、それは見事な筋肉をしていた。


 厚手の生地の上からでもわかるその胸板の厚さ、ダンディーな髭、年月を重ねた重みを感じる皺と、反して年を忘れさせる精悍な顔だち。すっと通った鼻筋、鷹のような鋭い眼。髪の色はいぶし銀と言う方がいい? それともロマンスグレー? オールバックの髪形が紳士と大人の凄みを調和させている。


 シュピネラのギルドマスターだという逞しい男性は、私の好みどストライクなナイスミドルだった。


(なんでこの人がもう少し若い時に出会わなかったぁぁぁぁ!!)


 私は密かに心の中で血の涙を流した。だってこんな良い男もう絶対奥さんと子供、下手したら孫とかいるもの……。五十代か、いってて六十代かな……。


 私は一瞬で恋に落ち、そして一瞬で失恋したのだった。







 とまあ、そんな私の残念な内情は置いておいて。


 肝心なのは、なぜそんなお方がわざわざ宿屋まで足を延ばしたのかということだ。いいの。私は過去を振り返らない女……ッ!


「エルさん、どこか具合が悪いんですか? さっきから顔が……」

「え!? わたしょブオッフォン俺変な顔してた!?」

「(わたしょ?)えっと、はい……」


 なんてことだ、私はわずか数秒間の間に心の内を顔にさらけ出していたらしい。もっとポーカーフェイスを心がけなければ。

 うろたえる私をよそに、アルディラさんが支部長さんに話しかける。


「支部長、いかがなさったんですか? 報告は明日伺うと申し上げたはずですが……」

「ああ、いいぞアルディラ。そう堅くならんでも、いつものように気軽に呼んでくれ」

「……ではグレイナルド様「グレイだろ」……はぁ、グレイおじ様、どうして来たんです?」


 アルディラさんの呼び方に満足したのか、ナイスミドルことグレイナルド様は満足げに頷くと、一変して気難しい顔になった。


「それがだな、お前から受けた報告を、魔人絡みだから王都にもあげたのだが……。思ったより大事になった」

「大事?」

「魔人について詳しく聞きたいから、王都まで来るようにとの命令だ。しかも竜騎兵を迎えによこしてくれるらしいぞ」

「「は?」」


 重なったのはアルディラさんとポプラの声だ。この二人は冒険者としての価値観が近しいからか、けっこう驚くポイントが同じ気がする。反対に私、コーラル、エキナセナの世間知らず組は首を傾げるしかできなかった。

 え、リュウキヘイってナニなにー? くらいの感想が精々である。


「り、竜騎兵って、あの?」

「あのもそのも、一つしかおらんだろう小僧。お前の想像しているもので間違いない」

「でもッ、王家直属の竜騎兵団が動くだなんて……!」

「アルディラよ……賢いお前なら分かるだろう? いや、わかっていて認めたくないか。まあ気持ちは分かるが」


 ごくりと唾を飲み込んだアルディラさんの雰囲気に呑まれて、私たちまで事情が分からないのに緊張してくる。




「王家の方が、私たちをお呼びなのですか」














 翌日の朝、エキナセナ以外の全員が目の下にくまを作って顔を合わせた。


「おはよう……」

「おう……」

「こーらる、よくねむれたかしら?」

「あまり……」

「?」


 私、ポプラ、アルディラさん、コーラル、エキナセナと続いた台詞のどこにも覇気と言うものが感じられない。一人ケロッとしているエキナセナが羨ましすぎる。え、現状一番問題かかえてんのこの子だよね……? その鋼のメンタルはどうやったら形作られるんだ。


 ちなみにギルドあずかりになるはずだったエキナセナも、一緒に王都へ行くことになった。どうやら国の管轄に入るとのことだ。




 昨日の晩衝撃の事実を伝えてきたグレイナルド様は、よく分かっていない私達にも懇切丁寧に説明してくれた。


 フェルメシア竜騎兵団とは、その名の通り竜で空を駆ける国内随一のスピードと火力を備えた精鋭の集団なのだとか。下は召喚獣の契約を交わしたドラゴンタイプの魔物を使う竜騎兵八十名から、上は精霊の眷属である飛龍と契約をした竜騎士二十名の計百人。


 彼らは王家直轄の部隊であり、いわばエリート。その方たちが動くとなると、王都へ招集されたらまず間違いなく王族の誰かに会うとの事。


 おうぞく、オウゾク、王族。

 あっはは、王族だって。








 無  理  だ  










 しがない冒険者と村娘がそんなビップにいきなり会えるか!! 胃が、胃がぁぁぁぁぁ!!

 待って、何で!? と迷える子羊の目で縋りついた私たちに、グレイナルド様は無情にも「倒したのが魔将だったからじゃないか?」と言ってくださった。どうにも、国の防衛面で魔人やら魔将やらが無視できない案件らしい。


 おのれ、死してなお私たちに精神的ダメージを与えるなんてゲロニザウラなんて奴ッッ!


 当事者になってよくわかったけれど、小説とかで王様とかに会って堂々と出来てるやつって凄かったんだな。こちとら会う前からこれだよ。だって国のトップ……。え、ちょっと待って礼儀作法とか全然わからないんだけど。


 私はすがるようなまなざしでアルディラさんを見た。


「あるでぃらさん、おなかがいたいです」

「我慢しましょうね」

「おうちにかえりたいです」

「大丈夫よ、悪いことをしたわけではないもの」


 そういうアルディラさんも台詞棒読みじゃないですかーヤダー。


 しかし一度招待されてしまった以上、行かない方が不敬罪に問われかねない。


 私たちはそれぞれに不安を抱えつつ、朝に到着するはずだと伝えられた竜騎兵を待つために外へ出た。











 そして、やってきました竜騎兵。


「はじめまして。(わたくし)はエレナと申します。本日は皆様方をお迎えに上がりました」


 どんなお人らが来るのかと思っていたら、竜から降りて真っ先に責任者然として前へ出てきたのは若い女性だった。


 いや、女性なのはいい。でも竜騎兵なのに甲冑を着ていないどころか、何故かメイド姿だった。ロングスカートのすそを掴んで一礼する姿はとても優雅で洗礼されているのだけど、なんでメイドさん? 空飛んでるときとかパンツ見えちゃわない? まず初めにそんな疑問が浮かんだ自分に気付いて、ちょっとへこんだ。なんでおパンツの疑問から入るんだよ私……。



 彼女の後ろに控える人たちがちょっと風変わりながら竜騎兵と言われて納得できる姿なだけに、余計に彼女、エレナさんだけ浮いて見えた。


 しかしそれについて深く説明されることは無く、彼女はそつなく残り二名の竜騎兵を紹介すると誰がどれに乗るという指示をぱぱっと済ませてしまう。

 振り分けられたのは竜騎兵Aにアルディラさんとコーラル。竜騎兵Bにポプラ。そしてエレナさんの竜には私とエキナセナが乗ることになった。

 振り分け基準は何だろうか……。重さ? いやでも、単純に体の体重だけなら男でそこそこがたいがいいポプラが一番重いだろうけど、アルディラさんとか斧持ってるしな。



 騎竜というのは、私が昔カフカの洞窟で出会ったドラゴンに比べてとても愛嬌があった。爬虫類のあの縦長な瞳孔では無くて、全体的に黒目がちなアーモンド型の目や、小さい鼻の穴、鱗では無くてかたい皮膚を有する体は爬虫類よりも動物のそれに近い気がした。黒い皮膜の蝙蝠のような羽根にちいさい角が2つ。「キュウ」と鳴く声まで何だか可愛らしい。

 これにはどんな恐ろしい生物が来るのかとビビっていた私と、魔物に慣れていないコーラルも安心したように胸を撫で下ろす。アルディラさん達三人は、緊張してはいるもののあまり動じていない所に冒険者としての風格を感じた。


 いや、エキナセナは冒険者じゃないけど……。腕を組んで仁王立ちする姿が堂々としすぎていて。なんだあのかもしだされる度胸と(おとこ)前感。




「では、参りますよ!」




 エレナさんのよく通る声を号令に、私たちはシュピネラを飛び立った。






 目指すは王都。

 もう私たちは、王都までの旅費が浮いたことを喜んで気を紛らわせるしかないのかもしれない。








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