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10話 追って追われて迷って樹海

 あんまりにあんまりな自分の倫理観にひたすら嘆いた私。せめて形だけでも道徳にのっとった行動をしようと、洞窟に向かって手を合わせて殺してしまった彼の冥福を祈った。


「ベネッタだかペッドだか、なんかそんな感じの盗賊さん……どうぞ素直に、いや安らかに成仏してください」


 呪わないでね! という下心が透けて見える感じが、もう私は駄目かもしれない。自分のことしか考えて無ぇなっていうね!

 ふへへ……前世の家族に会わせる顔が無い。


「あいつの名前はベネッドだぜ」

「え、何それ惜しい。私のぴちぴち脳みその記憶力……が……」


 低く、妙に色気のあるバリトンボイスに私は固まった。もしこれがそのベネッドさんの幽霊だったら、どれほどましだろう。私の持論としては、ホラーは「生きている人間が本当は一番怖いんだよ」落ちが最上だと思うんだがどうだろうか。


 ぬらりとした宵闇の中、私の灯した明かりの範囲内に誰かの足の先っぽが侵入する。次いで現れたのは南国の雄鳥を思い起こさせる原色的な赤い髪の毛。

 いわずもがな、洞窟に閉じ込めたはずの盗賊であった。


 そして更に地面を踏みしめるじゃりじゃりとした足音が聞こえ、赤髪ドレッドの後ろから幾人か姿を現す。計三人の盗賊たちは、怒りなど感じさせぬ飄々とした様子で話しかけてきた。


「ヒヒヒッ、やられたーやられたわー。こんな短時間で仲間減っちゃったよォ。お嬢ちゃんツヨいね!」

「マジ面倒な仕事増やしてくれたッスわ。お頭、どうします? 追いかけますか」

「依頼人置いてきちまったし、あっちはもういいだろ。それより俺はこっちが気になる」


 そう言ってずいっと顔を近づけてきた大男に、私は岩壁に限界まで体をへばりつけて後ずさった。


「ど、どうして……」

「出てこれたかって? 別の出口あったに決まってんだろ。おじさん達、追い込まれたら逃げ道のない場所を拠点にするほど間抜けじゃねーのよ?」


 にこり、否、ニヤリと凄みのある笑みで笑った盗賊に「あ、そうですね」としか返せなかった。それにしてもウンコ座りがよく似合う男だよ目の前に座んなぁぁぁ! というか足どうした! 私が頑張って潰した足が何で機能してんだ私の努力を返せ!


「そんでよ、おじさん等なぁ、お前さんのせいで仕事潰れちまったんだわ。せっかく集めた仲間も使い物にならなくなって大損なわけだけど、わかる?」

「ヒヒッ、面倒くさくなっただけのクセに~」

「ベネッド以外は補充ききますしね」

「お前らちょっと黙ってろ」


 茶々を入れてくる仲間をジロリと睨んでから、男は笑顔で私に向き直る。友好的な笑みでも浮かべてるつもりなのか声が若干猫なで声なんだけど、私にはナマハゲとかにしか見えない。


「そこで提案だ。お前見どころあるから一緒に来いよ。一緒に盗賊やろうぜ!」

「誰が行くか死ねハゲ!」


 聞くなり、恐怖で固まっていた体が解放された私は前面に飛び出した。

 先ほどの戦闘よりも格段に早い動きで狙ったのは、対男性お馴染み必殺急所と言えばお分かりになるだろうか。分からなかったらちょっとお下品だがゴールデンボールと言っておこう。


「ッッッ!?」


 声にならない悲鳴に、ウンコ座りから尻餅をつく大男。私はなりふり構わず、霧巻く夜の森に飛び込んでいった。








++++++++++








「ギャハハハハハハハ!! ひ、ヒィィ、腹イテー! お頭やられてやんの! ヒハハハハハ!!」

「お前は笑いすぎだ。お頭、大丈夫スか?」

「……! ……!! く、ククク、やって、くれるぜェあのチビ……。おい、お前ら追いかけるぞ!」

「あっれ? チョー嬉しそうだけどお頭って被虐趣味だっけ?」

「お前もう黙っとけ」




 エルーシャは知らない。この時の縁が、何年も先で再び交わる腐れ縁に変わることを。




「絶対捕まえてやるからな、チビ」








++++++++++








 私はそれから明かりをつけることもままならず森を逃げ惑い、闇から聞こえてくる男たちの足音と息遣いに怯えながら闇雲に走った。


 昼になっても深くまで入ってしまった森はとても暗く、足場も悪い。何度か逃げるために魔法で応戦し、やっと盗賊を撒いたのが四日目。魔力も体力も底をついて()()うの(てい)で逃げ延びた私は「助かった」と思ったけれど、今度は大自然という敵が眼前に立ちふさがる事実に呆然とつぶやいた。



「森っていうか、樹海?」



 精も根も尽き果てながら、ようやく森を抜けられたのはそれから2週間後のことだった。

 

 












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