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第80話:東方事変2

(神楽視点)

 ピリピリした緊張間の中で、話は進んでいた。

 ある程度の情報を聞き出したところでアイラさんは跳躍の異能を使って、部屋から出て行ってしまった。

 アイラさんが言うには、跳躍は血縁者のことはある程度追いかけられる・・・・・・・らしい。

 だからアイラさんはまずは馬車でオケアノスに向かった面々の無事確認するためにお一人で向かうことを選んだのだろう。

 跳躍は、発動は意志の力を使うけれど跳躍する距離があればあるほど魔法力を消耗する。

 そして複数の人を運べばその分多量の魔法力を消耗する。

 暁さんの頃は1度に10mほどしか跳躍できなかったけれど、アイラさんは数百kmの距離を跳躍できるらしい、でも魔法力の量は多くても回復速度は暁さんの頃の3倍ほどしかないらしい。

 だから魔法力を温存する意味で、アイラさんは一人で飛ぶ必要があった。


 そして私にもお役目をくださった。

 ユーリさんたちを飛行盾で運ぶことと、アイラさんと通信でやり取りするという役割、これは私にしかできないことだ。

 この世界に中継器なしで長距離の通信をできる道具は私とアイラさんが持っている魔力偏向機マジカレイドシステムしかない。

 大好きな天音お姉様が、なぜか魔法力をほとんど持たない暁さんのために作ってくれた暁天と私の持つデネボラだけが、お互いに約2万km離れていても通信が可能な端末として機能する。


 そうして、ユーリさんたちがそろそろ城から出ようと意気込む少し前のところでデネボラが反応した。

 デネボラでの通信は人前では目立たない様に私の頭の中にだけ声が響く、そして私も通信を意識して言葉のイメージを返すことで、通信が成立する。

「(カグラ!ボクだけれど聞こえる?)」

「(はい、アイラさん)」

 声色から、きっと最悪の事態は避けられたのだと、少しだけ安堵する。

 私にとって最上の存在は、暁さんでその生まれ代わりのアイラさんも同様だ。

 でもほかの皆さんのことがどうでも良い訳じゃあない。


 ハンナさんは私にとってはなじみの薄い「お母さん」の匂いがする。

 サークラさんは優しくて温かいお姉さんで、エドガーさんは男爵様だそうだけれど、私からすれば大好きな人アイラさんのお父さん。

 アニスちゃんは、もっと小さいときから遊び相手になったりしたこともあるので、もう妹みたいなものだと思っている。

 ジョージさん・・・はあまり話したこともないのでよく分からないけれど、結婚したサークラさんが幸せそうに見えたからきっと素敵な良人なのだろう。


 最悪の事態、彼らが、アイラさんの家族が損なわれることはきっと避けられたのだという安堵とともに、私は室内にいる国王様やユーリさんたちに発言の許可を願った。


------

(アイラ視点)

 両親と姉妹あねいもうとの危機を告げられ、その場にいた皆に最低限のお願いだけして跳躍したボク

 場合によっては到着と同時に戦闘となるかもしれないと加速はしていた。

 そんなボクの心構えはいい意味で無駄になった。


 暗転を抜けると同時、ボクの目の前にはボクの出現に気付く人々はいなかった。

 イスは寄せられているが、見たところ教会だろうか?

 10人ほどの人間が、顔を突き合わせて、やっていることはけが人の治療の様だが、突然現れたボクの存在にすぐには気付かず、しかしややあって気付いたもののなんといって声をかけたものかと迷っている様だった。

 床には筵の様なものが敷かれていて、その上には何人かの男性が重症とわかる怪我を負って横たえられていた。


「アイラ!どうしてここに!?」

 状況を確認していると、驚いた様な声に名前を呼ばれてボクは後ろを振り返る。

 振り向くと同時にやわらかいものが顔面に押し付けられる、否、これは抱きつかれたのだ。

「おね、ちゃん無事でよっがった・・・。」

 声がうまく出せなかった。

 危機的状況を知ってわずか数分のこととはいえ、ボクは追い詰められていたのだと、理解した。

 

「奥様!そちらのお嬢様は?」

 村人?の一人なのだろう。

 いつの間にか現れていた、それも彼らは見慣れないであろう軍官学校の制服を着た少女に驚き、しかしサークラの態度で安全だとわかってたずねてくる。

「私の妹の一人です。敵じゃないので安心してください。」

 そういって安心する様にサークラが告げると村人たちは再びけが人の治療を再開した。

 それからすぐに母とアニスにも再会を果たした。

 もちろん父とジョージも無事でいて、村長の家で話し合いをしている最中とのことだった。


「おねえちゃん!おむかえきてくれたの?」

 と、一度は抱きついてきたアニスはしかし、今は村の子どもたちとおしゃべりしている、マイペースだ。

 母もボクの存在に最初はおどろいた様だったけれど「アイラがきたのならジョージ様もエドも喜ぶわね。」

 とあまりにあっさりとしていた。

「それじゃあいきましょうか」

 と、母に案内されるままに父たちがいるという村長の家に向かうことになった。

 途中村の広場の端に、先日見送ったオケアノス家の馬車数台停められていて、間に布を張ることで日除け代わりにして、その下に人が休んでいた。

 先ほどの人たちほどではないが怪我をしている様だ。

「母さん?何があったか聞いてもいいですか?」

 とたずねると母は少しだけ考えた後

「母さんから聞くよりもジョージ様やエドから聞いたほうがいいわ、母さんじゃあ正しい状況判断はできないから。」

 と、悲しそうにつぶやいた。


 村長の家は、広場に面した家でウェリントンの我が家とは比べ様もなく小さな家だったけれど、中から30人近い気配とざわめきを感じる。

 母が扉をノックするとざわめきが止み、中から誰何の声が返ってきた。

「ハンナです。ジョージ様にお取次ぎをおね・・・」

 母が声を出すと、ほとんど間髪なく扉は開かれた。

 おそらく声だけで母だとわかる程度には話もしているのだろう。


「アイラがきたのか!?」

「姫で・・・・・アイラ殿!?何ゆえこの様なところへ・・・いや、ありがたいことです!これで状況を打破できる。」

 家に入ると父とジョージがたくさんの村人や護衛に囲まれていた。

 そして二人はボクを見ると目を見開いた後で、笑顔を浮かべた。


「まずは何があったか聞かせていただけますか?父様、義兄様」

 こんなところに姫殿下がいるのはまずいと思ったのか、それともこれからは義妹だから仲良くしようと伝えたことを思い出したのか、ジョージも姫殿下と呼ぶことを思いとどまった。

 まぁ前者かな?見送りのときは普通に姫殿下呼びだったし。

 とりあえずは現状の確認がしたい。

「わかりました。順を追ってお話します。」

 そういってこの場を差配しているらしいジョージが語りだすけれど、せっかく義兄と義妹っぽい挨拶にしたのに遜った話し方をしていたら、意味がないと思うんだよね?

 ジョージは侯爵代理なわけだし・・・。

 村人には出て行ってもらってから説明が始まった。


 話をまとめると以下の通り、4月20日前後からこのあたりで怪しい人影が目撃される様になった。

 しかし目撃されるだけで特に被害も事件もないので村の見張りを増員して放置していたが、4月25日頃から賊徒による被害が出始めた。

 賊徒は通りがかる商人なんかを狙ってか街道沿いで網をはっており、被害者は大体皆殺し、何人か運よく逃げ出せたものがここや隣の村に逃げ込んできた。

 現状村への襲撃はないが、村から買出しに出よう(と見せかけて町に助けを呼びにいこう)としたものは襲われて殺害された。

 そして32日、このあたりの街道を通りかかったジョージたちの馬車隊が襲撃を受けた。

 その際には馬車馬が6頭死んだ以外の被害はなく、逆に賊を2名殺害したが、多数の賊には逃げられてしまい、賊の死体も回収されてしまったという。

 そして馬を補充するためにその日立ち寄ったこの村落、ゲーネから助けを求められた。

 さらに賊たちはこの村に入った馬車隊が『当たり』だと判断したのか、村の東西に拠点を作った。


 今日の時点でもこの村にとどまっているのは、村の西側と東側両方に30人以上の賊徒が確認されており、どちらかを攻めれば、もう片方が村を襲撃する可能性があること、ジョージたちも人数が少なく片方でも攻めるほどの人数もなく、もしくは攻めている最中に村を襲われる可能性がある以上実行に移せなかったそうだ。

 そして夜には火矢と毒矢による夜襲があるそうで、村人や従者たちの中に犠牲者が出つつある。


「幸い身分のある立場。数日も行方知れずになれば、もっといえば結婚式の支度もありますから、今日明日あたりにはオケアノスから兵が到着すると思っておりましたが、まさかアイラ殿自ら探しに着ていただけるとは・・・・、ここ以外でも何かあったということですしょうか?」

 簡単にジョージが状況を説明してくれたけれど、最初の馬車隊への襲撃による馬の被害が多すぎる。

 はじめから足止めが第一目標だったと考えるべきだろう。

 狙いはやはりオケアノス市におけるジョージの不在だ。


「その通りです義兄さん、4月34日ドライセン、というよりおそらくは旧ヴェンシン派ですね、奴らが国境を侵し、その知らせが35日の昼前にオケアノス市に届きました。それから何便目かはわかりませんが早馬が今日クラウイディアに到着しました。」

 ジョージの眉がピクリと動く。

「それでは、やはりここの賊たちも・・・」

「はい、おそらくオケアノス軍の指揮官の不在を狙った足止めです。」


「道理で、妙に統制の取れた連中なわけだ。」

 父が、ため息をつきながら頭を抱える。

「兵を率いたことのない父さんでもわかりますか?」

 父は村人をまとめていたことはあっても、訓練された兵隊を率いたことはホーリーウッドに移ってからもないと聞いている。

 その父でもわかる程度に訓練されている相手なのだろうか?


「なんというかな、逃げるのが巧いんだ。一目散に逃げるのではなくてなんていうか深追いを誘う逃げ方だ。といっても、まだ父さんは剣で打ち合ってすらいないけどね?」

 そういって苦笑する父エドガー、なんとなく言いたいことはわかる。

 ただこの大陸の兵士たちは実戦なれもしていないので、逃げるの以外はそう巧く見えなかったのだろう。

 その逃げ方が罠なのかどうかわからないが・・・

「それにその後この村にわれわれがいるからなのでしょうな、あの嫌がらせの様な散発的な攻撃が、存外疎ましく。防戦一方になってしまっている、軍官学校首席卒業が情けないことだ。」

 自嘲気味に笑っている。

 あまりに限られた戦力と、守るべき民衆がいるので、思う様に動けないのだろう。

 しかしそれもここまでだ。


「とりあえず重傷者がいるなら、ボクのできる限りの治癒術は施します。ないよりはましでしょう。」

 村に入ったあとの襲撃で、同行者で唯一中級治癒魔法を使えるアクア付き近衛メイドのリープクネヒト少尉が、偶然アクアのいる付近に飛んできた流れ矢からアクアをかばい毒矢を受けて死んでしまったのも大きかろう。

 魔法なら1日かからずに治る傷が数日はかかるし、浄血や解毒の魔法がないと感染症やらのリスクもある、卑劣にも毒矢を使っているらしいし。


 村に到着後、現状の村の犠牲者は12名、うち少年1人少女2人を含む。

 そしてリープクネヒト少尉の死亡・・・顔見知りの死はやっぱり、ただの数字よりも辛い。

 そして子どもも被害にあっているということに憤りを感じる。

「ひとまずボクから陛下へ指示を仰ぎます。いったんこのままで待っていてください。」

 そう伝えて、ジョージたちがうなずくのを確認してから、ボクは通信のため跳躍で上空へと移動した。


------

(神楽視点)

 アイラさんと、二人だけで通信し、まだ陛下の部屋にいることを確認したアイラさんは皆に聞こえる様にして欲しいと願い出た。

 私は、これから部屋を出ようとしていた皆さんに待ったをかけて、時間をいただいてからデネボラの通信機能をスピーカーモードに切り替えた。


「(アイラさんどうぞ)」

 すぐにアイラさんの声が私の頭の中だけではなく部屋の中にいる皆さんにも聞こえる様になる。

『陛下、アイラです。サークラ姉さんたちの一応の無事を確認致しました。ただ60人以上の賊徒から継続して襲撃を受けているため、近隣の村から移動できず。立ち往生しています。馬車隊にも少しの犠牲が出ていて、メイドが3名と騎士1名が重症、それとアクア様の近衛メイドであるリープクネヒト少尉が毒矢を受けて亡くなっています。現在地はオケアノスから西に馬車2日ほどの場所にあるゲーネ村という街道沿いの村で耐えています。』

 さすがに跳躍を使っただけあって、かなり早い時間で、もっとも重要な状況が確認できた。

 ひとまずの家族の無事の報せにホッと胸をなでおろす。

 同時に、顔を見知った人が亡くなったという報せに胸が痛くなる。


「ゲーネじゃな、すぐに向かわせる。アイラはこれからどうするのだ?」

 陛下がアイラさんに尋ね返すとアイラさんはよどむことなく答える。

『はい、これから近くにあるらしい賊徒どものキャンプを「ナイト・ウルフ」に一蹴させてからボクはジョージ義兄様をオケアノスに跳躍で運びます。もしオケアノスが陥落していた場合はそのとき考えますが・・・許可がいただけるなら、とり急いでダ・カールとモスマンの宮城に対してのナイト・ウルフをしむけることも可能です。無論、戦後処理のことなども考えて首脳部は生かしておかねばなりませんが、陛下のお考えはいかがでしょうか?』

 アイラさんの、まだかわいらしい女の子の声で攻撃とか、生かしておくといった怖い言葉を聴くと身が竦みそうになる。

 本当に戦争なんだと理解させられる。


 結構短い言葉だったと思うのだけれど、アイラさんと陛下の間にはやるべきことが、通じているみたいだった。

「よしアイラや、預けた書類をジョージに渡しなさい、一緒に見て良い。そしてジョージをオケアノスに届け、オケアノスの状況を確認してから、その後はそなたの判断に任せる。王家に名を連ねる者として責務を果たしなさい。」

『判りました。あ、おじい様、アイリスたち、屋敷に残るみんなのことお願いしますね。一応みんな無事だから心配しないでって伝えてください。』


「確かに伝えておこう。これからユーリとカグラ、エレノア、フィサリス殿には東に向かってもらう予定だが、何かあるか?」

 と陛下が最後に尋ねると、アイラさんは2秒ほど考えたあとで

「そうですね、ゲーネ村に穀物を持ち込んでほしいです。倉庫が焼けているのでたぶん足りなくなりますので、それから後のことはボクからカグラに伝えますので大丈夫です。」

 と、答え陛下もウムと短くうなずいた。

 簡単に別れを済ませたアイラさんはその後皆さんには声が聞こえなくなってから、私に小さく「心配しないで、本格的な戦争になんてさせないから」

 とつぶやいて通信を切った。

 その言い聞かせる様なやさしい声色は愛しい想い人の顔を思い出させるには十分だった。


サークラやジョージは無事でした。

なまじアイラが肉親を跳躍で追いかけられるせいで大陸内で生きている場合はすぐに追いついちゃうんですよね。

行方不明とかピンチにさせるのなら肉親と神楽以外じゃないと発覚から解決までを長引かせられないということですね。

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