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第57話:王都の生活3

 季節は過ぎ夏となってしばらくたった。

 皇太子の養子となったアイラとその家族がクラウディアに住まう様になって4ヶ月が過ぎた5月半ば、もうじき内クラウディアの一大イベント軍官学校大水練大会が始まる。

 これは軍官学校の実技系イベントで、砲戦大会、陸戦大会と並んで三大大会と呼ばれている。

 三大大会は軍官学校の目指す戦場での「絶対たる個」の育成、その成果を見せる大会で、若き戦士たちが各々の技をぶつけ合う。

 

 中でも気候の関係で年度最初に行われる大水練大会は水を張った円形闘技場内部で行われ、水中、または水上での機動戦を競う。

 一般的に入学後の期間が短く、対人戦闘の訓練をほとんどつんでいない一年生が不利とされている


 陸戦大会は秋に円形闘技場で行われ、通常の武技を試合形式で競う。


 砲戦大会は冬に外クラウディアの城壁の外側、年度最後の収穫期を終えた畑で行われ、一部からは土起こし大会と呼ばれていたりもするが、こちらは直接戦闘ではなく砲撃を披露する内容で、一年生でも魔力量次第で活躍できる。


 話は戻るが、大水練大会は例年5月31日から35日までの5日間の日程で行われ、初日がチームでの水泳リレー、2日目が試合の予選会、3日目、4日目が本戦となり終了後理想の上司コンテストの説明が行われる。

 そして5日目がコンテストとなる。


 3日目~5日目は国王をはじめとする王族も観覧席にて試合並びにコンテストを観戦し、各受賞者へと、記念品の授与と2、3のお言葉を与えるのが通例になっている。

 この催しにアイラも参加することになっており、これは未来少なからず国と王家の防衛に寄与する軍官学生と一部の市民に対して、アイラの姿を見せてのお披露目となる予定であった。


 そのためアイラは1ヶ月前から、このお披露目の日のためのドレスを用意されており、最終日にはコンテストの優勝者へのお祝いを告げる役目を担うことになっていた。


------

(アイラ視点)

 夏の一番暑い時期になった。

 とはいえ、イシュタルト王国の夏は、日ノ本のそれと比べればマシ、神楽はぜんぜん平気そうにしている。

 ボクは「日ノ本の夏」を知っているけれど、アイラとしての人生はすべてこちらでのことなので、神楽ほど平気ではない。

 邸の浴室で溶けているアニスやトリエラほどではないけれど・・・。

 トリエラってばぬれるのは苦手だっていうくせに、暑さに負けて水浴びしてる。

 アニスに付き合ってる風だけれど、アレは完全に水の誘惑に負けている。


 まだマスターを決めていない状態のトリエラだけれど、駄メイドぶりは健在だ。

 ていうかそうだよね、まだ11才になったところなのだから、もっと自由に過ごしていていい頃だ。

 トリエラもナディアもメイドなんてやっているけれど、状況が許せばまだまだ遊んでいたい年頃で、もっと欲望に負けるはずの年齢なのだ。


 そう考えれば、トリエラがこうやって浴室でアニスと水につかりながらだらだらとしているのは非常に心が和む。

「トリエラ、ボクはもうあがるから、アニスとアイリスのお世話お願いするね?」

 ボクも朝から寝汗がひどいことになっていたので、朝から行水をしていた。

「はい、かしこまりましたアイラ様。」

「あ、アイラ、私も一緒に出る~!」

 ボクがあがるというとアイリスも一緒に出るといって浴槽から出た。

「アニスはもうとっと」

 アニスは浴槽の一番水の浅いところで、ごろごろと体に水をまぶしながら涼んでいる。

「ほどほどにね」

 そういって浴室を出ると、先に上がって自分の身支度を整えていたエッラがボクの体をフワフワのタオルで包んでくれる。

 ダイバーラットの毛皮を加工しただけのタオルは、地球の一般的な綿のタオルよりも吸水性がいい、未加工では水を弾くのに、加工をしてやるとむちゃくちゃ水を吸うのはとても不思議、しかも軽く絞るとすぐに水気がなくなる。

 行水して冷えた体をエッラが広げたタオルが包み込んで水分を吸収してくれる、ホンワリ温かくて眠たくなりそう。

 小学校のプールのあとにラップタオルに包まれたときみたいなあの温かさだ。


 エッラもどことはいわないが夏場の朝はあせもができて痒くなっているらしく、朝から水浴びして、それから専用のケア用品を塗り、さらに初級治癒魔法をかける。

 今はまだ肌着だけを着込んだ状態で、薄い生地を押し上げた血色のよい豊満な胸が自己主張をしていて、目が吸い寄せられる。

 さっきまで裸で一緒に水浴びしていたのに、のときよりも今のほうが目を吸い寄せられるのは何でだろうか?



 エッラはこの数ヶ月の地道?な訓練でかなりその実力を伸ばしている。

 前世よりも少し早く戦闘訓練を開始したためかステータスの伸びもよく、まだ14歳になったばかりなのに意志力以外はすでに前世の17歳の頃のものにほぼ追いついている。


 エレノア・ラベンダー・ノア F14ヒト/

 生命1220魔法125意思376筋力44器用72敏捷66反応74把握39抵抗47

 適性職業/槍騎兵 守護騎士


 今の時点でこの数値なら訓練次第では前世の数値を超えるのではないかと思うけれど、意志力的に、勇者になるかどうかは怪しい、ただ、前世には持っていなかったはずの守護騎士というなぞの職業適性が発現している。

 ジークから鑑定のための知識として教えてもらった1000を超える職業適性(イシュタルトの5代目以降に編纂される様になった過去に存在したらしい認定勇者や準勇者級の固有適性職を含む王家秘伝の資料がある)にも守護騎士というものは無かった。

 もちろんボクの持つ聖母なんかもボク以外に記載は無い。


 エッラは加護もカリスマも持っているので後は意思の数値次第で勇者の認定を受けることができるけれど、守護騎士はもしかすると勇者相当の固有職適性かもと空間魔法が使えるか試してもらったけれど、エッラはまだ使えない様だった。

 エッラはやはり前世と同様風系統の適性が非常に高く、先日とうとう『剣天』のジェリドを模擬戦で打ち破った。

 ジェリドが得意とする飛剣術を風の結界で無力化し、彼女の防御を抜くことはできなくなった。

 どれだけ硬いのかと・・・。


 これでエッラに稽古をつけてくれていた王国軍の勇者は全員、模擬戦レベルでの攻撃ではエッラを傷つけることができなくなった。

 無論殺す気でやれば別なのだけれど、それでは稽古にならないため、現在エッラは魔法なし、将軍たちはありでの訓練を受けている。


 正直ここまでのステータスになった後で軍官学校に入学させるのも馬鹿らしいのだけれど、軍官学校を卒業していないと少尉より上の階級に行くのが非常に長い道のりになるため、将軍たちから軍官学校通いを勧められている。

 それはジークも推奨するところで、学校の雰囲気だけでも味わえればと、ボクの付き添いとして一緒に月末の大水練大会を観戦することが決まっている。

 本人の意向もよるけれど、現時点ではメイド枠ではない予定。

 特殊能力もちと同じく入学金などは免除での入学が可能なためだ。


 来年入学ということは、前世と同じ流れでいけば、マーガレット・カーマイン先輩やジルコニア・ナハト先輩と同じ学年になるね。

 ボクの2学年上、となるとマガレ先輩と上位を競い合うエッラが見られるってことか、ちょっと、いやかなり見てみたいかも・・・。


 先輩といえば、庭木の手入れのためにちょくちょく種苗屋さんにも顔をだして、シリル先輩とも親交を深めている。

 シリル先輩は最初は年の割りに魔力と器用、敏捷、把握がちょっと高いステータスだったけれど、生まれ持った抵抗値が98とかなり高いこともあいまって、学校で注目され、周囲の期待に答えなければ・・・と奮い立ち、あっという間に上位生徒級のステータスに跳ね上がってしまった。

 それでも生き抜きと趣味と実益を兼ねた親戚の種苗屋での休日5時間ほどのお手伝いは、休日に休んでいる家族分の穴埋めとしては非常に役に立っているそうで、シリル先輩のほうももともと西の僻地出身のため、植物に囲まれているのが落ち着くそうで、心休まる時間らしい。

 それで手伝い賃と昼ごはんも貰えると・・・すごく割りのいい仕事というわけだ。


 それならば、と先輩が仕事上がり後に寮に帰る際、うちの庭のアニスの花壇の世話を一緒に少ししてあげてくれないかとシリル先輩にお仕事の依頼として提案したところ快諾してくれて、2週間に一回偶数週の夕方にウチに2時間ほど顔を出してくれる様になっている。

 種苗屋の店主と違いなれていなかったのか、最初はホーリーウッド邸の大きさに驚いた様子を浮かべたシリル先輩だったけれど、

 ここがホーリーウッド家の王都邸でウチは家臣の家だと伝えるとなんとなく納得してくれて、今ではすっかり仲良しだ。

 アニスも一緒にお花の世話をしてくれるふわふわおねえちゃんにすっかり慣れて、遊びに来てくれたときにはトイレにまで手を引いて連れて行くほどのお気に入りぶりだ。

 かわいいアニスに「おいで?おいで?」といわれて、困った顔をしながらも断りきれないシリル先輩はとても新鮮だし、かわいい。


 今日はそのシリル先輩が遊びに来る予定の日で、アニスは今そのための英気を養っているところというわけだ。

 といってもまだ朝ごはんを食べて1時間ほど過ぎたところなので、あと5時間ばかりは来ないのだけれど・・・。

 ボクは一緒にあがったアイリスと一緒に、庭に迫り出したウッドデッキの屋根の影ができているところに腰掛けて、風を感じながら涼んでいる。

 既製品を神楽が改造してセーラーカラーをつけたおそろいのサマードレスをきて座っている。

 隣で、やはりセーラーカラーをつけた白基調のドレスを着た神楽が幸せそうにボクとアイリスを見ている。


 神楽も水を浴びたのにもう肌がうっすらと汗をかいていて、襟の当たりをつかんでパタパタと空気を送り込んでいる、その子どもらしさと、汗をかいた肌の艶めかしさに少しムラムラする。

 うん、暑いと思考も少しぼんやりしてしまうね。

 10歳の少女相手に欲情するなんてよくないことだ。


 そのボクの視線に気づいたのか神楽は「あ。」と頬を赤らめて両手をひざの上に置いた。

 そしてえへんと咳払いをするとすまし顔で

「さすがに夏の昼間はちょっと暑いですね」

 と微笑した。


 エッラに注いでもらったつめたい緑茶を飲みながらなおも涼んでいるとべタべタと足音が聞こえる。

 邸の中からだ。


「アニス様お待ちください!」

「アハハハッハ!」

 あぁ・・・と大体察する。

 妙に水気を感じる足音だったしね 


 見ればスッポンポンのアニスが床に足跡を残しながらこちらに駆けてくる。

 トリエラは、ここが庭に迫り出した半分「外」だと気づいて足を止める。

 トリエラがいるところまではまだ邸の「中」といえる。

 ガラス張りの扉だからほとんど外と変わらず、ズロースしかつけていないほとんど裸体のトリエラが恥ずかしそうに扉に張り付いて「アニス様ぁ~」とアニスを呼んでいる。

 この世界のガラスは透明度も高いので上半身は丸見えで、扉の枠のところ以外隠せて無いけどね。


「こらアニス!女の子なんだから恥じらいを持ちなさい!」

 とかなんとか言ってみるけれど、まぁ3歳ちょっとに恥じらいもなにもないよね。

 そのままアニスはこちらに走ってきてボクに向かって飛び込んでくる、まぁいいかとそのまま抱きしめてやると、サマードレスが水分を吸って、ボクの肌にぴっとりと張り付いた。


「えへへへへ、おねえちゃちゅきー」

 そういって生まれたままの姿を惜しげもなく晒すアニスが愛おしくてギューと強く抱きしめながら。

「こいつめーおねえちゃんの服がぬれちゃったじゃない」

 なんていいながらうりうりと頬ずりする。

 水風呂から上がったばかりのアニスは涼んでいるとはいえしばらくたったボクよりも冷たくて気持ちいい。


 そうしてボクが涼を取っているとアニスは自分からしがみついてきたのに

「あぁん・・・あつい、おねえちゃあっちいってー」

 と半泣きで、泣き言を言い始めた。


 それならますます逃がすまいとしっかりと抱きしめてやると。

「あぁぁん・・・うぅぅぅん・・・・」

 と悩ましい声を上げて体をよじって逃げ出そうとする。

 しかし小柄とはいえ6歳で、しかも精神年齢はイイ大人(14+102+6=122か)のボクが体格に劣る3歳の幼女アニスを逃すはずも無く・・・。


「うぅっ!とってぇ・・・あついぃ・・・うぅ、ふへへへへぇぇぇぇぇん、あちゅいー」

 とうとう泣き出してしまった。

 ちょっとやりすぎた。

「アニス、ごめんごめん・・・ブリザーブウォータ」

 ボクは下級防御魔法のブリザーブウォータを自分とアニスとにかける。

 これは耐暑防御用の魔法で、前世で紅砂の砂漠を攻略するために開発した防御魔法の一つだ。

 24度くらいに維持される水の玉を生み出し首から下の体の表面をひんやりとして気持ちいい水で覆う魔法。

 日陰なので反射率は調整していないけれど、砂漠で使うときには光を外側に反射して光り輝く水の玉になる予定だった。

 元になっているのが下級水魔法のウォータボールのため無詠唱で撃てるが、調整はかなり難しい。

 最近は城で魔法も習っていることになっているから、不自然ではないよね?


 せっかく編み出したのに、紅砂の砂漠が事故的に攻略されてしまったので生かす機会はなかったけれど、ようやく日の目を見た魔法はうまく作用している。

 ひんやりして気持ちがいい。

「ふぇぇぇぇん・・・、んぅ?」

 少したってひんやりしていることに気づいたのかアニスが首をかしげる。

「おねえちゃんのとこすずしぃ!」

 涙を浮かべたままの目でぎゅっと抱きついてくる。

 さっきまで不愉快にないていたのに、もう元気だ。


 それからアニス開放して、魔法を解除する。

「アニス、ちゃんと体拭いてから、服をきておいで?」

 邸の敷地だから塀に囲まれているとはいえ、ここは外、いつ来客があるかもわからないし、兵士たちの目も無いではない、いくら3歳とはいえ妹の裸体を家族以外の男に見せたいとは思わないのだ。

 まぁほとんどの人はほほえましい光景としか見ないだろうけれど、3歳のアニスに懸想する様な人に見られたら事だ。


「あぃ!」

 アニスはケロっとした顔で家の中へ戻っていく、扉まで戻ったところで半裸のトリエラが全裸のアニスを抱き上げ様として嫌がられ、手をつないで浴場の方へ戻っていった。


---


 あれからまたひとしきり遊んだり、お昼食べたり、寝たりとすごして、夕方4時にはシリル先輩が遊びに来て、アニスがシリル先輩を水風呂に入れようとしたりとにぎやかな休日となった。

 そして昨日は昨日で一日中小ぶりの雨で、涼しいのはよかったけれど、一日中邸に篭ることになってしまい、アニスはお外に出たがっていたけれど、夏とはいえ町歩き中に雨にぬれて風邪を引かせるとかわいそうなので家で本を読んで過ごした。


 それから今日、登城の際も朝から雨だった。

 5月に雨が二日も連続で降ることは非常に珍しいけれど、雨が降っていると馬車の乗り降りも時間がかかるらしく、馬車用の乗車口は少し込んでいた。

 といってもボクは一部の人しか使えない場所を使うので、込み合い具合は関係ないのだけれど・・・


 そんなわけなので、今日はサークラやトーレスもボクと同じ場所で降りた。

 二人ももうすっかり城に通うことになれて、めきめきと実力を伸ばしているらしい。

 意外なことにサークラも適性は低いけれど、火魔法が使えることがわかったので、護身術程度の魔法を習わされている。

 トーレスのほうは相変わらず努力家で幅広く高めの評価を貰っていて、よく言えば万能なのだが、全分野で補佐はできても頭は張れないというか、器用貧乏で少し報われないとも思う。


 サークラの方は、平日はお城で貴族教育を受けているが、その美貌から年始の祝宴に参加していなかった貴族当主などから、あのご令嬢はどこの娘か、王城の世話になっている時点で出自があやしいわけがないのでぜひウチの嫡男の正室に・・・なんて問い合わせがすでに10件ほど入っているらしい。

 無論サークラに直接問い合わせるわけじゃないので、ヴェル様やジークのところで差し止められているけれど、サークラは賢く器用な娘なので、今のところのお勉強はうまくいっていて本年中にはひとまずの詰め込みは終わるらしい。


 休みの日はジョージと3週に2回程度の割合で逢瀬を重ねている。

 今のところ禁欲的な付き合いをしている様でひとまず安心だけれど、最初の頃と違い最近はジョージとのデートを楽しみにしている様で、ちょっぴりやるせないというか・・・休日にサークラを見送るボクを神楽が抱きしめてくれなければ、こっそり後をついていきそうな程だ。

 まぁジョージはたまにアニスやアイリス、ボクを同伴させてのデートもするくらいなので、ついて行ったら行ったで平気なのだろうけれど・・・。


 アイリスも順調だ。

 子ども故のもの覚えのよさでもりもりと知識が増えていく。

 治癒魔法も最低限使いこなせる様になりお勉強のほうもあと2年もあれば余裕をもって基礎学校卒業程度まで行けるだろう。

 城ではボクともどもサリィやエミィ、フローリアン様にかわいがられているのが目撃されており、双子はともに養子になっている疑惑が浮上している。


 オルガリオもセラディアスのが毒杯を干した後は、彼とその母がいろいろな人と会うのに横槍が入ることも無くなり、のびのびとしている。

 ボクより一つ年上の彼だけど、アイリスと同様まだまだ子どもで、最近はボクたちと一緒にお勉強をする様になったのだけれど勉強よりも遊びを優先してしまうので、ぶーたれながらもがんばるアイリスのほうが進みが速いくらいだ。

 今は子どもなので、将来に期待だね。


---


 昼食後、研究室に入る。

 ここには基本神楽と二人だけで入る。

 理由はボクの生まれ変わりのことを知っている人がほとんどいないからだけれど、神楽には前世の技術の復元の助手をしてもらっている。

 技術の復元はボクの記憶と、暁天の中に保存されている設計図データを元にしているのだけれど、暁天の中に保存されている図は基本的に出力ができない、それらは持主であるボクの視界に投影することはできても、他人に見せることができない。

 本当なら出力するための機械が存在するのだけれど、それはこの世界には無い。


 唯一の例外がデネボラを持っている神楽だ。

 デネボラは暁天と同じ魔力偏向機マジカレイドシステムで暁天からデータを送信することができ、それを神楽も見ることができる。

 今はそのデータの中から現在の王国の技術力で製造できるものの中で、必要になる魔石回路と魔法陣の設計図を中心に作成していて、一部必要な魔石回路はすでにサンプルが届いている。

 結構な数を作成しているが、現在致命的に足りていないものがある。

 それは魔鉄類だ。


 魔鉄類の産出はイシュタルト大陸では現状皆無。

 実際のところは無いわけではないけれど、産出量はわずか、それを解消できたのはヘルワール火山の魔剣を回収したあとその跡地から産出するようになった焔鉄なんかが使い物になるとわかった後だけれど、その他の鉱物も紅砂砂漠跡地とクリスタルバレー跡地からの産出だったため現状天然の魔鉄類は産出されないに等しい・・・、セントール大陸からペイルゼン王国に輸出されているものの一部がイシュタルトには流れているがそこからボクの研究にまわす分というのは発生しない。


 しかし、未来の世界に生きたボクには解決策がある。

 一つはペイロード家の固有能力の鉱物生成ミネラルクリエイション、魔物素材や天然の鉱物などに特殊な魔力による負荷をかけることで対象を金属化したり、宝石に変えたりできる。

 かなり強度の高い魔鉄類を作ることも可能だけれど、ペイロード家だけが遺伝する能力のため一日の生産量に限りがある。


 もう一つがセントール大陸で用いられている方法で、製鉄の際に通常の半円型魔力炉(火魔法を使える人を集めて内部に火を流し込み蓋をする方法を用いる、温度にばらつきがある)ではなく縦長い塔型魔力炉(上部から火の魔法を投げ入れ、側面から使い手の少ない雷魔法を長時間当てる)を使い、さらに下級土属性魔法の燃える泥フレイマブルダートを流し込んでから蓋をする方式、雷属性魔法を使える人間を集めるのは大変だが、これを用いることで、なぜか火、水、風、土、雷の魔力に親和する魔鉄を投入した鉄の3割分程度得ることができる。

 セントールの人々がどの様にこの技法にたどり着いたかは不明だがこちらでも利用可能なので利用させてもらう。

 しかしこちらはまだ準備に時間がかかっている。


 そこで前者の方法に頼ることを考えた。

 ちょうど今生では生きているジャスパーと一緒にジル先輩、トーマ、ユミナ先輩が一緒に来年度から軍官学校に通うらしく、下調べをかねて今年の大水練大会を見るために王都にやってくる。

 またそれについてくるらしくてラピスとヒースも王都にやってくる。

 その際にラピスとヒースについては数日ボクのところで過ごす約束を取り付けた。


 そしてボクはスザク家のアイビスにもぜひ同い年の者同士で親睦を深めましょう、と招待状を出しておりアイビスもメイドとともに王都にくることになった。

 ここで3人に、いや神楽とアイビスにも再会してもらい、ラピスに鉱物生成能力を行使してもらう予定だ。

 すでに神楽にはアイビスが前周同様に円城寺えんじょうじ此花このかちゃんである可能性が高いとは伝えてある。

 早く再会したがっていたので、チャンスは利用しようと思ったのだ。


 そして肝心の鉱物生成素材は、跳躍能力を使って何箇所かの魔物を狩ってきている。

 さすがにワイバーンやサラマンダーは探せなかったが、フォレストタイガー2頭、セラファント1頭、グレートシープ1頭、そしてジークにお願いして、地下室に保存されていたガルムの骨格を譲ってもらった。

 そして今日はその3人と、アイビスのメイドのフランが一緒にやってくる。


 今日のところは3人の死因となったガルムの骨格は見せずに3人が同じ日ノ本人であることを明かすタイミングを計ろうと思う。

 お茶を飲んで一息ついたところで日ノ本語で語りかければ大丈夫なはず・・・だよね?

 日ノ本語を話す関係で、エッラは外でお留守番。

 フランさんも外にいてもらう必要があるけれどどうやってヒースだけ内側に入れる様にするか・・・?

 って、ヒースは今生ではアイビスのメイド(男の子)ではなく婚約者なのだった。

 ならば不自然なくラピス、ヒース、アイビスだけを招き入れられる。

 前世も婚約者ではあったのだけれど、軍官学校で一緒にいるためにメイドに扮していたんだよね・・・。

 神楽には先に研究室に待機してもらって、ボクはお客様を迎えるためにエッラをつれて広間へと向かった。


あと4回くらいで2年経たせたいです。

が、遅々として進んでないですね。


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