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第77話:サークラの結婚1

 4月11日、初夏を迎えた王都クラウディアにオケアノス東征侯家の紋章の入った馬車が十輌乗り入れた。

 その馬車隊の中ほどにはオケアノス侯爵代理のジョージ・フォン・オケアノスが乗車する馬車もあり、また後方にはこの度嫁を出すウェリントン家に対して贈られる品々の満載された馬車が4台に渡って追従していた。

 オケアノス侯爵代理ジョージ・フォン・オケアノス19歳は、代理とはいえ大貴族当主としては少し遅いくらいではあるが、西安侯家の与力で王家からの覚えもめでたい新興男爵家ウェリントン家の長女サークラ・フォン・ウェリントン、一年度下の19歳の婚約者を正妻として迎え入れるために自ら王都クラウディアへと足を運んだのであった。


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(アイラ視点)

 先日王都ホーリーウッド邸に手紙が届いた。

 一通はウェリントン家夫人にして王都での当主代理である母ハンナへ、一通はウェリントン家の次女でありイシュタルトの養子でもあるボクへ、そしてもう一通はサークラへ。


 手紙の内容は、どれも基本的に同じ内容を相手によって、共に伝える気持ちや感謝の言葉を変えたもので、オケアノスにおける「シンの火」に加担していた旧ヴェンシン派貴族やジェファーソンに雇われていた官吏らの排除を完了し、オケアノス家にサークラを迎えたいという内容だった。

 急遽、ホーリーウッドに試作型の結晶通信機(結晶通信機は現在試験的にジークの執務室、ホーリーウッド城のおじい様の執務室、ペイロード城のアレク様の執務室のそれぞれ近くに通信室を仮設、試作品が設置されている。)で通信が行われ、義両親と父エドガーも王都にやってくることになり、王都でサークラとジョージの結婚式を挙げることになった。


 無論王都だけではなく、オケアノス市でも結婚式は挙げるけれど、ボクたちが公式に参加するのは王都で行われる結婚式だけで、オケアノスでの挙式には両親とアニスだけが向かうことになった。

 それに伴い今日ジョージがクラウディアに到着する予定でさらに2週間後の4月24日に結婚式を挙げる、それが終わった後で5月6日にはオケアノスで結婚式、ただし正式には王都で挙式しているので報告会という形になるが・・・。


 これからボクたちが学校に通っている間も邸や城ではめまぐるしく準備が進んでいることだろう。

 またジョージはすでにボクの跳躍能力を知っており、家族にもすでに勇者化していることは打ち明けている。

 そのため、家族にもボクが勇者化した際に会得した能力として飛行魔法なんかがあることは知らせている。

 何がいいたいかというと、非公式にボクもサークラのオケアノスの結婚式には顔を出す予定なのだ。

 軍官学校に通わなければならないアイリスや、まだ長旅は不安ということで母がいない間お留守番することになったピオニーには申し訳ないけれどね。


 大好きな姉がもうじき我が家からいなくなってしまうことにアイリスもアニスも寂しがって、このところ連日サークラと同衾している。

 そしてサークラがそれだけだと寂しがるのでボクもこの3日ほどは一緒の部屋に寝ている。

 サークラはジョージのプロポーズを受けたけれど、それによってホーリーウッドからもクラウディアからも離れてオケアノスに暮らすことになる。

 ボクだって無論それは寂しい、通産で70年ばかり一緒に暮らしている姉なので、それがホーリーウッドとイシュタルトの主要都市で最も遠いオケアノスとで離れ離れになるのだからとても寂しい。

 

 声だけでもしょっちゅう聞ける様に、結晶通信機の開発をより加速しないと・・・。


 そういったわけで、考え事をしていたボクは学校での授業にもあまり身が入らなかった。

 サークラが結婚してうちを出て行った後のことを思うと非常に憂鬱で、気もそぞろ。


 そしてかわいそうなのは父だ。

 この4年間数えるほどしか一緒に暮らしていないし(まぁ普通なら成人していたら嫁入りするので一緒に暮らさないのだけど)、婿のジョージとは2回しか顔を合わせていないしと、父親なのにほとんどサークラの結婚に関われていない。

 その上、ボクがホーリーウッドに嫁ぐのは前々から決まっていたし、そもそも誰か一人はユーリに嫁がせるつもりだったからいいとしても、サークラが嫁いだ相手が東の公爵代理であるジョージで、その上ジョージの子が将来正式な東征侯になる予定であるのだから、父の心労は大変なものだろう。


 その上・・・昨年1月3日にペイロード家に生まれた新しい命・・・、前周のシシィと同い年であったシトリンは生まれなかったが、少し年度が下がりボクの9年度下(実際のところ8年と3日しか違わないが)、7ヶ月ほど差はあるがピオニーと同い年のペイロードの新しい命、男女の双子で生まれて名前はモリオンとシトリンとなった。

 母親は前周と同様、ジャスパーの母に当たるエメラルダ様の妹君サファイア様が亡き姉とアレク様の睦まじい様を幼い頃に見ていて、自分も将来姉の様にアレク様を支えるのだと幼心に想い続けてきたらしい。

 その一途な想いがとうとう実を結びまわりをあきらめさせアレク様に嫁ぎ、側室として子を産んだのだ。(なおサファイア様はユミナ先輩のわずか2つ上だ・・・。)

 ここでも前周と異なる流れがあり、前周ではジャスパーを生んだ後になくなられたエメラルダ様が今生ではジャスパーが5歳の頃まで存命していたらしいので、その結果でジャスパー様も虫刺されで死ななかったのかもしれない?

 憶測でしかないけれど・・・。


 そうして生まれた二人を昨年8月に王都に連れてきたアレク様たちは、王都のペイロード屋敷に宿泊し、何度か王城に顔を出したのだが、ちょうどその頃お産の前後、ジークや義両親のご好意で城で出産できることになった母ハンナがお城にいて、アレク様の継室ルビオラ様、側室サファイア様両人と知り合い、なおかつ、長女サークラがジョージの正室、次女のボクがユーリの正室となる話をアレク様がジークから聞いていた。

 そうしてペイロード家が滞在中にピオニーが生まれた結果、アレク様が面白がって、ピオニーとモリオンとの婚約を打診してきた。

 母は自分は判断しかねるとやんわりとした回答だったが、アレク様はその話をジークに伝え、一応本人たちが大きくなったときに再度意思を確認するものの、それで破棄されるまでは有効の婚約が成立してしまった。


 つまり現在西の新興男爵家ウェリントン家は王家の養女にして未来のホーリーウッド侯爵の正室候補、生んだ子がオケアノス侯爵となる侯爵代理の正室、そして継承の目はないとはいえペイロード侯爵の次男の正室候補とを輩出するに至ったのだ。

 今年の年始も父は特例で地方貴族でありながら名代ではなく当主が年末年始に王都に顔を出すということをしているが、さぞ針の筵だったであろう。

 アレク様も思いつきで大変な申し出をしていってくださったものだ。


 そんなわけで・・・、将来親戚付合いをする予定のペイロード家も今回の王都での結婚式に参列予定で、学校通いのため王都にもともとすんでいるジャスパー、ユミナ先輩、ラピスはもちろん、アレク様、ルビオラ様、サファイア様、モリオンとシトリンも全員が参加という豪華な顔ぶれ。

 その後アイビスから話を聞いたスザク侯も参加を希望したため、ホーリーウッド以外は侯爵本人が参加することになった。


 そこまでのことが前々から結婚自体は決まっていたとはいえ、手紙が届いてからわずか3日で本決まりになって、それから今日まで厳密には4月22日までに食料以外すべて整い、24日の結婚式に備えることになるのだから恐ろしい話だ。

 王都での式は招待、もしくは参加表明をして王家かオケアノスかウェリントン家が許可を出した参加者のみの式の予定だけれど、現状で50家を超える参加が決定している。

 実際にはイシュタルト王家やペイロードの様に多人数での参加もいるので350名ほどになる見込み・・・。

 数年来うちに出入りしているメイドや友人を除けば参列者のほとんどは貴族で、ウェリントン村やホーリーウッドの友人たちは参加しないけれど、それでもこの人数である。


 まだ本番まで2週間あり参列の申し込みは今も届いている。

 場合によってはもう少し参列者が増える可能性もあるけれどその辺りの鑑査は母と養母が現在やってくれているだろう。


 とまぁそういうわけでだ・・・後のことだけでなく、間近のことを考えているだけでも意識を持っていかれてしまい、一生懸命教鞭をとってくれている教官には申し訳ないのだけれど、全然まったく勉強に身が入らないのだ。


 なお現在は平野部同士で対陣、正面から激突した場合の初期魔(導)砲撃戦の目的とタイミングについての野外講義中で、この後はそれを踏まえた上で市外での1年生の合同訓練が実施される。

 今月初頭に行った攻性魔法課の野外訓練では単純に遠距離精密射撃のマト当てを2回と、A組内部での近接戦の組み手が行われて、ボクの持つ技能を遺憾なく(15%ほど)発揮させて頂いたけれど、今日は個人戦ではなくチーム戦。

 それも致死性のある魔法は使用禁止なのでボクの主力であるオリジナル魔法の類は過半が使用不可だ。


 訓練の内容も四課を含む数班で40人前後のチームを組み、約300mの距離で対峙、教官の合図で戦闘を開始し、致死性の極めて低い初級魔法と防護魔法、木剣か木槍を使い被弾したら即退場、別に待機している治癒魔法使いの同級生に治療してもらって終了というものだ。

 2年以降は学課が8つに、3年以降はコースも分岐して演習の組分けが面倒になるので、こういう大規模な演習は1年生の時分に何度かやるのだ。


 座学が終わり、いよいよ演習戦の直前となった。

 各組の者は色つきの襷を掛けてそれぞれ集まり、15分のミーティング中

 ボクたちの班は赤組の所属となり、赤組枠の軍務課の班長リントが簡潔な作戦を説明をしてくれている。

 こんな億劫な気持ちままでは危険だし、チームメイトや対戦相手にも失礼かもしれない

 神楽から「ご気分が優れないですか?」と尋ねられたこともあり、見学させてもらおうかと思い始めた時、救護担当のために組み分けから外れている生徒たちの中から聞きなれた声が聞こえた。


「アイラー、がんばってねぇ!」

 距離があるので、そう大きく聞こえたわけじゃない。

 もしかしたらボク以外の生徒には聞こえないかもしれないくらいの声。

 それでも確かにボクの耳には愛しい妹の声が聞こえた。

 あの妹は毎晩ボクやアニス以上に姉と離れることを寂しがっているというのに・・・。

 自然と口元がゆるむ。


 妹の姿を探す。

 難しいことはない、1000人の金髪少女の中からだって、ボクは視界に入ってさえいれば5秒で妹を見つける自身がある・・・。

 まして実用レベルの治癒魔法使いなんて1年生には数えるほどしかいない・・・。

 遠いから表情までははっきりと見えない、ただアイリスと目があったのはわかった。

 だから手を挙げると、スッとアイリスも手を挙げる。


 まったくあの妹は・・・いつも目の前のことに一生懸命で・・・。

 見習うべき部分なんだろう、たまには考えすぎず・・・目の前のことにぶつかっていくのも・・・

 そう思えば少し気持ちが楽になった。


 結局ボクやエッラが本気を出してしまうと、ほかの人たちの訓練にならないのでかなり加減していたけれど、終わってみればそれなりにすがすがしさもあり、なかなかに良い気分転換になった。




 その日の夕方。

 ボクたちが学校から帰った時にはすでにジョージがホーリーウッド邸に到着していてサークラと一緒にくつろいでいた。

 すでに一度城にも顔を出した後らしくて、アクアの無事を確認したジョージはアクアにサークラを紹介したそうだ。

 自分の最愛の人だ・・・と


 それに対してサークラはジョージに寄り添って、アクアは今まで下級貴族の子女がメイドたちを指導しつつ自分の世話をしてくれていると考えていて、ただなんとなくサークラの様な美人さんがジョージのお嫁さんになってくれたらと思ってくれていた様で、ジョージとの関係を告げずに半年近くもそばにいたことは怒らず。

「こんな素敵な娘がほしかったのよ」

 と、喜んだそうだ。


 さて、話は戻りホーリーウッド邸、晩餐の後はサークラとジョージを中心に和やかな時間をすごしていた。

 ジョージとは初対面となるソニアが、上級貴族相手に最初緊張していたものの、ジョージはあれでいてなかなかの紳士なので、晩餐が終わるころにはジョージを見る目がうっとりとしていて、私もあんなだんな様と・・・と考えているのが丸わかりな表情をしていた。

 ソニアは冶金鍛冶の娘で、やや大雑把な性格をしているけれどその実かなり夢見る乙女で、かわいい系、かっこいい系、美しい系の男女問わず美形が大好きという困った性癖を持っている。

 といっても一度恋をするとかなり一途なのは前周のことで知っているので、今生で誰と結ばれるかはちょっと楽しみなのだけれど・・・。


 そしてジョージに見惚れるソニアをジョージの婚約者であるところのサークラは割りと余裕のニコニコ顔で見ているのに、ソルが面白くなさそうにしているのがまた可愛くて

 大好きなおねえちゃんをとられそうで面白くない妹の図かな?とみんなで微笑ましく見ていた。


 ある程度の時間になると、結婚直前に止まっていくわけにはいかないから・・・とジョージはホーリーウッド邸を後にし、ボクたちはサークラと一緒にお風呂に入り、サークラの部屋に大きなベッドを2台並べてウェリントン家の女6人とエッラとで並んで眠った。

 やっぱりアイリスはサークラとのお別れが近いのを意識してしまって、昼間の元気はどこへやら、幼児退行して泣きじゃくる、さらにおっぱいを欲しがるのに姉から離れない・・・仕方なくサークラが寝ながら自分のおっぱいを含ませてやるという9歳と19歳の乙女としてなかなか恥ずかしい姿を晒し。


 さらにサークラが口に含んだまま眠ってしまったアイリスに抱き枕にされつつ慈母の様な表情をしていたのを見つめていたら。

 唐突に・・・

「あぁ思い出しちゃった・・・ここだけの話なんだけど・・・」

 といったいどんな話をするのかと思ったら

「まだウェリントンにいたころにね、アイラがお風呂とかで寝ちゃった時なんかにおっぱいに近づけると、寝ぼけたまま咥えてちうちうって吸って可愛かったなぁって・・・」

 とボクの恥なのか意識のない妹に変態行為をさせていた姉の恥なのかよくわからない話をして、挙句。


「サークラはよくそれやってたわね、あれでおっぱい大きくなったんじゃない?私より育ち始めるの早かったし」

「え!?母さん知ってたの・・・?やだ恥ずかしい・・・。」

 と今自分で暴露しておいて、当時から知られていたことを恥ずかしんだり。


「で、でもほら、エッラだって大きくなるの早かったし?」

 とサークラがエッラをいけにえに恥ずかしい話題(自分から始めた)を逸らそうとすると

「あぁ、そういえば私も教会の部屋でまだ物心つく前のアイラ様を寝かしつけた直後なんかによくアイラ様が私の乳房を握ったりするので、母性がくすぐられたのか、何回か興味本位でお口に含ませてしまったことがあります。謝罪いたしますアイラ様。」

「じゃあ私とエッラの胸が大きく育ったのってアイラのおかげかもね?エッラのほうが大きいのはより若い頃にアイラに吸われたからとか・・・なんてね」

 と追い討ちをかける様な話を追加してきて、いつの間にかサークラやアイリスの恥ずかしい話ではなくボクだけが被害者になりつつあった。


 それが悔しくて

「だったら二人の育ったおっぱいはボクのものです。ボク以外の人に触らせたりしないでください。」

 と悔し紛れに言うとまだおきていたハンナ、サークラ、エッラはケラケラ笑って。

「私は、これからジョージ様と結婚するし、オケアノス家の跡継ぎを産まないとだから・・・ごめんねアイラ」

 と少しだけ涙を目元に滲ませながら笑い。

「私の心も体も、乳房はもちろん、髪の毛一本に至るまでアイラ様のメイドですので、アイラ様がそうお望みになるならば、その・・・どうぞ。」

 と、エッラがワンピース寝間着の肩紐をずらすと乳房がまろび出て、エッラは微笑みながらおずおずと二つのそれをボクに向かって差し出し。

 それで楽しくなったのか母ハンナも寝間着の脇のところを引っ張りながら

「アイラは私の娘なんだから、私に甘えればいいのよ?ほら、いまなら出るわよ?でもピオニーの夜中の分はちゃんと残しておいてね、お姉ちゃんなんだから・・・。」

 と3人がかりでからかわれて、言わなきゃ良かった!と後悔させられた。


 ボクは一生この母や姉には頭が上がらないのだろうなと思いながらベッドに横になっているサークラとアイリスをはさんで向かい合うとこの話はおしまい、とばかりに元気な声で

「おやすみおねえちゃん」

 と伝え。

 サークラも片方の腕にアイリスの頭を載せたままもう片方の手でボクの髪をなでてから。

「おやすみ、私の可愛い妹たち。」

 と答えてくれた。

 乳児と幼児と少女と女性と姉と母と汗と石鹸と母乳と・・・・とにかく温かく甘い香りの中で残り少ない姉との日々を思って、ボクは眠りについた。


せっかくサークラの結婚なのでナンバリングは3くらいまでかなと思ってます9はちょっと厳しいです。


初夏に6人川の字(ピオニーはベビーベッドをベッドの横に置いています。)はちょっと暑そうですね・・・。


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