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ヒーローズ  作者: なかお ゆうき
13/20

ステージ5 ド派手なことは俺達に任せろ!

レンタル開始からもう二週間毎日通ってんのにまだないしー! どんだけ人気あるんだっつーの!

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 DAY5、金曜日。

 家と学校を往復すること五回、日が昇らないうちにすべての材料を運び終えた僕は、さっそく作業を開始した。

「うーん、われながらいい出来だ」

 高梨の座席をマンガ喫茶さながらの個室に造り変えると、僕は思わず感想を漏らした。パソコンに革張りのリクライニングシート、なぜか昨日すぐに撤去されてしまった本棚も再設置した。これなら、昨日不思議とずっと不機嫌だった高梨も喜ぶに違いない。

 だがその四時間十五分後、僕が仮眠から目覚めた時、高梨の姿はなく、その日はずっと彼の姿を見ることはなかった。どうも、登校したにはしたらしいが、すぐに担任にどこかへ連れて行かれ、そのまま戻らなかったようだ。これで二日連続で僕のおすそわけを受け取れなかった高梨は、なんてタイミングの悪い男なんだ!




「おまえ、ちゃんと食べてるのか?」

 放課後、僕は後藤の変わり果てた姿を不思議に思い尋ねた。

「……へっ?」骸骨に皮を張り付けたような顔がこっちに向けられる。「……いや、なんかあんまり……」

「そっか、ダメだぞ。体は資本だからな、ははは」

「ああ……」

 僕は、もはやほとんど動きもしない後藤を残して教室を出た。僕が理由も言わず一人で帰るようになっただけでここまで生気を失ってしまうとは。すまん、一兆回生まれ変わっても真実を伝えることはないが、来週になれば、またいつもの日々が戻ってくる。それまで何とか生き延びてくれっ。




  * * *




「よしっ、頑張るぞっ!」

 真っ白な空間に降り立つと、僕は頬を叩いて気合を入れた。心を入れ替えて真面目に、楽しんで攻略していくのだ。

(……でも、それで以前と変われるのだろうか? ……い、いや、気持ちだ、気持ちっ!)

――もうステージ5だね。あっという間だなあ。さすが田中君だねっ。

「はは、これくらいしか取り柄ないし……」

――そんな自虐しないでよ。エキスパートって感じでかっこいいよ! とても頼もしい……田中君っ!?

 大の字に倒れた僕を見て、相川さんが声を上げた。もう立っている気さえおきない。このまま人生の最高潮で幕を閉じるのもいいかもしれない、というか最高かもしれない。僕は静かに目を閉じた。

――大丈夫っ!?

「ハッ!」

 僕はまだ死ねないっ! 相川さんのお兄さんを救い出すその日までっ! 僕は勢いよく上半身を起こした。

「もう大丈夫っ! 心配しないで!」

――あ……は、はい…………あっ、ステージ現れたね…………うわあ、なんか未来的な場所だね。それに本物っぽい!

 相川さんの言葉を確かめるまでもなく、実生活では見ることのない機械類、落ち着いた配色に、ちり一つ落ちていないきれいで整頓された空間は、まぎれもなくSFの世界だった。しかも、このCGはでない、セット感満載の雰囲気は、昔の実写だ。

「たぶん映画かドラマ。それも昔のアメリカのだと思う」

――ステージ5にしてついに海外のが出てきたか!

 海外進出に相川さんが興奮する。つられて僕のテンションも上がった。

「海外、特にアメリカはヒーロー大国だからね! マンガも映画もヒーロー物は多いよ。ハリウッド映画なんて、今も大半はヒーロー物に分類できるだろうしね」

――確かに、主人公が悪者を倒したり、ヒロインとか地球を救うっていうのは多いイメージがある。

「あ、相川さん映画は見るのっ?」

――見るけど、そういうのはあまり……。

「え、じゃあどんなの見るの?」

――うーん、恋愛を題材にした物かな。

「やっぱり相川さんもそういうの好きなんだ」

――や、やっぱりって何っ? それに周りがそういうのを選ぶのっ…………まあ、別に嫌いなわけじゃないけどさ…………あ、ほらっ、なんかすごい人が入ってきたよ!

「うおっ!」

 僕は振り返ってぶったまげた。こいつかっ!

――分かる?

「分かるもなにも! 七十年代、映画界において、それまでマイナーカテゴリーに分類されていたSFを、一躍メインストリームまで引き上げた歴史的大作『CAR WARS(カーウォーズ)』のシンボル的悪役、ダス・ベイダーだよっ!」

――ああ……そういえば見たことあるような、聞いたことあるような……。

「聞いたことあるようなって! SFは、CAR WARS以前と以後に分けられるくらい、その後の大半のSF作品に影響与えたんだよ! ダス・ベイダーなんて、いまだにパロディで最もよく用いられるモチーフだし!」

――たぶん、わたしが名前を聞いたことあるような気がするくらいだから、有名なのは分かるけど、どんな内容なの?

「ロング・イヤーズ・レイター、つまり遠い未来の話なんだけど、交通整理員派遣会社として世界中のシェアを独占している『米国交通整理』に対して、かつて多くの従業員を引き抜かれ、事実上の廃業状態になっている日本の警備会社『仙台』の元社員達が、独占禁止を掲げて反乱を起こす物語なんだよ」

――SFなのにずいぶん社会的だね……。

「そう、全部で九シリーズあるんだけど、その濃密な世界設定と、今でもお手本になるくらいの入り組んだ人間模様が魅力なんだ」

――ふーむ、なるほど。では、今日もまたよろしくお願いします! キャラクターは?

「主人公、かつては世界中の尊敬の対象であった〝『仙台』の社員〟空歩琉宇宮(そらほるーく)をお願いしますっ!」

――了解しました!


 体が、交通整理員の青い制服に包まれる。手には、時代を超えて子供の憧れの玩具となっている「誘導灯」がしっかりと握られていた。

――なに巻いてるのっ!?

 ミスズがボクの体中に巻きついている緑に光る物を見て驚いた。

「これは、ホースさ。伝説の社員、与田(よだ)から授かった力の象徴なんだ」

 ボクは腕に巻きついていたホースを少しほどき振ってみせてやった。ホースがくにゃくにゃと軽妙に宙を舞う。

――普通のホースじゃんっ! しかも体中に巻きつけて動きにくそうだし!

「そういう問題じゃないのさ。ホースがなければ、仙台の社員とは言えない!」

 ボクは力の源をバカにされて少しムッとした。 

――そ、そう……そこまで言うならいいけど…………。

 ミスズが大人しくなると、ボクの目の前に立っていたダス・ベイダーは黒のマントを翻し、誘導灯を抜いた。

――こっちもホース巻いてるっ!

 ミスズがダス・ベイダーの威圧感に絶叫する。上下黒の制服に黒マント、毒霧の中でも交通整理することを可能とする漆黒のガスマスク。そして体中を覆う緑色の力の象徴。怖じ気付かないわけがない。 

『来たか、仙台の社員よ……』

 ダス・ベイダーがガスマスク越しに言葉を発した。ガスマスクがシュコーシュコーと鳴く。

「ええ、父さん……」

――父さん?

『真実を知ったか……』

「あなたは僕の父、そしてかつて『仙台』の社長だった人、その名は空歩駄酢(そらほだす)……」

――社長、引き抜かれちゃったのっ!?

「ホースの暗黒面に落ちると、金に目がくらむのさ」

――ホースの暗黒面ってなによ!?

『空歩…………その名前にはもはや何の意味もない。ベイダー会長の養子となった時に捨てたのだ』

――誇り捨てすぎだよ、社長っ!

「いや、違うね。その証拠に、父さんは最終試験の会長面接までボクを残した……」

――あんたもかっ! 空歩家ひどすぎだよっ!

『どうせ、おまえは会長に落とされるのだ』

「それでもボクの入社を期待してるんだ。そうすれば、中から会社を変えるチャンスも大きくなるからね」

――あっ! 二人とも『仙台』のためだったの!?

『買いかぶりだ。私は金に目がくらんだだけだ』

――あれ、お父さんが、なんかいい人に見えてきた。

「じゃあ、ボクが入社できたら、閑職にでも追いやるかい?」

『それがおまえの運命ならば』

「本心から言ってる? 自分の心を見つめてみて」

『今さら遅すぎる、息子よ。会長のワンマンぶりを思い知るんだな』

「ボクの知っている父さんは、死んでしまったのか……」

 ボクが少しだけショックを受けた時、不意に奥の扉が開かれた。

 中の人物に会うため、ボク達は並んで室内へと入っていった。

 そして、奥にひかえる未来的奇抜なイスに鎮座していたのは、全宇宙の警備事業を牛耳ることを目論む『米国交通整理』の〝会長〟だった。

『おまえが最終面接に残った者か……』

 黒いローブをまとった会長が、恐ろしく低い声で尋ねてきた。会長面接の始まりだ。

 ボクは少しでも気に入られようと、胸を張って堂々と応えた。

「そうだ! 志望動機は……」

『不合格っ!』

――はやっ!

「やだっ! 絶対に入社する!」

――ダダっ子かっ! 試験受ける身で、何でそんなに強気なのっ!?

「なら、死んでもらおう」

――会長も過激だなっ!

「ならおまえが死ねっ!」

――もっと過激な奴がいたっ! 何なのこのやりとりは!

 ボクは誘導灯のスイッチをオンにした。誘導灯が赤く発光し、それらしくなる。ボクはそれを振り上げ会長に襲いかかった。

『ブイーン』

――ん?

 ダス・ベイダーが誘導灯でボクを殴りつけてきた。

「ブンッ」

 ボクはとっさに自分の誘導灯でそれを防いだ。ボク達は口で効果音を演出しながら、誘導灯の攻防を繰り広げた。

――なんでわざわざ自分で言うの? 

「これが醍醐味じゃないか……ブゥーン!」

――…………。

 ボクは次第に優勢になり始めた。いけるっ! ボクの入社を邪魔する奴は、何人たりとも生かしてはおかないっ。

 しかし、ボクは父さんを殴りつけることに夢中になっていてまったく気がつかなかった。その間に、会長が、こっそりと父さんの体からホースを抜き取っていたことを……。

『これでさきまも終わりだっ!』

 暴徒鎮圧用水圧ポンプにホースを取り付けた会長は、ボクに向けて放水を開始した。

「ぐおっ……」

 強烈な衝撃とともに、ボクは吹っ飛ばされた。壁に激突したのに体が地面に落ちない。

――危険危険っ、死んじゃうよ!

 だが強烈な水圧に体をえぐられボクが気を失いかけた時、ダス・ベイダーが会長を窓の外にぶん投げた。

――父が息子を助けた! ……殺しちゃったけど。

 ダス・ベイダーがボクのもとへやって来た。だがすぐにポリスが会長室になだれ込み、ダス・ベイダーを引きずるようにして部屋から連れ出そうとした。

「父さんっ」

 ボクは追っかけた。

『琉宇宮よ、ありのまま証言しろ』

 ダス・ベイダーが静かに言った。

 ボクは涙が出てきた。

「有罪になるよっ!」

『どのみち証拠は固まっている』

「それでもっ、いい弁護士がいれば、無罪を勝ち取れるかも!」

――この主人公、考え方がなんか汚いんだよね……。

『私はいい。残された『仙台』の社員達を、おまえの手で救ってくれ……』

「いやだっ! そんなのどうでもいいっ! 父さんを救うんだっ!」

――……ヒーロー失格ね。それに、父親を助けたい気持ちは分かるけど、さっきあんなに殴り続けてたのは誰よ……。

『私はもう救ってもらったさ……だから社員達を……』

――う、なんて素晴らしい父親なの。それに比べてこのバカ息子は……。

 ボクは、心の底から訴えかけるようにボクの目を見つめる父さんの目を見つめ返しながら、心の限り叫んだ。

「いやだああああああああっ!」

――親不孝者おおおおおおおっ!

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