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第71話:2年目4

 春の麗らかな日差し、雛のために餌を運ぶ鳥の羽ばたき、そこら中の窓から入ってくる花のにおいを感じながら、王城の中を数人の少女たちが歩いていく。

 その足取りに迷いはなく、ただまっすぐにある場所へ向かっていた。

 中でも先頭を歩く少女はどう見てもまだ2桁にも到っていないにもかかわらず、その眼差しは決意と使命感を感じさせる切実なものであり、すれ違う人々の目を引いた。

 そしてそれと同様に人々の目を引いたのは、少女の後ろに続く美少女たちだ。


 日ごろから彼女の周囲に見目麗しい少女たちが侍っているし、その人数も日ごろと変わりない。

 しかし今日は普段いる銀髪と赤橙髪のメイドがおらず。

 代わりにに空色の髪と紫の髪の少女が、王城ではあまり見ない意匠の服を着て追従して歩いていた。


------

(アイラ視点)

 ボクが驚いたことは、ナタリィが自らクラウディアまで赴いてくれたことと、その情報開示の範囲だった。


 フィサリスが帰ってきた翌日、午前のうちに早速とばかりナタリィを客人として屋敷に招いた。

 ナタリィは前にあったときとほとんど変化のない容姿をしており、ボクと神楽の顔を認めるとうれしそうに笑った。

「アイラ、カグラ、お久しぶりです。二人ともますますかわいらしくなりましたね。」

「ナタリィさん!お久しぶりです。」

 神楽もうれしそうにナタリィに飛びついていく。

 神楽にとってナタリィはこちらに来てボクと再会したときにお友達になった特別な友人だ。

 神楽のお尻の辺りにトリエラと同じ尻尾を幻視しながら、ボクも追いかけてナタリィにハグをする。

 ナタリィもなんだかんだとお友達とのふれあいに飢えているタイプだし、ボクだってナタリィと再会できたことは嬉しいのだ。


 ひとしきりナタリィとの再会を喜んだあと、ボク、神楽、ナタリィ、フィサリスの4人で今回のナタリィの出向について話し合う。



「それでは、国王に謁見し、ドラグーンを名乗ると?」

 大体の話を聞きボクはナタリィに尋ね返す。

「はい、あくまでこの世界に生きる一種族として、ご挨拶します。そして、先ほどの件もお願いしてみます。」

 ナタリィが言うには、かれこれ6000年以上、アンヘル大陸やエル大陸との付き合いがないサテュロス大陸相手なので神話にしか存在しないドラグーンが別の大陸や島にはいても別におかしくもないそうなので

、龍の島の内部の事、グリーデザイアのこと、大陸の獣にかかわる真実を一部ぼかしたものを、ほかの大陸の神話の断片として伝えてみるそうだ。


「なので、この様に龍の島での礼服も持ち込んでいます。龍の島から使者というわけです。」

 そういって、ナタリィはこの部屋に入ってから着込んだ衣装の袖を手首で引っ張ってみせる。

 彼女が着ている衣装は白系色のアオザイに似た薄い生地の上衣に、袖が淡い紅色で長く花の様にひらひらしたモノと、ボトムスは薄い紫、長くてヒラヒラしたキュロットスカート状になったモノを合わせた衣装で、頭にはティアラの一種になるのだろう丸鏡のついた冠をつけている。

 上衣は薄く透けており、下に肌に近い色のビスチェ状のものがうっすらと見えている。

 下も不思議な織り、生地が薄くなっていて、よく見ればキュロットスカートはビスチェから延びた紐で吊るされている構造の様だ。

 さらに下にはサテュロスで一般的なズロースやドロワーズ(地球のものと異なりこの2つは装飾の多寡で区別される。)ではなく俗に言う紐パンの様なものを下着として身につけているのがわかる。

 これでは激しく動くとスカートが外れて下着が露出しまうかもしれない、そうでなくてもすでに透けて見えている。

 袖を引っ張って衣装を見せびらかす様はただの年頃の少女の様だが、彼女は龍王の娘だ。

 とはいえ事実年頃の少女で現在は15歳、外見は12歳ほどのままであるが・・・


「それじゃあドラグーンとドラゴニュートのことも話すし、グリーデザイアやアンヘルのことも、大陸の獣のことも国王陛下に説明するんだね?」

 念のため確認する。ボクは今からジークに明日の予定を空けてもらってくるのだ。

「そういうことになります。伏せる内容としては神話の龍王陛下のご健在と、私がその娘であることですね。なので、アイラにはまず使者としての私が、王様と謁見したいこと、それから王様だけにお伝えしたいことがあると伝えてほしいです。龍の島はサテュロス大陸の最大勢力イシュタルト王国とともにグリーデザイアの封印のための協力体制を築くためにきました。」

 ナタリィは胸に手を当てて、微笑を浮かべた。



 ナタリィたちとの認識をすり合わせた後、ボクはエッラをつれて城に向かい、明日の昼1番の枠をあけてもらった。


---

 翌日、朝からナタリィとフィサリスも城に連れて行き、城で正装へと着替えてもらった。

 午前中は一応姫であるボク自らが、自分の応接間で年齢の近い賓客をもてなしその後、約束の時間までに落ち着いたところで謁見の間までお連れするわけだ。


 ジークには鑑定すると驚くから、後から塔の部屋に連れて行った後で鑑定する様に伝えたし、エッラにもあとから重要な話があることは伝えている。

 エッラはフィサリスと信頼関係を築いている、たとえフィサリスがドラゴニュートだと知っても、おそらくフィサリス自身を友人として受け入れてくれるだろう。


 フィサリスもナタリィとほぼ同様の形状をの体にはフィットして、そして手足はヒラヒラと布の余っている服を着ている。

 色は髪の色に合わせたのか水色基調だ。

 ナタリィとの一番の違いは頭に装飾品がないことと、胸が大きいため上半身の布が押し上げられて密着していて、よりはっきりと下に着たビスチェが透けて見えていることだ。

 王国では胸すべてを覆う下着は一般的ではないので、人に見られてもこれが下着だとはわかり辛いけれど、ナタリィのいうところによるともともとは下着まで透ける様な服を着ることで武器を持っていない、敵意はないということを示すための服であったけれど、長い間外交などなかったので、女性用はよりかわいらしいシルエットにするために袖や裾が変化したものらしい、暗器を隠せてしまう。

 しかしながら体の急所をさらしている、おへそ周りや太もも脇などがうっすらと透けている意匠は、ともすれば娼婦かなにかと勘違いされてしまいそうではある。

 しかし大陸外の国からの使者と名乗るのだ文化の違いがあることくらい、城に勤める人間ならわかるだろう・・・常識的に考えて。


 謁見の間に二人を伴ってきたボクは、ボクの付き人としてついてきてくれているエッラと神楽とを侍らせたまま、ジークの玉座の手前に用意されたボクのための玉座に座る。

 すでに玉座で待機していたジークに『陛下、昨日奏上させていただきました通り、大陸外からご使者として参られた姫殿下をご案内致しました。』そういって外国の貴人を案内いたしましたよ?と伝えながら間に入ってきたにもかかわらず、立ち会っていた者のうち数名が顔をしかめ、ボソボソと下品なとか、破廉恥なだとか言っている。


 しかしナタリィもフィサリスも、そしてジークも多くの大臣も気にした様子もなく続ける。

 そういう無能は相手しても仕方ないことだからね、目を凝らせば下着が透けて見えるくらいの幻想的な織りの衣装だし、その布の肌理の細やかさも静々と歩くナタリィ、フィサリスの美しさもすばらしいものだし。

 ナタリィはまずボクの伝えたカーテシー様の女性の礼を取る。

 イシュタルト王国の礼に合わせたものだ。

「お初にお目にかかります、ナタリィ・デンドロビウムと申します。この度は急な来訪でありましたのに拝謁の許可をいただきましてありがとうございます」

「堅苦しい挨拶は良い、聞けば他国の王族とのこと、後ほど食事の席を用意しておるでな、詳しいことはそちらで話そう。この場はナタリィ姫が余、ジークハルト・イシュタルトに正式な使者として謁見したという事実のためだけのものだ。」

 ジークが微笑みながら声をかけ、ナタリィは笑顔を返す。

 

「それでは、陛下、ナタリィ様一席設けておりますので、こちらへ」

 本当にただ挨拶をしただけでボクは再び席を立ち、ジークとナタリィに別室への移動を呼びかける。

 本当は席を手配したのはジークだけれど、様式美というのは大切だ。

 王が姫をもてなすよりも、姫が姫をもてなす方が微笑ましいし、使者だって言ってるのに不愉快そうに顔を歪めた様なへっぽこが『国王が格下の国の姫をもてなすなんて!』とか言い出しそうで怖いからね。

 イシュタルトはサテュロス随一の大国で、ルクスやミナカタ北部の取り込みも控えているけれど所詮はただの国、龍の島と戦でも起こそうものなら2日で滅びるだろう。

 なにせ相手は空の上で、イシュタルトで飛行できる人間はボク含め10人もいないのだから戦なんて成り立たないさ、ただイシュタルトは300年戦もしていないし、国力もサテュロス大陸では圧倒的なもので慢心している政務官も中にはいる。

 それがさっき不愉快そうにしていた連中だ。

 他国の使者が来たのに見慣れない衣装を着ているのをみて文化の違いと考えず、自分たちの尺度で破廉恥だの下品だの、小声とは言え口に出してしまったので、おそらくはもう外務畑での出世は望めないだろう。

 それはまぁいい、帝国のゲイなんとかやら、ペイルゼンの第一王子、ミナカタ南部のおえらい方なら大声でわめいているだろうしまだマシだったと思おう。

 


 ジークは昼一番を当ててくれるために、昼休みの時間まで政務をし、このナタリィとの時間を食事兼情報交換の時間としてくれた。

 政務の時間帯でも食事の時間はプライベートなので家族と客人、給仕以外は入ってこられない。

 また、席についた後この場は人払いを終えておりジークとボク、ナタリィ、フィサリス、エッラ、神楽しかこの場にはいない。

 ソルとエイラは応接室においてきていて、王城のメイドたちも下がらせている。


「では本題に入りましょう・・・ジークハルト様、改めまして私は龍の島より参りました。ナタリィ・デンドロビウムと申します。この度はお時間を頂きありがとうございます。」

 人間の姿のナタリィはステータス表的にはヒト族だけれどそのステータスはその年頃の娘としては異常なものである。

 昨日ボクも鑑定させてもらったけれど

 ナタリィ・デンドロビウムF15ヒト/

 生命1412魔法128意思304筋力78器用88敏捷50反応59把握81抵抗82

適性職業/魔術拳士

 と、並みの人間がそうそう到達できない数値を誇っている。

 前周で勇者化したあとのエッラ並みだものね。


 そしてフィサリスのほうに至っては人間体でいてもヒト・ドラゴニュートという種族ステータスとなるので、これまでジークにあわせていなかったのだけれど、生命力は5000近くあるし筋力も人間の少女の数字をしていないのですぐにわかるだろう。

 案の定ジークは約束を守り、謁見の間では鑑定をしていない様だったけれど、ここにきて鑑定をしてみたのか一瞬驚いた表情をしていた。

 しかし彼も王様なので本当に小さく一瞬驚いただけで、平静を保って会話を続ける。


「いやいやこちらこそわざわざ足を運んでいただき感謝している。アイラから聞いておるが、龍の島の指導者殿の娘で、普段は祭祀を行っておるとか?」

「はい、恥ずかしながら、島ではちょっとしたお祈りや儀式を担当させていただいています。」

 ジークとナタリィは別段緊張した様子もなく徐々に言葉を交わす。

「では今回のクラウディアでの魔物騒動もその祭祀に関係があると?」

「はい、我が龍の島には神話の龍王様からの申し送り事項がございまして、今回の事件はそれに関わることでございました。」

 端的にたずねるジークに対して、ナタリィも端的に答えていく。

 一部真実を伏せながらもジークに伝えられたそれはまとめると以下のとおりだ。


 まずグリーデザイアの存在について、彼らは龍の島の神話では以下の様な扱いだと説明された。

 グリーデザイアはドラグーン、アンヘル、エレメント、フェアリー、トレントなどと並んで、ナワーロウルドの均衡を維持する役割を持った種族であった。

 エレメントやフェアリーは人目に触れませんしトレントを含めてただ存在し生活しているだけで世界の均衡を保つ一助となり、グリーデザイア、ドラグーン、アンヘルは神王や聖母から託された役割を果たすことでその助けとなることができる。


 グリーデザイアのもともとの役割はこの世界にはじめから存在した動物から魔物を生み出すこと、この時点でイシュタルトに伝わっている伝承とだいぶ異なっているがジークは何もいわずに説明を聴いていた。

 神王から仕事を請け負ってから1万年ほど経ったあるとき、役割に飽きたグリーデザイアの中でヒトや亜人も魔物化できることに気づいてしまったものがいた。

 ただ魔法を持たない動物を魔法の使える魔物に変えるのではなく、理性を持っているヒトや亜人から理性を取り除くことになったので単にケモノ化と呼ばれる様になったが、これは人々の繁栄を目指している神王らの目的と反する内容だったため即座にそのグリーデザイアは罰を受けたが、ケモノは取り逃がす羽目になった。

 ケモノは非常に強力で常の魔物よりもはるかに強かったが、元になったのがヒトであったため寿命は短かろうと判断された。

 魔物を作らせた理由とか、起源獣と聖母が交わって魔物が生まれたのではないのか?など疑問は尽きなかったが今回は関係ないので・・・と割愛され、話は本題のひとつグリーデザイアが存在を各大陸の神話から取り除かれ、神王たちが暗黒大陸に引っ込む原因について進む。


 罰を受けたグリーデザイアは、同じ様に役割に飽きたグリーデザイアとアンヘル族を集め、ケモノ化の方法をグリーデザイアたちに流布、またアンヘル族にはケモノ化させやすい人間を調べさせた。

 当時アンヘル族は神王たちから既に天に帰った・・・・・・・十二使徒の代わりに人々への啓示や導き、大規模災害への注意を促すことを任されていたため、人にアクティブに接触することができた。

 それを悪用して裏切ったグリーデザイアとアンヘルたちは、各大陸でヒトや亜人たちをケモノ化させ、さらに精神を支配し、自分の支配下で融合させて、強力な化け物を生み出した。

 それが大陸の獣。


 その最中ケモノ化を進める過程で、たとえばサテュロスではいくつかの部族に接触し闘争本能を高めるマインドコントロールが成され、大規模な人種間の争いが起こった。

 そして終盤にはグリーデザイアがそれによって発生したケモノを融合させ後に「地平灼く千頭山羊ネクレスコラプス」のモチーフとなるキメラ獣を生み出すのだ。

 ほかの大陸でも、元からあった問題を拡大させたり、死病を患った人間を数人だけ死ない様に病原菌が出す毒性だけ浄化してなくしたりといった工作が行われ、それによって人々の獣性を育て大陸の獣と呼ばれるキメラ獣や巨大獣を生み出していったのだ。


 結局は裏切りが発覚した後、すべての裏切ったグリーデザイアとアンヘルは殺害、アンヘル大陸とセントール大陸の間にあった小大陸グリードはケモノに因る汚染が激しかったため水没させられた。

 生き残ったグリーデザイアとアンヘルはアンヘル大陸から出ることを禁じられ、相互の監視を役目として、それ以外の役目を剥奪、寿命を付与された。

 永遠に生きるから役目に飽きてしまうのだ・・・と。

 そしてそのほかのいくつかの後始末を終えた神々はアシハラを閉ざしてしまった。


 それらの話を聴いた後で・・・

「それでは、そのときのグリーデザイアの生き残りが、クラディアでケモノ化を起こしたのが今回の事件というわけか・・・。」

 混乱した表情でジークはただそれだけをつぶやいた。

「あ、あの・・・よろしいですか?」

 不思議そうにエッラが挙手する。


「はいどうされましたか?」

 と聞き返すナタリィにエッラはおずおずと尋ねる。

「どうしてほかのグリーデザイアとアンヘルは見逃されたんですか?」

 と、エッラにしては間の抜けた質問をする。

 ナタリィがなんと言おうかと困っているのでボクが代わりに答える。


「エッラ、たとえば父親が人殺しだったら、その妻や息子は人殺しかい?その上1万年は問題なく仕事をしてくれていたみたいだし、罪がないものは手を下せなかったんじゃないかな?」

「それもそうですね・・・さすがはアイラ様です、私はすぐに思い至れませんでした。」

 グリーデザイアが種族だという認識が薄いのだろう。

 ただいくつか気になることは残るけれど、今はこれからの方針決めだ。


 ナタリィはボクを手招きした。

 ボクがナタリィの横まで行くとナタリィはボクを膝に抱き抱えて語り始める。

「これまで、大陸に刺さっていた鍵・・・イシュタルトでは魔剣でしたか、これは単体での力が弱いグリーデザイアが大陸を縦横無尽に移動できない様にするための檻の様な役割を持っていました。またグリーデザイアによって獣性を高められたヒト族はすべてがケモノ化したわけではなく、ケモノ化に到ってはいないけれど獣性を高められたものもいましたし、獣性はある程度伝播する可能性があったのでそういう人たちが接触したりしにくい様に地形を断絶するという役割も持っていました。が現在獣性を持つヒトの数は通常の範囲まで抑えられています。また今後われわれはアンヘル大陸にグリーデザイアを幽閉するので、魔剣はすべて回収してかまいません、それによって農耕や居住に耐える土地が増えますから、サテュロスはより豊かになるでしょう。それらの回収を稀代の勇者であるアイラにお願いしたいです。」

 かまいませんか?とジークに目でたずねるナタリィ。


「しかしアイラはまだ子どもだ、それに魔剣がどこにあるかも知らぬ。」

 ジークは首を振りながら答えさらにナタリィが続ける。

「魔剣の場所はこちらが把握しております。ドラグーンの役割には鍵の監視も含まれていますから、それと別に今すぐというわけではありません、なるべく早いほうがいいのは確かですが、イシュタルト王国以外の土地にあるものは難しいでしょうし、アイラには存命中にすべての魔剣の回収と、奉納をお願いしたいだけですから」

 奉納?どこかに魔剣を返す場所があるのかな?


 ナタリィはジークの前でサテュロスの地形図を取り出すと、一点ずつ指差しながら魔剣の場所を告げていく、ヘルワール火山、古代樹の森、水晶谷、アスタリ湖、紅砂の砂漠、悪魔の角笛の6箇所、亀島はすでにボクが回収しているからね。

「これらの中でこの山のものは最後に回すべきです。」

 そういってナタリィは角笛を示す。

 そしてその場所を聞いていたジークが少し考え込んでから

「それらの場所であれば、すべてイシュタルトかルクスの領土と接している。ルクスは現在イシュタルトとの併合を受け入れている最中だ。魔剣の回収に向かえないことはない。ルクス帝も耕作できる土地が増えるなら喜ぶだろう。」

 とヘルワールと森を指差す。


「そうですか、それならばイシュタルトが大陸全土を取らずともすべての魔剣を回収できそうですね。さすがに7歳のアイラにすべてを任せるつもりはありません、私たち龍の島は特定の勢力のために協力することは龍王様との誓約によりできませんが、アイラへの個人的な協力はできます、アイラに魔剣を回収、奉納してもらうことはわれわれにとっても重要なファクターと成りえますので協力は惜しみません、つきましてはこのフィサリスからお話があります。」

 ナタリィが支持するとフィサリスが一歩前に歩みでた。

 自然、部屋の中の人間の視線がフィサリスに集中する。


「ナタリィ姫様からご紹介頂きましたドラゴニュートのフィサリスです。普段はアイラ様のご自宅で仕えさせていただいておりますが、そもそも私は龍の島から派遣された調査員の様なものです。このたび私どもはアイラさんへの協力を決定いたしましたが、たった7歳の女の子一人にすべてを負わせようというものではありません、しかしながら魔剣回収のためにイシュタルトが国の兵を動かすというのであればそれはわれわれの目指す人類種の共存繁栄の理念に反することだといわざるを得ないため認めることはできません、そこでアイラさんに仕えるエッラに、がんばってもらいたいと思うのです。」

「ふぇ?私ですか!?」

 エッラはついていけない話に口を挟まず、ただ粛々と近侍していたが、唐突に名前をよばれて驚いた様であった。

 そもそもジークの前で語られる様な話題に自身の居場所などあると思っていなかったのだろう。


「はい、エッラは私とナタリィ様がサテュロス大陸のヒト族ではないと知っても驚いたりもしませんでした。エッラになら私は私を預けることができそうです。ねぇエッラ、私たちお友達ですよね?」

 フィサリスはうれしそうに微笑んでエッラに問いかける。

「は、はい、御使者であるとか、種族が違うとかは関係なく、フィーは私のお友達です、頼りになる人です。姉が居たらこの様な感じなのかな・・・?といつも思っております。」

 エッラも笑顔で応えて、フィサリスはその手を握ってからジークのとナタリィの方に向きなおした。


「国王陛下、姫様、私ドラゴニュートフィサリスは、ヒト族エレノア・ラベンダー・ノアを主として、契約竜になります。」

 そういって笑顔でいるけれど・・・

「まって、契約竜ってなに?」

 その単語は初耳だよ?

 それはエッラも同様だった様でキョトンとした表情でフィサリスの横顔を見つめている。

 ナタリィは、やさしい笑みを浮かべながら答えてくれた。

「契約龍(竜)というのは、ドラゴニュートが、ただ一人のパートナーを決める行為ですね、契約すれば竜の側はその人のそばにいることで心の平穏が保てて、穏やかで居られます。ある種の欲望が満たされるんです。ヒトの側は竜の加護を得ることができます。エレノアさんは風の属性がお強い様ですが、フィーは水属性の属性竜なので水属性もよく使える様になりますね。それとドラゴニュートは普通は龍の島にいつか帰らねばなりませんが、契約竜であれば、少なくとも主人がなくなるまでは一緒にいることができます。」

 あぁ、もしかして、前周でドラゴニュートになっていたオルセーが急に龍の島に帰ると言い出したのは、何か取り決めがあって帰らねばならなかったということだろうか?

 それが契約竜になれば制限がなくなる。

 満たされる欲望というのが何かはわからないけれど、寿命の長いドラゴニュートが元はヒトや亜人であることを考えれば、彼らが抱える寂しさや孤独感の様なものは理解できないこともない。

 自分の妹や子、孫を見送るかもしれないというのはそれだけで恐怖だ。


「よくわからんが、エレノアもアイラとともに魔剣の回収任務に着ける様にするという理解でよいか?」

 ジークがたずねるとナタリィは首肯する。

 それを補足する様にフィサリスも言葉を紡ぐ。

「そのために十分な資質をエッラは示していますし、私自身エッラを好ましく思っています。妹の様にかわいい子です。彼女はアイラさんの力になりたがっています。その一助に私はなりたいのです。」


「わかったワシからは特に異論はない、それらの内容についてはそなたらで定めてくれてかまわん、そもそも国民の意思は尊重する主義だ。ただ魔剣の回収がなった暁には報告を頼む、さて食後に冷やしたフルーツと茶を用意させておるのだ。そろそろ食べたいとは思わないか?」

 ニカリと笑うジークにナタリィは、『それは楽しみですね』と笑って答え、エッラが果物を受け取るためにぱたぱたと厨房のほうへ向かった。

 人払い中なのでこの場で唯一のメイドであるエッラが動かねばならなかった。


 思いがけず、お互いに姉、妹の様に慕いあっていることがわかったエッラとフィサリスはこの日を境にますます仲良く姉妹の様に過ごす様になった。


 ボクは大手を振って魔剣の回収をできる様になり(外見が幼すぎるので12歳くらいまでは待つ様に言われたけれど・・・。)、鍵の奉納についてはそのとき詳しく説明してくれることとなった。

 グリーデザイアの確保はドラグーンたちがやってくれるといい、1年以内には終わらせる見込みだという。

 ナタリィはホーリーウッド邸に住みはしないけれど、時々顔を出すといい、3日後一人で帰っていった。


 結局新しい情報としてはグリーデザイアがなんらかの役割のために魔物を作る能力を持っていたことと大陸の獣がグリーデザイアが起こした不祥事で、実際その獣は存在したこと、魔剣がグリーデザイアの動きを封じるためのものだったことがわかったけれど、何かまだ引っかかりが拭えない。

 しかしナタリィたちがその様に話した以上、仮にほかに真実があったとしても、今のボクたちに語れることではないのだろう。


 しかし前周と異なる歴史が動き出したのは間違いない、公式には外の大陸の国の使者、実際には龍の島の姫君とイシュタルトの国王が謁見を果たし、限定的ながら情報の供与を受けた。

 これはこの情報の供与が特定の人間勢力への肩入れではなく全体の利益になると判断してのことだけれど、これまでの1万年にはなかったことらしいので、これからどの様な変化が生まれるか想像もできない。

 ただわかるのは、何か大きな流れの様なものがヒトをドラグーンを動かしていて、その流れをコントロールする意思の様なものがあり、それがボクの様な転生者や周回者を生み、神楽の様な転移者を呼び、そして今周では神楽のやってくる時間も大きく変化させている。


 やはり神楽のやってくるタイミングが変わったことも、大きな流れが、何かの思惑が絡んでいるのだろうか?

 だとしたらこの流れを作った存在の目的は・・・?

 いや、今はまだ情報が少ない、考えても詮無いことだ。


ジークにばらしたのでフィサリスが登城可能になりました。

エッラとジークがナタリィとフィサリスの正体を知り、たぶんエッラに竜騎士とかそんな感じの職業が追加されてます。


ニュースで昨日はずっと雨やばいと聞いていたのに家に帰ってみると、近所の空き地の土すら濡れていませんでした。

しかし家に居る今日は朝から結構な雨です、買出しに行く気力も起きないです。

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