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ヒーローズ  作者: なかお ゆうき
19/20

ステージ7 ジ・エンド・オブ・ストーリー

「物語の終わり方なんて基本的には二通りしかないのです。いわゆるハッピーエンドとバッドエンドですね。他の人はどうか知りませんが、作中で主人公を闘わせうんと苦しませるなら、僕はそいつにハッピーエンドを用意してやりたいですね」

                高倉 成彰






 LAST DAY 日曜日、相川邸地下研究室。

「いよいよ最後だね……。本当に今までありがとう。とても感謝しています」

 神妙な顔をしたあと、相川さんはニコッと笑った。今日の相川さんは、キャラメルと黒のボーダーシャツの上にグレーのジャンパースカートという出で立ちで、まるでファッションモデルだった。チョーかわいい。

しかもさらになんとっ、本邦初公開、今日の相川さんは、体育の時のシンプルポニーテイルではなく、毛先を遊ばせたおしゃれシングルサイドポニーテイルなのだ! 鬼にエクスカリバー級のかわいさなのだっ、相川さん……キミはそこまでかわいくなってどうしようというんだい? バス停からもうけっこう長いこと一緒にいるのに、まだ相川さんのかわいさに慣れていない僕は、緊張して、いまだに彼女をうまく見ることができなかった。

「ううん、僕の方こそ、貴重な体験をさせてくれてありがとう。あっ、これはお兄さんにも言わないとね」

「いいわよ。こんな兄にお礼なんて……」

 相川さんがお兄さんの入っているカプセルの方を向き視線を落とした。

 僕もカプセルの中で眠る相川さんのお兄さんを見た。月曜日の午後に初めて見た時と少しも変わらない姿がそこにはあった。でもそれは、まだ六日だから分からないだけなのかもしれない。相川さんだったら、髪の伸び具合や、体のやせ具合とかで分かるのかもしれない。なんせお兄さんは、二ヶ月以上もこの中で眠り続けているのだから。

 しかも、自ら望んで。常人には考えられない行動だ。

 ただ、そのおかげで僕はここにいることができたんだ。憧れの相川さんと一生分以上の会話をし、何度生まれ変わっても決して見ることのできない様々な一面を見ることができ、そして、二人で力を合わせて一つの目標に向けて闘えた。

 みな宝物だ。相川さんはいい顔しないかもしれないけれど、お兄さんを助け出せたら、やっぱりまずお礼を言いたい。

 僕はそう自分の気持ちを再確認すると、相川さんに顔を向けた。

「さあ、行こう。相川さんのお兄さんに会いに」



 

       * * *




「あれ、もうステージが出来上がって……うわっ!」

 ありきたりなアニメ風市街地に現れた僕は、遠くに見えるバカでかい敵に驚いた。

「相川さんっ! もう始まってるみたいだよ!」

 僕の驚いた声に、同じく相川さんも驚いた声で応える。

――こっちもモニター切り替えて驚いてたところだよ! どうなってるの?

「そ、そんなこと言われても……」

 僕は巨大な敵を観察した。見たことないキャラだ。ロボットのようであり怪獣のようであり、巨大な人間のようでもある。いろんな敵キャラの要素が混じっているようだ。こんなのが登場する作品なんてないだろう……ということは……。

「こいつが最後の敵かも……」

――えっ?

「しかも、おそらくオリジナルのキャラだよ……」

――それじゃあ……どうやって闘うの?

「分からない。でもステージが始まってたってことは、相川さんのお兄さんは、このフィールドのどこかにいるんじゃないかな。敵も襲ってはこないし、まずはお兄さんを捜そうと思う」

「ご明察」

――あっ!

 近くの建物から出てきた人物を見て、相川さんが驚きの声を上げた。

「もしかして、相川さんの……」

「そう。兄の(ただし)です。妹が世話になったようだね」

 相川さんのお兄さんが微笑んだ。

「あっ、いえ、そんな……とんでもないですっ! 田中といいます! こちらこそありがとうございました!」

 僕はとっさに頭を下げた。正さんがキョトンとする。

「なんで、君がお礼を言うの?」

「あ、いえっ、なんとなく……」

「ははは、変わってるね。ま、あんな得体の知れない物に入ってこんなとこに来るくらいだから、変わってて当然か。それにしても、やっぱり美鈴の知り合いが来たか」

「やっぱり……?」

 僕の疑問には答えず、正さんは外にいる相川さんに話しかけた。

「美鈴、久しぶりだな……」

――…………。

「初めは自分が来ようとしたんじゃないのか? でも無理だったんだろ? おまえは、って俺もそうだったけど、昔からマンガとかアニメにほとんど触れてこなかったからな」

――…………。

 正さんが僕の方を向いた。

「この中に入ってまで自分のことを助けようとするのは、家族の中で美鈴だけだと思っていたんだ。父さんは、部外者に家の恥を知られるくらいなら、俺のことなんか見捨ててしまうだろうし。母さんは、父さんに逆らえないからね。ま、君もうっすらとは聞いてるとは思うけど」

 そこまで聞いて僕は、自分の使命を再認識した。僕は正さんに訴える。

「そ、そうですっ! 美鈴さんはお兄さんを助けるため、お父さんの言いつけを破ってまで、僕に頭を下げたんです! とても心配しています! 戻ってあげて下さい!」

 正さんが小さく笑った。

「そっか、悪かったな、美鈴」

――なによそれ……。

「?」

――なんでそんなにヘラヘラしてのよっ!

「ひっ……」

 相川さんの聞いたこともない怒声に、僕は思わず声を漏らしてしまった。

「美鈴……」

――あんたがそんなとこに閉じこもって以来、わたしがどれだけ心配したと思ってんのよっ! 自分が何をしたか分かってんのっ!? そもそもなんでこんな馬鹿なことをしたのよっ!

 フィールドに相川さんの荒い息づかいが響く。

――なにが不満なのよ……父さんに期待され、一流の教育を受けて、次期社長候補…………それだけ恵まれているのに不満を持たれたら、何にも期待されていないわたしはどうしたらいいのよ……。

「あ……」

 僕はなんとなく理解した。相川さんにとって、お兄さんは憧れだったんだ。事情を話してくれた時、お兄さんが今回の事態を引き起こしたのは、親の期待が重荷になったからではないかと冷静に分析していたけど、それは心から納得のいく答えではなかったんだ。

 なぜなら、憧れのお兄さんが、あっさりと自分の人生を否定するような行動を取ったことは、相川さんにとっては自分の憧れ、すなわち価値観を踏みにじまれたのと等しい行為だったからだ。

 そう簡単に納得できるはずはない。今回のことは、相川さんにとっても、人生の意味を問われる重大な問題なんだ。だから、相川さんは抑えきれないほどに憤っているんだ。

「恵まれているか……。美鈴にはそう見えてたんだな……」

 正さんがどこか寂しそうに呟いた。

――そう見えてたってなによっ! 誰がどう見ても恵まれてんじゃんっ!

「何に?」

――え……。

「俺は何に恵まれていたんだ? 生活か? まあうちは裕福ではある。でも俺の人生は勉強ばっかりだ。同級生達がやっていた遊びやゲームなんてほとんどできなかった。得た物もあったが、得ることができなかったことも決して少なくない。果たして俺は恵まれていたんだろうか……」

――で、でもっ……。

「じゃあ、教育機会に特別恵まれていたと言おうか。確かに物心がつかないうちから、みっちり英才教育を受けてきた。でもな、美鈴。愛情のない英才教育ってさ、すごく辛いんだよ」

――……え?

「おまえは、俺だけが熱心に教育を受けて、さぞかし親の愛情も大きいことだと嫉妬してるかもしれない。けどな、親は俺がかわいくてとか、俺の幸せを願ってとかっていう理由で教育を施したんじゃない。ただ優秀な跡継ぎを作り、相川家の繁栄を維持することだけが目的なんだよ。その中に、俺の幸せっていう項目なんかありゃしない。んで、あんな父親だろ? 俺と接する大人達は、常に俺の背後の父親を見ているし、同級生も同級生で、超お坊ちゃまという色眼鏡越しに見てくる。俺はな、美鈴、むしろお手伝いさんや、学校の友達と笑いながら世間話できるおまえがうらやましかったよ。これからも、少なくても父さんが死ぬまでは、誰一人として普通には接してくれない人生が続くんだろう。金や名誉があっても……そんな人生はつまんねえよ」

――……。

 相川さんは何も応えなかった。いや、応えられないのかもしれない。自分が思いもしなかったお兄さんの言葉を聞いて。人が普通に接してくれないとはどういうものなのだろうか。僕も多くの人に普通に接してもらえない。その気持ちと同じなのだろうか。

 いや、それでも僕には、こんな引きこもり予備軍のどうしようもない人間の幸せを願っている親がいる。いまだに幼児の時と同じようにお菓子をくれる近所のおばちゃんがいる。そして…………後藤という、僕が受ける対人ダメージのいくらかを引き受けてくれる同志がいる。相川さんのお兄さんと比べてなんと恵まれていることだろうか。僕なんかより恵まれていないんだ、人生に嫌気が差すのも無理ないのかもしれない。

 重苦しい沈黙が続いた。僕も相川さんもこの雰囲気を変える言葉を出せない。でも、相川さんのお兄さんは違った。

「でもな、美鈴。おまえだけは違った」

――え……?

「愛のない英才教育で人格が歪んでしまった俺に対し、おまえだけが憧れと心からの尊敬をもって慕ってくれた。それだけが、俺と世界をつなぐ唯一の物だった。だから、もし俺を助けようとする人がいるなら、それは美鈴だと思っていたんだ」

――お兄ちゃん……。

「俺は本当に死んでも良かったんだ。こんな軽い言い方だと冗談みたいに聞こえるかもしれないが、そう決心したら、不思議と気持ちが楽になってね。今までの俺の人生と全然関係ない、やってみたかったことをやりながら死ぬわけだし」

 正さんがカラカラと笑った。本当に陰鬱さは感じられない。それほど自分に課せられていた宿命の重圧が大きかったということだろうか。

「でも、もし美鈴がここまで来てくれて、俺の気持ちを聞いた上で、それでもまだ兄として認めてくれるなら、俺は戻って人生を一からやり直す気力を持てると思っていたんだ。なあ、こんな兄に幻滅したか?」

――…………した。

「なんだって?」

――幻滅したっ! ……ひっく。

 相川さんが泣きながら叫ぶ。

――そもそもこんなことをして、みんなに迷惑かける時点で幻滅してたよっ! しかもそれだけじゃなくて、人生をやり直すかどうかをわたし任せにするなんて、もっと幻滅したっ! わたしの憧れていたお兄ちゃんはこんなことする人じゃないっ!

「美鈴……」

「相川さん……」

――でもいなくなるよりはましっ! 迷惑かけた人達に謝って……お兄ちゃんの思うように人生をやり直してっ!

「……っ! …………ありがとう」

 相川さんのお兄さんの目がキラリと光った。二人の思いがつながった! 嬉しくてテンションが上がる。僕は頬を濡らしていた涙を拭き、思わず口を開いた。

「そうと決まったら早く戻りましょう!」

 言ってしまってちょっと不安になったけど、相川さんのお兄さんは笑顔で僕の言葉を受け取ってくれた。

「そうだね。……それで悪いんだけど、あと一回、力を貸してもらえないかな?」

 正さんがニコッと笑った。

「え? は、はい……それはかまいませんが……」

「君達がここにこなかったら、俺はこの世界を死ぬまでループして堪能しようと思っていたんだけど、あの敵、見えるだろう?――はは、こっちの準備が整うまで大人しく待ってやがる――あれは俺のオリジナルなんだけど、思いのほか強く作りすぎたらしい。いろんなキャラをためしてみたんだけど、一人じゃ歯が立たなくてね」

「な……なるほど、分かりました! お手伝いします!」

「ありがとう。ギブアップって手もあるんだけど、どうせなら、な?」

 相川さんのお兄さんがウインクした。僕は力いっぱい返事した。

「もちろんです!」

「よしっ! キャラは何でも平気だから、好きなのを選んで」

「はいっ、じゃあ……相川さん! 『仮装ライダー一号』をお願いっ!」

――え、あ……は、はいっ!

「いいよ、美鈴」

――えっ?

 相川さんのお兄さんが空中にキーボードを出現させ、素早く入力する。

「キャラは全部頭に入っているよ」

「さ、さすがですっ!」


 正さんへの尊敬の眼差しとともに、僕の体が変化し始めた。

 そして私の体は、ダンボールと布で作り上げたカメレオンの仮装に包まれたのだった。ヒーローの代名詞、五十人いる仲間の記念すべき一号、そう、私こそが、敵に送られた塩で育った反骨のヒーロー、『仮装ライダー一号』だ!

「では、俺はこれでいこう」

 正君が巨大化、機械化していく。

「おお、これはすごい! 超合金ロボットの雄、『オフクロガーS』か! うむ、こいつは頼もしい!」

 私は全高五十メートルに迫るロボに胸を熱くした。超合金を惜しげもなく使用したあの恰幅のいい胴体を見ろ、超合金加工の限界を超えた美しい流線形をしたあのパンチパーマを見てみろ。さすが全ロボット界の番を張るだけのことはある。モバイルコートも、福音も、彼女の前では赤子同然だ!

 同世代のヒーローの登場に嬉しくなってしまった私は、思わず号令をかけた。 

「正君! いくぞ!」

 言うや、私は敵に向かって駆け出した。

「え? ああ、きみ……なんか性格変わってない?」

 正君が私の背中に言葉を投げかける。それに答えのは、私でなく美鈴さんだった。

――田中君はキャラに入り込んじゃうみたい。

「へえ、俺よりこの世界を楽しむ人がいたとは」

 正君は小さく笑うと、オフクロガーを始動させた。空を飛ぶオフクロガーの速度は凄まじく、懸命に走る私の仮装を猛烈に煽り、あっという間に私を追い越してしまった。

(ま、まずい……このままでは私の出る幕がないかもしれん……)

「正君! 待ちたまええええ!」

 私は飛ばされた右前足を回収しながら絶叫した。

 オフクロガーが急ブレーキをかけてこちらを向いた。

「な、何だ……!?」

 私は必死に走りながら叫ぶ。

「あの敵の名前は何というのだ!」

「何? ……ああ、そういえば決めてなかったな……」

(しめたっ!)

 正君の動きが止まった隙に、私は頑張った。二足歩行のカメレオンが走って、走って、走るっ! 途中何度、この邪魔な段ボールを捨て去ろうと思ったことか!

 しかし私は、正義のお約束を胸に、どうにかその誘惑を抑え、ついに、思案しているオフクロガーを抜き去った!

「そうだなあ…………ザ・ヒールとでもしとこうか」

「な、なるほど……はあっ……ザ……ヒールか…………おえっ。……おいッ、ザ・ヒール! きさまは私が倒す!」

 私はオフクロガーの倍はあろうかという巨大なザ・ヒールに向かって高く跳び上がった。

「あ、おいっ……」

「仮装オオオォォォォォォォォォキィーーーーーーーックッ!」

――低っ!

 ザ・ヒールの足の極めて下部に、私の豪快な跳び蹴りが突き刺さった!

『グュワアアアアアアッ!』

 私の強烈な蹴りに、ザ・ヒールが悶えた。

 私の後ろでは、オフクロガーが両手に包丁を構えていた。

「いいぞっ! よし、ならこっちはこれだ! ロケットボウチョオオォォォォォォォォォ!」

『ギョオオォォォオォォッ――――!』

 ロケットエンジンを積んだしゃれにならない凶器が胴に刺さり、ザ・ヒールが悲鳴を上げた。

「さすがオフクロガーだ! これほどまでに戦慄を覚えるヒーローを私は知らない!」

「やったかっ!?」

『グュッイキュッゴオオオオオオオオオッ!』 

「ぬっ!」

「なっ……」

 私とオフクロガーは目を疑った。ザ・ヒールが倒れず私達に襲いかかる。

『グワアアアアアッ!』

 ザ・ヒールの強烈なパンチが、私が苦心して作り上げた仮装を突き抜け、私を激しく吹き飛ばす。

「ぬおおおおおおおおっ――――」

「田中く……う、うわあああああっ!」

 ザ・ヒールがオフクロガーにドロップキックをかました。一万トン以上あるオフクロガーの巨体が、弾丸のように飛んでゆく。

――田中君っ! お兄ちゃんっ!

「ぐ、ぐ、ぐ…………」私はなんとか体を起こした。「わ、私のコスチュームが…………な、なんという強さだ……」

「まさかこのメンツでもダメとは……」オフクロガーも大地を揺るがしながら立ち上がる。「まいったな……より強いコンビを探さないと………………」

「いや、変える必要はないっ」

 私は一つ妙案を思いついていた。 

「え? しかし、あいつは俺達の必殺技を食らってもピンピンしているんだぞ?」

 私は散らばった段ボールと布切れを、涙を堪えながら集め、それらをガムテープで補修すると、強い決意をもってオフクロガーに言った。

「ああ、だから増やせばいいのだ……」

「……?」

 私は目をカッと見開き天を仰いだ!

「美鈴さんっ! 君も闘ってくれっ!」

――え……っ!?

「な……っ」

「君の力が必要なのですっ、私達と共に闘おうじゃないか!」

――……。

「美……鈴?」

――………………分かった。……うん、分かった! わたしも闘う!

「フッ」

 興奮が頂点に達し、私の口からは笑いが漏れた。そうなのだ、私達に欠けていた最後のピースは、相川美鈴だったのだ!

 数分経って、美鈴さんがフィールドに姿を現した。

「わ……わたしはどうすれば……」

「何かなりたいヒーローはないのですか?」

「……え、えっと……ごめん、ちょっと……急だったから……」

 美鈴さんが視線を落とし、どこか居心地でも悪そうにもじもじしている。

(ん? なぜこれほどに緊張しているのだ? 初めて来るわけではないだろうに)

 私は頬をボリボリと掻いた。が、段ボールに邪魔されて掻くことができなかった。

「そうですか、それは弱りましたね。なあ、何か美鈴さんピッタリのヒーローはいないものだろうか?」

 仕方がないので私は、正君に尋ねてみた。

 オフクロガーがふむと言って口を開いた。

「……どうかな、デルというのは?」

 私の興奮が再び灯った!

「デルというと、あのデル・オンラインか!?」

「デル……オンライン……?」

「そうです! パプコンの世界的ゲーム『IT HZARD』の女性捜査官デル・オンラインです! あらゆる武器に精通した大した女ですよ!」

「そ、そうなんだ……じゃあ、そうしようかな」

 美鈴さんが控え目に承諾した。オフクロガーがキーボードを出現させた。

「そうか……じゃあ」

 すでにセクシーだった美鈴さんが、スーパーモデル級のセクシーさを獲得した。体のラインをくっきりと写すグレーのボディスーツに、黄色の腰巻きポーチと二つのホルスター、数々の企業と渡り合った凄腕捜査官の登場というわけだ!

「これが……わたし……」

 美鈴さんが自分の体を見つめる。

「似合っていますよ、美鈴さん!」

 私はフッと笑い親指を立てた。

「そ、そうかな……」

「美鈴は援護を頼むな」

「あ……う、うん……」美鈴さんがホルスターからぎこちなくハンドガンを抜いた。「分かった……」

「よし、では田中君、行くとしようか」

「ああ!」

 私とオフクロガーは再びザ・ヒールに向かった。

「ぬっりゃああああああああ!」

「うおおおおおおおおっ!」

 私とオフクロガーは、激しく暴れるザ・ヒールの攻撃をかわしながら打撃を加えた! オフクロガーがおもに上半身を攻め、私は下半身の極めて下部を一生懸命攻撃した。

 だが、ザ・ヒールの勢いは一向に衰えない。

「や、やはり俺達だけでは……」

「美鈴さーーんっ! 何をしているんです、早く撃って下さーーーーいっ!」

「う、うん……」

 美鈴さんがハンドガンを両手で構え引き金を引く。だがしかし、その弾はザ・ヒールに皮膚を凹ますことなく落ちてしまった。

「い、威力が弱いか……?」

「美鈴さんっ、そんな小さいのではダメです! ロケランを撃って下さい!」

「ロ、ロケラン……?」

「ロケットランチャーのことです!」

「ど、どうやって……」

『ギュワオオオオオオオーーーーンッ』

 まずいっ、ザ・ヒールが見境なく手足を振り回したっ。

「ぐわっ!」

「がっ……!」

 私とオフクロガーが激しく吹き飛ばされる。美鈴さんが慌てて駆け寄ってきた。

「だ、大丈夫っ!?」

「う、うむ……」

「あ、ああ……」

 私達はどうにか体を起こすことはできたが、ふらつき、立ち上がるのもままならない。体全体を覆っていた私のコスチュームはどこへやら、頭と体の大事な所を残してそのほとんどが霧散してしまっていた。

「ごめんなさいっ、わたし、わたし……」

 美鈴さんが涙を浮かべて謝る。

「き、気にすることはありませんよ……」

「美鈴はヒーロー物の作品のノリがよく分からないんだろうな。この世界では、なったつもりっていうのも重要なファクターだからね……」

 沈黙が流れた。私の体に張り付いている段ボール片が風にたなびく。

 やがてオフクロガーが口を開いた。

「やはりギブアップしかないか……」

 ハッ!! いいことを思いついたぞっ! 私の目が輝く。

「なに、最後に美鈴とこんな遊びが出来ただけでもいい思い出に……」

「ダメだっ!」

「え……」

「ん?」

 美鈴さんとオフクロガーが私に注目する。

「ギブアップなどしない!」

「なっ……田中君、気持ちは分かるが……」

「まだ手はある!」

 私はオフクロガーによじ登り、耳打ちをした。

「……………………なっ! …………むう、そうか……ふむ、やるだけの価値はあるかもな」

「?」

 私は慎重に下り、美鈴さんの前に立った。

「変身です」

「え?」

 言うや、美鈴さんの体が変化し始める。スーパーモデル的ナイスバディから、アニメ的ナイスバディへと変化し、髪もピンク色へと変わる。

「きゃあああっ!」

「むっ!」

 変身して自分がどんな格好になったかを知った美鈴さんは、絶叫してしゃがみこんだ。

「な……なに、この格好っ!?」

「あなたは、『ハレノヒV(ボランティア)』のアイドルヒロイン、人呼んで〝銀座の歌姫〟マレニ・ノウムになったのです! そのコスチュームは、セクシー女王様バージョンですね!」

 ホットパンツにロングブーツ、そしてなんといってもサスペンダーブラ! 胸を隠してしゃがんでいても背中が丸見えだ!

「じょ、女王様……? ねえ、この衣装なんとかなんないのっ?」

「それは……」

 私はオフクロガーを一瞥した。オフクロガーが巨大な衝突音を立てながらパンチーパーマを掻く。

「……悪い。ただどうしても嫌だっていうなら別のキャラを考えよう」

「………………。ねえ、田中君……」

「はい、何でしょう?」

「このキャラクターなら…………二人の力になれるの?」

 私は期待に胸が熱くなった。

「はい、間違いありません! マレニは実際には闘いません。しかし、愛する者への魂の〝声〟で、闘っている者の力を引き上げるんです! 魂込めて声援を送る! そうすれば私達は無敵になれるのです!」

 私は前に出した拳を強く握りしめた! 

 美鈴さんはしばらくうずくまったまま考えていた。だがしかし、やがてゆっくりと立ち上がった。その顔は、心なしか何かを吹っ切ったように感じられる。ただ、胸は両腕で隠したままであったが。

「わたしにこんな裸みたいな格好させて、負けたらただじゃおかないんだからねッ」

「マレニっぽいっ!」

 上目遣いの照れ睨みを見て、私は思わず叫んでしまった。ステージ2のアラナミ零以来の奇跡到来か!

「ほらッ、このマレニ様が応援してやるって言ってんだから、さっさと闘ってきなさい!」

「は……はいっ!」

 私は訓練された犬のように飛び出した。なんなのだこの感覚は? 厳しい口調で命令されたのに、か……快感っ…………。

 そんな私の興奮を察知し、最高速度が音速に達する我が愛車である、段ボール装甲を施した三輪車、台風号が駆けつけてきた。私はこれ幸いと台風号に跨った。

 私がザ・ヒールにすっ飛んで行ったのを確認すると、マレニ様はオフクロガーに向いた。

「正ッ! あんたもさっさと行って、ちゃちゃっと片づけてきなさいっ!」

「美鈴……おまえ変わったな」

「誰よせいよ……ふんッ」

 中でフッという微かな笑いがしたのと同時に、オフクロガーが飛び立った。

 マレニ様は、胸を隠すのに使っていた腕をほどき、胸の前で祈るように手を組んだ。

「キーミはダァレとハッグをする…………」

 なんと! フィールドにマレニ様の歌が響き、ステージエフェクトが発生したではないか!

 私とオフクロガーは、マレニ様が作り出す幻想的な特殊空間の中、吸いこまれるようにザ・ヒールへと接近した。

「今度は俺からいこう」

「そうか、では頼んだぞオフクロガー!」

 オフクロガーは超合金かっぽう着を脱ぎ捨て、だらしなく垂れ下がった乳房を露わにした。そして、乳頭がポロリと取れる。

「くらえっ、胸火イイイイイイィィィィィィィィィィッ!」

『ブゥオォオォオォオォオオオオオ――――ッ』

 空前絶後の威力を誇る二門の火炎放射がザ・ヒールの包み込んだっ!

「今だっ、田中君!」

「おうっ!」私はスロットルを全開にした。「音速体当たりっ!」

 音速まで加速した私と台風号が、すでに灰と化したザ・ヒールに迫る! 風圧で跡形もなく消え去ったコスチュームなどもはや関係ない!

「勝てば官軍っ」私は覚悟を決めた。「負ければ変質者あああああああああああああああああああっ」 

 全裸の私を乗せた台風号が高く跳び上がった! その時!


「タナカッ、いっけえーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


 マレニ様の絶叫に後押しされた台風号が光速まで加速した。

 「へ?」と思った時にはもう遅い。

 私と台風号は、目の前の灰を突き破り、どこまでも進んだ。

 止めることなどできやしない。

 そして私達は、星となり、二度と戻ることは叶わなかった。




「タ、タナカは…………?」

 いつまでたっても戻らない私に不安を覚え、マレニ様が動揺した。

「彼は命に替えて敵を倒したんだ……」

「なっ……。な、何よ……? 誰がそこまでしろと言ったのよ…………? クッ、こんの……バカタナカアアァァァァァァァァァッ!」

 マレニ様が目に大粒の涙を浮かべ、泣き叫んだ。

 自ら手を下し、泣叫するほど惜しむ。果たしてこれ以上のツンデレがこの世に存在しようか。

 私は星になることで、その究極の施しを賜ることができたということだ。




       * * *




「二人ともっ! わたしがいいって言うまで絶対にカプセルから出ないでっ」

 その声を聞いて、僕は起こしかけていた体を慌てて倒した。

(なんだっ!?)

 疑問に思ったけど、すぐにあらゆる点がつながった。仮想世界に現れた時の異常なまでの動揺。カプセル侵入時のマニュアル。今の悲痛なまでの指図。

 〝相川さんは、今生まれたままの姿っ!〟

 僕の脳内の電気信号の流れが急激に変わり、素晴らしい映像を構築する。そして僕の体中の血が映像を再生するのに必要な分だけを残してある一カ所へと光速移動する。しかもそれらは、一瞬のうちに完了した。

二、三分ののち、相川さんから脱出許可が出たにもかかわらず、僕はカプセルを出ることはできなかった。

「田中君、ごめん……もういいよ」

「あ……うん、分かってるよ……」

 僕は、自分の尿道奥深くに針を差し込む想像して、泣く泣くシアター・オブ・ドリームに幕を下ろした。

僕が着替えを終えてカプセルから出ると、もう二人とも外に出ていた。

「ま、待たせてごめん……」

「ううん」相川さんが大きく首を振る。「それよりほんっっっとうにありがとう! すべて田中君のおかげ! この恩は一生忘れないからっ!」

「そんな……僕なんかただ遊んでただけだよ! お兄さんを救ったのは相川さんだよ」

「ううん、それは違う! 田中君がいなかったわたし、何もできなかったもん!」

「いや……そんなこと……」 

 このまま否定し続けたら、相川さんとの永久会話コンボが成立するだろうか? 

 しかし、それを考えていたためにできた少しの間が、相川さんのお兄さんのカットインを許すこととなってしまった。

「いや、美鈴の言う通り、君は俺の命の恩人だよ。君がいなければ、俺は美鈴と会うことはできなかっただろうからね」

「そ……そうだよ!」

 相川さんがここぞとばかりに賛同した。多勢に無勢……じゃないけど、僕はその感謝を素直に受け入れることにした。

「ど……どういたしまして……。あ、あの……力になれて良かったです」

「ありがとう!」

 相川さんが最高にキュートな笑顔で応えてくれた。ただ、あまりに収まりがよかったのか、会話が途切れてしまった。

「あ、あの……」沈黙で雰囲気が悪くなるのを恐れた僕はすぐに言葉を発した。「じゃあ……僕は帰るね」

「まあ、そんな、食事でも……美鈴、なんとかならないか?」

「あっ、うん!」

 相川さんが慌ててどこかに行こうとした。僕はそれを慌てて止めた。

「あっ、いえ、大丈夫ですっ! あの……久しぶりの再会ですから、どうぞお二人で! あ、お父さんやお母さんにも知らせてあげないと!」

「そんな……あっ、そうだ、みんなで食事しましょ! 父や母も田中君が手伝ったっ聞いたらお礼言いたくなるだろうし!」

「あっ! いやっ、ホントに平気だからっ! 僕のことも別に言うことないよっ!」

 こればっかりは僕は本気で固辞した。お母さんはともかく、相川さんのお父さんには怖いイメージしかなかったからだ。しかも、お父さんは今回のことが外部に漏れることに激しい拒絶反応を示している。お礼どころか、社長直属の特殊部隊を使って僕の口封じ…………いやいやそれはさすがに……。でも、本当に会うのは避けたい。

「でも……」

「いやっ、本当に!」

 しまった、少し強く言いすぎたか? 相川さんの表情が曇った。

「そう……じゃあせめて送っていくね」

「あ……」次に出た言葉は、裏表ない僕の本心だった。「ありがとう。でもお兄さんとゆっくりお喋りして。それが僕にとっても一番嬉しいことなんだ。感謝の気持ちは……もう埋もれちゃうくらい伝わってきたよ」

 僕はぎこちなく笑ってみせた。すると、ようやく相川さん笑顔が戻った。

「本当にありがとう。この一週間でいろんなヒーローが出てきたけど、わたしにとっては、田中君が一番のヒーローだよ」

「え……」

 相川さんが照れくさそうにニコッとした。

(くうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ)

 果たしてこれ以上の報酬があるだろうか。僕はこれだけで五十年は生きていける気がする。

「ありがとう」

 僕の目がキラリと光った。

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