表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/220

第2話:ナイショの話

 生まれ直してから半年たった。

 今生は前回のアイラとは異なり、最初から言葉がわかっているので、前のときにはわからなかった赤ちゃんに対する親の言葉というものをたくさん聞くことができた。


 母や姉、兄の対応はおおむね前世で感じていたのと同じで、現状かわいい末っ子である双子を蝶よ花よと愛でるばかりのものである。

 それに比べて父のそれは、赤ちゃんが言葉をわからないことを前提に特にお風呂の中では、前回の生では直接聞くことのなかった父の出生の秘密をたくさん漏らしていた。


 ずっと淑女として暮らしてきたボクに父とのお風呂というのはなかなかに屈辱的なものだったけれど、父との入浴を嫌がり母の手間を増やす選択はなかった。

 それに1歳になる頃には姉サークラと入る様になるので、父のナイショ話を聞けるのは今だけ・・・。


 聞かない選択はなかった。


 そして今日もお風呂の中で・・・。

「アイラはおとなしいなぁ・・・、アイリスと違ってお風呂前に服を脱がせるの嫌がらないし」

 アイリスは服を脱がされるのも、着せられるのも嫌がる。

 お風呂に入っているうちはおとなしいけれど、腕を引っ張られたり足を曲げさせられるのが不愉快な様だ。


 それに対してボクはもう十分すぎるほどに自我があるのだから、男親に服を脱がされるという羞恥はあれど、半年程度の赤ちゃんの身では、自分で脱ぐこともままならないのでされるがままになるのは仕方ないことだろう。


「ちょっと父さんも体洗うから待っててな?」

 とボクを大き目の湯桶に座らせて父は独り言を言いながら体を洗う。

 ボクは適当に相槌を打つように、赤ちゃんとして不自然ではない「だーだぅ、あばば」と返事をしておく。


「サークラもトーレスも元気に育ってくれているけれど、お前とアイリスは双子だから、もしかしたら病気とかするかもしれないな・・・、そうなったときにウェリントンに魔法使いがいないことが悪いことにつながらなければいいんだが・・・」

 前世でも、ウェリントンには魔法使いがいなかった。

 この世界に魔法使いは貴重なのかと思っていたけれど、治癒術使いはともかく魔法使い自体はそうでもないことは今のボクは知っている。


「父さんの生まれのせいでお前たちにもしものことがあったらと思うと・・・怖いな。」

 父の生まれとは、この国イシュタルト王国に4家だけ存在する侯爵家、その先代の庶子であるということだ。


 先代ホーリーウッド侯爵には2人の妻がおり、子に正室の産んだ長男のエドワード様と娘2人、側室が生んだ次男~四男、そしてエドワード様付きの教育係に手を出して生ませた父エドガーとがあった。

 エドワード様とその下3人の弟は年が近く、先代は優秀で正室から生まれた長男であるエドワード様を早いうちに後継者に定めたが、ほかの子も十分優秀であったため将来エドワード様の補佐にしようと小さな部署を担当させて育成していた。


 しかし側室の実家や重臣たちが、より大きな権力を求めての派閥争いを激化させていったため最終的に3人の男子と重臣の家に嫁いでいた2人の娘は、命を落とすことになった。

 また重臣やそれに使える陪臣たちも大勢処罰され唯一残ったのが父エドガーであった。


 父は、現ホーリーウッド侯爵であるエドワード様とは14も離れており権力争いの当時は子どもで、また母親はメイドの中から選ばれた後ろ盾のない作法教育係であり、エドワード様派とも言える存在であったため処分を免れたが、まだすべての悪臣を排除できたという確信のなかった侯爵家は父が傀儡にされることを恐れて15になる年に開拓村の村長として送り出したのである。


 そして今の父の告白を聴くに、この村に魔法使いがいないのは、そんな父に不必要な力を持たせないために制限したと考えられるだろう。

 魔法がなくったって、村の近くに出る魔物ならば父の剣術だけでも対応できるし、魔法道具があれば水や火に困ることも少ない。


 ただ病気や盗賊に対しては魔法使いがいないことは大きな不利となりうる、父はそれを不安に思っているし、事実前世では病気でオルセーを失い、賊の襲撃でウェリントンは壊滅したのだから、父の憂いはボクには実感を伴って理解できるものだった。


 ただ同時に父はエドワード様から心配され愛されていた。

 ウェリントン壊滅直後、エドワード様の嫡子のギリアム様も、もうじきホーリーウッド市へ父を招聘するつもりだったといっていたし、ボクやサークラの名前もあちらに知られていた。

 この頃も頻繁に連絡を取っていたはずなんだよね。


---


 十分に体が温まると、父がサークラを呼びつけた。

 父は引き続きお風呂に入ったままでボクはサークラのつれてきたアイリスと交換になる。

 サークラがボクを拭いて服を着せてくれる横で、アイリスが父に脱がされていく。

「ふぎゃぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ、だあだぁぁぁぁぁ」

 とギャン泣きしてうるさいけれど、元気なのは確かなのでまぁ良しとする。

 それに・・・少なくともこの様子ではアイリスには前世の記憶はなさそうだ。


 ただでさえ敏感な赤ちゃんの肌、そしてさらに敏感なお尻や女性器を自分以外の手で拭かれるのも、ちょっと驚きはするもののもうなれたもので、入浴後の汗も拭いてもらってすっきりしたボクは妹のお世話で機嫌をよくしたサークラやトーレスと遊ぶ。


 現在の家族構成は28歳の父エドガー、すでに誕生日を迎え27歳になっている母ハンナ、同じく2月に誕生日を迎え10歳になっている姉サークラと8歳の兄トーレス


 父は暗めの金髪に村長らしさを出そうとひげを伸ばしている、凛々しい顔立ちで、冒険者だといわれても信じる程度には剣の扱いもうまく、農作業を終えたあとは村の若い人たちに剣術を指導している。


 母ハンナはやわらかい笑顔が特徴の美人、姉のサークラと同様ピンク色に近いブロンド髪をしていて、身長は167cm程度、父とは仲がよく時間場所を問わずいちゃついていて、いつも幸せそうにしている。


 姉サークラは凛々しい父の輪郭と、柔和な母の容姿とを正常に受け継ぎ言葉で言い表せないほど整った顔の美少女、今はその年齢からまだ幼いところも多いけれど、村の男たちも大半はサークラをいつかモノにしたいと願っている。


 兄トーレスは、僻地とはいえ未来の村長候補として、文字や算術、簡単な作法などをサークラともども教え込まれていて、父からは剣術や男としての心構えなどを仕込まれている、その上美形。

 そのため村の男子の中では一番の有望株で前世と同じであればアルン、ノヴァリス、ケイト、モーラ、オルセーから好意を寄せられているはずだ。

 トーレス本人はこの頃はキスカのことが好きだった様だが、キスカは年上のトーティスが好きだった上、失恋したあとはサルボウと結婚してしまうので、兄トーレスの初恋は実らなかった。


 そのことを覚えているボクは、この兄の初恋を応援しているべきなのかどうなのか・・・。



------------------

(エドガー視点)


 今日もアイラに愚痴をこぼしてしまった。

 愛しい妻にも話したことのない自分自身の出生の秘密。


 この村で正しく俺の出生のことを知っているのは、観察者として村に赴任している神父のマディソン・スクエアくらいだが、彼はわざわざアンナの保護者役までやってくれている人なので不都合はない。


 アンナはハンナの妹で本当なら俺の義妹に当たるけれど、かのお家騒動の時ハンナの実家が処罰された際別々の開拓村に流刑になる予定だったのをさすがに不憫に思った先代が姉妹だということを周囲に明かさないことを条件に同じ村に流した。

 外向きには二人は従姉妹ということになっており当時幼かったアンナはそれを信じている。


 それもアイラには話してしまったし、ほかにもとても村長としては見せられない醜態、聞かせられない愚痴を娘のアイラに漏らしてしまっている。


 これはアイラが手間のかからない娘で、なおかつまだ物心が付かない赤子だからという安心感からはけ口にしてしまっているのだが、父親としては情けない限りだ。


 ただ双子のアイリスと比べて余りにおとなしいアイラは、俺の言葉に時々相槌のようにうなづいたり、「あい」と返事をしたりと、本当に相談しているみたいで心が軽くなるのだ。


 だから断片的にでも言葉を理解し始めるあと2ヶ月くらいは、この幼い娘に甘えてしまってよいだろうか?

 そうして今日も時間の限り愚痴をこぼした後で、アイラに風邪を引かせないようにサークラを呼びだした。

せっかくの4月1日なので?今日までは急ぎ目で投稿します。

明日以降は書きあがり次第投稿の不定期連載となる予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ