第63話:大口の化け物2
季節は冬、温暖なサテュロス大陸最大の国家イシュタルトの王都クラウディアにおいても一年の中で見ればもっとも寒い時期なので、夕方ともなれば街を行く人々も心なしか歩くのが速い。
そんな中でももっとも足早に歩いている男は、異様なほどに速度で動いていたが、周囲の人間は誰も気にする様子がなかった。
男が過ぎ去った後も街人はやはり心なしか足早に家路を急いでいた。
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(???視点)
私は、先日国王陛下から与えられた任務に疑問をもっていた。
数日の間に、若く魔法適正の高い女性ばかりが前触れ無く立て続けに行方不明になっていることが、とある人物からの情報提供で調査してみたところ明らかになったということで、本腰を入れて調査するために私だけでなく、ほかの2人まで調査に参加する様に指示が出た。
確かにわずか3日で10名以上が共通の、「なんの前触れもなく音信不通になる」という奇怪な消え方をしている。
これが本人の意思に因るものであればまだいい、しかしこれがなんらかの事件なのであれば確かにわれわれ3人が動くべき案件だろう。
しかしだ。
その情報提供者からの提案でわれわれ3人すべてがとある貴族家の嫡男の調査に回されることとなった。
それなのに陛下はその情報提供者についてはこちらには明かしてくださらない。
まずはどうしてその情報提供者がその嫡男を怪しいと感じているのか、そしてどうして陛下はその提供者を明かしてくださらないのか・・・。
そして何よりも・・・。
(まさか本当に領地でも似た事件が起きているとは・・・。)
情報提供者による任務分けで私とハンゾウは調査対象の嫡男を追跡中、そしてタンバは彼の実家の領地で現地調査中だったわけだが、まさかまさかの大当たりだと連絡が入った。
情報提供者の睨みの通り調査対象の領地では昨年夏頃から20人を超える行方不明者が出ていて、その人数は例年並みではあるのだが、そのうち15名が今回の王都の事件と同様年頃の若い娘で、魔法力がある程度高く、生活に困窮しているわけでもなく、日々の生活の中で唐突に行方をくらましているという。
そして私が調査している嫡男がちょうど現在王都に来ていて、貴族の坊ちゃんなのにその3日はメイドも付けずにお忍びで出かけていた・・・と、些か出来すぎているな・・・。
私がついてから3日、隔日でグレゴリオ王子とグリゼルダ様がお住まいの離宮に顔を出しているくらいで、怪しいところは無く、しかし同時に新たな行方不明者もでていない。
ここまで状況が整っているとむしろその情報提供者のほうも調べさせて欲しいものだが、あの陛下が隠し立てするのだからきっと怪しい人間ではないのだろう。
やれることをやるしかない、仮にこれが何者かが起こした事件だとしよう・・・情が無いのかと揶揄される私とて仕事を終え家に戻れば2男1女の子をもつ身だ。
同じ様に突然かわいい娘が居なくなったらと考えると恐ろしい。
はじめに陛下に呼ばれ調査案件の概要を聞いた時は、此度の事件は慎重に調べを進めなければならない、長丁場になるだろう、そう思っていたにもかかわらず、初めから容疑の者はほぼ確定という状況、あとは犯行現場を押さえることと、行方不明となった女性たちがどこに隠されていて、どの様な扱いを受けているかを明らかにするだけだ・・・。
調査対象を視界のぎりぎりに納め、気配を殺しながら冬の街に溶け込んで歩く。
今日、われわれが彼に張り付いてから初めて、彼がメイドたちと離れた。
もしも彼が犯人、もしくは事件に関わっているならば今日なにか起こす可能性が高い。
私は追跡できるギリギリの距離を保ちながらも彼の一挙手一投足を見逃すまいと監視を続けた。
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(ブリミール視点)
冬の王都を一人獲物を探し歩く。
メイドたちは邪魔になるので、今日はグレゴリオの教育に行くからといっておいてきた。
離宮に入れる人間はごくごく限られているからな。
結局先週捕まえた女たちの中に、グラトニーが求めるものは居なかった。
見目が良く、魔法的素養の高いものをグラトニーは望んだ。
俺の持つ「大口の化け物」にうってつけの能力、大口の化け物で食った相手の能力を奪い、さらに消耗している魔力も捕食した相手の魔力で補うことが出来るという戦場ならば一騎当千となることも夢ではない能力を俺にもたらしたグラトニーと名乗った存在は、自らを創世神話の御使いだと名乗った。
こいつが真実御使いかは眉唾モノだが、グラトニーが俺の目的を初めから知っていて、なおかつ必要な能力を俺に与えてくれたのは確かなのだから、俺にとっては御使いそのものだ、実際の姿など見せたことが無く、いつも頭の中に直接話しかけてくる辺りも神性を高く感じさせる。
神話において、普く人々のためにもたらされた神々の祝福を世界中のヒトのために運んで回ったらしい奉仕と平等の象徴が、目的のためにヒトを殺してもかまわないといってくるのだから大した御使い様だと内心はやはり信じていないがな
グラトニーというのは創世神話の一節にでてくる俗に二十四神と呼ばれるものたちの中で12柱居る御使いの中に数えられているもののひとつだ。
グラトニーはテンペランスと並び処女王の従者として登場する存在である、どうせならば聖母に仕える従者のラストかラブのどちらかを名乗れば良いものを・・・何ゆえにグラトニーなのか、それとも本当にグラトニーと呼ばれたこともある存在なのか?
それはまぁいい、グラトニーが俺の欲する力を提供している以上、やつは御使いのグラトニーだ。
俺の目的は「大口の化け物」が活躍できる世界・・・すなわち戦乱の世を求めている。
大口の化け物は魔力消費型の複合的能力で魔力を消費しての収納と噛み付き攻撃が可能な能力だ。
勇者の持つ空間魔法との一番の違いは生きた人間も取り込めることだ。
この能力を代々継承するわれわれガルガンチュア家であるが300年の平穏にあって我が家は武勲を立てることも出来ず、家格の割りに大きな土地を拝領しているとはいえ、痩せた土地が多く収入はごくわずか
幼い頃から優秀だった俺は両親に将来を嘱望され、現在の状況を手柄を立てて打破して欲しいといわれ続けてきたが、戦争も無いのに手柄なぞどう立てろというのか。
そこで数少ない手がかりとなりうる叔母の縁で側室腹とはいえ王子であるグレゴリオの教育係を買って出た俺は将来の戦乱の種を蒔くための教育をグレゴリオに課してきた。
より傲慢に、より悪辣に、そして俺の言うことは従順に信じる扱いやすい王子になってもらうべく教育を施してきたのだ。
遠い未来、やつがヴェルガ皇太子とフローリアン妃との間の子どもたちに叛旗を翻せば、そのとき俺がどちらかにつき戦局を左右してみせる。
それだけの能力がこの「大口の化け物」にはあるのだから。
だというのに、この数日で状況はめまぐるしく変わった。
これまでの教育で十分に傲慢になっていたはずのグレゴリオが先日からふさぎ込んでヒトの痛みとは何かを考えている。
そして俺に放っておいてくれという。
メイドの分際でことあるごと俺の意見に異を唱え、グレゴリオの教育を遅らせてきたメイドのカリーナはうれしそうにグレゴリオが頭を悩ませていることを褒め俺を苛立たせた。
そんな俺にグラトニーは言った。
せっかく王都まで来たのに暇をしているのだからたまにはこちらの目的にも付き合え・・・と
グラトニーの目的は彼女の主処女王にささげることが出来る贄だそうで、その選別は遠い天にいるグラトニーには難しいとかで一度大口の化け物に取り込むことでその魔力を読むので後は好きにしてくれと俺に投げ捨てた。
処女王が生贄を求めるなんていう話を俺は知らないが、グラトニーいわくそういう信仰の不都合になるものは消えていったのだろうとのことなのでとりあえずは従うことにした。
いやなに俺もそもそも定期的に捕食を行っているのだ。
これでも貴族だから貴族の義務というやつだな、有事の時のため自らの能力を使いこなす訓練が必要だ、
領民たちの中でたまに好みの女をさらって限界まで楽しむ。
大体3~4ヶ月くらいで狂乱してしまうので、そうなったら仕舞いだグラトニーから借りている力で咀嚼し、なにか魔法の適正があって奪えるなら奪い、残りは俺の能力を維持するため魔力に分解してしまう、多少もったいないとは思わないではないが所詮換えの利く平民だ。
今回は王都という人口の多い都市で興奮したらしいグラトニーが少し急かしてくるのでハイペースで捕食を繰り返しているが、今のところははずればかりだそうだ。
まぁその分俺が楽しむためのストックになっているが、人数が入っているとそれだけ魔力を食うし、生かしている間は食事も与えねばならないので王都にきて捕食した14人と、領地で先月捕食したあと楽しんでいた1人、それに王都への道中に母と幼い娘と2人で薬草を売りに来ていたどこかの村人とが居たが、正直許容量を超えていたので6名はすでに咀嚼している。
これだけの人数を保持するのは始めてのことなのでまだ味見をしていない女も居るが先日内クラウディアの食料品店で見かけた女がどうにも気になって、そいつを捕食したくなった。
服装から平民で間違いなかろうと思うのだが、前髪が目元を隠す程度に長い明るく薄い空の色の髪をした女で、右耳にかかる髪だけがオレンジの色をしている。
その女は小柄だが胸が非常に大きく、俺の食指は動いた。
とある女に似ていたためだ。
王城内で最近話題になっているエレノア・ラベンダーとかいう小柄な女が非常に強いらしいと訊き、丁度手隙だったこともあって手合わせ願うことが出来たのだが、これが本当に強く、また美しかった。
俺も容易く一本取られてしまった。
あの女であれば捕食せずに妾か側室として招いてやらんでもないと思い誘いかけたところ、姫に仕える光栄を頂いている身なので、と断られてしまった。
その所作もなかなか様になっていて、俺は不覚にもその女に惚れた。
だがしかし、さすがの俺も王室に使えるメイドを拐かすことはできないのであきらめ、その日はグラトニーに唆されるままに6人も捕食してしまったのだが・・・。
その勢いで捕食し回った帰りにあの空色の髪の女を見つけた。
心なしエレノア嬢より身長は低いし、髪の色も異なっているが全体の雰囲気が良く似ていて、即座に欲しいと思ったが、すでに容量がいっぱいいっぱいだったためにその日はあきらめざるを得なかった。
楽しむにせよ咀嚼するにせよ、一度「大口の化け物」の領域から吐き出さないといけないのが面倒だ。
面倒といえば、グラトニーも見ただけで魔力がどの程度かはわかるらしいのに、やつの探している存在かどうかは捕食した状態でないと確認が出来ないらしい。
これで運よく今日探し出し捕食したのに、グラトニーがもっていくとか言ったら俺は暴れそうだ。
あの女は話しかけてみて、教育の行き届いた女ならば捕食ではなく妾か側室候補として迎えたい。
そう思う程度には俺もおかしくなっていた。
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(アイラ視点)
やはりブリミールが今回の事件を起こしている可能性があるだろう。
それがジークに調査してもらった結果の報告書を読んだ時の感想だった。
ブリミール自体前世でほんの一度であっただけの人間であったこともありほとんど覚えていなかったが、行方不明者の特徴を見てあの痛ましい事件を思い出し、ブリミールの関連を確信した。
ブリミールは前の周において、王都での犯行はボクが7歳の年からという時期的な違いはあるが、魔力的素養を持つ若年の娘ばかりをその遺伝能力で攫い、犯し、最後には殺すという事件を起こしていた。
またそのときは1ヶ月に1人か2人の被害者を出していたはずだが、今回はやけに短期間でたくさん被害が出ているみたい、姿を消した二人のことが気になってジークに調べてもらったのは、その二人の確認できる足取りと、ほかに同じ様に行方をくらましたものがいないかということだった。
そしてその日の夕方の時点で少なくとも6人、同じ様に何の前触れもなく日々の生活を送っている最中に忽然と姿を消したモノたちが居ることが判明した。
その日の時点ではボクの探していた二人以外に、宿屋兼居酒場の看板娘が知人宅に夕食の料理と酒を届けた後帰ってこなかった。
元貴族籍の聖母教会のシスターで炊き出しや孤児たちのための食事を作っていた娘が、その日の営業を終えた周囲の食堂などに余らせた食材などをもらうために頭を下げて回っている道中で足跡が消えたもの。
4人で食事に行くために待ち合わせをしていたところ馬車のはねた小石が露天の果物に当たり、その汁が服についたため「まだ待ち合わせまで10分近くあるしちょっと着替えてくるね」と言い残し徒歩2分はずの自宅に服を着替えるために戻りそのまま帰ってこなかったものなど、あまりにも突拍子の無い行方不明が確認できた。
その人たちはいずれも、完全な日常の中で、借金や目だった揉め事も無く姿を消した。
共通する点は若い女性で、大なり小なり魔法が使えるということ、魔法が使えるということはそれだけでも魔法力が高いということ、この世界の人間はだれでも魔法道具を使える程度の魔力があるが、それは前世の暁よりも低いくらいの魔力なのが普通なので、魔法が使えるというだけでそこそこ魔力が高いということになる。
この条件が前世でボクが訊いていた事件の概要に近かったので思い出すことが出来た。
丁度直前、それもその時点で判明していた6人の失踪したらしい日にエッラがブリミールと演習場で手合わせしていたのを思い出したボクは、ブリミールの関与を確信した。
なのでボクはジークに、王国が誇る三隠密を借りられないかと打診した。
三隠密は前世でのボクも正体を1人しかしらない、さらに裏家業の家柄でもあるため王家の人間とお互い以外にはほとんど認知されていない、表の顔はただの役職も土地もなしの小貴族だが、実際には四侯爵と同様、王家の始祖キリエ・イシュタルトの7人の側室との間に生まれた家柄で重臣である。
なぜか初代以来戦国期の日ノ本の伊賀の三上忍の名前をコードネームとして冠しており、セントールのアシガルやグソク、ホロといった言葉と同様この世界のいくつかの時代に日ノ本人の転生か転移が発生している可能性や、暁の居た世界と時間的連続性はない可能性を初めにボクに考えさせた存在だ。
その彼らにブリミールの調査を頼む様にした。
この間先に借りていた人員には、引き続き似た様な条件の行方不明者を探してももらい、追加で6名発覚している。
さらに今日になってタンバさんからの報告が届き、ブリミールの実家の領地では、昨年夏からで例年並みやや多い年レベルの行方不明者が出ているが、そのうち15名が今回の事件と条件が一致することが判明している。
さらにハンゾウさんとナガトさんからの報告で、行方不明者が出ている日にはブリミールがメイドなしで出かけていることが判明している。
まぁほかの日にもメイドなしで出かけてるんだけれど、それはいずれも王城にグレゴリオの教育係としてか、あるいは単に顔を出しに離宮に行っているからだ。
一応行方不明者が出た日にも登城していることもあるのだが、隠すつもりがあるのかないのか、行方不明者の最後の目撃情報があったころには大体城を出ていることも登城記録から判明している。
少し雑すぎると感じる。
前周や、彼の領地での犯行は少なくとも被害者の生活パターンを良く調査した上で目撃者が少なくなり犯行時間の推定が広くなる様な時間帯に誘拐をしていたので、もっとわかりにくかったものだが・・・。
彼に何か変化があるのか・・・むしろ衝動的といっていい犯行。
なんにせよ打てるものは打っておこう、やつのためにこれ以上の被害者は出せない、やつの貪欲な口が次にサークラやエッラを狙わないとも限らないのだから。
屋敷に持ち帰った報告書を読み、考えをまとめたボクはおそらく力になってくれるはずの彼女の元へ向かう。
「フィー、ちょっといいかな?」
彼女は外見はエッラと雰囲気の似た小柄なドラゴニュートで、圧倒的な戦闘力を秘めている。
ドラグーンやドラゴニュートには、特定の国に肩入れしないという制約があるが、ことは個人の尊厳が脅かされていることで、なおかつ彼女の容姿は十分に今回の被害の対象となりうるもので、彼女は1人で買出しに出かけたりもするのだから、それならばこの情報を伝えておくのもそれは正しいことのはずだ。
その結果彼女がブリミールの監視に協力してくれるかそれとも自身の防御を固めるかは別のことだけれど
「はい、アイラさんいかがなさいましたか?」
フィサリスは浴室掃除をしていたが、ボクの呼びかけに気付くとその透き通る様な水色の前髪を左手で払いながら、両手で持っていたブラシを右手に持ち直した。
「すこし気をつけて欲しいことがあってね?この男なのだけれど」
そういってブリミールの人相書きを見せるとフィサリスはあまり感情は出さないままで
「そこそこ顔の整った方ですね、この方がどうかなさいましたか?」
と、すぐに人相書きを返した。
「うん、この男が丁度フィサリスからサークラ、もうちょっと上くらいまでの年齢の女性を狙って特殊な魔法を使っての誘拐、強姦、殺人を繰り返している可能性が高いんだ。」
ボクの言葉の穏やかではない部分に反応して、フィサリスはその目付きを鋭くした。
「それは、本当だったら許されないことですね、自身の生存やその糧を得るためではなくゆがんだ楽しみ方のために他者を犠牲にすることが出来るというのは・・・私に伝えられたのは、私に協力して欲しいということでお間違いないですか?」
「んーできれば監視に加わって欲しいところではあるけれど、どちらかというと注意かな?フィサリスもこの男の食指が動く可能性がある容姿をしているから。」
そう告げるとフィサリスは少し驚いた様な目をしたけれど、すぐに微笑みをたたえたやさしい顔になった。
「ありがとうございます、アイラさんは私を心配してくださったんですね。アイラさんのその心のありようは素敵です。なので私からひとつ提案と報告があります。」
「提案?」
いたずらっぽく指を立てたフィサリスはその指をボクの唇に当ててきた。
「これは、つい先日のことです。ジョージさんとシリルさんが学校帰りに顔を出されまして、夕食を食べていくことになったのでお夕飯に使う豚か、猪魔物の肉の上等なものを買いに行ったのです。するとまぁ私もこの無駄に目立つものがついているせいか人目が集まるのには慣れているのですが、その視線の中に1人、ずっとこちらを見ている男性がおりまして、その方の持つ気配に少し思うところがあり覚えていたんです。」
フィサリスははじめてみるゾっとする様な冷たい笑顔を浮かべた。
「っ!」
声が出せない、どうもフィサリスがボクの唇に指を当てたのは、ボクが声を出すことを予測してのことだったのだろう、すぐにいつもの表情に戻ったフィサリスは続ける。
「なので、この方の対処は私も協力します。さしあたっては私自身が街を歩き、彼を誘引してみます。被害が多い区画はわかりますか?」
ボクの唇に当てていた指をチロチロとなめるその表情は普段のものだが、まだ穏やかではない殺気を放っている。
彼女はきっと自身に向けられていた視線がそういったものであったことに嫌悪を覚えたのだろうと思うけれど、それにしてもこの殺気は・・・、おとなしいフィサリスがこんな殺気を放つなんて思いもしなかった。
「内クラウディアなら、職人街と南市場の間が多いみたい。」
そこあたりで4人居なくなっている。
「私がその男の視線を感じたのと同じ大体同じ場所ですね・・・わかりました。今日の買出しからうろついて見ます。」
思いのほか簡単にフィサリスからの協力を取り付けることが出来た。
今日は予定もないしその時間は上空から様子を見てみようか。
この判断が正しかったのか間違っていたのか、あるいは初めから定まっていたことなのか、この日、ユーリと離れて暮らす2年の王都での日々の中で最大の事件が幕を開けるのだ。
昨日たまねぎを切っている最中にしゃっくりが出て、手元が狂いました。
でもどうして右手で包丁を持っていたのに右手親指の先を切っているのか・・・。




