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29話 暁の精霊

 閃光に目を焼かれる。


 その光と魔力の強さが先ほどの比ではないことに気が付いた時。……正直コーラルの生存は絶望的に思えた。


 彼女は何も鍛えていない村娘だ。いくらこの世界の人の見た目には実力とのギャップがあるとはいえ、普通の少女が強いだなんて思えない。当然、体も脆い。




「コーラル!!」




 それでも叫ばずにはいられなくて、光の中でコーラルを呼ぶ。


 しかしその途中で何かがおかしいことに気が付いた。これほど強い光を発しているのに、先ほどのような爆風や熱を一切感じない。

 むしろその光は白霊術に似た、体を包むような優しい光だった。


 光は次第に色を帯びていく。藍、紫、紅、白。その色は黎明に似て、まるで朝が来たかのような錯覚を覚えた。


『コレはッ』


 魔人が光の中心に腕を伸ばそうとしたので、ほぼ直感でこの光を邪魔してはならないと感じそれを妨害した。伸ばされた腕の中間地点、関節部に狙いを定めて魔力を纏わせた掌底を叩きこむ。


『ぎ!?』


 妙な感触がしたものの、内部にある可動部位の破壊には成功したようだ。魔人が動きを止め、私を憎々しげに見てくる。


 その間にも色を帯びていた光は輝きを増し、しばらく世界を朝の色に染め上げてからやがて光の中心に収束した。その中心に立っていたのは無傷のコーラルだったのだけど、私は彼女の無事を喜ぶ前に何か違和感を感じた。


 その違和感の正体に気づく前。ふいに、コーラルが視線を上げる。


「うわ!」

『な、なんだト!』


 驚く私と魔人の目の前で、精霊の光球を覆っていた黒い蔦がはじけ飛んで消滅した。そして光球達は一か所に集まると、光の奔流となって天高く一本の柱を作り出す。そんな場合ではないのに七色の光の柱は思わず見とれる美しさで、私は視線をそこに縫い付けられた。


 と、…………何処からか鈴のような声が聞こえた。気づけばそれはあっという間に膨れ上がり、膨大な音の連鎖となって光と共に空間を満たしていく。


『解放された!』

『ああ、助かった』

『コーラル、こーらる、オトナにナッタ!』

『マモレタ!』

『この人間たちに感謝ね』

『村人は許さん』

『デモ、人モ捨テタモンジャナイヨ』

『生き残ったのこれだけ?』

『魔人相手なら十分だよ』

『コレデ、帰れるネ!』

『お家帰れる!』

『コーラル連れてける?』

『本人の、気持ちしだい』

『暁の精霊、星光の姫サマ喜ぶヨ』

『直系の眷属だものね。私たちにとっても喜ばしいわ』



 綺麗な音だけど、多すぎて何も聞き取れない。

 

 間抜けにも呆然と突っ立っていると、腰に衝撃が走った。見下ろせばいつの間に近くへ来ていたのか、私の腰に腕を回してコーラルが抱き着いている。

 コーラルのさくらんぼ色の髪の毛は、光を浴びているせいかとても神秘的に輝いて見えた。


「エルさん、エルさん! よく分からないけど、あたしの友達が戻って来たんです!」


 ぱっと上向いた少女の顔は、憂いを取り払われたように満面の笑みだった。相変わらず涙を流しているけれど、今度のそれは見紛うことなく嬉し涙だ。間違いない。


「それでね! 友達が、力を貸してくれるって!」

「お友達……精霊が? もしかしてこの光と音って全部精霊!?」

「はい!」

「へえ、凄いなぁ……! じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「もちろんです!」


 コーラルちゃんは頷くと、精霊たちに向かって呼びかけた。


「みんな! 力を貸してください! 悪い人を倒したいの!」

『承知した、コーラル』

『もちろんだわ』

『仲間のカタキ、トル!』


 すぐさま精霊たちは了承し、光の柱がはじけていくつもの光球にわかたれた。その数は先ほど魔人が操った比ではなく、いったいどこから湧い……ゴホン現れたのかと驚愕する。


『グッ! おのれ、羽虫メ、辞めろ!』


 光球は魔人の周囲を囲み、それぞれ違った色の光の帯を魔人に巻きつけていく。視覚的には色とりどりの毛糸に絡まっていくようで、包まれているモノを無視すれば幻想的な光景だ。

 私は精霊たちのおかげで身動きを封じられていく魔人を見て、自身も止めを刺すための準備に入る。大きくて体は狙いを定めにくいから、頭を破壊すればいいだろう。

 

 精霊が力を貸してくれるとか今の私凄く物語の主人公っぽい! とか浮かれる心を抑え込んで、ザワザワと体に漲る魔力を必殺の一撃に昇華するため集中した。皮膚を裂き、頭蓋を割って、脳髄を破壊する。


 体とイメージの準備が終わると、私が魔人に向かって駆け出した。そして跳躍した、その瞬間!








「ヒヒヒ、串刺しになりなぁ! 輝石針殺舞踏祭インクルージョンカーニバル!!』

「え?」

『ギアァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!?」






 私は突然降って湧いた魔法名を宣言する声と魔人の断末魔にリアクションをとる前に、自身の向かう先の光景に目玉が飛び出しそうになった。

 だって何か魔人から針山地獄かってくらい針が生えてるんだけど! めっちゃ勢いよくジャンプしたから急な方向転換とか無理だよ!? 魔法も間に合わない! ぎゃあああああ! 串刺しになる!!


 なんとか耐えきるしかないと、覚悟を決めて私が目を瞑った時。誰かの腕が腹にまわされた。


「ヒヒヒッ、ごめんね~。確実に仕留められる機会を窺ってたんだ~」

「っ! は、ハウロさん!?」


 私を抱きかかえて針の山から離脱したのは、さきほどから姿を消していたハウロさんだった。ばねのきいた動きで器用に突き出た針に足をかけて跳びはねると、危なげなく地面に着地する。

 視線を魔人に戻せば、そこには針山が残るだけであの巨体は存在していなかった。けれどよく見ると、虹色に輝く針の真ん中あたりに黒っぽい何か……詳しく説明したくないナニカが引っ掛かっている。


「あれが本体、ですか?」

「そういうこと! いやあ、力足りないかなーと思ってたら、いきなりの精霊無双でオレビックリ! ありがたく魔力使わせてもらっちゃった♪」

「そんなこと出来るんですか?」

「オレならね。詳しい話は企業ヒミツ!」


 ばちこーんとウインクしてきたハウロさんに私は何も言えなかった。


 さっきまで主人公だった私にグッバイ。













「! エルさん、ハウロお兄ちゃん!」


 心なしか精霊の方々もぽかーんとしているような雰囲気の中、なんとか現実を受け入れたらしいコーラルがこちらに走ってきた。そのコーラルを受け止めたのはハウロさんで、今さっき魔人を倒したとは思えない気軽な調子でコーラルの頭をわしゃわしゃと撫でる。


「悪い奴、やっつけたの?」

「うんうん! やっつけたよ~。お兄ちゃん格好良かったぁ?」

「え、えっと……最後、なにがどうなったかよくわからなくて……ごめんなさい」


 大丈夫だよコーラル! 実は私もまだよく分かってない!

 唯一分かってる事と言えばハウロさんが全部イイトコ持ってきました、って結果だけだよ。




「それにしても、コーラルって精霊だったんだ~。気づかなかったなァ」

「「え?」」


 思わずユニゾンした私たちに、ハウロさんは「わかってないんだ」と言って笑う。


「なんか、体に変わったところない?」

「う、ううん。ちょっと体が軽くなったような気はするけど……。あたしが精霊って、どういうこと?」



『それは私から説明しましょう』



 困惑する私たちの間に第三者の声が割って入った。

 現れたのは陽光のような輝きを持つブロンドの美女。ただし、八頭身なのにサイズがずいぶんと小さくて人形みたいだ。


「レラスお姉ちゃん、無事だったの!?」

『ええ、コーラル。まだ消化されていなかったから、なんとか無事よ。ふふふっ、それも貴女のおかげだけれどね』

「あたしの?」

『そうよ。あなたが私たちを助けてくれたの』


 美女……恐らく精霊である彼女は、全ての事の顛末を語り始めた。








++++++++++








『始まりは、妖精の悪戯からでした』


 十三年前、湖の近くで精霊の卵が産まれた。

 初めに見つけたのは悪戯好きの光の妖精で、妖精は卵を持って近くの村へ向かった。


 そしてちょうど生まれたばかりの人間の赤ん坊を見つけ、あまりの可愛さに妖精は赤ん坊が欲しくなってしまった。そして少し考え、"いいこと"を思いつく。




 この卵と赤ん坊を取り換えよう!




 妖精は卵を自分の魔法で赤ん坊の姿に変え、人間の赤ん坊と取り換えた。


 これに焦ったのは精霊たちだ。

 珍しい精霊が生まれるからとその場所にいけば、卵はかえっていたが何故か人間の子供になっている。悪戯をした妖精はすぐに見つかったが、時すでに遅く人間の赤ん坊は妖精界の掟に縛られ、精霊は人間の体に縛られていた。

 これでは大人になるまで精霊を人の世界から解放できないと思った精霊たちは、近くの湖で精霊の子供の成長を見守ることにした。しかしここでまた問題が立ち上がる。


 湖の近くには魔人が封印されていたのだ。


 自分たちの世界に近しい位置に魔人を封印するなんて! と憤慨した精霊たちだったが、移動させる力はない。むしろ刺激したら封印を解いてしまう可能性もあり、ではどうするのかと考えた。そこで精霊の子供に危害が加わらないように、自分たちで人間がかけた封印の上に二つ目の封印を施したのだ。

 副作用で村を含む森全体の空間ごと閉ざしてしまったのは誤算だったが、これだけ万全を期せば大丈夫だと安心していた精霊たち。


 ところが、今日の昼間。

 何故か突然魔人に力が戻り、封印をやぶり復活してしまった。それも封印されていた時よりはるかに力を増した状態で。


 なすすべなく魔人に喰われた精霊たちだったが、完全に消化され魔人の力に還元される前に奇跡が起こる。土壇場で見守ってきた精霊の子供が大人へと成長を遂げたのだ。




 精霊の名は、暁の精霊。




 世界に太陽を連れてくる朝は再生の象徴。

 暁の精霊はその"再生"を促す権能を持った存在だったのだ。








++++++++++









『きっと私たちのために覚醒してくれたのね。ありがとう、コーラル!』


 にっこり笑うレラスさん。


 話を聞き終った私とコーラルは口をパカっとあけて、事実をなかなか飲み込めないでいた。何だ魔人の流れからのこの超展開。


 いや一応話は繋がっているんだけど、それを間近で自分が体験してることがまず信じられない。

 そもそも魔人が復活しなければコーラルの精霊覚醒も無かったかもしれないわけで……短いスパンで私すごく濃ゆい体験してない? エキナセナやポプラと出会ったのもまだ今日の話だよ。いや、日付はもうまたいでるのか。

 シュピネラから旅立ったのが昨日の朝で、まだ一日しか旅してないはずなのに……。うん、濃ゆいな。


 さっきは活躍をハウロさんに持っていかれたけど、私の事件へのエンカウント率は主人公並かもしれない。





 私とは違った意味で言葉が出てこない様子のコーラルは、自分の両手をキョロキョロと見てみたり、三つ編みを掴んでみたりと忙しなく体を確認している。さっきはどこか神秘的に見えたけど、今は精霊の光もなくなり少なくとも私には普通の女の子に見えた。


「え、え? あたしって精霊なの!?」


 自分では判断つかなくなったのか、コーラルは私を見上げてくる。


「あー……精霊のお姉さんが言ってる事が本当なら、そうみたいだね」

『本当です、真実です! 私は嘘なんてついていません!』

取り換え子(チェンジリング)ってやつだよね。オレ初めて見た~。めっずらしーぃ!」


 ハウロさんのちょっと無神経な一言を気にして軽く肘でどつくと(「ウごッ」って声したけど多分気のせい)少し膝を折ってコーラルと視線を合わせた。少女の瞳は不安に揺れている。


「ビックリした?」

「驚いた以上に実感できなくて……。でも、あたし、人間じゃなかったんだね。だから、いつも村で一人、だったのかなぁ……?」


 鼻声で力なく呟く少女に、私はちょっとムっとした。この子はいい所たくさんあるのに、卑屈すぎる。それがもったいなくて、そしてそう思わせてしまった周囲にも苛立った。だからちょっとムキになった言い方をしてしまう。


「んー、それは関係ないんじゃないかな。コーラルは優しくていい子だし、精霊とかは関係なく村人の方に問題あると思う。だって俺はコーラルと居ても嫌な気分にならないし、精霊だったとしてもそれが君の良さを損なうことは無いよ。アルディラさんたちだって同じこと言うと思うよ? ご飯を一緒に食べた時みんな楽しそうだったでしょ。少なくとも俺達はコーラルと居て楽しかった」

「……!」

「だからね、一人だったのはコーラルのせいなんかじゃないよ。また一緒にご飯作ったり食べたりしようよ」


 不愉快な人間と一緒に食べるご飯ほどまずいものはない。逆に好ましい人、仲のいい人と食べるご飯は倍美味しいと思うんだ。もちろんコーラルと一緒に食べたご飯は美味しかった。精霊だとか人間だとかって、あんまり関係ないんじゃないのかな。種族が違ったって、言葉を交わして繋がるのは個人同士なんだから。


「あの、あ、あたしも……楽しかった、です」


 はにかむ様に笑ったコーラルは少し時間を置き、黙ったまま見守っていた精霊の女性に向き直る。


「レラスお姉ちゃん。あたし、精霊になったのなら、これからどうすればいいの?」

『コーラルの意思を尊重します。人として生きるのもいいし、精霊界に来たいのなら歓迎するわ』

「…………正直、どうしていいのかわからないの」

『そうね、すぐに答えは出せないと思うわ。でも今までコーラルを見守るために湖にとどまっていた精霊は、もう精霊界へ帰ってしまうの。もし今すぐ精霊として生きる事を決めるなら、明日までに決めなさい。一緒に精霊界へ連れて行くわ』

「明日!?」


 結構な重要案件に早い結果を求めるなこの人!


 思わず叫ぶ私とは反対に、当人であるコーラルは落ち着いていた。その瞳にもう不安の色は伺えない。


「わかった。明日またこの湖に来るね」


 コーラルは今までのオドオドした態度と打って、はっきりとした口調で告げた。その姿には今までに無い物を感じて、称するならば「一本芯が通った」とでも言うべきか。

 しっかりとした意思表示をした彼女を見て、きっとコーラルは何かを決めたのだと知る。これ以上は私が口出しすることじゃないと、口を(つぐ)んだ。



『では待っていますよ、コーラル』



 美しい精霊はそう言い残すと、光の粒子になって空気中へと溶けて消えた。










「…………じゃあ、とりあえずアルディラさん達を早く村に運ばないと。ハウロさん手伝っ、あれ? ハウロさん? ハウロさーん!」

「ハウロお兄ちゃん? あれ、何処?」


 最後に良い所を持って行った男、ハウロさんは今まで隣に居たのにこつ然と姿を消していた。

 そして私の目の前には気絶した三人が横たわっている。


「……………………えっと、手伝います!」

「気持ちだけ受け取っておこうかな……。ははっ……」


 魔人が倒された影響か、来るときに居た魔物はほとんどが姿を消していたのが唯一の幸いか。





 結局、その後私が一人で三人を担いで村まで戻ることになるのだった。















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