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第52話:王城の夜

 イシュタルト王家、ホーリーウッド侯爵家、そしてウェリントン家の子どもたちを驚かせた国王や大人たちの提案は、しかし大人たちが思いもしなかったほど、すんなりと受け入れられた。

 もっとも反発する可能性が高いと思われたアイリスは、席を外しており、主な当事者であるアイラとユーリも騒がずに提案を受け入れ、大人たちを驚かせた。

 王家のサーリア姫とエミリー姫は出会ったばかりではあるがお気に入りの少女が妹になると聞いて、喜びにマナーも忘れ身を踊らせた。


 姫たちがはしたなくはしゃぐのを見てジークハルトもヴェルガもほほを緩ませていたが、サーリアとエミリーが挟み込んだアイラの頬にキスし始めたあたりで止めさせた。

 そして、ジークハルトの宣言により食事会は終了し、客人であった者たちは、ほとんどがこの日城に泊まることになったため割り当てられた部屋に案内され、ジョージだけは翌日軍官学校に行くために帰っていった。


------

(アイラ視点)

 いろいろ頭の中は混乱もあるままだけれど、食事会も終わり、組み分けされた部屋に分かれる。

 部屋割りはホーリウッド夫妻、母ハンナと姉サークラ、下の姉妹4人、ユーリとトーレス、神楽とエッラ、ナディアとユイという分かれ方になった。

 ユーリとトーレスがどんな話をするのかは疑問だけれど無難は部屋わけになった。

 欲を言えばもうすぐ一緒に寝ることができなくなるユーリと寝たかったけれど、6歳が男の子との同衾を強く希望するというのもどうかと思い何もいわず割り当てられた部屋でくつろぐ。


「ねぇアイラ、本当に私たちおうとで暮らすの?」

 とアイリスが少し不安げにたずねてくる。

 アイリスは、ボクの養子化やウェリントン家の王都への留め置きについての話の時にはその場にいなかったが、その後ハンナからゆっくり聴かされて、昼の様な衝動的なことはしなかったけれど、混乱は少なからずした様だった。

「そうだよ、でもアイリスやアニスが希望するなら、ホーリーウッドで暮らすこともできると思う、ただボクとサークラは最低でも2年は王都暮らしになるかな?あとはカグラとエッラ、フィーにトリエラは王都にのって貰うかも」

「そっかー、アイラはホーリーウッドに帰れないの?」

 ベッドの上でうつぶせ向きに枕に顔を突っ込んで、ひざを立てておしりをふりふり尋ねるアイリス、すでにエプロンドレスは脱いでおり、その下に着ていたワンピース姿になっている。

 様子を見るにもう今日は疲れていて、早くお風呂に入って寝たいと思っているね。


 ボクはエミリア義母様からお預かりしたユディをひざの間に座らせ向かい合っている。

 今日はあまりなれない服を着せたり、お城の中で歩いてもらったりしたのでユディはちょっぴりお疲れモードだ。

 1歳半ばだとちょっとおしゃれした程度の服の重量でもそれなりに負担、しかも石畳の上を歩かされて・・・よく駄々をこねなかったものだ。


「ユディはイイ子ちゃんですねぇ~」

 そういいながらほっぺたを優しく揉んでやると気持ちよさそうにべろをだして笑顔を浮かべる。

 それからボクに両手を広げて抱きついてきて

「アーヤ、アーヤ・・・」

 とつぶやいた。

 アーヤというのはユディがボクのことを呼ぶ声だ。

「はぁい♪なんですかー?」

 お返事をすると、また体を離して、再度抱きついてきながら

「アーヤ♯qÅwιδrft▽yhuJiΚo▲p♪」

 乳児ならではの宇宙語で話しかけてくる。


 機嫌が悪くないというのはかろうじてわかるけれども、何をいってるかは、まったくの不明。

 それでもボクはこの可愛い妹にはメロメロなので。

「そうでちゅか~!」

 と、ギュッと抱きしめ返す。


 ユディは今日すでにエプロンドレスのエプロン部分を4回交換し、今はもう下着にオムツ姿になっているけれど、部屋の中は温かいので特に不都合は無い、あと数分休んだらお風呂で、それが終わったら就寝だ。

 アニスもユディと同様すでに下着姿、ただ起きているときはもうオムツをつけていないので下もズロースだ。

 アイリスの隣で頭を枕につけておしりを振って、上機嫌に鼻歌の様なものを口ずさんでいる。


 クラウディアで暮らす様になったらさすがにユディとも長く会えなくなる。

 そう考えると今の幼いユディと抱きしめ合っていられるのはとても貴重な時間だと思う。

「ユディ・・・アイラおねえちゃんのこと忘れないでねー。」

 笑うユディが可愛くて、あやしながらおでことほっぺにキスを落とす。

 そしてさらに笑うユディという幸せスパイラル。

「あ~ん、アニスも~!」

 アニスはボクが音を立ててキスをしているのが気になったらしくあわてた様子で寄ってくる。

 つなげたベッドの上をぽてぽてと歩くアニスを捕まえてその場でコチョコチョとこちょぐり、ギャハハと喜びの声を上げるアニスに、ユディと同じ様にキスの雨攻撃。

 さらに肌着の上から胸の真ん中辺りに口付けて、熱い息をハァと吐き出すと、よりいっそう興奮した様子になるアニスに今度はユディが自分もやって欲しくなったみたいで

「アーヤ!アーヤ!ハハハン・・・」

 と泣きそうな声でねだってくる。

「ブゥー」と音をたてて息を吹き込む度、ギャーギャーと喜ぶアニスとユディにはさまれ、ボクはそれなりに復活した。


---


 それからずっと二人を可愛がり続けていると、すぐにお風呂の時間になった。

 みんな一緒がいいというサリィの希望で、本日の入浴は女の子組が、フローリアン様、エミリア様、母ハンナ、サークラ、神楽、サリィ、エミィ、ボク、アイリス、アニス、ユディ、ユイ、エッラ、ナディア、昼のお茶会の時に面倒を見てくれたのとは別のメイドさん二人とで湯浴み様のメイド服を着ているのは城のメイド二人だけれどユイ、エッラ、ナディアも自分の入浴もしながらボクたちの入浴の世話もしてくれている。


「アイラ様、お湯をかけます。目を閉じてください。」

「どうぞ」

 ザパーと頭の上から温かいお湯がかかり一瞬周りの音がほとんど消え去る。

 しかし、お湯が流れきるとすぐに姦しいどころではない大浴場の喧騒が帰ってくる。


 大人やメイドも多いとはいえ、アイリス、アニス、だけでもそこそこにぎやかな上、神楽とナディアの容姿の相似点についてサリィとエミィが盛り上がっている。

 つややかな黒髪をしていて、彫りの浅い幼げな顔立ちは黒髪という希少性も手伝い、知らない人が見れば姉妹だと思う程度に似ている。

 それを縁として年も同じナディアとかなり仲が良い。

 そこに本当はさらにトリエラが加わる。

 トリエラも、シャ族の猫耳とキス族のフサフサ犬尻尾という獣人系の特徴を別にすれば黒髪に、愛嬌のある顔立ちと、似たところがあり神楽がホーリーウッドに着てからというものよく3人でプライベートをともにしているのが見かけられている。


 今サリィたちはナディアと神楽に顔を洗顔石鹸の泡で覆わせ、どちらが神楽かナディアかを当てるという遊びをしていた・・・。

 二人とも将来的には結構胸も大きくなってくるのだが、今の時点では二人とも10歳相当の膨らみかけで身長もそう大きく変わらずおろした髪も濡れているのでもう本当にわかりにくい、無論ボクは二人の体の差異、たとえば黒子の位置であるとか、大きさは変わらないが胸の形状のだとかで神楽がわかる。

 なので神楽とナディアを見分けるのも無論たやすいことだが、そういえば・・・と考え込む。


 黒髪が希少なこの世界では通常黒髪は遺伝しにくいということなのだろうが、ユイの子は2人とも黒髪だ。

 それにナディアはともかくユイもイサミも少し名前が日ノ本人的だ。

 名づけはユイの母が遺していたユイにつける名前の候補の残りから取ったそうだが、仮に彼女が日ノ本人だったとしても、今となっては確かめ様がないので、あまりに気にしないほうが良いだろう。


「あ、アイラちゃんとアイリスちゃんも目元を泡で隠したら見分けるの難しそうですね。」

「うぇぁ・・・確かにそうですわ、なんといっても二人は双子ちゃんなのですし、髪の色も背丈もそっくりですの」

 おっと今度は矛先がこちらに向いた・・・か。


---


「アイラ、ちょっといい?」

 湯船の深いところに立って浸かって、浮力を利用してユディを仰向けに浮かせて遊んでいるボクを呼んだ声のほうを向くと、母と義母と養母が3人揃ってそれぞれ謝罪の言葉を述べた。


「えっと、どうされましたか?母様方・・・」

 ハンナ母さん、エミリア義母かあ様、フローリアン様はなんて呼ぶべきか・・・ちょっとまだ決めあぐねているのだけれど、3人同時だと母様方と呼んで正しいのか・・・?

 ちょっとわからないけれど、違和感はないので良しとしよう。

 尋ねるボクに一番身分の高いフローリアン様が口を開く。


「当事者の貴方がいない場所で大人たちだけで相談してしまって、母親のハンナや、義理の両親にも相談済で、陛下からあの様に打診されては、嫌でも断れなかったでしょう?本当にごめんなさい」

 そういって申し訳なさそうに頭を下げた。


 フローリアン様はフローレンス様をそのまま若くした様な美人さん。

 すでに3人生んでいるとは思えないほどの美貌とバランス良いスタイルをしていて、身分は皇太子妃、そんな方がボクの様な少女に対して頭を下げている。

「あ、あの頭を上げてください、びっくりしてユディを沈めてしまうところでした。」

 いろいろモロ出しで仰向けに浮くユディを支えているのは首の下に添えたボクの腕一つだ。

 驚いた拍子に少し安定が悪くなってしまった。

 そんなことに気付きもしないでユディは気持ちよさそうに目を瞑って浮いている。

 ぽっこりしたおなかがとってもチャーミングだ。


「ボクは大丈夫です、いいお話なのは分かってます。ボクの身分を理由に表立って茶々をいれてくる人が居なくなるし、ホーリーウッドと王室の関係をますます強固にすることになりますしね。」

 おそらくはボクのステータスを見たジークがボクを王国に囲い込むという目論見もあっただろうけれど、それをボクがいうのもちょっと感じが悪いかと思って控えた。

 そもそもボクは6歳らしいしゃべり方してないしね。


 実際には、ボクがしゃべろうとしている言葉よりもずいぶん言葉の端々に舌足らずさがでていて、ほとんどの人には大人ぶったしゃべり方をするおませな女の子という印象を与えることが多いけれど、この母たちはボクがある程度は理性的に話ができていることを気付いているだろうから、生生しい話は控えたほうが無難だろう。


「それに、母さんまでボクに付き合ってクラウディアに住む必要はないよ?父さんがホーリーウッドに一人ではかわいそうだから、父さんとホーリーウッドに暮らして欲しい、アニスだってせっかくユディと仲良くなったんだから、引き離すのはなんだかかわいそうだよ」

 ユディはまだ1歳半、近くにウェリントンの姉妹が誰もいなかったら、ボクのことを忘れてしまうかもしれない。

 アニスだけでも近くに居ればボクのことを忘れたりしないと思うんだ。


「でもアイラがこちらに居るとなればアイリスも残りたがるし、幼い貴方たちを残していくのは親としてできないことよ?それにサークラも一生がかかった数年になりそうだし・・・。そばに居てあげたいのよ」

 そういって母はボクを手招きする。

 母のほう・・・母が座っても胸が水面より上にくる程度の浅さのところまで行くと、義母がユディをボクから回収して胸に抱き、母ハンナはボクを足の上に座らせて向かい会う。

「それにねアイラのことも大事、アイラが平気とか、いいお話だからって割り切ることができる子だとしても、母さんにとってのアイラはまだまだ小さい女の子なの、抱きしめて離したくない、けれど折れてしまいそうなくらい華奢で、強くは抱きしめられない、そしていつかは巣立ってしまう・・・そんな貴方を可能なうちはずっと傍で見守っていたい。だから母さんにホーリーウッドに帰れだなんていわないで、傍にいさせて・・・ね?」

 母の眼をみて話を聞く。

 母親の気持ちというものもボクは分かる。

 ボクも母親をやったことがあるから、今だって、前世の未来を、今生ではおそらく会うことのできない子どもたちのことを思うと胸が痛くなる。


「うん、母さんの好きにして欲しい、気が済むまでボクやアイリスのことを見守っていて欲しい。」

 そう答えると、母はボクの頭を抱き寄せた。

 ずいぶんと久しぶりに母の鎖骨の間に直接耳を当てて、その心音を聞いた。

 トクン、トクンと脈打つそれは、アイラに生まれる直前まですぐ横にあった音。

 眼を瞑ってその音を聞くと、年甲斐も無く・・・いや、6歳だから年相応なのか?

 すっかり眠たくなってしまって、この後ジークとあわなきゃと分かっているのに耐え難い睡魔に襲われたボクはそのまま意識を手放した。


------

(フローリアン視点)

 私にとって従妹に当たる娘アイラを、養子として育てることになった。

 別に実の親が子どもの養育ができない人だったとかではなくって、この子の出自は明らかにできないために、望んだ結婚がなかなかできなかったり、一部の底意地の悪い貴族から横槍を入れられるのがかわいそうで、義父である陛下からお心遣いを頂いたのだ。

 陛下は好色で、若い頃はそれはもう浮名を流しまくった方だけれど、女性に対して一途ではなくとも紳士だし、国益の次の次位には女性の幸せを重視して考えてくださる方ではあるので、それがアイラのためになると判断して今回の養子縁組の話になったのだと思う。


 アイラは非常に聡明な子で、長いこと異母弟妹との付き合い方に迷いを持っていたサーリアに、子どもなんだから大人の事情なんてものは無視してやりたい様にすればいいと助言をしてくれたらしく、エミリーと話す様になったサーリアは、まだ2日目だというのにエミリーを非常にかわいがっていて、見ていて非常にほほえましい。

 そうやって大人の政治闘争の話など、子どもたちは気にせずに新しい世代のつながりを作って欲しいものだけれど、このアイラというかわいい養女は、王都の政治闘争に絡むことの無い様に、それでいて若い世代をつなぐ役割を果たしてくれるかもしれない。


 それにしても、6歳なったばかりだというのにずいぶんとしっかりとした口ぶりで話す娘だけれど、こんな幼いうちからこんなに回りに気を遣っていて疲れてしまわないだろうか?

 私は西侯爵家の娘として生まれ育ち、それなりに周囲に気を遣って生きてきたけれど、6歳の頃はまだお人形やドレスを与えられるたびに父や母に飛びついて喜んでいた頃だ。


 それがこの子はこの落ち着き様、しかもこの子はつい昨年まで僻地の開拓村に暮らしていたというのに・・・。

 子どもの適応力ということだろうか?

 悲しい気持ちになる。

 こんな子どもの健気さも、身分の保証をする代わりに・・・と結果的には王家とホーリーウッド家のつながりに利用するという私たち大人のズルさを少しでも忘れるために、私はたぶんこの娘をかわいがるだろう。

 それでなくてもこの子のかわいらしさにだいぶメロメロだしね。


 年の割りにしっかりとしているアイラだけれど、しかし今日のことでやはり疲れていたのか、入浴の最中だというのに眠ってしまった。

 さっきまでユディの面倒を見ていたのに、母親であるハンナの胸に抱かれたと思ったらほんの3分ほどで完全に眠りの世界に落ちてしまったアイラは年相応のかわいい子どもに見える。

 本当はお風呂から出た後陛下の部屋に行くように案内されていたのだけれど、この様子では今日はもうまともに話はできないだろう。


「陛下には私から伝えておくからアイラはこのまま寝かせてあげましょう、ユーリにも寝てていいって伝えてあげて、大人びているといっても6歳だもの、寝るのは大事なことよね。陛下も寝た子を起こせとはいわないでしょう。また明日の朝にでも陛下とはお話すればいいわ。それにしてもかわいい寝顔ね・・・。」

 いいながらアイラの前髪を払うと、眠っているアイラは唇を尖らせた。

 嫌なのかそれとも、夢の中でキスでもしているのか・・・どちらにせよかわいい。


 母親の肩に捕まって、眠ってしまっているのも私としてはツボなのだけれど、この子は私になついてくれるだろうか?

「あれー?アイラが寝てるー、アハハハここお風呂なのに変なのー!」

 アイリスちゃんの方はアイラがお風呂で寝てるのがおかしかったらしくケラケラと指差しながら笑っている。


「ねー!おかしいねー?」

 と私のほうにも同意を求めて湯船の中を歩いてくるアイリスちゃんは、アイラとは違って年相応の子どもそのもので、アイラちゃんと違ったかわいさがある。

 お利口さんな子どももかわいいけれど、無邪気な子どもももちろんかわいい。

「じゃあアイリスちゃんもやってみて、眠れるかどうかやってみようか?」

 あまりにもかわいかったのでそういって腕を開いて提案してみると、アイリスちゃんは私の顔を見て、ハンナの顔をみて、もう一度私の顔をみた。

 そして首をかしげたので、私は肯きで返すと

「フローリアン様おっぱいおっきいねー?」

 といいながら抱きついてきたので。

「えー?そう?」

 と笑いながらアイリスちゃんの頭を抱いて背中をトントンとたたいてやると、すぐに眠たそうに眼をこすり始めた。


 何気なく、視界の端でユディを抱っこしているエミリアの眼が笑顔で殺気を放つという器用なことをしながら私の胸を見ている、怖い。

 そして当然の様に、アイラとアイリスちゃんの下の妹のアニスちゃんも、姉であるサークラちゃんの胸の中ですでに眠り始めていた。


------

(ジークハルト視点)


 食事会の後、すぐに秘密の話専用の塔の私室に入り、人を迎える用意をする。

 まずはアイラとユーリ、その後少し時間を空けてヴェルガとサリィが合流する予定になっている。


 アイラはまだ6歳なので通常の王族であれば鑑定の能力については教えないのだが、あの子は大人顔負けの理性と知性を宿しているし、そもそもおそらくは転生者なので、先に同じく転生者であるユーリとともに語り、それとなく探りを入れようと思っている。

 それから、鑑定についての認識をたずね、その結果如何でどの程度まで話すかを考える予定としている。


 アイラが王家の出身ではないのに鑑定を持っているのは、始祖キリエ・イシュタルトから分派したホーリーウッド家における先祖返りだとして、彼女の子にもしも鑑定もちが現れるなら王家のものと婚姻させて現状の鑑定持ち不足を少しでも解消できないかと考えている。


 もちろん王家もホーリーウッド家も、婚姻には本人の意思もある程度尊重するので、未来の子どもたちの意思次第な部分はあるが、幼いうちから婚約しお互い教育さえしっかりしていると、意外と大きくなってきたときにその相手のことを好きになっているのだ。

 これは一種の洗脳なのかそれとも学習なのかはちょっと分からないところだが、自分自身がそうであったし、5歳の頃に婚約させたハルベルトとキャロルの仲が睦まじいことからも良く分かる。


 そのためにも、アイラが王家に対してよい印象を持っているほうが都合が良い。

 さて、後はアイラたちが来るのを待つばかりだと思っていたのだが・・・


 そろそろくるかと思っていたタイミングでノイシュが階段を上がってくる気配がして、部屋の扉がノックされる。

「陛下、フローリアン様がお越しです。」

 リアン?はて・・・リアンは今日ここには呼んでいないが何かあったのだろうか・・・?

 アイラを養子にとる事はフローリアンも賛成してくれたことだが、一緒に入浴していて、気の変わる様な重大なことがあっただろうか・・・?


「通しなさい。」

 私の魔力だけに反応する扉のロックをはずすと、程なくして扉が開きフローリアンが一人で入ってきた。

「どうしたリアン、ここにソナタがくるのは珍しいな?何かあったか?」

 予想に反してリアンはかなり機嫌が良い様で、笑顔だった。

「はい陛下、アイラなのですが、今日の疲れが出た様でお風呂の最中に寝てしまいました。よろしければ明日の朝に改めて尋ねさせますので、今日の話し合いは中止させていただけますでしょうか?」

 なんと、アイラは寝てしまったらしくこられないらしい、まぁ中身がおそらく転生者とは言え、6歳の子どもが一日中城ですごして疲れないということも無いか・・・仕方あるまい。


「仕方がないのぅ、寝た子は起こせぬ、しかしなぜわざわざそなたが来た?」

 ここは塔の上で階段もある、わざわざリアンが来る様な連絡内容でもない。

「あの子はもう私の養女でもあるので、同じ家に住んでいて娘のことを伝えるのだから私が直に来るのが陛下への礼儀でしょう。」

 そういってここに居ない養女の顔を思い浮かべたのか眼を細める。

「アイラのことが気に入ったか?」

 今後王家がアイラの後見をし、彼女に好意を持ってもらう必要がある以上、リアンやヴェルガにもアイラのことを好いてもらわねばならない、今の表情を見るに気に入っていることはおそらく間違いないだろうが、それでも言葉にして尋ねるのは大事なことだ。


「えぇ、とても、ハンナもいい子ですし、アイラ含めその子どもたちもみんなかわいいし、素直な良い子たちです。アイラのことを娘と呼べるだなんて、陛下もたまには私のうれしいこともしてくださるのですね。」

 と笑うリアンはこの上なくアイラのことを気に入ったのが分かる。

 心配はなさそうだ。

 それに・・・とリアンは続ける。

「この子も良い姉ができてきっと喜んでくれているわ?」

 そういって腹をなでるリアン、リアンは現在妊娠初期でその胎には新たな命が宿っている

 現状では息子か娘かも分かっていないがリント以来8年ぶりとなる妊娠の発覚はまだ王家の外にはリアン担当の医官とノイシュにしか知らされていないことだ。


 リアンの申し出の通り、今日の対話は中止し、その分の時間を書類仕事に充てようと思っていたのだが・・・

「・・・それでアイラがね?・・・アイリスちゃんが・・・、アニスちゃんもかわいくてね・・・アイラ・・・アイリスちゃん・・・ユディも・・・ユーリが・・・」

 日付が変わる直前までリアンの養女+その他がいかにかわいいかを延々と語られることになってしまった。


ちょっと最近のアイラは夜に弱すぎる気がしますね・・・。

王様との対談の約束なのに眠ってしまってすっぽかしました。


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