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第75話:穏やかな学校生活3

 2月上旬、イシュタルト王国王都軍官学校の円形校舎の一角、時刻は午後の講義もすべて終わった15時過ぎ。

 西シュバリエールのサロンとなっているその区画にはまだ20人を超える学生たちが談笑していた。

 といってもその中心にいる人物は西シュバリエールに所属していない9歳の少女で、20人中半数に近い人数はシュバリエールの所属ではなかったが・・・。


 やはり双子というのは目を引くもので、さらにそれが美少女となれば人々は視線を向けずにはいられない。

 そしてそんなかわいらしい双子が二組もいて、王国の第一の姫君もご一緒にとなれば・・・。


------

(アイラ視点)

 放課後にユーリやアイリスと合流するのに西のサロンを使い始めて1週間経った。

 ここの人たちは、兄トーレスからの指示で、ボクたちに過剰な接触はしない、同じ様に東、南、北のシュバリエールの人たちも、用事もないのに積極的に絡む様なことは自重してくれている。

 とはいえ毎日の様に顔を出せば少しは世間話の様なものをしたくなるのはもちろんわかるし、ボクとしてもいないものの様に扱われるのは落ち着かないので、3日目にはおしゃべりも楽しむ様になっていた。


「そういえば、姫様とアイリス様がこちらに起こしになる様になってからまだ顔を見せておりませんが、西シュバリエールにも双子の女の子がいるのですよ?年は姫様たちの二つ上で現在2年生です。あぁでもすでにご存知かもしれないですね、あの二人を西に勧誘されたのはトーレス先輩ですから。」

 そういって大体いつもサロンにいる2年生のユナ先輩が楽しそうに笑う。

 放課後じゃない講義の空き時間に来ても大体いるけれど、いつ講義を受けているんだろう?


 そしてなに?え、トーレスが女の子を2人もナンパしたってこと?

 奥手で優柔不断なトーレスがまさかとは思うけれど、それ初耳ですよ?

「兄さんが、シュバリエールに女の子を勧誘したってことですか?」

「お兄ちゃんでも、知らない女の子に話しかけたりするんだ?」

 アイリスも意外という反応だし、やっぱり初耳の模様。


「トーレス先輩はお話になっていないのですか?」

 まずかったかな?という表情を浮かべる先輩。

 そんなに親密な方なのかな?

 兄がボクたちに話していないのが意外で、なおかつそれを自分が漏らしてしまったことでそんな表情をするのだから・・・。


 するとタイミングよく、いやたぶんドアの向こうで聞いていたんだろう。

 トーレスがシャーリーとともに監督生室からでてきた。

「お疲れ様兄さん、ユナ先輩から聞きました。なにやらまだボクたちが顔を合わせていない、かわいい先輩がいらっしゃるみたいですね?」

「お兄ちゃん、双子の先輩だなんて、素敵なのにどうしてあわせてくれないの?」

 とボクより幾分かストレートにアイリスが文句をいう。


 一瞬バツの悪そうな顔をしたトーレスはしかしすぐに笑みを湛えて言う。

「別に隠したり、意図して合わせなかったわけじゃないよ、ただあの子たちがあまりここに顔を出さないってだけだよ。」

 うん、堂々とした物言い、これはこれでたぶん真実なのだろうけれど、妹暦の長いボクにはわかる。

 たぶん、隠していることがあるね・・・?

 でもまぁトーレスももう成人しているわけで、妹がその色恋沙汰をどうこう言うわけにもいかないよね。

 姫としてお行儀も悪いし。

「そうですか、それはお会いするのが楽しみです。」

 そんなボクの笑顔に何を感じたのか、トーレスはやや笑顔を引きつらせて

「そうだね、二人が顔を出したら紹介するよ・・・ハハ」

 と、席についた。


 うん、これはあれだ。

 いつもの妹っぽい雰囲気を感じ取った女の子に惹かれている状態だね。

 トーレスの悪い病気みたいなものだ。

 どういうわけか妹っぽい女の子と見るとどうにも惚れっぽいというか、興味を持つんだ。

 そのくせ、世話は焼くし、優しく語りかけるのに最後まで・・・この場合は男女のお付き合いまでは突き進まない。

 兄は外見に恵まれているし、性格もよい、学問も武芸も優秀な方で今となっては男爵家の嫡男にまでなったわけで、有料物件なのにボクが把握している限り、恋人がいたことはない。

 普通はこの年頃でこの条件、婚約者もいないとなれば、浮いた話の一つや二つあってしかるべきだというのに・・・。

 別に体の関係まで持たずとも、お付きあいくらいはあってしかるべきだろう。

 変なのに引っかかられるよりはいいけれどそろそろいい年なので心配だ。


 そしてそんな話をしていたからなのか

「あぁ、もうアイラちゃんたちもいますね、ロリィ、エリィ空振りにならずに済んだみたいですよ?」

 聞きなれた姉の声が聞こえて、そしてボクはその二人の姿、淡い緑の髪を見て思い出していた。

 そういえばこんな双子がいたな・・・と。


 前周では中央シュバリエールに所属していた双子、二人とも3、4年のときは軍師コースで天才的な人を動かす才を持っていたけれど、姉は秀才型、妹は天才型でなおかつ本人は卒業後には軍師よりも内政をやりたがっていた。

 ローリエ・アルトラインとエーリカ・アルトラインの双子だ。

 トーレスが声をかけたといったか?中央ではなくて西シュバリエールに入っているのか・・・?

「サリィ姉様、お疲れ様です。そちらのお姉様方は?」

 あの二人が西にきてくれるというならぜひとも顔をつないでおきたい、そしてできればウェリントンの開拓に力を借りたい、特に妹の方。

 やや興奮したボクは、少し勢いづいて姉に尋ねる。


 サリィは予想外にボクがすばやく反応したからか、少し驚いた様だったけれど、すぐににこやかな笑顔を浮かべて二人を紹介してくれた。

「アイラちゃん、この二人は私と同じ組のローリエ・アルトラインとエーリカ・アルトライン、ロリィとエリィです。二人まとめて呼ぶときはロリエリカでお願いしますね」

 

「ロ、ロリエリカさんですか・・・?ロリィ先輩とエリィ先輩とお呼びしても?」

 ロリという単語にロシア帝国の貴族の著作で物議をかもした文学作品を思い浮かべる。

 日ノ本ではその後紆余曲折を経て、ロリとは若年で婚姻前の幼い乙女を指す言葉になった。

 いや二人は11才なので間違いなくロリだけれども

 その言葉を思い浮かべて一瞬うろたえたものの何とかごまかして、その前にサリィが呼称したニックネームのほうで呼ぶことを提案すると、二人はうなずいてくれた。


「お初にお目にかかりますアイラ姫殿下とその妹君のアイリス様でいらっしゃいますよね?」

 姉の方ローリエがおどおどとした雰囲気はそのままに、詰まることなく一息で笑顔のままに問いかける。

「はいロリィ先輩、兄さんや姉様がお世話になっている様で、ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ございません。」

 しかしボクが挨拶を返すと途端に恐縮した様子になってしまった。

「そそそ、そんな、わた、私たちの方こう・・・方こそお世話になりっぱなしで、トーレス先輩にも、姫殿下にもすごくよくしていただいています。」

「あはは、ロリ先輩かわいい!双子同士ですし、これから仲良くしてくださいね?」

 アイリスはロリィ先輩に好感を持った様でより親しげに呼ぼうととしたのかとうとうロリと呼び始めた。

 笑いをこらえながらボクはもう一人のエリィ先輩の方へも会話を振ることにする。

「エリィ先輩ボクからもお願いしますね、これから親しくお付き合いさせていただけたら嬉しいです。」

 そういってさりげなく手を握って少し上目遣いでお願いすると、エリィ先輩は頬をわずかに赤らめて、でもすぐに咳払いして体裁を整えながら答えた。

「恐れ多いことでございます。が、姫殿下がそうお望みでございましたら、それにお応えするのは臣下の勤めでございます」


 これは、仲良くというより、主従の立場を明確に線引きされてしまった気がする。

 どうしようかな?でもボクが望むなら応えるとも言っているのだから、そう望んでみようか。

「はい、エリィ先輩、私もアイリスも先輩よりも2つ年下ですが同じ双子です。何かの縁だと思いますからこれからはもっと頻繁にサロンにもこられますよね?後輩としてかわいがってくださると嬉しいです。」

 そういって再度お願いすると、エリィ先輩は今度は飾らない笑顔で答えてくれた。

「はい、もちろんですアイラ姫殿下」


 その後改めてトーレスからも二人を紹介してもらい、みんなで談笑していたのだけれど、周囲テーブルからも視線が集まっている様に思う。

 それは普段ボクたちに向けられている視線と比べるとずいぶんと好奇心に満ちた視線で・・・気になって視線の先を追いかけてみると、エリィ先輩を中心にした視線だと気付くことができた。

 そしてそのエリィ先輩の視線は、誰とも話していないときには我が兄トーレスに向けられているとすぐにわかった。

 しかしトーレスの方は大体ボクかアイリス、それにシャーリーをよく気にしている様で、あとは一生懸命話しかけてくるロリィ先輩の相手をしている。

 エリィ先輩の視線と交わることは無い・・・。

 ボクにも女の勘というものはあるのでわかる。

 これはエリィ先輩はトーレスに仄かな恋心を持っていると思って間違いないだろう。

 ただしトーレスは完全に気づいていない。


 ほかの先輩方はどうだろう・・・?

 シリル先輩は・・・・フローネ先輩に何か帳簿のつけ方を教えているみたいだ。フローネ先輩は才媛風のポンコツなので他人の色恋沙汰に正しく気付くことができるわけが無い、シア先輩も同類だろう。

 マガレ先輩は・・・今日もソニアとソルをかわいがってご満悦、邪魔しちゃ悪いね。

 あ、サリィはロリィ先輩とエリィ先輩を見てなにやら意味深に微笑んでいる・・これは気付いているね、さすがは王族、他人の感情の機微がわかるのだろう。


 サリィがそういう目で見ているとなるとやはりエリィ先輩はトーレスのことを好意的に思っていると見て間違いないだろう。

 ボクの女の勘もずいぶんと磨かれてきたものだ。

 しかし積極的にトーレスに話しかけているロリィ先輩はともかく、エリィ先輩のほうはトーレスのことをちらちら見るばかりで、話しかける様子もない。

 照れてるのかな?

 気にはなるけれど他人の恋路に口を挟むつもりはない、でも個人的にこの双子とは縁を作っておきたい。

 それが結果的に恋路を応援することになってもそれはそれで仕方ないことだよね?


「エリィ先輩」

 こっそりと声をかける、まぁこそこそしたところで狭い室内なので、周りにも伝わっているけれど。

 トーレスをチラ見していたところを急に声をかけたので、エリィ先輩はすこしわたわたした。

 けれどすぐに落ち着いた様子でボクにたずね返す。

「どうかなさいましたか?姫殿下?」

 ひとまずはきっかけがほしいだけだし・・・。

「ボク、先ほども申しあげました通り双子同士ということに、運命めいたものを感じてるんです。今日はこの後、何かご予定はありますか?」

 少々あからさまだとは思うけれど、可能なら今日このまま家に連れて帰ってお話したい。

 西の僻地の森林地帯の開発に興味はありませんか?ってどうやって話を持ち込もうか・・・。


「あぁ、えっと、寮に帰ったら勉強するくらいです。」

 心の中でガッツポーズ、よしじゃあ堂々と誘ってみよう。

「よろしければお二人とも今日はうちでお夕飯を食べていってくださいませんか?お話たくさんしてみたいです。」

 サロン中の人たちが驚いた様な顔をする。

 それはそうか、ウチとはいうけれどボクがユーリの屋敷で暮らしていることは有名なことで、そしてここは西シュバリエール、彼らにとってユーリの家が就職希望先なのだ。


 そのことを考えたのか、それともほかの事を考えたのか、しばらく逡巡していたエリィ先輩はロリィ先輩と視線を合わせ、頷き合って

「はい、喜んでご馳走になります。」

 と笑った。


ローリエとエーリカは前周の幕間4で名前がちろっと出てきた双子です。

作成時点では、天才の妹が妹にコンプレックスを持つ秀才の姉をかばって死んでウジウジ、最終的に姉覚醒とか考えていたのですが、途中で人死に描写を減らすことにした(シリルやシアが死ななくなったあたりからですね)関係で死にキャラになっておりました。

この周では死なないキャラの予定ですが、学校が終わった後死にキャラになるかどうかは現状未定です。

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