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第74話:穏やかな学校生活2

 学校が終わって邸に帰ると、お帰りと言って迎える人がいる。

 その腕の中にはまだ言葉を放つこともできないほど幼い、か弱い、でも力強く新しい命が、ただいまの声の主が誰なのか確かめる様にアイラやアイリスの方をじっと見つめる。

 前周では早々に喪われた平穏が、得られなかった安息が・・・アイラを迎え入れる。

 その日常がどれだけ尊いものか、どれほどアイラが焦がれたものなのか、正しく理解し共感できる者はその婚約者の少年一人だけだった。


 長い人生の中でたった4年だけの日常を、学校で学び、時には寄り道したり、一日一日を友人と家族に囲まれての日常をアイラは謳歌していた。


------

(アイラ視点)

 学校が終わって、アイリスやユーリと待ち合わせて家に帰ると大体16時前後になる。

 ボクが学校に通う様になってから、城に顔を出す機会がますます減った。


 昨年ユーリがクラウディアに住まう様になってからは、ボクも1週間丸々をホーリーウッド屋敷で暮らす様になって、ユーリが学校に通う間城に通うという生活に切り替わっていた。

 時を同じくしてエイラも今までの、ボクがお城にいる間ボクに仕えるという形態から、ボクと生活をともにして、休みの日に城のノイシュの部屋に帰る様になった。


 それが今年は、ボク自身学校に通う上に、休みの日もユーリとのデートに使うため城に顔を出さなくなってしまったのだ。

 これに腹を立てたのがエミィだ。

「アイラちゃんがぜんぜん帰ってこなくて可愛がれませんの!」

 とシシィを膝で抱き、アニスと一緒にお勉強したりお昼寝の世話をしたりしながら叫んでいるらしい。

 そして2歳を過ぎたシシィもそれに同調する様に、ボクやアイリスに会いたいとよく言ってくれている様だ。

 たまに顔を出すとボクの脚にしがみついてなかなか離れないシシィはたまらなく可愛い。

 前周と比べても、妹分ではなく妹の立場になったからなのか、ますます可愛いと感じる。


 ただ研究室も完全に顔を出さない状態になってしまったので、研究成果をあまり提出できなくなった。

 といいつつ実はもう今やっておくべきことはほとんど終わっていて、各分野にまわしている設計図や図面、計画書の完成を待って、すでに用意している次の上位の書類を回すことを繰り返すという技術力向上を待っている段階なのであまり研究室ですることもないのだけれど・・・。

 研究室に顔を出していないのにどうやって研究成果を出しているの?といわれない様に手元に書面を大量に保持して待機中だ。


 学校から帰ると大体いつも、すでに家に帰り着いているアニスが庭でフィサリスと遊んでいて、時々はアニスを送ってきてくれたエミィが一緒に遊んで待っていてくれたりするけれど、今日はいない日の様だ。

 そしてそんないじらしい妹と屋敷に入ると、庭での騒ぎを聞きつけた母がピオニーを抱っこして、出迎えてくれるんだ。

 そしてピオニーはただいまというボクやアイリスの声に反応して、視線をボクやアイリスのほうに向けて笑っている様に見えるあどけない顔を見せてくれる。


「お帰りなさい、アイラ、アイリス、ユーリ様もみんなもお疲れ様、お風呂が沸いているからお夕飯の前に先に入ってくるといいわ、エッラ、ピオニーのことお願いできる?」

「かしこまりました奥様、さぁピオニー様ご一緒にお風呂に入りましょうねぇ」

 そういってエッラが笑いかけ抱き寄せると、ピオニーはボクたちへの興味を忘れた様にエッラのおっぱいをつかむことに夢中になってしまうのが少し悔しい。

 今はまだ肉親の情よりもおっぱいのほうが、ピオニーの心を捉えて離さないのだ・・・

 おっぱい呼ばわりはエッラに失礼か、エッラはすでに家族同然なのだから。


 お風呂に入るときは、大体みんなで一緒に入る。

 普通メイドはお世話のための薄い服を着て入り、自身の入浴は業務終了後だけれど、みんな学校もあるし、年少のメイドは寝る時間も早いので一緒に入る様にしている。

 なのでこのタイミングで服をきて入るのはフィサリスくらい。


 屋敷のメンバーでユーリと一緒に入らないのは、トーレス、シャーリー、ソル、ソニア、サークラと母ハンナで

 母は大体サークラと入り、シャーリーが一緒に付き合っていることが多い、トーレスは一人で、ソニアはソルと二人で入浴する。

 シャーリーは昨年まではブランシュと一緒に入浴していたのだけれど、ブランシュは結婚活動のために、今年からホーリーウッドに戻ってしまった。

 さすがに20歳ともなるとご家族がうるさいみたいだ。

 とはいえ、ブランシュはモテる女なのであまりあせった様子はなかったけれど・・・。


 あとは稀にエミィやサリィが泊まりに来ると、さすがにユーリには遠慮してもらうことになり、そのときにはユーリはナディアと二人で入浴する。

 エミィはやたらトーレスと入浴したがるけれど、いくらマッチョや細マッチョが好きと言って憚らないエミィとはいえ、お姫様としてそれはどうなのかな・・・?


 今日はアイリスはちょっとお疲れモードらしく、さっきまで西シュバリエールのサロンでおねむになっていたから、今もその名残でか少し眠たそうにしている。

 今日はトリエラがアイリスの世話をしているのだけれどさっきからアイリスの首がかくんかくんしていてやり辛そうだ。

「アイリス様ー、泡を流しますからお目目を開けないでくださいねー?」

「ふぇ・・・?トリエラなぁにー?イニャァァァァァァ!?」

「ア、アイリス様ぁ!?あわわわ・・・大変!目を洗ってください!」

 目に泡が入った様だ。

 寝ぼけたアイリスといつもボケボケしているトリエラではさもありなん。


 一方ボクはエイラに手伝ってもらい、隣には自分のことは自分でやる神楽が長い髪についた泡を丁寧に丁寧に落としている。

 しっかりと落とさないと髪が傷むので、人一倍長い髪を大切にしている神楽は大変そうである。

 じっと見ているとちょっと目が合って、たったそれだけのことなのに神楽はうれしそうにニヘヘと笑う。

 13歳になった神楽はしかしやはりこちらの世界で言えば11歳相当の矮躯だ。

 イシュタルトの人と比べて、日ノ本人はやや成長が遅く見える。

 しかしそれでも、トリエラやマガレ先輩よりは膨らんできている胸が、その成長を感じさせる。


 お風呂を上がると、ピオニーにはベビーパウダーを、女の子たちはスキンケアをするので、普通男の子は退屈になってさっさと出て行ってしまうと思うのだけれど、ユーリは普通に女の子並みのスキンケアするので大体同じ時間まで脱衣場に残っている。

 といってもみんなまだまだ若い10台(ボクとアイリスは9歳、アニスは6歳間近)なので普通化粧水と乳液くらいしかつかわない、さらにいえば治癒術が使えるのでサプライの魔法で化粧水は不要という手抜きをしている。


 しかしボクは最近成長し始めた胸がぞわぞわして触ってしまって痒かったり、服とこすれて痛かったりするので、お風呂上りの丁寧な保湿、スキンケアが欠かせなくなってきている。

 ただ自分でやると擦りすぎ触り過ぎで赤くなったり、かえって悪くしてしまうのでサプライをかけたあとは神楽やメイドたちにお願いする様にしている。


「あぁもう・・・アイラさん!あんまり身動ぎしないでください、はい、腕をバンザーイしてください。」

 今日は神楽がボクに乳液を塗ってくれることになった。

 あくまで淡々とした業務の様な行為と感じるメイドたちと違って、神楽によるそれはボクからすると少しアブノーマルなプレイでもしている様な、背徳感を生む。

 神楽は女の子としてのボクの世話を焼くのを喜ぶのでご満悦の表情だけれど、こちらはちょっと恥ずかしい。

 神楽のやわらかく、お風呂上りで熱を持った手がとろとろの液体をボクの肌に伸ばしていく。

 液体は神楽の手の熱で温まり、冷たいということはないのだけれど、敏感な部位を大切な人に触れられているのはやはり少し恥ずかしい。

「アイリス様ぁ~ちょっとくすぐったいですよぅ?」

「ひっ、ひひ・・・アハハハ、トリッ・・・エラ、ちょっと、待って・・・」

 一方隣でスキンケア中のアイリスは実に楽しそうだ。

 アイリスの場合はまだ精神的に幼いのでスキンケアを意識していない、胸が痒くなるので、そうならない様にお薬を塗ってもらっているくらいの感覚だ。


 ケアも終わって、脱衣場を出るとまだ18時にもなっていなかった。

 お風呂上りには母からおっぱいをもらうピオニーをしばらく眺めてから、夕飯までは授乳が終わったピオニーを寝かしつけながら待つ、日によってはこの時間にアニスも寝てしまうことがあり、翌朝腹ペコで不機嫌なアニスをなだめるのが大変だったりする。

 起こしても起きないのだからボクたちは悪くないはずだ。


 今日はそんなこともなく家族そろっての食事が始まる。

 ホーリーウッド邸では、ギリアム義父様やエミリア義母様がいらっしゃらない限り、メイドも皆同じ時間に食事を摂る様にしている。

 これは単に母ハンナがトリエラやナディアを立たせたまま食事をするのが落ち着かず。

 また学生であるので、時間が貴重だからだ。

 すでに3年以上一緒に暮らしていて家族だと思っているし、そもそも食事を主に用意しているのも母ハンナなので、いまさらメイドだから貴族だからといったところで意味がないことだ。


 そういうわけで今日も母が料理を持ってきて、フィサリスとエッラが主にそれを手伝う。

 はじめのころはトリエラややってきたばかりのころのエイラやソルも手伝おうとしていたが、母があなたたちはまだ成長期なんだからお手伝いのために立ってる暇があったらその分しっかり噛んで食べなさい。

 と手伝わせなかったのだ。

 立たずにできる手伝い、たとえば大皿の肉を取り分けるとか、アニスがものをこぼしたときにその始末をしてもらったりはしているけれど、それは「おねえちゃん」的振る舞いの範疇であり、少なくとも食事の時はメイドと主人ではなく家族として振舞っている。


 食事が終わり、寝支度を整えると21時には就寝する。

 基本的に5歳以上の場合は一人寝推奨だけれど、フローリアン養母様から教えていただいたイシュタルト貴族女子の裏の文化もあるし、ボクの場合はユーリという婚約者もいるため、メイドや神楽などの女の子、男の子でもユーリやトーレス相手なら同衾しても問題にはならない。

 ボクはトーレスと添い寝する気はないけれど、たまにアニスやアイリスが父性を求めてトーレスと一緒に寝ていることがある。


 ボクは婚約者のユーリとよく添い寝し、週に1~2回を神楽と添い寝する。

 ボクがいつも甘えてばかりの子だったら許されなかったかもしれないけれど、普段しっかりしている分寝るときくらいは甘えたいのだろうと、ほぼ毎晩だれかと添い寝しているのも咎められたことはない。

 今日も今日とてユーリとベッドに入り、一枚の薄い掛け布を二人で一緒に被り手をつないで眠る。

 別段特別なことはない。


 いつもどおりの日常、いつも通りの温もり、アイラ・イシュタルトの生活は今日も穏やかに流れている。


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