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第82話:東方事変4

 オケアノス領地中央部から北部にかけてはまばらに森林が広がっている。

 人々はこの地域の開けた場所に村を作り、森を拓き過ぎない程度に平地を耕し森からも糧を得ながら生きている。

 ここより東に抜ければ荷馬車で2日ほどでオケアノス領の本拠地3代目オケアノス市があるが、オケアノス領の中でみればやや東よりの位置となる。

 逆に西の方向に荷馬車で3日ほどの距離に旧オケアノス市(ネレース市)が存在し、そちらがオケアノス領地の地理的な中心地となっている。

 オケアノス市から隣国との国境まで200kmほどしかなく、オケアノス市は東に向かって多重の城壁を構えている。


 ヴェンシン王国が健在の頃、初めこそイシュタルトと友好国であったが、東側の獣人たちを大陸外へ追い出してしまった後、ヴェンシン王国の時の国王が新たな発展と土地、それにイシュタルトが所有していた魔石回路技術を求めて侵略の兵を挙げた。

 それこそが後の獣人の捲土重来の際、イシュタルトがヴェンシンと同じヒト族を中心とする国家でありながらドライラントの台頭を静観し、庇護を求めるもののみ受け入れていくことにした一因である。

 また当時のオケアノス侯爵の長男が主軍と共にこもっていた最前線の城塞、イース・オケアノスがその後のヴェンシン西部諸侯の併合に伴い流通の要衝となり、代替わりと共に遷都したのが現在の三代目オケアノス市の始まりだ。


 この森と平地の入り混じる地に東西に伸びる街道は、そんな旧オケアノス市から当時のイース・オケアノスへの街道として敷設され、前線に供給するための食料を作る農村や矢や武具を作るための職人村が沿道に発達したが、現在は農村は残っているものの、職人村はより新しいオケアノスへ近い地域に移っている。

 森を減らしすぎないほうが魔物素材なども有効に使えるため、たまに森の中の魔物の間引きが必要になることもあるが森は完全に切り開かず。

 村々は森と平地に半分ずつ面する様な形で発達している。

 村にはオケアノスから魔物除けの結界が提供されており、さらに周囲に柵と深い空堀がなされているため結界の魔力供給さえすれば魔物はめったに村を襲うことがない。

 街道も、オケアノスの主要道のひとつであるため同様に結界が張られており、毎月魔力供給を請け負った職人が結界の点検もかねて通行している。

 結界には保存の魔法もかけられているため、この街道ではなんと2000年ほども昔の結界装置が今も実働しており、イシュタルトという国の基本が今も昔も魔石回路技術と保存の魔法に支えられているのが非常によくわかる様になっている。


 この魔物除け結界も、近年に至るまでイシュタルト王国とペイルゼン王国にしか普及しておらず。

 最近ようやくルクスにも配備される様になったものの未だドライセン、ミナカタの魔物対策は人里近くに出没したら討伐する、というのが基本であり、またそれで事足りていた。

 根本的に強い魔物は特殊な地形に適応したものが多く、ルクスや旧ヴェンシン、ミナカタはそれを避けて集落ができているためだ。

 そのため、平地や比較的安全な森のそばに集落が密集しており、土地の広さの割りに居住区が少なく、食料生産が追いついておらずいつも飢餓におびえている。

 しかしそれを解決する手段にもなるのも魔物素材なわけで、特に食糧生産の厳しい地域ではわざと森や山、湿地に侵入して動物や魔物も生活の糧としている。


 そのため賊徒に扮して森を行く彼らには油断があった。

 魔物は普段から狩りなれている、少人数のときならまだしも、30人からの男性ばかり、それも武装して徒党を組んでいるのに魔物がそうそうよってくるはずもなく、またよってきても自分たちなら問題なく倒せるのだから。

 そもそも強力な魔物は夜行性のものが多く、昨日までの日中の街道封鎖中にはせいぜいウサギ系とイタチ系にしか遭遇しなかったし、夜襲の際に森に居る時もタヌキ型やキツネ型の物に何度か遭遇したが難なく退治し胃袋に収めていた(あまりおいしくはなかった)

 土地の人間ではない彼らは知らないことだが一部は魔物ではなく動物だったこともあり、このあたりの魔物も自分たちの地元のものと大差がないと、甘く見ていた。

 実際には、北のアスタリ湖の影響もあってか彼らの住んでいる土地よりも、このあたりの魔物ははるかに強く、その中でももっとも強いものたちは、昼の森の中をナワバリにしていた。

------

(賊徒に扮したダ・カール兵視点)

 拠点にしているやや開けた場所から、20分ほど歩いたところで魔物の群に遭遇した。

 おそらくは魔物だ・・・・あんな凶悪な動物は見たことがない。

 外見は頭まで3mほどもある鳥の様なフォルムをしている。

 ただし翼はなく細く歪んだ腕がわき腹の辺りから背中に向けて伸びていて2本の鋭い爪が気味悪く動いている。

 脚と嘴が異様に大きく、今もその嘴を広げて咥えて叩き殺したばかりのうりぼうの死体を丸呑みにしている。

 そんな鳥の魔物が4羽・・・子を一度に4頭失った母イノシシは必死に残った3頭の子をつれて逃げている。


 われわれは30人以上居るというのに、その鳥の魔物に勝てるビジョンが浮かばない・・・。

 いや、食事を終えたところだ。

 何もしなければ、このまま立ち去ってくれるのではないかと私も隊長も息を潜めて、隊員にも待機の手信号を出した。

 今は動くこと自体が危険だ。

 攻撃せずとも、やつらの目に留まることが=食事の邪魔をしたということになりかねない。


(気付くな、気付くな、気付くな・・・)

 ギェギェ!

 ギィギィ!

 私の祈りをよそに奴らはうりぼうをすっかり飲み込んでしまうと、その太い脚の爪を地面に食い込ませたり持ち上げたりしながら2羽ずつお互いに嘴を大きく広げて首をグネグネと動かしながらカツカツと音を立てて当て合い始めた。

 何か挨拶の様なものなのだろう。


 やり過ごすことができれば・・・そう思って剣を握り締めていたのはどうも私と隊長だけのだった様だった。

 隊員たちはここ数日の魔物との戦闘で、このあたりの魔物は弱いと判断しているのか口々に、勇猛な言葉で村への進路の障害となる鳥型の排除を具申してくる。

 彼らのいうことも一理あるのだ。

 ここで鳥型を無視して村を攻め、疲弊した状態で鳥型に退路を塞がれることになれば、撤退は難しくなる。

 とはいえだ・・・。


「お前たち、静かにしないか・・・アレに気づかれたどうするつもりだ。」

 隊長はなんだかんだとベテランでよくわかっていらっしゃる。

 我々兵士が魔物と戦えば、30人いても稀に出没する虎型相手に10人は死ぬ。

 生き残った20人のうち軽傷は片手で数えるほどで10人くらいは再起不能か、全治数ヶ月の怪我を負うのだ。

 あの鳥型が虎型ほどの強さを持っていないにしても、あの巨体が四羽もいるのだ、半数以上は森の魔物の餌になることだろう。

 しかし隊員たちは

「何言ってるんっすか隊長、魔物とはいえ所詮鳥ですよ?」

「そうですよ、剣を前に突き出すだけでも何もできませんよやつらは、首に足、それに胸の辺りも無防備なものじゃないですか」

 などと口々に言う。


 確かに鳥型の姿は剣の攻撃に対して無防備に見える。

 腕は貧弱そうだ。

 しかしあの巨大な嘴は恐ろしい武器にも、強靭な盾にも見える。

 あの太い脚の一蹴りで、兵士の2~3人はぐずぐずの肉片になるだろう。

 しかし、村の襲撃という隊員たちの要望を抑えきれなかった我々が、道中の脅威の排除というある種筋の通った要望を退けられるはずもなく、私は命をかけて鳥型と戦う覚悟を決めた。


------

(???視点)

 森の中に響き渡るけたたましい声、おそらくあの竜と見紛う様な大きな鳥のものだろう。

 しかしこの森にはあの鳥を襲う様なものはいないはずだ。

 あの鳥はこの森の生態系の頂点にあるのだから。

 実はぼくも竜なんて一度空を飛んでいるのを見ただけなのだけれど、あの鳥の威容は見るものに恐怖を与えるのに十分なはずだ。

 まともな生き物なら自分からケンカをうったりはしない。


 同様に、彼ら自分たちに抵抗することができる様な強い生き物には攻撃を仕掛けない程度には知能があり、それがいっそう彼らをこの森の生態系の頂点へと君臨させている。

 ケガをして弱みを見せるなんて愚を犯すことがないわけだ。

 そして餌になる動物を無意味に殺したりもしない、必要限の数は餌にするけれど、楽しみに殺したりはしないのだ。

 現にぼく自身森の中で暮らしているので、まだ子どもの頃は何度か襲われたこともあったけれど、ある程度大きくなってからは襲われことがない。


 夕べ焼いた猪の太ももの残りと、森の中で採ってきた皮がヒダの様になっている果物を割って食べながら、鳥の声が聞こえることに思考をめぐらせる。

 声が聞こえてきているのは、ここから南西へ1kmくらい?鳥のグループの中でも村に近い連中のナワバリだ。

 そういえばここしばらくは、近所の村の人たちを森の中で見ないけれど、もしかしてあの鳥を狩らないといけない様な事態になっているのかもしれない?

 鳥が村近くに営巣して子どもを襲うとか・・・?いやでもあの鳥はもっと寒い時期に卵産むし、人に仕掛けると危ないと知っているはずだ。

 流行病で大人が身動き取れなくなって代わりに子どもが森に入ってきて、そこを鳥に狙われているところとか?

 いくつか考えをめぐらしてみるけれど、実物を見たほうが早いかな?


 思えば、しばらく村人と会っていないから、村人の育てたおいしい野菜や、豚の肉を食べていない。

 猪や森になる果物や野草も十分においしいけれど、やっぱり家畜として育てられた豚肉の味にはかなわない。

 村人が育てた豚は肉が柔らかくて、脂がたっぷりついているんだ。

 ここには、自分で試行錯誤して作ったかまどに、切り株のイス。

 石斧、石包丁、石の槍と道具はだいぶそろえたけれど、家畜小屋なんて凝ったものは自作することができず。

 豚肉や食いでのある野菜はたまの村人からのおすそ分けに頼っている。

 逆にこちらからは猪やウサギを捕まえたり、村人が木を切っているときにほかの動物から守ってあげたりをしているけれど、それで彼らは割りにあっているのかどうかはぼくにはわからない。


 ただしばらく村人か森の中に顔を出していないから豚肉に野菜はもちろん、パンやお酒もぼくは作ることができないのですでに手持ちがない。

 村にはなるべく近寄らない様にしているけれど、ちょっと心配だし鳥の声も気になる。

 食べ終わった猪の骨と、果物の皮を適当に掘った穴に放り込んで埋めたぼくは、念のために石の斧を持つと鳥の声のする方向へと歩きだした。


作中の鳥型は恐鳥類みたいな姿を想定しています。

賊徒風兵士は魔物と勘違いしていますが鳥です。

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