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14話 花嫁修業の旅に出ます



「私、旅に出ようと思うの」

「ふうん」

「男装して」

「は?」



 以上が、今朝教会で交わされた会話である。










「ちょっとちょっと、どうしたんだい?」

「いいから来てよ神父さま! 何だかエルねーちゃんが変なんだ!」


 孤児院に住み教会で働く十三歳の少年キーロは、教会の神父であるトマスの腕を引っ張ってある場所へと連れて行こうとしていた。その後を年下の少女ファルファも追いかけ、道行く人は何だ何だと彼らを見る。町で慕われているトマスの神父服は目立つのだ。


「ねえ、変って何が?」

「男装して旅に出るとほざいてたんだ」

「「は?」」


 ファルファの問いに答えたキーロに、付いてきた二人は一瞬理解出来ずに口をぱかっとあけた。少女であるファルファはともかく、そういう表情が似合ってしまう三十六歳の神父はいかがなものかとキーロは思う。祖母に似たのか三十六歳にもなってそうは見えない童顔ではあるのだが。

 その童顔神父トマスは今聞いた言葉を一生懸命咀嚼(そしゃく)し、理解すると甘くもないけど渋くもない果物でも食べた表情をした。要するに微妙な顔だ。


 ともあれ、本人に会えば分かるだろう。

 そう結論付けた彼らは、住宅街に居を構えるエルーシャのアトリエ兼自宅へと向かうのだった。








++++++++++++








「ふふふふふふふ。完璧、完璧だ! わっははははははははははは!」

「誰だ!」


 私が鏡の前で思わず高笑いをしていると、許可も得ず勢いよく開かれた扉から三人の人間が入ってきた。見慣れたその姿を私は笑顔で迎え入れようとしたのだけど、どうにも彼らの反応が可笑しい。


「トマス神父様にファルファ、おはようございます。キーロはさっきぶり」

「失礼だが、君は誰かな?」

「エルお姉ちゃんはどこ?」


 いつになく厳しい表情で見てくる神父様に驚きながら、今の姿を思い出して「ああ」と納得した。キーロだけは先ほど話した会話から「もしかして」という表情をしている。

 ふふふふふ、察しが良いな少年よ!


「何言ってるのファルファ。お姉ちゃんなら目の前に居るじゃない!」

「馬鹿言わないでよ! あんた男の人じゃない!」

「コラ! 人を指差すんじゃありません」


 びしっと指を突きつけてきたファルファに注意をすると、神父様も先ほどのキーロのように何かに気付いたような雰囲気になる。キーロに至っては確信を得たのか、戸惑うファルファを差し置いて前に出るとばっと両手を前に突き出してきた。

 そしてある事実に気が付くと、蒼白な顔色になって私に縋りつく。


「タダでさえおっぱい無かったのにとっちゃったのか!?」

「ありましたけど!? 私着やせするだけだから!」


 確かめるためとはいえ、思いっきり胸揉んでくれたことについて後でよーくお姉さんと話そうか。

 それより今の発言で予想していた効果が上手く機能していることが分かったのは収穫だ。


「まさか……エルーシャなのかい?」

「そうですよ神父様! エルーシャです」


 言うと、真顔で神父様が倒れた。え?


「神父さま!?」

「駄目だ、気絶してる」

「うっそお!?」


 まさか気絶するなんて思っていなかった私は狼狽え、ファルファとキーロがトマス神父様の顔をぺちぺち叩くも仰向けに転がったまま目を覚まさない。完全に白目をむいている。


「神父様ーーーーーー!?」










「えーと、とりあえず、説明してくれるかな?」


 先ほど着ていた服を脱いでいつもの町娘風の服装になった私に、頭痛を堪えるように額を抑えた神父様が訪ねてきた。

 キーロとファルファは固唾をのんで話が進むのを待っているが、その手にしっかり出したお茶菓子を掴んでいる所は流石である。出された時に確保して、食べられるときには食べておけって教えたの私だけども。


 ちなみにキーロは私が着替えてきた途端、先ほどの暴挙を繰り返し「あ、戻ってる。しかも本当にそれなりに……」などと言ったものだから制裁処置済みだ。頭に出来たてほかほかのタンコブをひっつけている。


「えっと、何からお話すればいいでしょうか?」

「そうだね。まずは何で髪を切ったのか聞いてもいい?」

「え、そこですか」

「大事だよ。せっかく綺麗な髪だったのに……。誰かに振られでもしたの?」


 こっちでも振られると髪の毛切ったりするんだ……。


 私は彼の言うとおり背中の中ほどまであった鉄色の髪を、ショートカットとセミロングの中間のような半端な長さまで切ってしまっていた。別に特定の誰かに失恋したわけではないのだけど、大きな意味では大失恋をしたのでその解釈でも間違いではない。


「一番の目的は男装のためです」

「その男装っていうのは何のため? キーロが君の様子が変だと言うから来たけれど……。何か悩んでいることがあるなら、僕に相談してくれたらいいのに。何がエルーシャを追いつめたんだい?」


 ぐっと身を乗り出して訪ねてくる神父様が凄く真剣で、その眼を見るのが辛いんだけど私はどうすれば……!!


 私は、この阿呆な自覚のある事実を伝えるべきなのだろうか?







 私は先ほど鏡の前で所謂男装というものをして悦に浸っていた。

 しかし男装といっても女子高生が文化祭ではしゃいで執事喫茶とかやっちゃうような、「どう見ても女だろwww」なんて言われちゃう半端な男装では無いと断言しておこう。いくらクオリティが高くとも反則技を使っている私には敵うまいて。


 何故ならばどんなにパッと見無理があっても、「外」から私を見た人は絶対に私を男だと思い込むからだ。


 その秘密は先ほどまで着ていた、私が前からコツコツ作っていた服とスカーフにある。

 私の魔纏刺繍が施されたそれらの役割りは「認識阻害」と「肖像付与」。

 解説しよう!! それは私という人物に対しての認識を阻害し、更にその上に私が意図したイメージを被せる、つまり変装グッツである!  もちろん被せたイメージは男性に見える私! これが時間をかけて練りこんだだけあって、外見のみならず声や体に触れた時の感触すら男性として認識されるように仕上がった実に優秀な一品なのだ!!




 とりあえずそこまでを説明すると、今まで黙っていたキーロが若いのに深刻そうなため息を吐いて言った。


「エルねーちゃん……。才能の無駄遣いって言葉知ってるか?」

「やだな、照れるじゃん」


 何故か可哀そうなものを見る目で見られた。


「う~ん、それで? そうまでして男装を極めようとした訳を聞いてもいいかな」

「エルお姉ちゃんって女の子として見ると地味な顔だけど、男の人の顔として見ると神秘的で素敵な感じなのね!」

「ファルファ、お姉ちゃんが落ち込んで話が進まないからちょっとお菓子食べててくれる?」


 キーロの憐憫の視線よりも殺傷力のあるファルファの袈裟切りに私が床に膝をつくと、気を利かせた神父様がファルファの口にクッキーを突っ込んでくれた。でもすでに傷ついたこの心はどうすればいいんだろう……。

 たしかに目つきが悪いし地味面だけど、男になると神秘的って……。自分の男装姿をプロデュースしたのは私だけど、そんな風に言われるとは想定していなかった。男に見えると言っても顔の造形はほとんど変わらないんだけど、何故だ。


「えっと、それでね。気を取り直して、なんで男装しているかと言うと、花嫁修業の旅に出ようかと思いまして」

「待ってくださいもう話が見えなくなってしまったんだが私はいったいどうすればいいのですか神よ」

「ゴメンナサイ」


 別に神父様を困らせたいわけじゃないのに、彼の顔が困惑に染まっていくにつれて私の心が罪悪感で押しつぶされそうになる。とにかくもう一度こんな行動をとるに至った経緯を思い出し、最初から話すことにした。


「この間、アンダルシアとカメルが結婚したじゃないですか」


 いきなり別の切り口から話し始めた私に神父様は何か言いかけたが、首を縦にふってから「続けて」と促してくれた。その瞳は使命感による静かな炎を灯していて、完全に懺悔を聞く体制に入っている。

 く、くじけないで私! 十二年お世話になった神父様でしょ!? いずれ話そうと思っていたじゃないか! 予想外に向こうから来てくれただけで!


 私は深呼吸して心を整えると、順を追って話し始めた。








 幼馴染が結婚した日に、私は思いがけず知りたくなかった現実を突き付けられた。


 それはこの町に居る限り、結婚は無理かもしれないという過酷な現実だった。



 この世界に生まれ変わってからの私は、一番最初に今度こそ楽しい人生を送ろうという目標を立てた。

 そして幸せのためにはやっぱり恋愛じゃないかと、前世で独身女だった私は考えた。もちろんそれが全てではないけれど、素敵な恋愛は人生を豊かにしてくれると、幼馴染達の結婚式を見て余計にそう思った。恋に恋してるのかもしれないけど、やはり女としてそういう幸せだって感じたいと思う。


 ルーカスに来て世間の常識を知ると、やっとこの世界で地に足をつけた心地になった私は真剣に将来を考えた。まずは仕事を手に入れて、そして私の望みのためには他に何が必要なのか? 一生懸命考えた。


 たどり着いた結論はまず女子力を磨け!


 幸い教会や孤児院の仕事を手伝うことで自然と家事能力もろもろが上がり、前世の私に比べたらハイスペックな女子力が身に着いたと確かに実感していた。憧れのお師匠様に出会ったこともあり、日々はとても充実していたはず……だった。

 それは単なる自惚れだったようだけど。……女子的戦闘力は五十三万とまで行かなくても五万くらいならもしかして? ってくらいには自惚れてた。


 本当に自惚れもいい所だったよ! なにしろ行き着いた先の称号が「みんなのお母さん」だもの。何処で間違った!? 成長出来たのは嬉しいけど、一足飛びしなくていいわい!


 一回自分の戦闘スペックを見誤り辛酸をなめたと言うのに、まったく何故私は経験を生かせないのか。


 そして迷走した私がどう紆余曲折を経て男装と言う結論にたどり着いたのかと言えば、(ひとえ)に「趣味」としか言いようがない。




 私の中で前世から漫画や小説などで好きなジャンルの不動の地位を占めていたのは「男装」物だった。

 きっかけは漫画の神様発祥リボンで騎士な某傑作。少女が男の子のふりをするという設定に子供心ながらゾクゾクしながら読んでいたのを覚えている。もちろん大人だって良い。オ○カル様は私の初恋だ異論は認めない。


 以来、私は男装という設定が大好きになった。



 人生を楽しむという今生のテーマについて、私は大事なことを思い出した。楽しむ事もそうだけれど、やりたいことをやろう! と思っていたんじゃないのかと。

 思いがけない第二の人生は、好都合にも剣と魔法のファンタジー世界。実はお姫様で敵国から逃れるために~とかじゃないけど、男装物語を繰り広げるにはなかなか適した舞台だ。


 それなら私がやることは一つだったんじゃないのか?



 そうして私の人生の目標は明確な形を手に入れた。










 すなわち「男装してイケメンと知り合い友情の果てに紆余曲折を経てロマンチックな恋をして結婚する」という、壮大な目標がッッッ!!!












『…………………………………………………………………………』


 前世云々を話さないでかいつまみ、私の男装から発展する恋愛についてのロマンを多分に含んだ話を聞き終えた三人はそれぞれ違った反応を見せていた。


 トマス神父は菩薩のような慈愛に満ちた顔。何故か一筋の涙が頬を伝っている。

 キーロは頭を抱えて「もう駄目かもしれない」と呟いている。

 唯一同じ女性であるファルファは、頬を紅潮させて身を乗り出していた。



「まあ、そういうわけなんだけど……要約すると、男装して己を見つめなおしつつ、素敵な旦那様を求めて花嫁修業の旅に出たいんです」


「お前は何を言っているんだ」



 キーロの声は、十三歳とは思えないほど苦悩に満ちていました。









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