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第49話:寝耳に水、5リットル

 少女たちが昼寝大会を実施し、少年たちが親戚の元公爵の辿る予定の末路を話し合っている頃、食事を終えた大人たちは、いよいよ本題へと話を進めようとしていた。


 この場に居るのは、国王と皇太子夫妻、それに次期西侯爵夫妻と東侯爵代理の長男、それに西侯爵家のメイドが一人と身分は平民だがいろいろと面倒くさい母娘が一組、席に座っていた。

 西家のメイドは身分を気にしてか落ち着かない様子であったが、今日のところは王城に客として招かれてしまったので、致し方なしと黙って席に座り、なるべく目立たない様にと気配を殺していた。


「それにしても、ようやくジョージの本心が聞けた気持ちだ。」

 ただ一人この場で、誰を憚る必要も無い人物、国王ジークハルトはやれやれといった様子で息を吐いた。

 かれこれ30年以上前に、時の東侯爵家一家が幼い末娘一人を残し殺害されるという痛ましい一件があった。

 ただただ杜撰なやり口で侯爵夫妻を、側室を、長女と長男を殺害した男は唯一末娘を人質に取るという一点においてはミスをしなかった。

 といっても単に末娘であるアクアを王都にもよこさず、体調が悪いから会えぬと閉じ込めてしまっただけだったが・・・。


 王国にとって東侯爵家オケアノスの血脈を絶やすわけにはいかなかった。

 故に、ジェファーソンの捕縛令を出すこともできず、これまでのさばらせる結果となったが、今回のことで事態はどのようにかはわからないが動くことになるだろう。


クソ爺ジェファーソンには、なかなか女性に興味を持たない未来の西侯爵に私が見出し、飼っている女の妹を宛がって西家に恩を着せたのだと伝えてあります。そして同時に、軍官学校での成果をあげていることや、あたかも西安侯ホーリーウッド家との協調路線に変更した風を装って王家からも信頼を得ようとしているのだと報告しジェファーソンは一応のところそれを信じています。」

 ジョージの言葉に頷くジークハルトとヴェルガ、そしてギリアムにも否やは無い様子であった。


 しかし、女性陣の表情は少し曇っている。

「サークラちゃんは別に貴方の囲い女ではなくってよ?」

 と、すでにサークラのことを気に入っている皇太子妃フローリアンは、ジョージの物言いに苦言を呈した。

 彼女とて別に本気でジョージがそういっていないのはわかっているが、念押しのためだった


「もちろんですフローリアン妃殿下、私は、今のオケアノスを良しとできないがためにサークラ殿の美貌と、ユークリッド様のアイラ殿への愛を利用させていただく許可を頂いただけに過ぎません、このオケアノスのことが片付けば、私は私の持つすべてで以ってサークラ殿と協力いただく皆様へのご恩返しをさせていただく所存であります。」

 ジョージはテーブルに額をたたきつける勢いで頭を下げる。


 その彼を見つめながら、ジークハルトは淡々と言葉を投げかける。

「して、どうする気だ?結局、そなたが能力を持たずオケアノスを継ぐことができない以上、アクアの救出こそが、王国が簒奪侯を撃てる条件となるが?」

「今のところなんともなりません、ただすでに父セルディオはクソ爺を見限っています、後はオケアノス城内のクソ爺の息のかかった者たちをどう抜くかです。」

 結局のところどれだけ仲間を増やそうとも、アクアが人質にとられる可能性がある状況では王国はオケアノスに手が出せないのだ。


 しかしジョージはすでに心を決めていた。

 何があろうと母アクアをジェファーソンの元から連れ出し、彼が歪めたオケアノスのあり方を正して見せるのだと。


------

(サークラ視点)

 前回の祝宴でも思ったことだけれど、私は意外と物怖じしない性格だったらしい。

 ホーリーウッド城やディバインシャフト城でのエドワード様やギリアム様との食卓で恐縮しないのは、血縁があるらしいと聞かされているからだと納得していたけれど、ここクラウディア城においても私は恐縮はしていない。

 フローリアン様が私に優しくしてくださるというのもあるけれど、どうやら私は自分で思っているよりも図太い人間であった様だ。

 これまでの人生で悪いことと言える様な波風が無かったのも原因かもしれない。


 私はいつだって、自分にできうる努力をするだけで、15年、もうすぐ16年の人生のうち苦労したことなんて無かったし、思い通りにならないことも無かった。

 そんな私に初めてままならない思いをさせたのは、今食卓で少しはなれて隣に座っているジョージ様だ。


 一昨日突然ホーリーウッド家の王都邸に現れた彼はギリアム様に女性の手配を依頼した。

 それは、ジョージ・オケアノスがホーリーウッド家と接近しているという情報を生むための策動ではあったけれど、簒奪侯家と揶揄される現在の東侯爵家の彼と接近することは、通常の民衆であれば良いように搾取され捨てられるとか、もっと悪いことであれば散々もてあそばれた挙句一族郎党皆殺しにされる。

 そういった結末を予想させるものであったけれども、今の私にはホーリーウッド家が後ろ盾になってくれるのでその筋はない。

 それにしたって、私は見ず知らずの男性なんかに自分の身を左右させるつもりは無かったのだけれど、そのときの私は隣にいるアイラのことをみて少し考えた。


 アイラは将来ユーリ君と結婚するつもりでいるし、ホーリーウッド家の人たちもユーリ君もそのつもりでいる。

 そんなアイラのたった一人の姉である私に対して、あのお優しいギリアム様が、いやなら断ってくれていいと前置きして持ってきた話は、果たして私にとって悪い話なのだろうか?と

 答えは否だと判断した。

 ギリアム様は私にとってマイナスしかない話であればおそらく私に判断を委ねることも無かったはずだ。

 だとすればジョージ様の話に乗ることは、私にとって不幸な結末を持つ可能性は低く、それ以上にイシュタルトかホーリーウッド、あるいは私自身に得るものが多い話だと、ギリアム様は判断したとみて間違いなかった。

 だから私は、話を受けることにしたのだ。


 あの夜私はジョージ様にエスコートされて城に足を踏み入れた。

 急遽用意したドレスは王都邸に残していたフローリアン皇太子妃の未使用の古着だということで、サイズを最低限合わせることしかできなかったが、色味は私に似合っているものを選んだので鏡で自分自身を見ても、悪くてもちょっと早く作りすぎてサイズが変わってしまった程度には着こなせていると思えた。


 5時間ほど同伴する予定だったのだけれども途中でカクテルを飲んだ私は気持ちよくなってしまって、とてもじゃないけれど人前に出られない状態になってしまって、思い出すだけでも恥ずかしいのだけれど、どうも私は笑い上戸の泣き上戸だったらしく、会場内でジョージ様にしなだれかかってずっと笑い続けた挙句、アイラが見えなくなっていたことに不安を覚えて、ジョージ様に泣きついて「アイラが、アイラがいないの・・・ジョージ様、あの子寂しくて泣いてるかもしれない、一緒に探してくださいますか?」

 なんていって涙ながらに訴える始末・・・部屋を出る前にアイラたちからは休憩室に行くからって聞いてたのにね・・・本当、恥ずかしい・・・。


 でもジョージ様は簒奪侯として前もって聞いていた噂よりもずっと優しい方で「彼女が妹恋しさを募らせている様なので一度休憩させてきます。」と周囲に断って早めに私を下げてくれたし、一緒にアイラを探してくれた。


 私たちにあてがわれていた休憩用の部屋に行くとメイドさんが一人待機していて、その人の案内でアイラとユーリ君が休んでいる部屋へ、なんと行き着いた先はサーリア姫様のお部屋で、ジョージ様は入室が認められなかった。

 すでにアイラは寝ていたので、起こさない用にと前置きされた上でお部屋に入り。

 お姫様のベッドで眠るアイラを見たときにはもうどこの妖精さんかな?と思うくらい可憐で・・・やっぱり私の妹かわいい!!と、われを忘れてベッドに飛び込もうとしてしまった。

 かわいいアイラの眠りを妨げようとしてしまうなんて・・・あれもお酒のせいだと思いたい。


 サーリア姫様とユーリ君に押しとどめられてようやく酔いが覚め始めた私は、サーリア姫様に妹の面倒を見ていただいたお礼をいって、なんとサリィ様と愛称でお呼びする許可を頂いた上にサリィ様からサークラお姉様と呼ばれる様になってしまった。

 どうも畏れ多いことに私が憧れの姉像にぴったりだったそうで・・・、これはうかつなことはできないなと気持ちを新たにした。

 長年姉をやっている身としては、年下の、特にかわいい女の子からの憧憬の視線には応えないといけないのだ。

 ほとんど初対面で酔っ払った姿を見せることになったのはジョージ様のせいだ・・・。

 そうじゃなければ今日の夕方からの食事会が初対面になるはずだったのに・・・・。

 ままならない。


 アイラたちは、仲良くやれているだろうか?

 アイラは空気を読めるし、お行儀もいいから大丈夫だとおおもう、マイペースなアイリスや幼いアニスが何も問題を起こしていないといいけれど・・・

 どの方角にいるかもわからないけれど、取り合えず誰も座っていない空席のほうに視線をじっとやってみる。


「・・・か?」

 ん?誰か私を呼んだかしら?

 アイラたち3人の妹のことを思い浮かべていて、皆様の話をよく聞いてなかった私は視線を戻す。

「のぅサークラよどうだろうか?前向きに考えてはみないか?」

 そういって国王陛下が私に何かを検討するようにいっている。

 普通なら私みたいな田舎生まれの平民が陛下に拝謁することすらありえないことなのに、まさかこうして食卓を囲むなんて1年前には考えもしなかったことだわ。

 それなのにうっかり妹のことを考えていて陛下のお話を聞いておりませんでしたではかなり失礼だ。

 幸い前向きに考えてみないかという問いかけは、ここで頷いて見せても一気に事が運ぶ様な問いかけでもないし、お命じになればいいのにわざわざ小娘の意思を尋ねるお優しい陛下が、私に不利益な話を持ちかけるはずが無い・・・と私は楽観視してしまった。


「はい、すぐにお答えするということは出来ませんが、検討させていただきたいと思います。」

 そう応えた私のほうにギリアム様、エミリア様、母さん、陛下、両殿下、ユイさん、それにジョージ様、ほとんどすべての人間の目がこちらを向き、驚いた様にこちらを見ている。

 え?なに?そんな風になるほど重大な話を聞かれてたの!?


 陛下はいったい何を私に尋ねたというの!?



次回で寝耳に水を流し込まれた人たちを合流させたいです。

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