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第72話: 兎走烏飛

前作ではおなじみの巻きパートです。

 おじい様おばあ様、お元気でいらっしゃいますか?

 結局昨年もわずかな時間しか帰省することができず。

 大変心苦しい限りです。

 光陰矢の如しとはよく言ったもので、王都にきてから3度目の、また新しい年を迎えることになりました。

 ボクとアイリスも9歳となり、今年からいよいよ軍官学校に入学します。

 ユーリのお嫁さんになるだけなら別にボクが軍官学校に通う必要もありませんが、アイリスだけ入学というのも寂しいのでボクも通うことにしてしまいました。

 ユーリのことを学校でなんて呼ぼうかとか、トーレス兄さんのことを兄さんと呼んでいいものなのかとか、呼び方ひとつとっても迷うことが多いです。

 これから4年間を思うといろいろと不安に思うこともありますが、今度帰省したときには学校でのユーリの様子なんかたくさん密告しちゃいますから、楽しみにしていてください。


 それから・・・。


------

(アイラ視点)

 今朝、義両親とユディ、父エドガーがホーリーウッドに帰っていった。

 1年ぶりに会えたユーリと大好きなナディアやアニスとわずか2週間(それでもユディのために長めに滞在した)でお別れとなりユディが大泣きし大変だった。

 別れ際の父エドガーは寂しそうであったが、新しく生まれた妹のピオニーをようやく抱くことが叶い、こちらにいる間は満面の笑顔であった。

 そう、妹が生まれた。


 昨年8月6日母ハンナは、新たに末娘となるピオニーを産んだ。

 1年に一度、数日しか逢瀬がない父エドガーとの間に奇跡的に当たりを引いたらしくて金髪の女の子を産んだ。

 新しい娘は事前に手紙でやり取りをしていた父が男ならば、女ならばと候補を出し、その中から最後にボクが選ばせてもらえることとなり、ピオニーを選んだ。

 きっと立ち姿の艶やかな美人さんになるはずだ。

 ウェリントン家は男爵家なので普通は乳母を雇うが、母ハンナにはその文化がなく自身の母乳で育てている。

 まぁすでに5人も育てていて、いまさら乳母なんているかという見解。

 ボクからみて9年度も年下の妹はかつてボクがそうされた様に家族の愛を受けてすくすくと育っている。

 そういえばちょうどサークラとボクたちとの差だね?

 特にサークラとエッラ、フィサリスはその圧倒的な母性の塊おっぱいのためかよく懐かれており、ともすれば母ハンナ以上にその胸をピオニーにもてあそばれている。


 そう、サークラはまだ一緒に暮らしている。

 付き合い始めてから3年たったけれど、サークラはまだジョージと結婚には至っていない、二人の相性は悪くなく、サークラもジョージのことを結婚相手だと認識している。

 しかしながら現在ジョージはオケアノス侯爵代理としてオケアノス領の大掃除中であり、命の危険の可能性もあるためサークラとアクアを王都に残して、根を張った秘密組織「シンの火」の根絶に腐心している。


 つい先日のこと、ついにジョージはジェファーソンを排除した。

 昨年10月、軍官学校を卒業したジョージは、入学以来果たしていなかった帰郷をしたのだが、そこにはこっそりと8歳のボクも同行した。

 同行というか、待ち合わせ場所を決めて跳躍で合流したのだけれど・・・。


 ジョージは現在唯一オケアノス侯爵代理を、イシュタルト王家から認可された人間なので家宰を僭称するジェファーソンよりも立場は上であった。

 そのジョージが帰郷したにもかかわらずジェファーソンは己の意に沿わない行動を繰り返したジョージを捕縛する用に側近に命令した。

 側近兵の大半はオケアノスの領民であり、ジョージに槍を向けることをためらったが、残りの一部の者が「シンの火」の構成員であったためジョージを捕縛せんと槍を向けた。

 そのときジェファーソンはアクアが手中にある以上ジョージは抵抗できないと考えていたのだが、実はその前日すでに、オケアノス市内でジョージと一度合流したボクが跳躍を使ってアクアを連れ出し、市内の旅館でジョージとの顔あわせをして、本人を連れ出せることを確認したあと一度幽閉先の塔に戻し、さらに一晩遅れで合流したジョージの王都での側近、アンリとパブロがこの日ジョージが一緒に帰省した様に偽装して入城する時間帯にボクは再度跳躍でアクアを連れ出し、王都へ連れ出していた。

 ボクを信じたジョージは軍官学校でも上位の実力を発揮し、アンリ、パブロと3人だけで50人の兵を殺さずに鎮圧したという。


 そして王都でジークにアクアを謁見させオケアノス侯爵の正統な子女であると確認、軍官学校を出ていないことと政治能力がないため全権をジョージに委任し、その子息を次のオケアノス侯爵とする任命書を書いてもらい、同時に大逆人ジェファーソンと秘密結社「シンの火」の構成員に対する生死を問わない捕縛命令を出してもらった。

 それを今度は今回の計画のため(オケアノスを完全にイシュタルトの統治下に置いていないとアスタリ湖と紅砂の砂漠、水晶谷の鍵回収に不都合がある可能性があるため、ナタリィが手伝ってくれることになった。)に王都に来ていたナタリィの背に乗ってオケアノス上空に移動。

 そこから跳躍でオケアノス城の広間にたどり着いた時には、ジェファーソンや30人ほどの兵士がすでに捕縛されており、「シンの火」構成員だったらしい兵士たちは血に塗れていた。


 どこからともなく現れた見知らぬ少女を、ジェファーソンを捕縛している兵士たちは一瞬警戒したものの、ジョージが「姫殿下、逆賊の捕縛は恙無く終わりました。殿下と王家のご協力に感謝しいっそうの忠誠を誓います。」と、膝を折ったことから、その場にいたオケアノスの兵士たちすべてが膝を折った。

 それから、おそらくジェファーソンに命じられ人質となるアクアを連れてくるために使いに出たと思われる兵士がちょうど戻ってきたらしく、ボクを人質にしようと動いたが、そんな簡単にボクが捕まるはずもなく光弾一発で昏倒、ジークから預かった任命書をボクが読み上げてオケアノスにおける権限が臨時とはいえすべて正常にジョージに引き継がれた。


 ジョージはすぐさまジェファーソンの悪事について大まかに公表、「狂い姫」リリー・マキュラ・フォン・オケアノスの名誉の回復と、同じくその際に粛清されたり、姫をかばう発言をしたために斬られたり、処罰された者たちも同様に名誉を回復し、確認できた遺族に慰謝料としてジェファーソンが肥やした私腹をばら撒いた。

 ジョージはこれらの悪行に直接加担せずとも、真実を知りつつ解決に乗り出さなかった実父セルディオを責めこれを幽閉、弟セルゲイについてはジョージ不在の間に家の権力を使い、横暴を繰り返した咎で出家を命じたが不服を示し、ジョージとボクに対する殺意を仄めかしたため毒杯を呷ることとなった。

 ジョージは少しだけ寂しそうな目をしたものの「姫殿下が見るものではない」と言い、ボクには王都に帰る様に告げた。

 あれから丸1ヶ月が経つものの未だオケアノス領の内部は荒れており、今はまだサークラを迎えることができないと手紙が届いている。


 アクアは前周と異なり、実子ジョージと肉体関係を持っておらず。

 そのためかやや幼い印象は受けるものの体は正常に成長しており、セルディオやジョージのことも正しく認識していた。

 現在は王城の賓客用の区画で暮らしており、時折挨拶に訪れる王族やユーリにも優しい笑顔を見せてくれる。

 ただ時々いつになったらジョージに会えるのか?とよく尋ねてくる。

 彼女の世話は現在主にサークラが担当しており(無論実際にはメイドが二人ついているが)サークラとアクアの相性も悪くない様なのでひとまず安心しているところだ。


 昨年初頭から、ユーリもナディアをメイドとして軍官学校に通っており昨年は剣士課、今年からは魔法戦技兵課となっている。

 サリィも入学していて王族らし軍務課

 なおイサミとモーリスはそろって剣士課で入学、今年は近衛戦技兵課となっており、ユーリの側近候補なのに課とクラスが分かれてしまった。

 トーレスも今年は3年生となり魔法戦技課の教導兵コースへと進んでいる。

 教導兵コースは魔導特務兵コースの様な花形ではないが、本人がある程度卓越した技量を持ち、しかもそれを他者に教育することができる様な指導力に優れた人間が入れるコースでエリートと言っていい。

 兵を扱える様になるため戦務課の知識もある程度高度に身につけることになる。

 すでに内務や外務に必要な知識はある程度城で教育されているので器用な兄らしく満遍なく身につけておくことにしたらしい。


 今年入学する者は身近であれば、ボク、アイリス、神楽、エイラ、エッラ、トリエラ、ソル、ラピス、ヒース、アイビス、フランルージュ、リントハイム、グレゴリオが入学している。

 そしてホーリーウッドの親友のうちソニアとアルフォンシーナも入学しており、現在ホーリーウッド屋敷に居候中。

 

 主従枠の組み合わせは、ボクにエッラ、アイリスにトリエラ、神楽にエイラとなっており特に神楽の組は黒髪と銀髪の組み合わせが非常に目立っている。

 アルフォシーナは本人の希望で単独で入学、ソニアはボクとの学校生活と将来のためにやってきて、一人じゃ心細いだろうということでソルをメイドにつけてあげることにした。

 しかしここで若干の問題があって、ソルの名前が偶然たまたまソニアの弟と同じ名前でさらに色味は違うもののソニアと髪の色が近い色だったためソニアがソルに対して尋常ではない親近感を覚えたのか、妹の様にかわいがる様になってしまった。

 ソルもソニアに対して何か思うところがあるのか他の者にいわれてもめったにお風呂に一緒に入ったりしないのに、ソニアとは一緒にお風呂に入るし、添い寝もしている様で相性は非常に良いらしい。

 中が良いのはいいのだけれど、仮とはいえ主従の態度じゃないので、少しだけ心配だ。

 ラピスのメイドは初対面の見知らない娘でヒースはちゃんと男の子として入学している。

 そして、アイビスのメイドはやはりフランルージュと前世と同じだ。


 リントハイムは王族正室の男子として通例通りメイドはなしで、グレゴリオは側室の子なのでカリーナがついている。

 グレゴリオはブリミールの事件後気を落としていたものの、その後見事な更生を果たし、それまでの横暴な王子から徐々に、気遣いができる様になり、正室腹の王子や姫たちを立てる様になった。

 現在では言葉遣いはやや尊大なものの、とある少女にいいところを見せようと学業にも自分磨きにも熱心な少年となっている。

 母親のグリゼルダに対して反抗する結果となったが、グリゼルダもただ嫉妬や実家で蝶よ花よと培養されてきたお嬢様だったため自分が正妃でないことがなかなか受け入れられていないだけだったため、自分の子にまで諭された結果おとなしくなった。

 その後他の二人の側室との関係やフローリアン様との関係も徐々に回復しつつあり王室の秩序は数年で大きく向上した。

 特に年の近いオリヴィアとは良好な関係を築きつつあるとか。

 オルガリオが来年軍官学校に入学予定だが、後ろ盾がなくなった影響でよいメイドが見つからず現在グリゼルダの伝でメイドを選んでいるという。


 軍官学校の話に戻ろう

 ボクとエッラ、神楽とエイラ、ソニアとソル、ヒースは攻性魔法課、アルフォンシーナ、グレゴリオ、カリーナは剣士課、リントとラピスは軍務課、アイリスとトリエラ、アイビスとフランは補助魔法課に入学することとなり、例年最低年齢である9歳の入学は1人いるかいないかだといわれているのに、ボクの知り合いだけでも6人と、とんでもない結果になった。

 また今日1月28日の時点ではまだ一般に組み分けは周知されていない、ボクもジークの手伝いで組み分け判定を手伝ったため結果を知っているだけで、他言はできない。


 エッラはフィサリスと契約した後、向上した魔法の力をうまく使いこなしつつあり、勇者にはなっていないのに並みの勇者よりも高いステータスと技能を獲得している。

 フィサリスとも以前にも増して密に付き合う様になっていて、おそろいのカップや、色違いの小物つけてたりすると本当に仲良しの姉妹みたいだ。


 仲良し姉妹具合ならボクたちも負けていないけれど、ウェリントン襲撃が発生しなかったことが心身の成長を健やかにしているのか、前世の同時期よりも多少身長が早く伸びているボクとアイリスは、同様に体の性徴も前世よりはっきりと出ていて、前周よりもふくらみはじめるのが早かった。

 すでにひとつ上のエイラよりも女の子らしい体付きだといっても過言ではないけれど、比較対象がエイラなので今のところあまり大差はない。

 しかし、今のペースならば最終的に身長160cm超えも期待できるのでは・・・?と少し興奮している。



 他にもいくつかめまぐるしい変化があった。

 ハルベルトが卒業と同時にキャロルと結婚した。

 それとほぼ同時にキャロルの妊娠も王室内で明かされた。

 どうも昨年夏ごろからキャロルが頻繁に泊まって行っているとは思ったけれど・・・。

 きっと今年の夏頃にはかわいい甥か姪にお目にかかれるだろう。


 予定外の出来事としては、順調に併合の準備が進んだ結果ルクス帝国の姫君クレアリグル・ルクセンティアがボクたちと同じ年度でイシュタルト王国の軍官学校に入学することとなった。

 身分は隠し、しかしリントハイムとともに王家の馬車で通う。

 このことで周囲にはリントのいい人の様に見せかけて、身の安全を確保するつもりなのだろう。

 あわよくば血の結束を作るために姉さん女房へ婿入りさせる算段もあるかもしれないが・・・

 当のリントは現在アイリスにアプローチ中(ただし気付かれていない)、そしてクレアもアイリスにアプローチ中(純真美少女が好みらしい)。


 留学のために王都にたどり着いたクレアは、ボクと神楽と顔を合わせたときに驚いてはいたけれど、ボクが小さく「秘密」のジェスチャーをすると、声を出すこともなくそれから機会を見て神楽との再会を喜んだ。

 また学校には通わないが、リスタとカーラという2人のメイドをつれてきており、特にキス族のリスタはクレアのことを姫様ではなくマスターと呼び慕っていた。

 彼女たちも何年も前にほんの3ヶ月足らず帝城で世話していたメイド見習いの少女のことをしっかりと覚えており、姫の私室として割り当てられた部屋で再会を喜んだ。


 時の流れというものは非常に早いけれど、ボクは無為に過ごしていたわけではない。

 ただそれでも判断できないこと決めあぐねることはある。

 ひとまず目下の課題は、学校でユーリのことをなんと呼ぼうかということだ。

 前周と異なり彼は一学年上の先輩になってしまった。

 だというからには、ユーリ先輩?ユークリッド先輩?でも婚約者でもあるから呼び捨てでもやはりおかしくないのだろうか?

 いやしかし、仮にも姫殿下であるボクが婚約者とはいえ身分のある殿方を呼び捨てというのもどうなのか・・・?

 ユーリ様、旦那様、ユー君、ホーリーウッド様・・・?

 他は悩むことなく決まったのだ。

 トーレスは兄さん、サリィ、リント、グレゴリオは兄様姉様。

 あとはユーリだけなんだけれど・・・、まぁいいかユーリで問題よね?


「アイラ、そろそろ寝る時間だし、お風呂入ろう?」

 うわさをすればユーリがボクを誘いに部屋の前までやってきた。

「あ、うんそうだね、今いくよ」

 もうすぐ始まる学校生活への期待に胸を膨らませ、ついでに前世よりも心なし成長が見られる自分と妹の体つきにも少なからず期待を膨らませ、日記帳を閉じた。


ちょっとしばらく3日ギリギリの更新になっているので、焦ってきています。

ペースを戻したいです。

ただ学校パートは悪役がほぼいない平和な学校になってしまっているのでどうしたものか・・・。

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