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第73話:穏やかな学校生活1

 普通の学校生活というものがこんなにも波風のないものだと、アイラは知らなかった。

 アイラが経験した学校生活というものはこれまで騒がしいのが普通だった。

 だからこそ今自分が送っている生活を、アイラは幸せだと感じているし不満もなかった。

 無為に時間を過ごすつもりはないが、穏やかで心安らかにある日常というものはとても尊いものだとわかっているから、アイラは今を楽しもうと思っていた。


------

(アイラ視点)

 2月になった。

 いよいよ本格的に軍官学校の授業が始まっている。


 今生でもボクは攻性魔法課のA組、すなわち近接適正もある魔法適性の高い生徒を集めたクラスとなった。

 同じクラスにはボクとエッラ、神楽とエイラ、ソニアとソル、ヒースそれに前周の顔なじみもあわせれば、エル族のサーニャ・ソルティアとトレント族のリスティ・フォレスティア、まじめなフィーナ・オブティシアン、不器用で堅物なノヴォトニー・クレイマンなど、前世のメンバーにカグラとエッラ、ソルとヒースを加えただけに見えるメンバーだ。

 すなわち男13人女子19人の32名、班分けはこのクラスにはメイド付男子がいなかったため男子は男子だけ女子は女子だけで分かれることとなり、男子は6人班と7人班、女子は6人班2つと7人班一つとなった。

 ボクたちは6人班で、ボク、神楽、ソニア組とでセットになり、サーニャとリスティは面倒見のよいフィーナのまとめた班に入った。


 今年は学生たち・・・・から近年まれに見る豊作だといわれている。

 軍官学校生の将来の就職先候補というのは一般的に土地持ち貴族家の警備隊や官吏であり、中でも人気の就職先は生徒の地元を除けば王家と四大侯爵家だ。

 そして現在の状況を見れば3年生に次期ペイロード侯爵のジャスパー先輩にその妹のユミナ先輩、2年生には未来の女王陛下であるサリィ姉様と未来のホーリーウッド侯爵のユーリ、そして1年には王子のリントにグレゴリオ、ペイロードの次女ラピス、スザクの長女アイビス、現在は王家の姫で、将来ホーリーウッドに嫁ぐことが決まっているボク・・・とオケアノス以外そろっている。

 そのほかにも身分が高かったり、就職先として有力な新興貴族家が混ざっていたりと、目に留まれば将来の安泰に間違いなく役に立つ学生が大勢いるのだ。

 無論、ここで焦って自分を売り込む様なマネをした者はほとんどの場合は弱小貴族家に仕えたり冒険者になることになってしまう、多少でも有能な者ならば黙って修行に励んでいるだけでもそれなりに目立つのだから、売り込みをする必要はないのだ。

 そうでなくてもシュバリエールという互助派閥組織もあるしね。


「・・・それでは、本日の日程はここまで、解散。」

 A組の担当教官メリーベルの号令で今日も解散となったあと

「あぁー終わったー。アイラちゃん今日はどーするー?」

 授業が終わると同時、親友であるソニアがニコニコ顔で寄り道するかどうか尋ねてくる。

 ソニアはホーリーウッド時代からと同様にボクやアイリスのことをちゃん付けで呼んでくれる様にとお願いしている。

 ソニア相手なら本当は呼び捨てしてもらってもいいくらいなのだけれど、さすがに無理!とのことで以前からのちゃん付けでお願いした。

 彼女とアルフォンシーナはホーリーウッドの友人代表としてコリーナやクロエたちの分までボクを見守りにきてくれた。


 子爵家のアルフォンシーナはともかくソニアは平民で、外見もちょっと細っこいけれど十分に女の子らしくてかわいいので寮暮らしをさせて変な貴族に目をつけられると親御さんに申し訳ないと思い、ホーリーウッド邸で世話することにした。

 その際ソルをソニアのメイド枠で入学させることにしたのだけれど、ソルという名前はソニアの弟の名前でもあって、ソニアはあっという間にソルに親近感を持つ様になった。

 ソルはソルで、普段はちゃんとメイドの仕事をするが、お風呂の世話とか着替えの世話、それに抱き枕役なんかは誰が相手でも恥ずかしがって嫌がる節があったのにソニアには好きな様にさせているので、相性が良い様だ。

 髪色が近いし何か思うところがあるのかも?


「姫様ーまた明日ー。」

「はい、また明日」

 席の近いクラスメイトの女子たちが、手を振っては教室を出て行く。

 それに対してボクもにこやかに手を振って返す。

 ソニアが気軽に話しかけてくれて、ボクがそれに普通の少女らしく対応をしているのをみて、呼称はさすがに姫様とアイラ様ばっかりだけれど、クラスメイトたちも気軽に話しかけてくれる。

 変に畏まられたり、怖がられたりはボクも望むところではないから、その点でもソニアには感謝だ。

「今日からは帰るときはいったん西シュバリエールのサロンで集まることにしてるから、とりあえずそっちにいこうか」


 ヒースやその他の学友たちとも別れを告げて、円形校舎の西サロンへ向かう。

 毎年イベントの度に王族の観覧席から観戦していたので、校舎ですれ違う先輩方にもすでにボクは認知されていて

「ごきげんよー姫様ー」

「アイラ姫様だ、こんにちわー」

 なんて気さくに声をかけてくださる。


 そのひとつひとつに笑顔と簡単な相槌を返していくのは多少疲れないこともないけれど、大事なことだ。

 この学校で学ぶのは国のためであり、学生枠とメイド枠という区別はあるものの、出自の貴賎は関係ない。

 それでも学校内で築いた関係性がそのまま将来の就職の材料となるので、やはり生徒たちにとっては関係あるのだけれど・・・・、それでも主催者である王家に養子縁組とはいえ名を連ねるボクが声をかけてくださった先輩方にお返事を返さないというのはありえない。

 ただ放課後に200mほど歩いただけなのに、50人以上の学生に挨拶をされるというのはなかなか大変なものだと思う・・・。

「ようやくついたね」

 神楽はボクの隣で、ソニアはソルとお手手をつないで、エッラとエイラは後ろから追従。

 その並びのままようやく西シュバリエールのサロンについたボクたちは内部に入っていく。


 ボクたちが入った途端にサロンの中でおしゃべりしていた学生たちが一瞬静かになったけれど、西サロン内ではボクたちに自分からやたらと接近しないというルールがすでに定められていて、ボクたちから話しかけない限りは特別用事がないと話かけてこない様になっている。

 監督生と次期監督生の計らいで・・・。

「失礼します」

 そういって全体に挨拶をすると、サロン内にいた学生が頭を下げて、どうぞごゆっくりとかようこそ、とか小さく挨拶したあと談笑に戻っていった。


 それからボクは目当ての人たちを見つけて声をかける。

「シリル先輩!マガレ先輩!ラフィネ先輩!」

 3人はサロンやや奥のテーブルに座っていて、何かのジュースを飲んでいたみたいだが、ボクに気づくとすぐに立ち上がり、ボクを迎えてくれた。


「お疲れ様ですアイラ様、軍官学校にはもう慣れましたか?」

 シリル先輩がいつもどおりの優しい声色でボクに尋ねる。

「あはは、まだ数日ですのでさすがに・・・ですがここを使わせていただけるので感謝しています。校門とかだと目立ってしょうがなかったので」

 初日は校門前でアイリスやアルフォンシーナを待っていたのだけれど、人ごみができて通行の邪魔になってしまった。

 

「ここはホーリーウッド家に仕えたい者の集まりですから、ユークリッド様やアイラ様のために使っていただけるならいくらでも提供いたしますよ、皆もお二人の睦まじい様子を拝見するだけでもやる気があがります。」

 そういってシリル先輩はボクに椅子と果汁をジェスチャーで薦め、遠慮せずにボクは座り、注がれた果汁も頂く。

 メロンとよく似た瓜系の果肉も残してあるジュースで、ほどほどに冷やしてあっておいしい。

 甘さは控えめだけれど、口当たりがすごく気持ちいい。


「なかなかおいしいですね、甘すぎず、ほどほどに冷えていて、喉越しが良いです。」

「気に入っていただけてよかった、カグラさんたちもどうぞ」

 とシリル先輩が声をかけると、ラフィネ先輩が全員分のカップを同じ果汁で満たし、ボクたちは一息つくことができた。


 少し遅れて、アイリスとトリエラが到着。

 まだユーリはこない。

「アイラー!会いたかったー。もう今日も30回くらい『アイラ姫様』と勘違いされたよ?」

 と口を尖らせてプンスコするアイリス、その子どもらしい怒り方はむしろもっと困らせたくなるかわいらしさがある。


「ボクとアイリスは似てるからね、並んでいるなら間違えられないけれど、アイリス一人でいたら勘違いされるよね。ご苦労様。」

 そういいながら頭をなでてやるとニヘニヘと笑いながら、座るボクの膝に縋って懐いて来る。

 最近邸では、妹のアニスとピオニーがいるからなのかなかなか甘えてこない、でもここでは周りに年上の人ばかりだからか甘えても良い状況だと判断した様だ。

 よしよしと引き続きなでてやっていると、シリル先輩たちや周囲の見知らぬ先輩たちも目を細めてボクたちの様子を見ている。

 視線が集まっているのがなんとなく気まずくて、ボクは先輩方に尋ねる。

「ユーリも遅いですけれど、トーレス兄さんは今日はサロンには?」


「あぁ、トーレス君なら、今監督生室で後輩の指導中ですよ、来年の監督生候補のザクセンフィールド伯爵令嬢ですね。」

 とニコニコとラフィネ先輩が語り

「二人とも優秀なので、今私が監督生のはずなのに楽ができていますね。」

 とシリル先輩も今度はお茶を飲みながら二人のことをほめる。

「なるほど、フローネ先輩に仕事を教えているのですね。」

「アイラ様、フローネさんのことご存知なんですか?」

 とソルをかわいがり中のマガレ先輩が不思議そうに尋ねてくる。

 さっきまでソニアがソルを取り返そうとしていたけれど、いつの間にかソニアもマガレ先輩の膝枕に寝かしつけられて耳朶をもてあそばれている。

 少し2人の顔が蕩けてきている様に見える、マガレ先輩どれだけなでるのが上手いのだろう。。


「一度サリィ姉様のお友達として顔を合わせたことがありますね。」

 マガレ先輩小さい女の子好きだとは知っていたけれど、結構守備範囲広いよね?

 真紅、赤橙、オレンジに近い明るい赤茶と3人の髪は色は違えど赤系統なので3人団子になっていると姉妹みたい、体格も全員すらっとスレンダーなのに、マガレ先輩もソニアも腰の辺りはきゅっと引き締まっていてくびれがあるし、ソルはまだ少し子供っぽい体型だけれど将来はスレンダー美人になりそう。

 するとうわさをすれば影というべきか、監督生室側の扉が開いてトーレスとフローネ先輩、シア先輩とシャーリーが談笑しながらサロンに入ってきた。


「あ、トーレス兄さん、今ちょうど兄さんの話をしていたんですよ、シュバリエールのお仕事お疲れ様です。」

 そういって笑顔で兄を迎える。

「あぁ、アイラ、アイリス、みんなもいらっしゃい、ユーリ様はまだきてないんだね。」

 と、トーレスは少し照れた様にフローネ先輩と心なし距離をとりながらこちらにやってくる。

 おやおや?これはこれは?

 ちょっと怪しい匂いがするね?


「フローネ先輩、お久しぶりです。昨年お城でお会いして以来ですね?」

「はい、アイラ姫様、サーリア姫様から自慢されて以来です。その眠っていらっしゃるのがアイラ姫様の双子の妹君ですか?」

 え?と思って、ボクにしがみつく半身を見ると、座るボクの腿に顔を押し付けたまま眠っていた。

「うわ本当だ。疲れてるみたいです。トリエラ、このままボクの隣に寝かせて、何かかける物を・・・はいこれ」

 暖かいサロンの中だけれど風除けに薄い布を一枚収納から取り出しボクの座っているソファの神楽と逆側に体を横たえてもらう。

 頭はボクの膝の上のままで、撫で撫でを続ける。


「見た目はそっくりなのに、しっかりお姉ちゃんと妹なんですね。」

「はい、アイリスはボクのかわいい妹です。」

 そのままユーリやアルフォンシーナがきてもアイリスは眠り続け、結局アイリスが起きるまでサロンで時間をつぶしたもののアイリスが起きたらそこそこ遅かったので、まっすぐ邸に帰った。


アイラをしばらくぬるま湯につけます。

※2017/7/17 ザクセンフィールド伯爵令嬢の説明について 再来年度の監督生⇒来年度の監督生へ

 アイラからトーレスへのねぎらいの言葉を監督生のお仕事⇒シュバリエールのお仕事 へ変更しました。

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