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ヒーローズ  作者: なかお ゆうき
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ステージ2 メカはロマン!②

――……田中君、ありがとう。

 ステージが真っ白なデフォルト状態になると、どこか疲れた感じの相川さんがねぎらってくれた。

「ううん、こちらこそ応援ありがと…………というか、いろいろ混乱して応援どころじゃなかったか……。なんかごねんね。見苦しかったら、これからはモニターしなくていいよ」

 変身して調子に乗ってしまう性質は不治みたいだ。ヒーロー厨の血がそうさせるんだろうか。変身していた時は気持ちよかったけど、戻ってくると消えてしまいたいくらいに恥ずかしくなる。

 そんな、体中を茹でたこのように赤くしている僕に、相川さんが優しく声をかけてくれた。

――ううん、確かにいろいろツッコミたくなるけど、逆にそれが、不謹慎だけど、おもしろかった。ははは。

 その時ふと、僕は思った。相川さんは、僕なんかと違っていつもキラキラして充実しているように見えるけど、こんな風に素朴に笑う姿は、近くにいる時は常にその動向に気を払っている僕ですら見たことがなかった。優等生マドンナでいることは、相川さんの自然体ではないのだろうか? 

相川さんのお兄さんは案外、そんな妹のためにこの装置を造り、彼女にこのゲームをせるために、仮想世界から出てこないのかもしれない。

(マンガ的に考えるとそれがピッタリだけど……)

――田中君ごめんっ!

「!?」

――ステージ2以降は敵が一人じゃないみたい! マニュアル見落としてた!

 相川さんが悲痛な声で説明する。やばい、こんな相川さんもかわいい。しかも嬉しいことに、その顔も想像できる。

(たった二日で、僕はおそらく一生かかってもできないようなレベルアップをしてしまったようだ。このスキル、大事にしよう……)

 僕は笑いながら応えた。

「き、気にしないで! 相川さんさえよければ、僕はまだ続けられるよ!」

――え、でも疲れてない?

「全然! さすが仮想現実ってだけあって、終わっても疲労は残らないし」

――でも……。

「そ、それに……僕も不謹慎だけど…………やってて楽しいんだ」

――……ホント?

「うん!」

――……分かった、じゃあまたお願いさせてもらうね。辛くなったらすぐイグジットしてね。

「はい!」




 少しすると、ステージが切り替わった。閑静な住宅地といったところか。

「さっきよりは時代が新しいか……」

(でも、二十一世紀物に比べたらまだまだ古さを感じる。七十~八十年代くらいだろうか?)

 断定しかねていたけど、僕は空を見上げて理解した。

「モロニーだっ!」

――もう分かったの?

「うん! ここは、宇宙空間に造られた人口の植民地。『起毛戦士モバイルコート』の舞台だ」

――モバイルコート……。

「これもすごい作品だよ。鉄の人28人と同じロボット物なんだけど、リメイク回数の多さが鉄の人なら、モバイルコートは派生作品の多さ。アニメ、OVA、漫画、小説、全部合わせたら二百ぐらいいくかもしれない」

――そんなに!? すごい人気だね!

「うん、本当にすごいよ! 知名度はワールドワイドだし、もうロボット物といえばモバイルコートってくらいに認知されてるし」

――すごいね、他のと比べて何がそんなに違うの?

「まさにエポックメイキングをしたんだよ! 鉄の人に始まったそれまでのロボット物は、正義のロボットが、世界征服なんかを目論む完全な悪役を倒すっていう分かりやすい構図で、誰もがその黄金律だけは当然のものだと思っていたんだ。だけど七十年代末に始まったモバイルコートは、そんな既成概念をあっさりと覆した」

――でも、悪役を倒さなかったらそもそもこういう話は成立しないんじゃ……。

「いや、そんなことなかったんだよ。モバイルコートは、主義思想の違う人間同士のリアルな闘いを描いたんだ。国同士の戦争をイメージするといいかも。どちらの側の人間も同じように家族や友人を持ち、その大切な人達を守るためにロボットに乗って相手と戦うんだよ。一応、主人公がいる方が正義の味方サイドってなってるけど、どっちが善でどっちが悪かってのがなかなか決められないんだよね」

――なるほど、その世界では、ロボットは戦車や戦闘機みたいなものなのかしら。

「あ、うん! そんな感じ! その中に超高性能な物があるんだ」

――それが主人公のロボットなのね。

 さすが秀才! 理解力が高くて解説しがいがある。

――じゃあ、キャラクターはどうする?

「あ、えっと……」

 僕は言葉に詰まってしまった。このシリーズは無数に主人公が存在する。このステージに合いそうな主人公だけでも十人くらいは挙げられる。

(でも、この場合はやっぱり……)

 そう思った時、爆音が轟き、暴風が巻き起こった。モロニーの隔壁に穴が開き、中の空気が宇宙空間に逃げ出したんだ。

 僕はその穴に目をやった。すると、大きな穴から一機のモバイルコートが飛び込んできた。

それは期待通りだった。僕は敵の名前を口にした。

「赤い水性の…………ペンっ!」

――赤い水性ペン?

「全シリーズ、主人公も含めた千を超えるキャラの中でもダントツの一番人気、ペン・アカイロダだよ! 赤い水性っていうのはペンの二つ名で、機体のカラーリングがすべて赤い水性インクで施されているからなんだ!」

――……それ、なんか意味あるの?

「きっと赤い水性インクが大量に余っていたんだよ! ごめん、ちょっとテンション上がっちゃった。主人公のアモロ・エイをお願いします!」

――あ、は、はいっ!


 僕の服装が白地に赤いラインの入った厚さ1ミクロンの全身タイツへと変わる。パイロットスーツと宇宙服を兼ねる、連峰軍特製のアブノーマルスーツだ。

「うっ、そしておあつらえ向きじゃないか、いつの間にかモバイルコートがいる……」

 ボクは、後ろで仰向けに設置されていた機体に乗り込んだ。

「これが連峰のモバイルコート……これはレバー、はは、起毛がついてるや。……暖かい……これがママァのぬくもり……」

 ボクはママァのぬくもりを感じるレバーを愛でた。

――ちょっと! 田中君何してるの!?

 いつの間にか手つきが官能的になっていたのかっ、ミスズさんがすっとんきょうな声を上げた。

「べ、別に……そんな声を出さなくてもいいじゃないですか……。ちょっと感触を確かめてただけですよ」

――いや、べ、別にいいけど……ちょっと変な雰囲気だったから……。

「これだから女ってやつは……。すぐに変なことを連想するんだ。分かりましたよ! 今動かします!」

――わたし、このキャラクター好きじゃないかも……。

(ちいぃぃっ……ボクだって、普通にできればそうするんだ! でも、ボクの血が許さないんだ、しょうがないじゃないかっ!)

 ボクは悔しくて悔しくて強く奥歯をかんだ。そしてボクは荒々しく受話器を取った。

「も……もしもし、サポートセンターですか? ボクの名前はアモロ・エイです。モバイルコートの機動方法を教えて下さい」

――サポートセンターっ!?

「今電話中ですよ、ちょっと静かにしていて下さい!」

――わたし、やっぱりこの人嫌いだ。

「たくっ……あ、いえ、すみません、お願いします。……はい、レバーを引いて上半身を起こす、はい……次にレバーを……前に倒して立ち上がる……な、なんて複雑なんだ! どうして父さんは、もっと操作しやすいように造らなかったんだっ! あ、いえ……それで次は……え、レバーを動かしていれば勝手に戦う? ううう、やるしかないのか……」

 受話器を戻したボクは、言われた通りレバーを手前と前方に倒した。モバイルコートがゆっくり立ち上がった。

「で、できた……よ、ようし……やってやる、やってやるぞお……アモロ、行ってきまーす!」

 ボクは再びレバーを手前に引いた。モバイルコートが猛スピードで飛翔したっ。

『来たなっ』

 なんてことだっ……当然のようにペンの声がコックピット内に流れ込んでくるじゃないかっ! さすが戦闘中の会話を大事にする作品! 無回線会話はお手の物ということかっ!

「ミスズさんが不機嫌なんだ、さっさと倒させてもらうぞっ」

『ふっ、女如きに振り回されているようではたかがしれるっ』

「な……!」 ペンの挑発にボクは激しく憤った。「な、何言ってんだっ! おまえこそ……いつまでもママァを引きずってるじゃないかああああああ!」

 ボクの言葉に動揺し、ペンの表情が一変した。

『なっ!? 私がママァを引きずっているだと?』

――このやりとりは何……。

「そうだ! だからおまえはいつまでも前線に出るんだっ! 相手を討つことで、ママァを失った悲しみをまぎらわせているんだっ!」

――ありゃ? 無視ですか?

『……くっ、私がそんなちっぽけな男だいうのか…………おもしろい、ならば私を討ってそれを証明してみろ!』

「だから、そういう物言いがナルシストだと言うんだあああああああああ!」

――おーい、田中くーん。

 丁度いいタイミングで、ボクはペンの間合いに入った。刃の代わりに長大な起毛を取り付けた起毛サーベルでペン専用ザコを斬りつけるっ。

「なんだってっ!?」

 直撃したはずなのにっ!? ペンの機体は少し塗装がとれただけだった。

――いや、そんなフニャフニャの剣じゃ、そうなるでしょ……。

『甘いっ』

 すかさずザコが代名詞のヘッドバッドを繰り出す。ボクの機体が後方に吹っ飛んだ。

「うわあああああああ――――」

 距離が空いたところで、待っていましたとばかりに、ペンはすかさず独白を叩き込んだ。

『実力を伴わない大口は、若さゆえの特権だが、それも使う時を見誤れば命を落とすことになる』

――この敵、確かに自分に酔ってるわね……。 

「な、何度言ったら分かるんだ…………だからそういう……っ!」

 意図せず温かさに包まれ、ボクは途中で言葉を失ってしまった。突然言葉を途切れさせたボクをペンが不審がる。

『ん? 何だというのだ?』

「ふかふかだ……これは、ママァの膝枕……?」

――えっ……?

 起毛をふんだんに用いた起毛シールドが、倒れた拍子に機体の頭の下になっていたみたいだ……。そのぬくもりに気がつき、ボクは得も言われぬ安らぎを見た……。

 ペンの顔が苦渋ににじんだ。

『ちっ……アモロめ……』

――そこ悔しがるの?

 ペン専用ザコが通常の〇・三倍という驚くべき速度でゆっくりこっちに向かってきた。

『貸してもらおう、連峰軍の上起毛のシールドとやらを!』

 右手を伸ばしたペンが、立ち上がったボクの眼に迫る。

「そんなに欲しければくれてやるっ」

 ボクは起毛シールドを高々と放り投げたっ。

『なんだとっ!?』

 ペンの機体が直角に方向転換し真上に昇っていく。

「今だっ!」

 ボクは足を大きく広げ、起毛ライフルを天空に向けて構えた。あまりに上半身を反りすぎたため、正面から見たら、機体の頭部は完全に消えているかもしれないっ。

 ボクは再び受話器を取った!

――何で?

「あ、たびたびすみません。さきほどのアモロです。ライフルの発射方法が難しいので、遠隔で代わりに発射して下さい!」

――パイロットの意味ない……。

 懇切丁寧なサポートセンターの方の遠隔操作でライフルが発射される! 接着剤でトゲのように加工された起毛弾がペンの機体を打ち抜いたっ!

 ペンの無念の声がコックピットに流れ込んできた。

『ぬ、ぬ……ぬうううううぅぅぅぅぅ…………ママァ、私が間違っていたというのか……』

――てか、ママァって誰よ……。 

 ペンの機体が爆発し、輪郭の異様にくっきりしたピンク色の爆光を発した。

 その光を見たボクは思わずつぶやいていた。

「ペンには帰れるところがなかった…………ボクにはある、こんなに嬉しいことはない……」

――……………………。

「帰ろう、ミスズさんのところへ……」

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