表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/220

第47話:寝耳に水、3リットル

 女の子だけが集まったその部屋の中で、この国の第二位王位継承者の少女が上機嫌で床に置かれたクッションに腰を落として両膝に抱えた3歳直前の幼女アニスと1歳半過ぎたあたりの幼女ユーディットを膝に乗せ、その幼児特有の尻肉の柔らかさと温かさとを楽しんでいた。

 普段見ることのできない姫のはしゃぐ姿に、その義姉と母違いの妹は半ば呆れながらも、その光景のほほえましさに頬を緩めている。

 斯く思う二人も、かわいくて小さな女の子という格好の着せ替え人形を見て、あとで着せ替えて楽しもうと妄想していた。

(あの二人に似合うお古は残してあったかしら?)

(お花とリボンお花とリボン・・・)


 王位継承権なんてもの知ったことではない幼女たちは嫌なら嫌と抵抗するのだろうが、大好きな姉たちも楽しそうに自分たちの揺られている姿を見ているし、何よりも自分を抱きかかえている女の子に対して現状は優しくてかわいいおねえちゃん程度の認識で、ほどほどに構ってくれて楽しかったため、なすがままにされていた。


------

(アイリス視点)

 王さまのお城はすごく大きくて、たぶんデバインサフトのお城とホーリーウッドのお城を足したくらいの大きさがあると思う。

 そのお城にはいって5分くらい歩いたらママたちと別になった。

 お城のおじちゃんたちとむつかしい話をするらしくって、こどもはこどもだけであそんでなさいってことみたい。


 そうして次に入ったお部屋は、かわいいぬいぐるみがたくさんある女の子のお部屋でやっぱりすっごくかわいいおひめさまみたいなおねえさんがお部屋の真ん中で座っていた。

 ほんとうはだめなんだけど、床の上にクッションをおいてその上におしりをつけてすわって私たちをまっていた。


 そのおねえさんが、今度は男の子と女の子も一旦別れるからっていってユーリ君とおにいちゃんが別のお部屋に連れて行かれた。

 お姉さんになった女の子のお部屋に男の子が入るのはあんまりよくないって、サークラお姉ちゃんがよく言ってたし、ここは女の子のお部屋だから、きっとそれが理由なんだろうなって、アイリスももうおねえちゃんだからわかるんだ。


 私はもうママのことお母さんって呼んでるけれど、それは私がもうおねえちゃんだからで、でもママはママだから心の中ではママってよんでるの。

 ときどきびっくりしたときとか、まだママって言っちゃうときもあるけれど、本当に時々だから大丈夫、だって私にはアニスっていうかわいい妹がいて、おねえちゃんなんだから


 今、そのかわいいアニスと、もう一人かわいい妹のユディ(お母さんが生んだところみてないけど、アイラが『ユディ、アイラおねえちゃんだよー』ってごあいさつしてたから、私の妹だよね?)がこのお部屋のおひめさまのひざのうえにのっけられてかわいいかわいいされている。

 それをみて最初は、こんなきれいなおねえちゃんも私の妹に夢中になるんだ!ってじまんしたい気持ちがしてたんだけれど、それも何分かしてくると少し不安になってきた。


 このおひめさま、サリィねえさまは私の大事なアニスとユディをずっと抱っこして離そうとしないし、かわいい二人は、お姉ちゃんの私がかわいがっててもたまに嫌がるのに、ぜんぜん嫌がらない。

 もしかしたら、このままおひめさまの妹になっちゃうんじゃないかって・・・。

 そんな風に思えて、寂しかった。


------

(アイラ視点)

 おしゃべりパーティとサリィが呼称した宴は、未成年の少女たちでお茶と軽食を取りながら床に座っておしゃべりという、とても王侯貴族が嗜むとは思えない形式のパーティだった。

 料理とお茶は低いテーブルの上におかれているもののみんな絨毯の床にクッションを敷いてその上に座っている。




「サーリアお姉様がわたくしに声をおかけくださったのは、アイラ様のおかげだと聞きましたの、感謝しておりますの。」

 挨拶が一通り終わった後、エミリーがボクの隣を陣取ってボクの手を握りながら感謝の言葉を伝えてきた。

 やはりサリィに対してずっと興味はあったけれど、お互い空気を読むことをしていたためか、幼い頃からほとんど接触したことが無いそうだ。

 ただ、予想と反して、彼女の母もその実家もそんなにサリィやフローリアン様に対しての悪感情は持っておらず。

 ヴェル様に対してもお忙しい方なのに3人の側室の離宮にそれぞれ週に一度は顔を見せてほとんどの場合泊まって行ってくださるお優しい人だと常より話していたという。


「エミリー様はやっぱりサリィ姉様とお話されてみたかったのですね、ちらちらご覧になられてましたものね」

 あの祝宴の夜、エミリーは何度もサリィの方を気にしていた。

 それ以上に軍務所属の筋肉質な殿方の方を見ていたけれど・・・・。

 この頃から筋肉好きだったんだね。


「うぇぁ・・・恥ずかしいですわね、アイラ様の様にまだお小さい方にもわかるくらい見てしまっていたんですのね・・・。」

 そういって恥ずかしそうにするエミリー、前世ではあまりかかわりが無く、ボクが持っているイメージでは素朴でカワイイそばにいて安心できるタイプの女の子で、マッチョ好きというくらいだけれど照れた顔はなかなかかわいい、こうやって間近で見ていると結構サリィに・・・というかヴェル様に目元とか似てるかも知れない。

「うぇぁ、それとアイラ様、サーリアお姉さまのことはサリィ姉様とお呼びなのですから、ぜひわたくしのことも、エミィとかミリィとか呼びやすい様に呼んで欲しいですの・・・。」

 ボクの手をニギニギと握り締めながらエミリーは呼び方についてリクエストしてきた。

 彼女の真意は愛称というより敬称の方にある気がしたので、ちょっと試しに呼んでみよう。


「それでは、エミィ姉様、今後はサリィ姉様ともども、ボクや妹たちとも仲良くしてくださいね?エミィ姉様のほうこそボクのこと、『アイラ様』以外の呼び方でお願いしますね?ボクはサリィ姉様の妹分なのですから、エミィ姉様の妹分でもあります。」

 できる限り純粋な笑顔を作りボクの左手を握る彼女の手に右手を乗せる。

「うぇぁ!?なんですの?この湧き上がる感覚は・・・。いけませんの・・・こんな・・・。」

 どうも筋肉だけじゃなく、小さい子どもも彼女の琴線に触れるモノであったらしい。

 エミリー改めエミィは真っ赤になって小刻みに震え始めた。


「アイラさんは本当にレディたらしですね」

「カグラ様、ちょっとご機嫌ナナメですか?」

 ボクの右側で神楽とエッラがなにやら不穏な空気を醸している。

 またボクのすぐ前側では今はサリィが、一生懸命膝の上に乗せたアニスとユディをあやしており、それを隣で見つめるハルベルトの婚約者キャロルは自身の下腹のあたりをなでる動作をした後、急に恥ずかしくなった様に真っ赤な顔をして俯いたりと百面相している。

 さらにアニスとユディをあやす姫様サリィの姿を最初みんなほほえましく見ていたのだけれど、アイリスは途中からなにやら難しい顔で見つめていた。

 6歳なりの葛藤がなにかあるのだろう。


 給仕に残ったメイドさん二人は目の前に広がる少女たちの囀りをにこにこと見つめ、お茶が無くなれば追加するし、菓子やサンドウィッチもちょこちょこと追加を出していく。

 一方ここまで案内をしてくれたエイラは、サリィの命でメイドの職務時間を終了しており一人の女の子としてこのパーティに参加していた。

 といっても結局ナディアとともにほかの女の子たちの世話を焼くことがメインになっている。

「カグラ様、こちらのサンドウィッチも美味しゅうございますよ?」

 とナディアが神楽の世話を焼けば

「姫様、こちらのロールパンでしたらアニス様やユーディット様でも美味しく召し上がれるかと存じます」

 とエイラも負けじとサリィたちの世話を焼いている。


「わたくし、昨日ようやくサーリアお姉様とちゃんとお話ができて、今日のこの集まりも急遽、わたくしの学友から聞いた寝間着パーティというお泊り会の方式から思いついてお父様に許可を頂いて行ったのですけれど、楽しいですわよね?楽しいですわよね?」

 とエミィはどこか不安そうにボクに尋ねてくる。

「はい、楽しゅうございます、エミィ姉様」

 貴族がやる交流の仕方ではないけれど、ジークも本来格式よりは実利を優先するタイプだし、子供同士の集まりは楽しいのが一番だよね。


---


 時間は穏やかに過ぎて、アニスとユディは夢の世界に旅立ち。

 ボクもおなかが満たされたためかちょっと眠たくなってきた。

「そういえばサリィ姉様、このお部屋はどなたのお部屋なのですか?見たところ女の子のお部屋の様ですが・・・」

 ボクが尋ねると、サリィは膝の上のちびレディたちの頭をなでながらクスクスと笑う。

「ふふふ・・・実はですね、もうじき新しく弟か妹ができそうなんです。それで、『保存』していた子供部屋のうち2つを現在支度中にしていて、内装とか、弄ってる最中なんですよ。」

 保存というのは、この世界にある魔法の一つで、無生物の経年劣化を防ぐためのもので、この魔法のおかげでこの世界では築2000年超えの建物が使える状態で現存していたり。

 強度を上げる効果もあるため建築方法などの技術が未熟になる要因にもなっているものだ。


「まだできたわけではないんですね?」

 前世と同じ時期にできるならば今はまだセシリアができていることがわかるよりも前の段階のはずだ。

 だというのに、サリィは、というより王城がもう新しい弟妹の出生を確信して動いている?


「アイラちゃんたちにはまだ内緒の話です。もう3年くらいしたらどういうことか教えてあげます。」

 あぁ大体わかった。

 フローリアン様はサリィが9歳の何時頃かに花嫁修業の一環として、閨のことを教育し始めたといっていた。

 早熟なサリィの様子を見るに、おそらく初潮に併せて性教育をはじめたんだと思うんだけれど、ヴェル様とフローリアン様との間に交渉があり、それも子どもを授かるために行っているということがわかっているんだろう。

 そしてヴェル様がそのつもりでいるのでお城全体がその支度をしているか、もしくは、セシリアが生まれるのが少し早まったか・・・?


 と、そのとき久しぶりにボクはその爆発を目撃することになった。

「3年たってもダメー!!アニスもユディもサリィねーさまにはあげないもん!アイリスの妹だもん!」

「キャ!?」

 そういってアイリスはサリィの胸の辺りをドンと両手で突き飛ばして、バランスを崩したサリィの膝からずり落ちる様にアニスとユディの頭が転落した。

「やあぁぁ!んぅぅぅぅぅ~!」

「ッアッアッアー!ウワァァァァァァン」

「姫様!?」

「サーリア様!」

「ふぇぇぇぇん・・・ぅぅぅ・・・」

 突然現実に引き戻されて泣き叫ぶアニスとユディ、あわてて駆け寄ろうとするメイド、一方的に突き飛ばしておいて泣き出すアイリス。

 主人に加えられた危害に過剰に反応するメイドたちにサリィが手で制止をかけて、さらにないているアニスを抱きしめてその背中をトントンとたたく、ナディアもはじかれた様に動いておりすでにユディを抱っこしてあやしている。

 ボクは一瞬だけ「加速」を発動させたけれど、もう必要ないと判断して泣いているアイリスの傍らに寄り添うことにした。


 幸いそう高くないサリィの膝枕からの転落、床も柔らかい絨毯で、コブもできずに驚いただけだった様で、20秒もするとアニスとユディは泣き止んでもう一度夢の世界に誘われていった。

 サリィはエッラにアニスを預けナディアと二人に奥のベッドに二人を寝かせる様に命じた。

 それからまだグジュグジュいっているアイリスとボクのほうへ来ると、アイリスに語りかける。

「アイリスちゃん、何か勘違いをさせてしまった様です。ごめんなさい、アニスちゃんやユディちゃんは確かにかわいいですけれど、とったりしません、信じてください。」

 そういってサリィは優しくアイリスの膝をスカート越しに撫でるけれどアイリスはぐずったままで首を横に振る。


 二人のメイドはどうしたものかと様子を伺い、サリィもボクもアイリスのことをどう扱ったものかと固まってしまっていた。

 そんな時神楽がおもむろに立ち上がると、アイリスのことを抱きすくめた。

 するとアイリスはそんな神楽のぬくもりに引き寄せられる様に神楽の首に腕を回し、脚は腰の辺りにしがみつき、まるでコアラの様にしがみついた。

 体に軽く魔力を通した神楽は、アイリスのおしりの下と背中に左右の手をあてがうと立ち上がってゆすってやり、ボクの耳にはなじみのある、おそらくほかの誰もきいたことのない、日ノ本の古い子守唄を歌いはじめた。


 日ノ本10歳の女の子が6歳の女の子を抱きあげて子守唄なんてありえないけれど、魔法ありのこの世界なら、ありえないこともない、メイドたちもサリィも、神々しささえ感じる神楽の慈愛に満ちた表情に引き込まれて息を呑んで見守った。

 ほんの一時のことであったけれど、アイリスは無事夢の世界に旅立ち、神楽はあるきにくそうにしながらアニスたちの眠るベッドにアイリスを運び、一度自分の体ごとベッドに横たえて、その後しっかりとしがみついたアイリスの手と足を、ベッドの近くで見守っていたナディアとエッラに手伝ってもらいながら外してそれから笑顔でこちらに向き直った。


「姫様はお怪我はないですか?」

 何事も無かった様な神楽の問いかけにサリィは一瞬あっけにとられて、それからふと気が付いた様に

「いえ大丈夫です。ちょっとよろけただけなので・・・、アニスちゃんや、ユディちゃんは大丈夫そうですか?・・・良かった。」

 首肯するナディアのあせっていない表情にサリィは心のそこからの安堵を見せる。

 ボクもここでようやく焦りが収まってきた。

「眠たかったみたいですね、アイリスちゃん、それで姫様が妹を迎えるって言ったことを、アニスちゃんかユディちゃんを取られると思ってしまったみたいです。ファ~そういえば私もちょっと眠たいですね」

 と、普段であれば絶対に人前(ボクとユーリを除く)で欠伸なんてしない神楽がわざとらしいくらいかわいらしい欠伸をすると、サリィも心得たとばかりにわざとらしく

「ファ・・・、そういえば私も、今日のこの集まりが楽しみで、ちょっと寝不足だったんですよぉ、ちょっと寝ぼけて立ち上がったアイリスちゃんにびっくりしてバランスを崩しちゃいました。主催者なのに申し訳ありませんがちょっとお昼寝の時間をとっても良いでしょうか?」

 と、メイドたちに念押しをする様に問いかける。


 メイドたちは一瞬苦笑いをしたあと、それではと部屋を出て行き、この部屋のベッドと高さが同じベッドをどこかから運んで戻ってきた。

 さすが姫様の守りについているだけあって、全員魔力強化が可能な様だ。


 アイリスが寝てしまったため、真相はわからなくなってしまったけれど、王族に対して狼藉を働いてしまった彼女の罪を不問とするために第一回、ドキッ!?美少女だらけのお昼寝大会(おさわりあり)が敢行されることになり、ボクたちは順にドレスを脱いだ。

 汚れること前提の赤ちゃん用ドレスのアニスとユディはともかく、さすがにボクたちはドレスのままお昼寝というわけにも行かないため、少し恥ずかしいけれど全員下着姿シュミーズやスリップという人様には見せられない仕様で、ボクたちはそろって夢の世界へと旅立つことにした。


 エイラははじめは昼寝を断っていたが、サリィから「誰かが私の抱き枕になってくれないと、アニスちゃんやユディちゃんが苦しい思いをするかもしれないので」と厳命されれば否とは言えなかった。

 サリィはエイラの父親が誰かを知っているはずなので、もしかすると2つ年下の叔母エイラのこともかわいがりたいと思っていたのかもしれない。


 かくして2つのダブルサイズのベッドの一方で王族2名サリィとエミィ少女2名エイラとボク、もう一方で幼児2名アニスとユディ少女3名アイリスとカグラとナディアが一人また一人と眠りに落ち。

 キャロルは年の近いエッラを話し相手に義妹あるいはご主人様や同僚の寝顔を肴にお茶を飲みながら小声で談笑を続けた。


幼児の泣き方って難しいですね・・・日本語では表現できない発音が混ざってる気がします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ