第54話:王族とのないしょ話
王族との養子縁組が決まったアイラは、その夜国王であるジークハルトに呼び出されたが、眠ってしまいすっぽかしてしまった。
翌朝謝罪はしたが、ジークハルトは特に気にした様子も無く。
寝ることも子どもの仕事だからと、アイラにも気にしない様にと告げた。
そして、アイラのステータスを提示した上で、鑑定能力の扱い方を教えた。
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(アイラ視点)
ジークから教えられた鑑定の利用法は、前世でのジークから教えられた方法や、バフォメットから教わった方法と変わるものではなかった。
基本の部分は相手を肉眼に収めて、意識を集中して念じるだけ。
しかしやはりボクに見えるステータスは今までと変わらなかった。
ジークハルト・イシュタルト M50ヒト/
生命1311魔法59意思305筋力22器用71敏捷45反応68把握79抵抗61
適性職業/魔法使い
これがボクに見えたジークのステータス、ジークがいうには数値と適性は正しい様だが、やはり能力の大部分は見えない。
またボクは自分の能力が見えないけれど、ジークとサリィは自分のステータスも見えるらしい。
この違いが先天能力かどうかによるものなのか、それとも魂の違いとか、
ジークの能力と照らし合わせてみたかったのでジークやサリィの能力を教えてもらえないか?とたずねてみたけれど、許可は出なかった。
「ふむ、しかし能力名称は同じ様であるから、単に慣れの問題かもしれんのう、しばらくは様子を見よう。」
そういうと、ジークは鑑定の練習をやめた。
続いて何か魔法道具に魔力を入れると、何事も無かった様にお茶のお代わりを出してくれた。
「これからサリィやヴェルガがくる・・・が、アイラの生まれ変わりのことについてはワシ以外には話す必要は無い、墓まで持っていこう。サリィも鑑定ができるが、まぁこちらでごまかしておく。」
なるほど、先ほどの魔法道具は、なにか合図を出すもので、今下でヴェル様とサリィを呼びだしているのだろう。
「よいのですか?」
「かまわん、その代わりそなたも、生まれ変わりではないただのおませな6才として、この爺になつくのじゃ。」
そういうとジークは右ひざをトントンとたたいた。
座れということか・・・?
それは少し気恥ずかしいというか、ジークだって中身が100歳超えた・・・ということは知らないとはいえ一度は15歳の少年をやっていた者が見た目は6歳どころか4歳くらいの幼い少女の姿とはいえ懐かれたいと思うだろうか?
「ほれ、サリィたちが着てしまう。仲がよいところを見せて、子どもだと信じさせるのだ。」
そういってもう一度膝を示すジークにボクは・・・
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(サーリア視点)
アイラちゃんたちと離れて15分ほど、衣裳部屋でお古のドレスを見繕いながら待っているとノイシュが呼びにきた。
どうやらおじい様のないしょ話が終わったらしい。
アイラちゃんのステータスが高かったので、何か隠し事や危険が無いか調べてみるといっていたけれど・・・、私はアイラちゃんが好きだ、なんといってもかわいい、あんな妹がいれば毎日のお勉強や社交にももっと楽しみが見出せるのにと思っていた。
妹が欲しいという願いはアイラちゃんの言葉を受けてエミーとの関係を改善したことで先に果たされたけれど、現在お母様のお腹の中に新しい弟妹がいることが少し前に知らされていた。
昨日の昼の茶会に使った部屋はその子が女の子だった場合に使う予定で用意した部屋で、私の希望が女の子だったのでつい作らせてしまったのだ。
さらにおじい様の案でアイラちゃんをお父様の養子にすることが決定したので、私には一気に2人の妹ができ、さらにはまだどちらかはわからないけれどもう一人下の赤ちゃんが生まれてくることが確定している。
あとはアイラちゃんがおじい様の話合いで気に入られればいいのだけれど・・・そう思い私は、めったに足を踏み入れることの無い塔の上側にあるおじい様の部屋へと、お父様と一緒に歩を進めた。
そこで私の目に飛び込んできたものは恐ろしい光景だった・・・。
「おじい様!ボク楽しいです!」
「そうだろう!そうだろうとも!さぁもっと激しくいくぞ!」
女好きで知られるおじい様の膝の上にアイラちゃんが座っていておじい様が体を上下にゆすっている。
言葉では楽しいといっているし、笑顔を浮かべているけれどなんというかいろいろかなぐり捨てた感じの乾いた笑い声を上げているアイラちゃん。
一瞬、最近お母様から教わり始めたばかりの閨のことが頭をかすめたけれど、何かの間違いだと首を振る。
いくらおじい様が女好きで有名とはいえ、孫にしたばかりのアイラちゃんを、その婚約者のユーリ君の目の前で・・・なんてことがあるはずが無い・・・でもだとすればこれは・・・?
私とお父様が思考をめぐらせていると、その疑問はおじい様が自ら説明してくれた。
「おぉ・・・ヴェルガ、サリィきたか・・よし暇つぶしは終いじゃ、話の続きをするぞ・・・。」
そういっておじい様はアイラちゃんを床におろし
「楽しかったです。ありがとうございましたおじい様」
とアイラちゃんはやや内股気味におじい様から離れると、私のほうに飛びついてきた。
「サリィ姉様、さきほど振りです!おじい様となにかむつかしいお話をして、それから退屈なので遊んでいただいてました!」
そういって私の足にしがみつく、アイラちゃんはやっぱりすごくかわいい。
「キャッアイラちゃん、そんなにしがみつかれたら、私こけちゃいますよ?」
ちっちゃな手がスカート越しに私の太ももの当たりに回される。
それだけのことなのに私は気持ちが高ぶってしまって、アイラちゃんを抱きしめ返さずには要られなくなっていた。
「わ、サリィ姉様。」
抱きしめただけのつもりが、私は勢いあまって数センチとはいえ、またもアイラちゃんを抱き上げていた。
細い私の腕でも持ち上げられるほどアイラちゃんは軽い、その重みがなんとも心地よく私の庇護欲なのか、母性なのかわからないけれど、なにか大切な部分を満たしてくれているのがわかる。
私よりも30cmほど低いその頭のてっぺんに鼻を押し付けて息を吸い込むと、たぶん汗のにおいなんだろうけれどすごく幸せな気持ちになる。
「甘いにおいがします。」
「姉様!?」
「失礼しますね。」
真っ赤になって身動ぎして、逃げ出そうとするアイラちゃんをしっかりと捕まえてそのままユーリ君の隣に座る。アイラちゃんのことはケガはさせない様にでも力づくでひざの上に抱きかかえた。
さっきまでおじい様のひざの上で平気だったんだから、私のひざの上でも平気なはずだよね?
「おじい様ばかりアイラちゃんをかわいがってずるいので、このままお話しましょうね?」
お父様は一瞬なにか言いたそうに口をぱくつかせていたけれど、あきらめたのか、おじい様の左手側に腰掛けた。
アイラちゃんはまだちょっと逃げようとしていたけれど、私と向き合う様に抱きしめているので自由に動けずに諦めた。
アイラちゃんの心臓の音が私の胸に服越しに伝わってきて、ドキドキする。
小さいアイラちゃんは私より心臓の鼓動が早くって、私の心臓がその鼓動に引っ張られて加速しているんだ。
「それでおじい様、アイラちゃんのことでお話するんですよね?」
私は何も無いことの様に話を始めた。
おじい様も何か言いたそうにしていたけれど、きっと私がアイラちゃんをかわいがっているから悔しいんだろうと思うことにした。
そしてアイラちゃんはかわいがりたくなる様な「幼い女の子」だったのだろう、やけにステータスが高いし勇者になっているのでどこかの国の刺客の可能性も考えられたが、どうやら天然の勇者だった様だ。
だとすればアイラちゃんが将来どんな優れた勇者になるか楽しみでたまらない。
聖母だなんて資質があることにも驚いたけれど、これだけかわいいのだから世界を見守ってくださっている聖母様にも愛されているんだろう。
「うむ、まずはアイラの居住する場所についてだな。」
「それはもちろん王族の区画ですよね?お父様とお母様の養子にとったのですもの。アイラちゃんを2年間もユーリ君から引き離すのに離宮で一人になんてさせませんよね?」
少し捲くし立てる様に声を上げてしまった。
私の声の大きさにびっくりしたのかアイラちゃんがビクリと体を震わせる。
「あぁ、ごめんね耳の横で大きい声だしちゃった。」
「あぁいえ、ただやっぱりユーリと離されるんだなってちょっとだけ寂しくなって。」
と、アイラちゃんがユーリ君のほうを見つめながら言う。
私はたまらなくなって、やっぱりアイラちゃんをホーリーウッドに返してもらう様に言おうかと迷う、でもこの養子縁組はユーリ君との婚姻のためにかなり有利になることで、アイラちゃんにもユーリ君にもためになることだ。
それに好きな人と距離を置くことで気持ちが強くなることも私は知っている。
現に私のユーリ君への恋心は一昨昨日にアイラちゃんをエスコートするユーリ君のかわいい姿を見るまではすごく高まっていた。
ただ今は、その気持ちを上回るくらい二人の育む愛を見守りたいと思っている。
本当に似合いの二人を見ていると、たとえその片方が3年ほども片思いしてきた年下の男の子相手でも、応援する、見守る以外の選択が取れなくなるんだなって、自分の気持ちの変化に驚いている。
「それはもちろんアイラの教育は王家が責任もって行うが、この子はどうも天才児の様だからのう、作法や歴史、閨の技のことはリアンやノイシュが中心となって教育するが、それ以外の点はほとんど不要の様なのだ。ならば最悪ホーリーウッド家の邸に寝泊りさせて通いでもよいかと思うての、あちらであればハンナたちと離れる必要もない、まぁたまにはこちらに泊まってもらうとして、部屋は用意しようと思うがな。」
おじい様はとんでもないことを言い出した!それでは毎晩抱っこして寝られないではないですか!?
私は何とかその条件を少しでも私の有利にするべくワガママを言うことにした。
アイラちゃんが言ったからいいよね?私まだ子どもだもの
「おじい様それでは外聞がよくないです、養子にとっておいて城に住まわせることもしない、ホーリーウッドへの恩義を売るためだけに養子にしたとの謗りを受けかねません!」
とりあえず思いついたままに発言する。
「そうですね父上、私も同じ意見です。一緒に暮らさせるというならいっそ離宮・・・はあらぬ疑いをかけられるから無理だとしても、本殿に近い住み込みメイド用の宿舎を一つウェリントン一家用にしてそこに家族を住まわせるというのは・・・?」
お父様が別案を提案する。
その方式だとアイラちゃんは本殿に住まわせることになるので、私にとってはいい提案だけれど・・・
「いやそれもよくは無いのぅ、ホーリーウッド邸を使って通わせるよりも警備の人員は減らせるだろうが、それではハンナが落ち着くまいよ、それに城内でいろいろ勉強する予定のトーレスが肩身の狭い思いをするやもしれん」
たしかに行儀見習いでもなく、王家に仕える予定の無い者を預かり教育まで施すのに、さらに城の設備に住まわせてしまうのでは他の家のものたちに示しがつかない。
トーレスは平民でもあるので、ハンナさんやサークラお姉様もいやな思いをすることになるだろう。
妹を売って2侯爵家と王家に媚びを売る売女とか・・・ばれない様にそういう物言いをする者がいないとも限らない、王城とはそういう場所だ。
「それではボクはどうするのがよいのでしょう?」
私の膝の上のアイラちゃんがこまった顔で言う、困り顔もキュートで、ずっと見ていたい。
いまこの困った顔は私と隣のユーリ君だけの二人占めでおじい様とお父様には見えていない、なんだか少し勝った気分。
「ふむ、それでは黄の夕方にトーレスやアイリスとともにホーリーウッドの邸に帰り、赤の日の朝に城に出てくるというのはどうだ?つまり寝る回数は半分半分だな、時間は城のほうが少し長くなるが・・・」
1週間は白曜日に始まり赤、青、緑、黄とながれ黒曜日で終わる。
一般的にほとんどの人は黒曜日を休息日としていて、その日に休めない人が白曜日に休む。
つまり城にいる間は教育の時間で黒と白はアイラちゃんにとっての家でのお休みということだ。
「そして城に泊まる時もメイドは一緒に連れてくると良いだろう、クラウディアに残るメイドは決まっているのか?」
おじい様はそれがほぼ決まりであるかの様にアイラちゃんに尋ねる。
実際妥当な線だとは思う。
うちの子にもなるとはいえ、アイラちゃんには立派な家族がいる。
家族との時間を完全に奪ってしまうのは私としても本意ではない。
「そうですね、ボクにはエッラとカグラがついてくれて、邸にはトリエラと、メイドがあと一人残ってくれる予定です。」
「それと護衛に騎兵を3名ほど残していきます。こっちに長くいてもらうので、恋人とかできても大丈夫な様に未婚で、恋人もいない者の中で希望をとりました。」
アイラちゃんが答えすぐにユーリ君が補足する。
それにしてもカグラさんはメイドではなくホーリーウッド家のお客様という話ではなかったかしら?
メイド扱いでいいのかしら・・・?
「うむ、ホーリウッド側の負担はそのくらいでよかろうな、王家からはアイラが城にいる時にはメイドを一人、邸には通いのハウスメイドを2名と近衛メイド4名を3組3日交代制で派遣しよう、それと別に衛兵も常時1小隊まぁあの邸の規模なら12名ほどの部隊だな、護衛にまわそう。」
そういっておじい様が警備やメイドの配置について話していると、アイラちゃんが手を挙げる。
「ハイ!おじい様!」
「なんじゃアイラ?」
アイラちゃんは私に羽交い絞めにされているのでおじい様におしりを向けたまま話す。
「ボクはメイドは足りているので、話相手としてエイラを希望します。年も近いですし、ボクはおじい様とお話する機会も多いのですよね?」
と、アイラちゃんは近衛メイドのまとめ役であるノイシュの娘のエイラをつける様にねだった。
これは当事者以外には、私とお父様お母様しか知らないことだけれど、エイラはおじい様の娘だ。
火種になりうるのでかなり厳重に隠蔽しているが、私はお父様の後に王になることが決定しているので知らされている。
しかしアイラちゃんの言い様は、どうもエイラがおじい様の娘とわかっている様に聞こえる。
「ふむユーリからもその話は持ちかけられておってな、ノイシュやエイラからも是非と返事を聞いておる。それではアイラに王室からあてがうメイドは見習いのエイラにしよう」
あっという間にエイラはアイラちゃんのメイドになった。
おじい様と顔を合わせる機会が増えるだろうし、よいことだと思う。
そういえばカグラさんの話はどうなったのでしたっけ・・・?
おじい様が引っかからないのは少しおかしいのだけれど・・・。
でもアイラちゃんたちがそういうのだから、きっと問題はないんでしょうね。
カグラさんは私の一つ上のとても綺麗な黒髪をした女性で、ユーリ君のメイドを長年やっているナディアと同い年、髪の色も黒同士とそろっており、後ろ姿がなんとなく似ている。
黒髪のヒト族自体がサテュロス大陸では希少だけれど、そのほとんどは砂漠地帯周辺に住んでいる人たちで、髪質はごわごわとしている。
なのにホーリーウッド家がつれてきたメイドのユイもナディアもカグラさんもみんな綺麗な黒髪で、指通りも良い、特にカグラさんはとても丁寧に伸ばしているのがわかる、後ろ髪は10歳で腰近くまであり、しかも毛先までとても艶やか、前髪はアシンメトリーに左側だけを束ねて、右側はメイドのエレノアほどでは無いけれど目が半分隠れる程度に伸ばされている、黒髪の美しさと相まって神秘的な雰囲気を醸している。
ただカグラさんは10歳の割りに体が小柄で、私より5cmくらい小さい、話してみるとやはり年上だけあって理性的で、おっとりした方で、話していてとても好感の持てる女の子だった。
私の学友役として付き合いのある3歳上のフローネと外見の淑やかさは同じくらいだけど、話してみるとフローネの鍍金と違って、こっちは本当に穏やかな女の子なんだなってわかる。
フローネは本当は感情が高ぶりやすい子だから、ちょこちょこボロが出る・・・そこがかわいいところではあるのだけれど・・・。
っと今はアイラちゃんの話だ。
結局は毎週城と屋敷に3泊ずつすること、メイドとしてエレノア、カグラさん、エイラを常に帯同させることになったみたい。
エレノアが13歳の女の子としては破格のステータスをしているのでアイラちゃんと一緒に武術の鍛錬も行うとかエイラもそろそろメイド術の鍛錬をするとか、そういった話をして話合いは終わりになった。
アイラちゃんが暮らす部屋はアイリスちゃんを怒らせない様にこの間の部屋とは別に用意することになった。
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(ユーリ視点)
ハルト様たちと、アイラの処遇について相談して、3日経ち僕たち帰還組はホーリーウッドに帰る日になった。
あの日から何度か対話を重ねてアイラの能力についてハルト様にいくつかご理解いただいた。
ウェリントン家は全員王都で暮らすことになったが、ただそれぞれホーリーウッドへの帰還の予定のタイミングは異なる。
ハンナとアニスに関しては完全に自由、任意のタイミングで帰還できる。
トーレスは今年は王城で軍務や政務の勉強をし適性を見て、来年には軍官学校に入学となる、そこから4年は学生だね。
サークラはジョージとの付き合い方次第、ただオケアノスの問題が解決しないう内は嫁入りはさせない予定。
アイリスは治癒術の適正があったため、その程度を見て軍官学校への入学をすることになるけれど細かい年次などは不明。
アイラは僕が再来年軍官学校に通う様になったら、生活拠点をホーリーウッド屋敷に移して結婚する予定だ。
そう、ハルト様の権限で一気に結婚させていただく。
再来年になれば婚約して3度年を跨いだ扱いになるし、9歳と8歳は一般的ではないとはいえ、前例が完全な0ではないのでする気があるなら結婚を許してくれるそうだ。
またハルト様と改めてアイラの処遇について相談して、アイラには研究室が与えられることになった。
そこはアイラが持っている前の周でのアイラがかかわっていた技術を吐き出すための場所である。
ジークにはアイラの出身の島国での技術だと説明しているが、すでに若干の成果物を見せているアイラの持つ技術をハルト様は欲しがった。
僕とアイラの共通認識として、セイバー装備と魔導籠手などの武装の開発と、大型船の開発を進める予定にしている。
ダーテ帝国などの他大陸からの介入による混乱を最小限に防ぐため、自衛の手段は用意しておこうと考えた。
さらに、言えば、今回も秘密結社「シンの火」による、「ヴェンシン王国復興のための聖戦」とやらのためにジェファーソンや旧ヴェンシン派が火種をまいている可能性がある。
初動をミスすれば危ういが、専用機型のセイバー装備を開発しておくことでそれを防ごうというたくらみをしている。
セイバー装備というのは、セントール大陸で用いられているグソクシステムという大型鎧装備群を元にしてアイラ、カグラ、ラピス、ヒースが中心となって生産された兵器だ。
グソクシステムのアシガル鎧、ホロ鎧の構造を分析し、サテュロスの魔方陣技術、魔石回路技術、結晶魔法技術にハルピュイア大陸から持ち込まれた魔力炉技術や蓄魔力槽技術をあわせて生み出され、一番大きなものでは5mを超える大型の鎧を個人で着込み動かすことができ、タイガータイプ魔物どころかワイバーンですら圧倒する戦力を有し得る装備だった。
アイラやラピスが「ロボット」みたいで格好いいでしょ?とよく自慢してきていたね、ロボットというのが良くわからなかったけれど、力強くて格好良かったのは僕にもわかったよ?
専用機型セイバー装備というのは、前世で僕が死んだあとに開発された、第五世代型と呼ばれる新12式セイバー以降に導入されたシステムらしい、新12式というのは、前世でサテュロス連邦からグランディア王国に国号を変えたあと12年目に開発されたということになる。
グランディア王国が建国された頃に旧ヴェンシン派の過激派が旧領にあった基地を、どこかから手に入れたアシガル装備で強襲、旧式とはいえ生身の兵士たちを圧倒し訓練用に残していた旧式のギガントセイバーを3領とセイバー27領を奪取し周辺の村を占拠する事態が起きた。
幸い内乱はすぐに鎮圧されたが、強力な兵器であるセイバーが誰でも使える状態にあるという脅威に対して、現役を退いていたアイラが口出しして出来上がったのが、個人識別型の専用機セイバー装備だそうだ。
胴体部分が個人専用となっていて、そこに各種パーツを接続することでセイバー装備として利用可能になるが、本人以外がつけても作動しないというモノだ。
これによってコストは高くなってしまったものの、すでに戦争をする機会も無かったため、損耗も無くセイバー装備自体海岸線を中心に残し、次第にその配備数を減らしていったという。
魔導籠手の方も同じくアイラたちが開発した装備で、魔力シールドの発生や殺傷力の低い魔力弾の射出をできる籠手だ。
とっさの防御や牽制を行い易く、籠手自体にも魔力強化可能な物理的防御力があるためダンジョン攻略などでその生存性を大いに高めることができた。
後年には魔力灯や点火、方位磁石、短距離の通信機能、低容量の空間収納機能などを持たせることに成功し、冒険者の装備として普及した。
それらを小数でも作っておくことで、後に戦乱が起きても対応できる様にしておく目論見だ。
僕にとってこの2年は、落ち着かない日々になるだろう、アイラのほうは僕のところへ飛んでくることができるのに、僕のほうは彼女に会いに行く手段が無いのだから。
いつくるかないつくるかなと、待ちわびる日々になるかもしれない。
でもそれって良く考えたら、アイラが僕に夜這いをかけにくるのを待っているみたいでちょっとドキドキするかも?
体は幼くとも何十年単位で夫婦をやっていた記憶がある僕とアイラはすでに多少性的なニュアンスを含むスキンシップをすることがあるし、その意味を理解している。
前世では12歳で出産を経験させてしまい命の危機を迎えさせてしまったので、もう少し体が出来上がるまでそういった事は控える予定であるけど、いつまで我慢できるか・・・。
「長くなっても2週間に一回は顔見せにいくからね?」
そういって耳打ちするアイラに待ってるからと、耳打ちし返して、ついでの様に耳朶を噛む。
「あんっ・・・んもう!」
いきなりのことにちょっと非難の声を上げるアイラも可愛くて、でも可愛がっているアイラたちが帰ってこないので拗ねるであろうフローレンスおばあ様のことはなんていってごまかそうかと少しだけ頭を悩ませつつ、僕たちは馬車に揺られ始めた。
隣が寂しくなってしまったので、ユディを抱っこさせてもらい気持ちを紛らわせた。




