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ヒーローズ  作者: なかお ゆうき
9/20

ステージ3 ヒーローを操れ!③

――今回はかなり易しかったんじゃない?

「そうだね、攻防それぞれの最高のレアアイテムがあったからね。あれがなかったらもっと大変だったと思う」

――でも、ここまで一回も負けずにきたのはすごいな。

「はは、相川さんのお兄さんが、難易度イージーで設定してくれたからじゃないかな」

――仮にそうだとしても、それでもすごいよ。わたしには絶対無理だもん。すごく頼もしい。

「え……」顔が僕の許可なしににやけだす。「そ、そんな……あ、相川さんの……お、応援があればこそだよ……」

――ははは、ありがとう。これからも頑張って応援します!

(ああ、なんて素敵な人なんだ。言葉、口調の端々に性格の良さがにじみ出ている)

 僕が相川さんにハートを握りつぶされようとしている間にも、フィールドは変化し、やがて新たなステージが姿を現した。

――これは……アニメ?

 相川さんが自信なさげに言った。けど、実は僕も自信がなかった。何もない荒野の大地だが、作画はアニメともゲームともとれる。ということは、どっちにしても割と新しいということか。

――あ、敵が現れた。

 一人の男が荒野の中をゆっくりと、腕を組みながら、足を動かさずに近づいて来る。

 その真っ赤な姿を見て、僕はすぐに理解した。

「ヘガだ…………なるほど、格ゲーか」

――ヘガ?

「格闘ゲームの金字塔『路上喧嘩』のボスキャラだよ。このゲームは、格ゲーで最も長い二十年以上の歴史を誇り、今なお、毎年のように最新作が発表され、大規模な世界大会も行われているほど人気があるんだ。格ゲーの代名詞といってもいいくらいだよ」

――あれはどういうキャラクターなの?

「格ゲーのキャラだから詳細な設定があるわけじゃないけど、ヘガは、世界展開を目論むシャルドルゥという悪のブランドのCEOで、サイコメイクという特殊技能を持っているキャラなんだ。二作目に初登場してからずっと参戦し続けている古参キャラだよ」

――確かに変わった格好をしてるね。

 ムキムキマッチョな体格に、蛍光レッドの革ジャンをしっかりボタンを閉め、同じく蛍光レッドのパンツにベレー帽、そして膝下まであろうかという黒の長靴というショッキングな姿を目の当たりにした相川さんがポツリと呟いた。無理もない、変わった格好のキャラが多い格ゲーの中でもヘガは際物の部類に入る。

「まあ、こっちはまともな格好しているから安心して。主役的キャラのルウをお願い」

――ルウね? 分かった、任せて!


 体が変化を始めた。そして、白い胴着を着た、古風で武骨な空手家になった時、俺の拳はかつてないほど強い奴を求めていた。

 俺の目の前までやって来たヘガが怪しく笑った。

『ルウよ、我が社の従業員となれば、命だけは助けてやるぞ』

――とんでもないスカウトのセリフね……。

「俺は世界展開など興味ない!」

『ならば仕方あるまい。このサイコメイクの前にひれ伏すがいいッ!』

 ヘガが腰を落とし、両手を前に出して構える。俺も負けじと構えを取った。

「そうはさせるかっ!」

『ふん、その強がり、いつまで持つかな? 行くぞッ!』

「来いっ!」

 ヘガが必殺技のサイコデストロイヤーを出そうとした。だが、その瞬間!

――なに!? 

 画面が突然真っ暗になり、ズシャリという激しい音が響いたっ!

 そして光が戻った時、そこにはヘガの首を無造作に掴む、黒い胴着に身を包んだ新たな男の姿があった……。

――誰? 何が起こったの?

動悸(ドウキ)だ……」

――動悸?

「アクセントはドだ。動悸、九十四年に発表されたシリーズ作品の『凄絶路上喧嘩其の二 罰』で初登場した、ヘガを超える真のボスキャラだ。強さを求めるあまり修羅と化し、常に心拍数が三百を超えてしまっているという人外の徒」

――三百!? 死んじゃうでしょ!

「もたないぞ、これくらいで驚いていたらな。奴の真価はそんなところにはないっ!」

――え……あ、うん……。

 俺の迫力に相川が消沈すると、動悸はヘガを片手で投げ捨てた。

『我が望み、真の強さのみ』

「望むところだ! 修羅に心を支配されたその弱さ、俺が叩き直してくれる!」

『笑止千万っ!』

 動悸が姿を消したっ!?

 ――消えた!?

「はっ……!」

 気配を察した俺は、後ろを振り返った。

『遅いわっ』

 早いっ! 動悸の足払いを喰らい、俺は倒されてしまった。

「くっ……」

 俺はすぐさま立ち上がった。が、またしてもワンアクション遅れてしまった。

「しまっ……」

『死ねいっ』

 信じられないスピードで匍匐前進してきた動悸が、俺の胴着の裾を掴んだ。ヒット確定だ……。

 再び画面が闇に包まれ、えげつない打撃音だけが延々と響き渡る。

――きゃあああああ、メーターがあああっ!

 一気に減っていく体力ゲージを見た相川の悲鳴が闇に混じった。だがチクショウッ、暗闇の中、金属的な物でシバかれ続けている俺は、攻撃が終わるまで、ただ黙って殴られ続けるしかなかった。

 俺はその後十分殴られ続けた。そしてようやく、空間に〝地〟という大きな文字が現れ、闇が晴れた。俺の体力ゲージは、実に九割も削られてしまっていた。さすがシリーズ屈指の超究極必殺技「長地殺」だ。

「だが……おかげで怒髪天ゲージもマックスまで溜まった……。しかも、瀕死補正がかかって攻撃力もアップしているっ!」

 俺は起き上がるとすぐさま大ジャンプをした! 動悸の頭を高々と飛び越えて、奴のはるか後方に着地する。

 そして着地した瞬間、俺は蹴りを放ったっ!

『ぐふっ』

――何でっ!?

 俺のはるか後方でダメージを負う動悸に驚き、相川が声を上げた。

「これは、「はがし」と呼ばれる高等テクニックだ。敵後方への着地と同時に攻撃を出すことで、離れていても相手にヒットさせることができるのだ。もともとバグだったのだが、開発者のニクい心意気で、テクニックとして残されることになったんだ」

 解説しながらも、俺は次々と攻撃を繰り出した。きれいに技がつながり、はるか後方の動悸の体力ゲージが見る見る減っていく。

「これで終わりだっ!」

 動悸の体力ゲージが半分を切ったところで、俺はライバルとの試合を素早くキャンセルし、超必殺技をつなげた。

(しん)(しょう)(りゅう)(けん)っ!」

 神にすら勝ったと言われる二足歩行の犬より習いし正拳突きが、動悸の胸を打ち抜いた!

「ぐ……ぬ、ぬ、ぬおおおおおおっ――」

 動悸が崩れ落ち、空間に〝勝負ありっ〟という文字が現れた。

――やった!

「いや……」

――え?

 相川の歓喜に、このゲームの二十年の進化を知る俺は静かに応えた。

「動悸はこれしきのことで終わる(おとこ)ではない……」

 俺の言葉に呼応するように、動悸が体をゆっくりと持ち上げた。

『……その通りだ……』立ち上がった動悸の体が赤黒く光る。『我こそ、真なる武…………人として勝てぬのなら……人を超えるまでのことっ!』

――すでに人じゃないと思うけど……。

 動悸の目が漆黒から紅蓮に変わり、全身が目に見えるほどの禍々しいオーラに包まれる。

「来たか…………超絶的な身体能力と引き替えに、心拍数を千二百まで引き上げた、人を超越する存在…………深・動悸!」

 想像を絶する威圧感に、俺の額から冷や汗が落ちた。画面では何度も見たことあったが、実際に対峙するととてつもない迫力だ。

――異常すぎて、もはや驚きもないよ……。

『ゆくぞっ!』

 深・動悸が地面を蹴った!

――はやっ!

 前転、後転、側転、ロンダート。深・動悸がガトリングガンのような心音とともに、目にも留まらぬスピードでフィールドを駆け巡る。

『ぬははははっ、この動きについてこられるかっ!』

「くっ、なんてスピードだ……」

 確かにこのスピードは脅威だ。しかし、いくら速くとも、相手を倒すにはコンタクトしなければならない。勝機はあるっ!

『ふんっ!』 

――きゃっ!

 深・動悸の伸身新月面強パンチが俺の顔にクリティカルヒットした。

『終わりだっ!』

 深・動悸が即死確定コンボに入ろうとする。だが……、

「ふぁふぁっふぁふぁ(かかったな)……」

『なにいっ!?』

 俺は強引にしゃがみ強パンチを繰り出した! 相手の攻撃を受けながらも、それを無理矢理耐えて攻撃を返す特殊カウンター攻撃〝根性カウンター〟だっ!

『ぶほっ……』

 強烈なアッパーが動悸のみぞおちを捉え、奴の体が高々と舞い上がる。俺は奴を追って跳び上がった。

「そしてこれが、記念すべきバーサスシリーズ第一作目に採用され、多くのプレイヤーを熱狂の渦に巻き込んだ空中コンボシステム〝スカイレイヴ〟だっ! ダメージ判定の既成概念を覆したシステムをとくと味わえっ!」

 空中で五発のコンボが決まった。深・動悸が吹っ飛ぶ。

 俺は着地すると、前方に大ジャンプし、深・動悸が地面に落ちる前にパンチで拾い上げ、再び打撃を加えながら上昇していき、またしても相手を吹っ飛ばした。そして俺はまたしても大ジャンプで奴を追った。

『ぐふぁっ!』

 六十二撃目に放った俺の蹴りが、深・動悸の最後の体力ゲージを削ぎ落とした。

――今度こそやったの?

「ああ、俺は次の強い奴に会いに行く」

 着地した俺は、拳を握りポーズをとると、勝利コメントを発した。

――はい……?

 勝利ポーズを知らない相川が不思議そうにこぼした。と、その時だった。

『………………真に強きは……この動悸の他においてなし…………』

――あっ!

「なにっ!?」

『我に敗北なしっ』

 深・動悸が雄々しく両手を突き上げた。画面が突然真っ白になる。

「あ、あれは……」

 画面が戻った時、科学の力で生物を超えた動悸が立っていた……。

「ロボ動悸……」

――ロボっ!?

 身体の八割もが機械となり、背中にはジェットとウイングを搭載したバックパックまでついている。バーサスシリーズの裏ボスである。バーサスシリーズのシステムを使ってしまったことで、奴を出現させてしまったのか。

『行くぞっ!』

 ロボ動悸がジェットを噴射させてつっこんできた。

「ぐあっ!」

――田中君っ!

 金属化した身体を活かした激しい体当たりを食らい、俺はステージの端まで派手に吹き飛ばされた。満タンになっていた体力ゲージが一気に半分以上減ってしまった。

「ぐっ……」

(まずい…………バーサスシリーズの裏ボス相手に、一人では分が悪い…………)

『なに情けない顔してんだ?』

「!?」

――誰?

 振り向いた俺は目を疑った。おまえが来てくれるのか! 

「健っ!」

――味方なの?

「ああ、増田阿須(マスタアズ)(ケン)、通称健・増田阿須……」

――……その通称いるの?

「俺の無二のライバルだ。よく来たな、健」

 俺は立ち上がり、長髪茶髪、真っ赤な胴着の伊達男と拳を突き合わせた。

『おまえのドタキャンが気になってな』

「ふっ、なるほど。俺に力を貸してくれるか?」

『ああ、あんな機械、さっさとスクラップにして、勝負しようぜっ』

 健がニカッと笑い親指を立てた。

「ふっ、そうだな。よしっ、行くぞ」

『おうよッ!』

 俺達は腕を交差させてから構えを取った。

――あれ、ちょっとキュンときた。これが男の友情ってやつなのかな。

 健が、奴を引きつけようと、明後日の方向に走り出した。

『オラア、鉄クズッ! 耳は聞こえるのかあ?』

『何人集マロウト同ジコトヨ』 

――急にロボットっぽくなった!?

 ロボ動悸がジェットを噴かせ健に迫る。

『バカめッ!』

 健は、マッハ1で迫り来るロボ動悸の突進を、一発の弱パンチで完璧に殺すと、間髪入れず超必殺技を放った。

颯爽甚大足(さっそうじんだいそく)ッ!』 

 無数の峻烈な蹴りがロボ動悸に打ち込まれる。そしてその終いに天高く蹴り上げる。

『ルウ、あとは任せたぜッ!』

『おうっ』

 タイミング良く空中で待ち受けていた俺は、ロボ動悸が自分の間合いに入ると、超必殺技を発動したっ!

「空中っハリーケーーーーン・レッグ!」

 開脚し、竜巻さながらに高速回転した俺の脚がロボ動悸を襲った!

『グ、グ、ヌオオオオオオオォォォォォッ――――――』

 ロボ動悸の身体が粉々に砕け地上に降りそそいだ。空間に三度目の勝負ありが現れた。

――今度こそやったっ!

『ふ、あんなのに手こずってるなんて、腕が落ちたんじゃないのか?』

 着地した俺に、健が不敵な笑みを浮かべて言った。

「ならば試してみるか?」

 俺は構えを取った。

――え、まだ闘うの?

「いや、きっと形だけさ。このゲームは、こういうエンディングが多いからな」

『ほほう、いいね……』 

 健も呼応するかのように構えをとる。が、その時、

『我、万物を超越す……』

「!?」

『なんだ!?』

――まだあんの!?

 三人の注目が声の方へ注がれる。何もない空間に、黒い霧のような物が集まりその色をはっきりさせていく……。

「なんてことだ、ガス動悸まで出てくるのか……」

――ガス動悸!?

「そうだ、開発者の情緒の不安定さが生み出したと言われる幻のキャラクター。最新版のアーケードの裏ボスとして登場するんだが、そのあまりのチート級強さに、未だに勝利した者がいないとまで言われている……」

――そ、そんな! じゃあ、どうするの!?

「分からな……うっ!」

 ガス動悸が俺達に襲いかかってきた。俺は側転して回避行動を取ったが、レバーを引いて防御態勢を取っただけの健は奴に捕まってしまった。

「ケ、ケーーーーーンっ!」

『うわあああああああああっ』

 黒いガスに包まれた健の悲鳴と痛々しい打撃音がフィールドにこだました。

 そしてガス動悸が空中に浮き上がった時、姿を現した健の体力ゲージはなくなっていた……。

「な、なんということだ……」

――あ……あんなの勝てるわけないよっ!

 相川のかつてない悲痛な叫びが、俺の不安を増大させる。その時初めて、俺は心の底から負けを意識してしまった。

『なんじゃいっ、あのけったいなモンは?』

「――!?」

――誰っ!?

 俺は慌てて後ろを振り返った。そこにいたのはっ!

「い、厳島鈍八(いつくしまどんぱち)っ!」

――いつ…………何?

「厳島鈍八……『路上喧嘩』と並び、格ゲー界を牽引している『鉄筋』の主人公格だ……。八十近い高齢ながら、全世界を巻き込んだ親子三代による壮絶な喧嘩を繰り広げているという強者だ」 

――別のゲームなの?

「ああ、だが近年になってついにクロスオーバーを果たしたんだ。まさかこんな隠し玉が用意されていたとは……」

『俺もいるぜ!』

「なにっ?」

 俺は声の方向へ顔を向けた。まさか、ナムサンに加えてSMKまで参戦するとは……。パプコンの顔の広さに脱帽する!

 俺は感動のあまり声を上げた!

「スゲー・ハイテンション! おまえも来てくれたのか!」

――ハイテンション?

「格ゲー界のスリートップが揃ったんだ! 奴は『戦者の王』の中の『家老伝説』というシリーズの主人公、スゲー・ハイテンションだ!」

 二人が俺の前に立った。この感動的なシチュエーションに、俺は武者震いを止める術を知らんっ!

「お前達、手を貸してくれるのか……?」

『ああいう奴は、叩ける時に叩いておかんと、後々厄介なことになるからのお。思えばワシもあの時和也をちゃんと……』

『いいよォ!』

――ホントにテンションたかっ!

 スゲーが鈍八の言葉を遮って、着ていたジャケットを高々と放り投げた。

「ありがたい! し、しかし……見ての通り、奴はガス状で殴ることすらできない。どうするべきか……」

『ワシが何とかしよう』

 鈍八が一歩前に出た。

 スゲーが短く口笛を吹いた。

『ヘイ! じいさん、何か考えがあるのかい?』

 スゲーの言葉に、鈍八がふふんと鼻を鳴らす。

『伊達にこの年まで現役を勤めておらんわっ。若造とは抜けてきた地獄の数が違う。それより、ワシが作った機会を見逃すでないぞっ』

 宇宙空間からも自力で戻ってきたことがあるという鈍八が、肩を回しながらのっしりとガス動悸の方へ歩を進めていく。

『まさか煙と戦うことになろうとはな』

『老体がたわけたことっ!』

 ガス動悸が黒い霧となって鈍八を襲う。

『人であることから逃げた青二才が何を言うかっ!』

 鈍八が両腕を大きく広げ、上半身を屈めながら息を吐き尽くす。そして大きく息を吸いながら体を反らした。

『な、なにぃ…………』

――吸いこんだ!?

 体内にガス動悸を蓄えた鈍八がゆっくりとこちらを振り返った。その目を見た俺とスゲーは、即座にその意図を察した。

「なるほど……」

『その心意気、いいねえッ』

 スゲーが着ていたシャツを高々と放り投げ、飛び出した。俺もスゲーに続いて飛び出す! ガス動悸を、鈍八ごと討つために!

『力の間欠泉ッ!』

 間合いに到達したスゲーが思いきり大地を殴りつけた。と、鈍八の足元から激烈なエネルギーが噴き上がる!

『次はお前の番だぜッ!』

「おうっ」

 俺は両手を掌底の構えにして胸の前まで引きつけた。

「密封うぅぅぅぅ…………波浪拳っ!」

 気合を込めて突き出した掌底から、密封されていた大波が発射される!

『ふぅふぅふうふぁ、ふはぁふはぁふうふぅふぅふぉふぁっふぁっふぉ(若造ら、なかなかいい攻撃だったぞ)』 

 腕組みした鈍八は波浪に飲み込まれ、どこか遠くへ流されていった。

 フィールドに最後の勝負ありが表示された。

『いいねえッ!』

 スゲーがズボンを高々と放り投げた。

――何でこのキャラクターいちいち服を脱ぎ捨てるのっ!?

「そういう設定なんだ」

『その通りぃッ!』

 スゲーが最後の一枚をぬ……

――もういいからっ!




       * * *




 カプセルから出て服を着替えている間も、相川さんはまだデスクに両肘を突き、頭を抱えていた。相川さんの制止を無視したの全裸を見てしまったようだ。

 勝利ポーズがアップになる設定になっていないことを祈るばかりだ。

「だ、大丈夫……?」

 相川さんがこっちを振り向いた。表情がとても疲弊していた。

「あ、ごめん……。まさか最後まで脱いで、それがアップになるとは思ってなかったから」

 はい、祈り却下。僕は言葉を失ってしまった。

「あれは兄のさじ加減なのかしら?」

 相川さんが呟くように言った。

「あっ、いや、そういうカメラワークもあるから……原作を忠実に再現しただけだと思うよ……」

「も、ってことは、違うのもあるわけね」

「あっ……」

 僕はまたしても言葉を失ってしまった。そして僕は、女子が性的表現を見ると、恥ずかしそうに頬を赤くし、その結果何とも言えない心地よい気まずさが味わえるということが、実際は幻想なのだと学習した。

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